競争を捨てて「地域交通」は守れるのか? 岡山市5社が挑む“共同経営”の挑戦

地域交通と独禁法特例

 特定業界の複数企業が合意し、商品の価格を同額に設定する行為を「カルテル」と呼ぶ。民主主義国家では原則として法律で禁止されている。日本では中学校の公民授業で、カルテル、トラスト、コンツェルンの違いを学ぶ。

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 しかし、場合によっては企業が

「必要に迫られ、複数社と協議せざるを得ないケース」

もある。こうした協議までをカルテル扱いするのは、建設的な事業活動を阻害する恐れがある。現状、日本全国でカルテルに該当しない複数社間の協議や協定が進められ、地域交通の改善につながる取り組みが活発化している。

 本稿では、独占禁止法の特例措置が地域交通再編に直結した具体例を取り上げ、解説する。

地方バス協議の法的意義

 2020年の通常国会で成立した「地域における一般乗合旅客自動車運送事業及び銀行業に係る基盤的なサービスの提供の維持を図るための私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の特例に関する法律」は長いため、ここでは「地域独占特例法」と呼ぶ。

 この法律は、地方の交通事業者や地方銀行が利益を確保するために複数社間で協定を結んでも、独占禁止法の適用外になることを認めるものだ。

 かつて日本の映画界には「五社協定」が存在した。1950年代に日活の台頭を抑えるため、東宝・新東宝・大映・松竹・東映が、互いの専属俳優を貸し出さず、解雇した俳優も他社が採用しない取り決めを結んだ。これは明確なカルテルであり、公正取引委員会も問題視していた。カルテルの存在は業界全体の活力を奪い、人材の流動性や自由な発想に基づく作品作りを阻害する。

 一方で、少子高齢化が進む地方都市のある市では、バス会社4社が燃料高騰を背景に運賃の一律調整や競合しない路線設定を協議した。4社が競合すれば共倒れの恐れがあるためだ。これは既存事業者の利益独占を狙った行為ではなく、

「地域交通維持のための合理的な調整」

である。地域独占特例法以前は、こうした合議も独占禁止法に抵触する可能性があった。

岡山バスの運賃統一開始

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バスの車内(画像:写真AC)

 複数社が協議して運賃や路線を調整しなければ、地域交通自体が維持できなくなる。地域独占特例法は、最悪の事態を避けるための法律である。

 岡山市では10月1日から「岡山市地域公共交通共同経営計画」が始まった。市内を走る路面電車と路線バスの5社は最低運賃を160円に統一した。OHK岡山放送もこの動きをわかりやすく報道している。

 国土交通省は、岡山市内の路線バス5社が運賃適正化で経営基盤を強化する共同経営計画を認可した。地域独占特例法は、バスなど公共交通の維持を目的に、同業者間の共同経営や経営統合を認める2020年施行の法律である。この認可を受ければ、複数事業者が共同で運賃や路線、ダイヤを設定できる。今回の運賃統一で、2029年度には5社合計で約1億5000万円の収支改善が見込まれる。

 地域独占特例法は認可制を採用している。

・岡山電気軌道

・両備ホールディングス

・中鉄バス

・下津井電鉄

・備北バス

の5社は「岡山市地域公共交通共同経営計画」を提出し、2025年9月19日に国交省から認可を受けた。これにより、路線バスと路面電車で均一運賃のわかりやすい体系が実現する。

 手順としては、事業者間で協議した内容を市区町村に提出し、計画の具体性や必要性を精査、議会承認を経て国交省に届け出、認可を待つ形である。自治体や国を飛び越えて勝手に行う計画ではないことを強調したい。

地域交通のスマート化進展

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JR岡山駅前(画像:写真AC)

 この共同経営が地元にもたらす具体的な効果は何か。熊本地域で一番乗りとなった「熊本地域乗合バス事業共同経営計画」から、その成果の一端を窺うことができる。

 九州産交バスなどの事業者は、重複ダイヤや前後便の間隔が長い路線を見直し、待ち時間の平準化を進めた。通勤ラッシュで数珠つながりになったバスも、閑散時間帯には無駄が生じやすい。この調整により、利用者の利便性は大幅に向上する。

 さらに、各社共通のバスターミナル設置やキャッシュレス決済の統一も可能となる。結果として、地域交通は洗練され、よりスマートな運行体制が実現する。

公共バス制度改革のカギ

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バスの車内(画像:写真AC)

 ここで改めて強調しておくべきは、岡山市や熊本地域の路線バス共同経営は既存事業者による独占を狙ったものではない点である。

 公共交通では、各社間の競争よりも調和が利用者に大きな利便性をもたらす場合が多い。地域独占特例法は、この調和を制度的に支える仕組みとして、地方都市の公共交通に変化をもたらす可能性を秘めている。

 認可制の導入は、法の拡大解釈を防ぐ安全弁としても機能する。今後、この法律をいかに活用するかが、地域交通の課題解決のカギとなる。