日本勢は協力して、ネットフリックスに対抗を 「百貨店戦略」で成功したU-NEXT HOLDINGS社長の宇野康秀さんが見据える、テレビと動画配信の近未来【放送100年⑲】

U-NEXT HOLDINGS社長の宇野康秀さん=2025年10月、東京・目黒
有料動画配信の「U-NEXT」は会員数が500万を超えた。米国の「ネットフリックス」に次ぎ、国内事業者としては最大のサービスだ。創設したU-NEXT HOLDINGS社長の宇野康秀さん(62)は、早くからインターネットの可能性に注目し、テレビ局と提携しながら、ビジネスを拡大してきた。そんな宇野さんが想像する、テレビとネットの近未来は―。(共同通信編集委員・原真)

U-NEXTの画面イメージ(U-NEXT HOLDINGS提供)
▽就職して1年で起業
宇野さんは1963年、大阪市で生まれた。「子どもの頃から、テレビは普通に見ていましたが、映画を見るのが多かったですね」と振り返る。明治学院大に通っていた時は、毎日のようにビデオをレンタル。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」など、SF映画を中心に楽しんでいた。
「当時、科学雑誌か何かで、米国で通信インフラを使って映画を配信する実験の記事を読みました。ワクワクして、そんな仕事に携わりたいと思った。レンタルビデオ店では、新作が貸し出し中だったり、返却するときにVHSのテープを巻き戻していないと怒られたりしていましたから」
学生時代から起業を志し、不動産会社のリクルートコスモス(現コスモスイニシア)に就職したものの、1年で退職。1989年に、人材サービスのインテリジェンス(現パーソルキャリア)を立ち上げる。社長として、順調に業績を伸ばしていった。

光ファイバーによる高速通信サービスを発表する有線ブロードネットワークス(旧大阪有線放送社、後のUSEN)社長の宇野康秀さん=2001年2月、東京都港区
▽大阪有線放送社を継承
1998年、大阪有線放送社(後のUSEN)を一代で築いた父の元忠さんが死去する。同社は全国の飲食店などに音楽を流していたが、700万本以上の電柱に無許可で同軸ケーブルを引き、何度も摘発されていた。元忠さんが個人で保証した約800億円の借り入れもあった。
宇野さんは言う。「父の後継者になることは、全く考えていませんでした。でも、誰かが引き継がないと、会社の存続が危うかった。ちょうどインターネットが広がり始めたタイミングで、同軸ケーブルの代わりに光ファイバーを敷設すれば、超高速の通信網を構築できると考えました」
大阪有線放送社の社長に就き、全国の電柱を調査して事業の正常化を図った上で、2001年、光ファイバーによるネット接続サービスを開始した。当時、世界でも珍しかった「ファイバー・トゥ・ザ・ホーム」を実現したのだ。「100メガbpsのスピードだから、音楽だけでなく映像も配信できる」と、実験的に動画も提供している。

宇野康秀さんはUSEN社長だった2005年10月、TBS傘下のプロ野球・横浜ベイスターズの買収に意欲を示し、注目を集めた=東京都内
▽GyaO開始
2002年、楽天と合弁で有料動画配信の「ShowTime」を設立し、2005年には無料動画配信「GyaO」を始めた。「ShowTimeの会員数が増えるのに時間がかかったこともあり、ネットでの視聴体験に慣れてもらうため、無料で広告入りのGyaOを開局しました」と宇野さん。GyaOが1年強で1千万人の利用者を集めたのを受け、2007年には有料の「GyaO NEXT」(現U-NEXT)もスタートさせる。
だが、動画配信は、すぐにはビジネスとしての軌道に乗らなかった。「時期が早かった。われわれの通信網は十分なスピードがあったものの、ダイヤルアップやADSLはスムーズに動画を送るのが難しかったんです。また、ネットにコンテンツを出すことに権利者の抵抗が強く、残念ながら品ぞろえが少なかった」
そんな時、リーマン・ショックが起きる。新興IT企業は株高をてこに多額の資金を借り入れ、企業買収を重ねて急成長を遂げてきたが、金融危機で多くが経営難に陥った。USENも2008年度から2期連続、500億円以上の赤字を計上する。金融機関から財務の改善を迫られ、GyaOをヤフーに譲渡。宇野さんは社長を退き、いったんUSENの経営から離れた。
しかし、U-NEXTだけは持ち続けた。「売却するよう求められましたが、買い手が現れなかった。では、事業を停止するのか。自分には、将来成長する事業だという絶対的確信がありました。ネット配信で、いつでも好きな時に見られるようになるのは、自然な流れです。利用者としての感覚と技術的進化の見通しから、そういう時代になっていく、と」。宇野さんはU-NEXTを個人で買い取り、ベンチャー企業として再出発した。

U-NEXT会員数の推移(U-NEXT HOLDINGS提供)
▽目標は1千万会員
折から、光回線の普及で通信が高速化し、ネット配信を新たな商機と見たテレビ局などによるコンテンツの権利処理も進む。U-NEXTは順調に成長していった。宇野さんは2017年、U-NEXTとUSENを経営統合して、持ち株会社の社長に復帰する。
2023年には、TBSやテレビ東京などが手がけてきた有料動画配信のParaviも統合。さらに2024年、米ワーナー・ブラザース・ディスカバリーの動画配信「Max」の作品も日本で独占提供し始めた。Maxを通じて、TBSやテレ東のドラマなど、日本のコンテンツを世界へ展開する事業にも乗り出している。
U-NEXTの会員数は2025年11月に500万を突破した。ネットフリックスの日本での会員数1千万超に次ぎ、国内事業者としては最大だ。中期経営計画では、2030年度に630万超を見込む。宇野さんは語る。
「あらゆるジャンルのコンテンツをそろえる『百貨店戦略』で、ここに来れば何でもあるという独自のポジションをつくることができました。特にアニメ、国内ドラマ、韓流ドラマは人気があります。コロナ禍で音楽ライブが行われなくなったので、アーティストと配信を始め、同じライブ型のスポーツも増やしている。目標は1千万会員です」

U-NEXTが2022年に発行した芥川賞作家・藤野千代さんの小説「団地のふたり」。小泉今日子さんと小林聡美さんの主演でドラマ化され、2024年にNHK・BSで放送された(U-NEXT HOLDINGS提供)
ネットフリックスなどと違い、オリジナル作品はほとんどない。「完全オリジナルの制作には、高額の費用がかかる。同じコンテンツ投資なら、ラインアップの多さの方に振り向けていきたい」と宇野さん。
ただ、U-NEXTが配信する電子書籍からドラマ化され話題になった「団地のふたり」のように、テレビ局との協業や製作委員会方式による知的財産の開発には「ある程度、積極的に力を入れていきたい」と話す。
▽外資が他を崩壊させる可能性
とはいえ、有料動画配信はネットフリックスや「アマゾンプライムビデオ」「ディズニープラス」の米国勢や、日本テレビの「hulu」、テレビ朝日の「TELASA」、フジテレビの「FOD」、NHKの「NHKオンデマンド」などが乱立し、競争が激化している。中でもネットフリックスは、巨額の制作費を投じてオリジナルドラマを世界中で次々にヒットさせてきた。
宇野さんは強調する。「有料動画配信の市場をつくっていくという意味では、外資も協働プレーヤーです。U-NEXTとネットフリックスなど、複数のサービスに加入する人も増えている。でも、日本のメディア・コンテンツ業界を考えたとき、外資1社が強くなり過ぎると、他を崩壊させる可能性がある。実際、韓国ではネットフリックスが独占的になって、放送界や映画界が打撃を受けています。日本勢は協力しながら、対抗軸を作っていかなければいけないのではないでしょうか。各局の考えがあるので、どのように実現するかは見えていませんが、一つのアカウントやアプリで全部見られる方が、利用者の利便性は高い」

風通しの良さそうなU-NEXT HOLDINGSの社内=2025年10月、東京・目黒
▽テレビは50年は続く
長くマスメディアの王座にあったテレビは、ネットに押され気味だ。動画配信の先頭を走ってきた宇野さんは、テレビが今後どうなっていくと見ているのだろうか。
「家にテレビがあって、みんなで同時に同じものを見るという習慣は、そう急激には変わらないと思っています。100年先のことは分からないけれど、少なくとも50年ぐらいは。若者はテレビを見ないといわれますが、SNSの話題はテレビが起源のことが多く、流行をつくっていくというテレビの役割は続くのではないか。ネットにつながるコネクテッドテレビなら、U-NEXTも『ユーチューブ』も見られるから、改めてテレビを買おうというきっかけにもなっています。これまでのようなテレビ(放送)と、パーソナルなオンデマンド(動画配信)が共存していくでしょう」
ただし、メディアは技術革新と、それに促された利用者の変化に対応していかざるを得ない。「それがうまくいけば、ビジネスは継続、拡大していく。旧来のやり方に固執すれば、時代の流れに取り残されてしまうということではないでしょうか」
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日本で放送が始まって2025年3月22日で100年。ラジオ・テレビのキーパーソンに聞くシリーズ【放送100年】は随時掲載します。