「誰も気にしない自治体が狙い目」「役場はバカ」…公金4億円を吸い上げた「過疎ビジネス」の闇

人口8000人の町を食い物にした“ハイエナ”コンサル, 「財政力のない役場はバカ」「地方議会は雑魚」, 行政文書を片っ端から廃棄…, 地方創生が「過疎ビジネスの温床」と化した皮肉な結末

「超絶いいマネーロンダリング」の手口とは……

人口8000人の町を食い物にした“ハイエナ”コンサル

誰も気にしない「ちっちゃい自治体」の、企業版ふるさと納税を活用した地方創生事業は、「超絶いいマネーロンダリング」――。

過疎化に伴う財政難や職員不足にあえぐ無知無策な「限界役場」、その弱小自治体から国の制度を悪用して公金を吸い上げる“ハイエナ”コンサルタント。官民連携の腐敗を浮き彫りにした『過疎ビジネス』(集英社新書)が’25年7月の刊行以来、反響を呼んでいる。

著者は、宮城県仙台市に本社を置く地方紙「河北新報」の横山勲記者(37)。’22年11月~’24年12月に横山記者が河北新報朝刊で明らかにした事実をベースに、紙面では報じていなかった調査や取材の経過を加筆し、新たに書き下ろしたのが本書だ。

’14年に「地方創生」がスタートして以降、総合計画の策定をコンサルに丸投げする自治体で、悪徳コンサルによる交付金搾取が横行している。横山記者が暴いた「過疎ビジネス」の手口はどのようなものだったのか、話を聞いた。

舞台は、人口8000人ほどの福島県国見町。車内での救命処置に対応する高規格救急車12台を開発・製造して近隣の自治体に貸し出すというリース事業が’22年9月、町議会で承認された。匿名の企業(後に大手ITを含む関連企業3社と判明)から企業版ふるさと納税で寄付があった4億3200万円を原資にするという。

当時、河北新報の福島総局勤務だった横山記者は、国見町に関する別の取材中に、町議会の会議録から高規格救急車のリース事業について知る。

高規格救急車を12台も購入し、自分たちの町で使わずに他の自治体にリースする。しかも、この事業は官民コンソーシアム事業の一環で、コンソーシアムに関係する企業からの企業版ふるさと納税を原資とし、その寄付金の活用を申し出た企業に事業の委託料を支出することにしたと。会議録を読むと、予算の議決前にもかかわらず、町長がそう答弁していたんです。

常識的に考えて、おかしい。調べてみようと直感的に思いました(横山記者、以下同)

国見町はその年の12月、備蓄食品ベンチャーで地方創生コンサルの「株式会社ワンテーブル」(宮城県多賀城市)に、高規格救急車のリース事業を委託した。

宮城県の会社が福島県の自治体の事業に関わるということで、仙台市に本社がある河北新報にとっても当事者性がある。まずはワンテーブルがどんな企業か調べることから始め、河北新報の過去記事データベースや行政文書などから集めた断片的な情報をもとに仮説を立てていきました。

記事にするには裏づけが必要なので、公開情報を読み込んで出来事を時系列で整理し、事業の関係者に接触して情報を引き出して。2ヵ月弱を地味な作業に費やしました

地道な取材によって横山記者は次の事実をつかむ。

救急車リース事業のプロポーザル(企画競争入札)に参加したのはワンテーブル1社のみ。それ以前に、ワンテーブルは国見町の官民コンソーシアムの事務局を受託し、同町に救急車リース事業の提案までしていた。

さらには、救急車ベンチャー企業と業務提携。その救急車ベンチャーは、国見町に企業版ふるさと納税で寄付をしたIT大手の子会社で、ワンテーブルは国見町が事業の委託先を公募する8ヵ月も前に寄付金を原資とした高規格救急車の製造を発注。後にわかることだが、救急車ベンチャーが確実に受注できるよう、「仕様書」の作成にも関与していたのである。

企業版ふるさと納税をした企業は、寄付額の最大9割が法人税などから控除される。

国見町の事業では、寄付をした大手ITが税額控除を受けるうえに、子会社である救急車ベンチャーの事業受注によって多額の利益を得ることになる。

取材でつかんだ事実から、「寄付金還流」「課税逃れ」の可能性や「自治体とコンサルの癒着」「便宜供与」などの疑惑が浮上した。

人口8000人の町を食い物にした“ハイエナ”コンサル, 「財政力のない役場はバカ」「地方議会は雑魚」, 行政文書を片っ端から廃棄…, 地方創生が「過疎ビジネスの温床」と化した皮肉な結末

「町に寄付して資金を持たせて運用でもうけるというのが、うちらのやり方」。 これが、録音データで明らかになったワンテーブルのやり口だ。図にある「ベルリング」は救急車ベンチャー(画像:河北新報提供)

「財政力のない役場はバカ」「地方議会は雑魚」

記事にする材料が揃った時点で、横山記者はワンテーブルの社長を取材している。

実は、事業の寄付金還流スキームなどに関して、私の中ではまだ疑いレベルでした。企業版ふるさと納税の制度を所管する内閣府に電話で問い合わせて受けた説明に沿うと、事業スキーム自体を全面的にクロとは言えないからです。

でも、ワンテーブルの社長から話を聞き、私にはやはり制度の抜け穴を悪用しているとしか思えませんでした

社長取材の直後、横山記者は’23年2月3日から4日間にわたり、河北新報の朝刊で救急車リース事業について報じた。直後から河北新報には全国から多くの情報が寄せられた。

横山記者はワンテーブルの社長と社外関係者との会話を収めた音源を入手する。その録音データの中で、同社長はこんなことを言い放っていた。

  • 〈僕たちは企業版ふるさと納税の制度を使いながら、超絶いいマネーロンダリングをしている。企業に4億寄付してもらえば、うちに4億がそのままくる〉
  • 無視されるちっちゃい自治体がいいんですよ。誰も気にしない自治体〉
  • 〈財政力指数が0.5以下の自治体って、人もいない。ぶっちゃけバカです。うちは『第二役場』。行政機能そのものをぶんどっている〉
  • 〈地方議会なんて雑魚。俺らのほうが勉強しているし、言うこと聞けというのが本音〉

地方の自治体を見下し、食い物にする、地方創生コンサルの本音が赤裸々すぎるほどに語られている。

横山記者は「無視されるちっちゃい自治体がいいんですよ」との発言が一番許せなかったと、『過疎ビジネス』に書いている。地方紙の記者魂が燃え盛ったのは、その瞬間だったのだろうか。

何段階かありますが、やはり録音データを聞いた時には非常に腹が立ちました。彼も北海道の過疎地域で生まれ育った地方出身者なわけですよ。地方を食い物にするようなマネをなぜできるのかと。

これは私の想像ですが、彼の中には地方に対して愛憎みたいなものがあったんじゃないかと思います。『自分がなんとかしてやる』という使命感と、『だからダメなんだ』という軽侮の念が。ただ、地方の在り方にあまりにも無頓着すぎた

’23年3月、横山記者は計11本の続報を放ち、社長の音声データを河北新報の公式YouTubeで公開した。

一連の報道を受け、ワンテーブルの社長は「発言の責任を取る」として、社長職を退いた。

行政文書を片っ端から廃棄…

一方の国見町も、ワンテーブルとの一切の契約を解除し、救急車事業の中止を決定。2週間ほど前の町議会で「立派なことを町のためにやろうとしている」「新聞で国見が国見がと言われる筋合いはない」と強弁していた町長が、速攻で方針を一転させたわけだ。

私はただの“聞屋”です。できることといえば、記事を書くことしかありません。読者が同意してくれるだろうと信じ、一貫して『民主主義の基盤である地方自治がないがしろにされるのはおかしい』ということを書いていた気がします

しかし、当の国見町幹部には「ないがしろにされている」との意識は微塵もなさそうだ。コンサルに過疎対策を丸投げし、町民の役に立ちもしない官民連携事業を容認。公金の浪費も意に介さない。思考停止、ガバナンス不全に陥った「限界役場」(横山記者の造語)こそ大きな問題ではないのか。

そこが一番の問題です。ワンテーブルの社長は責任を取って辞任しました。町役場は町長はじめ幹部職員、誰も責任を取らない。そもそもワンテーブルに好き放題させたのは彼らだし、自分たちが公金を扱っている自覚も飛んでしまっている。『ふざけるな』と思いましたよ

国見町の町長は官民連携事業を進める目的について、町議会で「国見が一番ほしいのは、企業と連携して国見町を宣伝する、町のネームバリューを上げること」と説明している。それが町民のメリットになると本気で考えていたのか。町長は町をどうしたかったのか。

目立つ事業で自分の実績を作りたかっただけでしょうね。事業計画書も作っていなければ、救急車リースの需要調査もしていないんですから、本気で事業を進めようとしていたとは思えません

国見町の幹部職員らが、関係資料やメールを全て廃棄していたことにも驚かされる。

国見町役場のガバナンス不全、職員のコンプライアンス意識の欠如は、この時に始まったことではない気がします

町議会も、行政のチェック機能を果たさなかった。

官民コンソーシアム事業を了承した議会にも、確かに責任はあります。ただ、厳しく責めるのも酷だと思うんです。議員のなり手がなく、町の課題に対する町民の関心も薄い現状にあって、議員だけが悪いのかというと、問題の核心はそこではない。

議員たちも問題を看過したことを反省していました。だから百条委員会を発足し、参考人招致を実施した。国見町が企業側と交わしたメールや提供資料などの行政文書を片っ端から廃棄していた事実が判明したのは、百条委員会が追及したからです」

担当職員らがワンテーブルに決済前資料を提供していたこと、その行為が便宜供与に当たるものであること。そして、救急車事業が公正公平な入札契約のプロセスを経ていない事実上の随意契約であったことを明らかにしたのも、百条委員会だった。

’24年11月10日の任期満了に伴う町長選挙で、問題の現職町長は町民の厳しい審判を受け落選。地方自治体の首長としては珍しく、1期4年で首長人生を終えた。

同月22日、内閣府地方創生推進事務局は国見町の「地域再生計画」の認定を取り消した。当時の内閣府特命担当大臣はその根拠について「町が寄付の代償として、便宜供与を行ったものと判断した」としている。

地方創生が「過疎ビジネスの温床」と化した皮肉な結末

国は’25年度から、自治体が企業版ふるさと納税の寄付金を使って事業を行う際、寄付した企業名の公表を原則義務づけた。これにより、企業版ふるさと納税に関しては、制度の透明化が一定程度は図られることになったかもしれない。

だが、明確な課題意識を持たず、地域の将来をコンサルに丸投げする自治体と、国の交付金や補助金を地方から吸い上げようとするコンサルが存在する限り、「過疎ビジネス」が消えることはないだろう。

国はといえば、地方の実情を度外視し、実効性のない事業計画を選定して交付金をばらまき、成果の検証もしない。

国は交付金をばらまくだけばらまいて何もチェックしないというのはその通りだと思います。じゃあ、なぜばらまく必要があるのか。東京一極集中だからです。

私が小学生の頃から、東京一極集中は地方の人口減少を招き、地域の活力を奪うとずっと言われてきました。国はそれをわかっていながら、何もしてこなかった。東京一極集中を放置してきた結果が、地方自治にさまざまな歪みをもたらしている。私はそう思っています

「東京一極集中の是正」を掲げる「地方創生」は、自治体が「地方版総合戦略」を策定することを交付金受給の条件とした。しかし、専門知識や分析力を持つ職員が不足する市町村にとって、国が求める高度な計画策定はハードルが高いのが実態だ。その結果、政策立案を民間のコンサルに丸投げする構造が生まれた。

東京一極集中を是正するはずの地方創生が、皮肉にも過疎化を収益源とする「過疎ビジネス」の温床と化してしまっている。

ちなみに、国見町のリース事業中止で行き場をなくした高規格救急車12台は、希望する自治体などに無償で譲渡されることになったようだ。

横山勲(よこやま・つとむ) 河北新報編集部記者。1988年、青森県生まれ。福島総局には’21年4月から’24年3月まで赴任。’25年、自ら中心となって取材執筆した「『企業版ふるさと納税』の寄付金還流疑惑に関する一連の報道」が新聞労連ジャーナリズム大賞を、著書『過疎ビジネス』(集英社新書)で菊池寛賞を受賞した。

人口8000人の町を食い物にした“ハイエナ”コンサル, 「財政力のない役場はバカ」「地方議会は雑魚」, 行政文書を片っ端から廃棄…, 地方創生が「過疎ビジネスの温床」と化した皮肉な結末

横山勲記者は著書『過疎ビジネス』(集英社新書)で菊池寛賞を受賞

取材・文:斉藤さゆり