世界初!中国で人型ロボットハーフマラソン大会~過熱するブームの裏で「何の意味が?」の声も

Photo:VCG/gettyimages
今年2月の春節以降、急激にロボット産業が成長している中国。ちょっとした「ロボットブーム」ともいえる状況だ。ロボット犬も人気だが、今回のブームで話題の中心となっているのは人型ロボット(ヒューマノイドロボット)。春節のテレビ番組で16体のロボットが人間と共に群舞する様子が大きな話題になったほか、先日は北京で人型ロボットと人間のハーフマラソン大会が実施され、これまた大勢の人たちが熱狂した。「世界初」の大会はどんなようすだったのか?(フリーランスライター ふるまいよしこ)
世界初、人型ロボットによるハーフマラソン大会開催
4月19日、北京で、世界初の人型ロボットによるハーフマラソン大会※が開催された。緑地帯で区切られた隣のレーンからは人間の選手たちもスタートを切り、人間とロボットが同時に同じ距離のレースを競う(同じ大会内で別コースを並行走行)ハーフマラソンという点でも世界初の試みだった。
参加したのは中国国内各地の20社あまりが開発した二足歩行ロボットたち。ロボットレーンに並んだ各「選手」たちは、人間レーンとは異なり、一斉スタートではなく1分毎の時差を設けた「ウェーブスタート」方式を採用。勝敗はスタートからゴールまでにかかった時間で決まることになっていた。これは身をかわす柔軟性をまだ持たないロボット選手同士の衝突を避けるための配慮だったが、同時にスタート地点に集まった観客たちに「世界初」のマラソン大会に挑む「勇者」たちの姿をじっくり観察してもらう絶好の機会ともなった。
※編注:二足歩行ロボットが単独で長距離マラソンに挑む大会は、2011年に大阪で開催された「ろぼまらフル」が世界初。5体の二足歩行小型ロボットが100メートルトラックを422周するフルマラソンだった。人型ロボットによるハーフマラソン、人間と人型ロボットが同時に走る(ハーフ)マラソン大会は北京のこの大会が初めて。
21kmを走りきったロボットは21体中6体
コースは緩やかな起伏と曲がりくねった道で構成された21km。途中には人間のレースと同様に複数の補給所「エイドステーション」が設けられていた。大会主催者は事前に、全コースを1体のロボットが走り切ること、また途中の電池交換をしないことなどを奨励。しかし実際には途中で電池やロボット自体の交換が必要になるケースも想定され、エイドステーションで随行審判の同意を得てそれらを行うことが認められていた。ただし、ロボットを交換した場合は減点対象となる規定だった。
各「選手」には3人までの人間の伴走が許可され、そのメンバーの交代もエイドステーションで行われた。レース中の写真を見ると、あまり普段運動をしていなさそうな伴走メンバーが汗ぐっしょりでグロッキーになっている姿が微笑ましかった。
参加「選手」の中には、ジムの懸垂マシンのような支柱に支えられて走るものや、伴走者のリモコンで操作されるもの、子どものように伴走者にハーネスを握られながら走るロボット、さらには「走る」というよりゆっくりと歩きながら手を振る、国家指導者を彷彿とさせるユーモラスなロボットまでさまざまだった。しかし実際には、スタート直後に路上に座り込むロボットや、走行中に力尽きて崩れ落ちたり、煙を出して燃え尽きた「選手」も続出。出場した21体のうち、完走したのはわずか6体だった。
2時間40分42秒で優勝したのは「天工Ultra」
「世界初」の栄冠を手にしたのは、北京Xヒューマノイドロボット・イノベーションセンター(北京人形機械人創新中心、以下「北京Xヒューマノイド」)が製作した身長180cm、体重わずか55キロの「天工Ultra」。2時間40分42秒でゴールインした。そのスリムな体型のため、レース中に電池を3回交換する必要があったという。開発チームによれば、電池容量の増加は可能だが、その分重量が増すため走行安定性に影響が出てしまうという技術的トレードオフがあるようだ。

北京Xヒューマノイドのサイトを開くと、トップページで人型ロボットが走る動画が見られる
レースには、春節に全国放送のテレビ番組で音楽に合わせた群舞を披露し、中国のロボットブーム火付け役となった宇樹科技(Unitree)製の「選手」も参加していた。しかし、スタート直後に転倒。伴走者に支えられて立ち上がり、観客たちに手を振る「余裕」も見せたものの、途中退場を余儀なくされた。
ブームの中心にいる宇樹科技は最近、バック転などアクロバティックな動きをするロボット映像を次々と公開して話題を集めているが、ランニング機能については意外な盲点だったようだ。同社はレース後、今回の「参戦」主体は宇樹科技ではなく、同社製ロボットを所有する顧客が改造して参加したものだとする声明を発表し、暗に顧客側の「調整不足」を指摘するような姿勢を見せた。

宇樹科技(Unitree)のWebサイトでは、同社のロボットが人間と一緒に群舞し、ロボットブームに火を付けた春節のテレビ番組での動画が見られる( 同社サイトより引用 )
このマラソン大会は、ハプニングも含めて各メディアで大々的に報道され、週末の話題を席巻した。特に上位入賞したメーカーについては詳細な報道がなされ、今後のロボット事業展開への抱負も語られた。天工Ultraの開発者は「今後量産すれば価格はお手頃価格の乗用車並みになる」と展望を語り、2位に入った松延動力(Noetix Robotics)は参加した「N2」ロボットをオークションにかけ、5万6806元(約110万円)で落札されたという。
また、小型ロボットが中国メーカー産の子供用シューズを履いてレースに出場したことで、メディアは「ロボットが消費を牽引するかも」と期待を煽り、メーカー側もこれを積極的に宣伝に活用する意向を示した。
上述の通り、優勝した天工Ultraのタイムは2時間40分42秒。一方で、同じコースを走った人間選手の記録は1時間2分。世界トップの男性選手ならハーフマラソンは1時間を切り、2分40秒/kmであることを考えると、天工Ultraの7分37秒/kmというタイムはまだ人間には遠く及ばない。そのため「ロボットは人間に勝てなかった」というタイトルで報道したメディアもあった。
ただ、スマホ画面をほぼ埋め尽くすほどの熱狂的な「世界初ロボットマラソン大会」報道に対し、こんな根本的な疑問の声も上がった。
「なぜ、ロボットが二足歩行しなければならないのか?」
人型ロボットの矛盾と課題
ITコラムニストの魏武揮氏は自身のコラムで「ロボットが人間の姿をしていなければならないと思い込むこと自体、想像力の欠如だ」と鋭く指摘した。そして今回のロボットマラソン大会を「大失敗の現場」と評し、次のような問いを投げかけた。
「想像力のたまもののように人間の姿に似せても、それはロボットの発展を完全に阻害している。人型ロボットには頭があり、2本の腕と2本の足が身体を支えている。しかし、なぜ頭部が必要なのか? 視覚や聴覚のセンサーが身体の別の場所にあってはいけないのか? なぜ必ず両手なのか? 3本、あるいは8本の機械アームがあれば、より多機能にならないか? なぜ二足なのか? バランスを良くするために三足や四足ではダメなのか?」
確かにマラソン大会では、足元がふらついたり、数歩歩いただけで崩れ落ちたり、わずかな走行で電池を消耗したり、走行中に頭部が外れて転がったり、伴走者の支援を受けてようやくゴールにたどり着いたりといった「失態」の連続だった。これらはメディアが大会を大々的に宣伝するほど格好いい光景ではなかった。
魏氏は「それはかつて、棋士のイ・セドルと(囲碁AI)AlphaGoが対戦したときのような、見る者をドキドキさせるものではなかった」と述べ、さらにこう続けた。「少なくとも現段階、そしてこれからしばらくの間、二足で走る能力においてロボットは人に遠く及ばないはずだ。それはロボット産業への自信のなさではなく、人型ロボット自体がもともとロボットの形態として最も非効率的なのではないかと考えられるからだ」
フィナンシャル・タイムズ 中国語版の産業テクノロジー担当編集者である閻曼氏も同様の見解を示している。
実際、優勝した天工Ultraも15km地点で倒れ、伴走者による修理・調整を経てようやく完走した。2位の松延動力N2も転倒した際に頭部が外れて転がるアクシデントに見舞われた。マネキンのような美女の頭部を付けて注目を集めた「幻幻」は歩行すらままならず、スタート直後に「座り込み」動けなくなってしまった。
なぜそうまでして人間の形をしたロボットにこだわり、人間と同じことをさせようとするのか?
言葉と文化がロボット開発に与える影響
単純な話ではあるが、中国語で「ロボット」を「機器人」(機械の人)と表現することが、中国で人型ロボットに注目が集まる要因の一つではないかと筆者は思う。我々にとっての「ロボット」は、中国人にとって「機器人」であり、そこに「人」という文字が含まれる限り、中国のロボット開発者の思考には「人型」というコンセプトが無意識的に刷り込まれやすいのではないか。
ちょっと裏話をすると、今回のマラソン大会の参加者は、優勝した北京Xヒューマノイドや松延動力を含め、ほとんどが北京に拠点を置くロボット開発企業や研究機関だった。実はこのマラソン大会は、中国政府と北京市が2015年から毎年開催してきた「世界ロボットフォーラム」が今年8月に10回目を迎えるための「前フリ」イベントとして位置づけられていた。春節以降に急拡大したロボットブームに便乗して企画を思いついた北京市政府が急ぎ関連企業に声をかけたものの、ロボットの運動機能開発で先行する深センの宇樹科技など、長江・珠江周辺地区を拠点とする企業の多くは「準備期間不足」を理由に参加を見送っていた。
しかし、ブームの威力は凄まじい。経済メディア「財新」によると、今年3月に投資家説明会を開いた人型ロボットのスタートアップ企業のCEOは「ゼロから3カ月でロボットを作ってみせる」と宣言したという。
急速なロボットブームで、投資が過熱している
前回の記事で、経済的停滞に焦る中国では「スマートカー」業界への期待が高まっていることを紹介したが、同様に、現在の人型ロボット業界は、中国政府が未来を託す重要産業の一つになっている。そのため投資が急速に集中し、業界のスタートアップ企業にとって1億ドルの資金調達はもはや高いハードルではなくなりつつある。
産業機械関連データ研究所の統計によれば、今年1~2月における国内のスマートロボット投融資規模は44.5億元(約863億円)と、昨年1年間の総額にほぼ匹敵する水準に達した。具体的には、(春節後の)2月だけで億単位(1億元=約19億円)の融資が6件、100万元(約1940万円)単位の融資が2件、さらに金額非公開の融資が27件行われた。その結果、2月単月で国内プライマリー市場の取引額は29.6億元(約574億円)から47億元(約912億円)に急増した。
3月末には、設立わずか50日のスタートアップ企業が1.2億ドルの融資を受けたと発表。投資家リストには国内著名ベンチャー投資企業も名を連ねていた。
こうした業界の過熱ぶりに対し、大手国内ベンチャーキャピタルの草分け「GSRベンチャーズ」を率いる著名投資家、朱嘯虎氏が3月末に冷や水を浴びせた。彼は「エンジェル投資家として、我々はこれまでずっとエンボディドAI※プロジェクトに初期投資を行ってきたが、ここ数カ月は撤退を進めている」と述べたのだ。
「何人かのCEOに『あなたたちの商業化のための潜在顧客はどこにいるのか?』と尋ねてきた。私には、彼らの言う顧客はすべて架空にしか思えない。誰が、単純な作業をこなすだけのロボットに何十万も費やすだろうか?」
GSRベンチャーズは配車サービス「滴滴出行 DiDi」やフードデリバリー「餓了麼」、シェアサイクル「ofo」、旅行予約サイト「去哪兒」、人気SNS「小紅書」などへの初期投資で知られる目利き集団だ。朱氏の発言は業界に衝撃を引き起こした。
※エンボディドAI(Embodied AI)…頭脳で考えるだけでなく、物理的な存在を持ち、体を動かして行動、学習するAIのこと。ロボットやセンサー、トライ&エラーを通して自分で学習するAIなどを指す。
ロボット業界が朱氏に反発
朱氏の見解に賛同する業界人もいたが、特に強い反発を示したのは「エンボディドAIプロジェクト」の最先端を行くロボット業界だった。宇樹科技に次ぐロボット業界No.2スタートアップとされる「衆擎機器人」(EngineAI)は激しく反論。同社CEOは朱氏を「短視眼的」と批判し、「目先のことで未来を否定している」と非難。さらに「彼は非常に成功した頭脳明晰な商売人かもしれないが、起業家精神とは異なる」と述べた。同時に同社が近く中東からの資金調達を実現し、産業革命レベルの人型ロボットを開発する計画だと発表した。
朱氏の同業者からも、彼の発言は業界の名誉を傷つけるものだとする批判の声が上がった。その後、GSRベンチャーズが初期投資を行い、実際に資金を引き上げた2つのロボット企業――「星海図」と先のマラソン大会で2位となった松延動力もそれぞれ声明を発表。2023年9月に創業した前者は、GSRベンチャーズが投資から半年で資金回収したものの、その後も他の著名大手ベンチャー企業から資金調達に成功していると強調した。一方、松延動力は自社製ロボットの動画に「雑音を恐れない」という文言を添え、開発継続の意志を示した。
ブームが過熱する中、起業家たちの間には「FOMO」(Fear of Missing Out、取り残される恐怖)が蔓延しているという指摘も出ている。朱氏の発言と同時期に明らかになったのは、実は朱氏らのように早くからロボット・エンボディドAIに投資してきた投資家やベンチャーキャピタルの間では、すでに昨年末から2025年のロボット業界へのエンジェル投資は徐々に収束に向かうだろうという見方が広がっていたという事実だった。
それが突如、現在のような過熱状態に転じた。その熱狂ぶりはかつてのスマートカー投資ブームを凌ぐとさえ言われている。
朱氏は2024年に同社が調査した23のエンボディドAIプロジェクトのうち、その技術が将来量産にこぎつけてコスト削減あるいは収益増大につながると実証できたのはわずか14%に過ぎなかったと指摘。一方、同社が2018年から22年の間に10倍のリターンを得たハードウェアプロジェクトでは、この比率は32%だったと述べている。
こうした朱氏の「そろばん勘定」に対し、人型ロボット産業に期待を寄せる人々からは「AIロボットのようなハードとソフトを融合した産業は、(朱氏の言うような)従来型の事業投資とは異なる投資回収の視点が必要だ」という反論も出ている。
「人型ロボット産業には必ず大成功企業が誕生する」と確信するブーム推進派と、冷静に外部から観察する懐疑派、どちらが最終的に「正しかった」と言えるようになるのだろうか。

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