「アルファードと同じ土俵では戦わない」マツダCX-80が「スライドドアなし」SUVにこだわる納得のワケ
ここ数年、大小さまざまなサイズのSUVを出しているマツダは、実は現在ミニバンを造っていません。今回紹介している「CX-80」は国内最上級モデル、かつ、大型の3列シートSUV。「5人乗りでは足りない」「荷物をたくさん積みたい」といった顧客のニーズに、ミニバンではなく、CX-80のようなSUVで応えようというのです。しかし昨今の日本では、ファミリーカーといえばミニバンであり、スライドドアが大人気。「SUVにスライドドアを付けたらいいのでは?」というフェルさんの問いに対し、CX-80の商品開発責任者・柴田さんの答えは……。(コラムニスト フェルディナント・ヤマグチ)
透き通るような美声、尾崎裕哉さんの父上は“あの歌手”
みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
今週も明るく楽しくヨタ話から参りましょう。
コナカの湖中社長にお招きいただいて、丸の内のCOTTON CLUB東京で開催されたプライベートライブに行ってきました。出演は気鋭のシンガーソングライター、尾崎裕哉さん。透き通るような歌声が持ち味であります。

透き通るような歌声の尾崎裕哉さん Photo by Ferdinand Yamaguchi
スタンダードジャズのナンバーを数曲歌われたのですが、英語の発音が非常に良い。聞けば5歳から15歳までボストンで暮らしていたとのこと。慶応の修士課程を終了した秀才でもある。歌は上手いし頭は良いし英語も堪能でルックスも良い。天は2物どころか3物も4物も与えているわけで、不公平ったらありゃしない。これもグローバリズムの弊害というものでしょうか(笑)。

左から湖中社長、ピアニストの宮本貴奈さん、尾崎裕哉さん Photo by F.Y.
名前を見てピンときた方もいるかもしれません。そう、尾崎裕哉さんの父上は“あの”尾崎豊氏なのです。完全なるサラブレッド、なるほどそりゃ声が良いわけだ。大学院を出てから少しの間、外資系企業で勤務経験もあるそうですが、歌の道へ進んだのはやはり“血”なのでしょう。父上も天国でさぞかし喜んでおられると思います。

一緒に写真を撮っていただきました。私の隣は一緒に行ったジムニー界の帝王、APIOの河野仁さん。
しばらくライブから遠ざかっていましたが、たまに来ると火がつきますね。家の近所の駅前にジャズバーもできたことだし、また生の音楽を楽しむことにしましょうか。
……ということで本編へとまいりましょう。マツダのラージ車戦略の明日を占う「CX-80」。開発者インタビューの続きをお送りします。
プレマシーもMPVも……マツダがミニバンをやめた理由
今回のインタビューは、「マツダR&Dセンター横浜」で行われた。「横浜」といわれると何となくオサレなイメージだが、最寄り駅はJR・京急の子安。黒くよどんだ運河を越え、貨物専用の錆びた線路を超えてテクテク歩くとようやくたどり着く、ガチガチの工業地帯の中にある。
門を入ると周囲の環境とは裏腹に、横浜らしく瀟洒なビルが建っている。中庭は美しく整備され、クルマの撮影やイベントに利用されることが多い(取材当日も他誌の撮影が行われていた)。玄関脇にはマツダの“歴史的名車”が並び、奥の方には会議室が整然と並んでいる。今回はその一室でお話を伺っている。インタビューを続けよう。

マツダR&Dセンター横浜のエントランスに停めたCX-80の前で撮影。右がマツダ 商品開発本部 主査 柴田浩平さん Photo by AD Takahashi
フェルディナント・ヤマグチ(以下、F):いただいた総合カタログを見ているのですが、マツダにはミニバンがない。最後に造っていたのはプレマシーでしたか……?
マツダ 商品開発本部 主査 柴田浩平さん(以下、柴):プレマシーとビアンテですね。どちらも2018年に国内販売を終了しています。過去にはMPVもあったし、マツダもいろいろなサイズのミニバンをしっかり出していた時期がありました。ミニバンは一定数売れる。それは間違いない。ですが、その一方で「CX-5」のようなSUVの人気がぐんぐん高まってきた。CX-5があれだけ売れたのは、やっぱりミニバンのオルタナティブになっていたからだと思います。

マツダの乗用車ラインナップ。ロードスターとMAZDA2、MAZDA3を除くとすべてSUV(公式サイトより引用)
ファミリーカーとして、ミニバンではなくSUVを提案したい
F:オルタナティブ……代替案としてのSUV……つまり「ミニバンの代わりとして、多くの人にCX-5が選ばれた」ということですね。
柴:はい。家族カーとしての新しい形。実際に今までミニバンを買って乗っていた人たちも、もうミニバンじゃなくてこっちが良いなと。荷室もしっかり使えるし、後席にちゃんと人が乗れる。その上で視界も良い。走りも良いと来れば、SUVは大いにアリだろうと。そこに3列目シートを備えたCX-8を出した。それで「ミニバンにするか(CX-)8にするか」という選択肢ができたと思っています。

CX-8のインテリア。3列目席シートも大人が座れるサイズ(広報写真)
F:CX-8が登場して7年。3列シートSUVは市場に浸透しましたか。ミニバンと比べて、お客からはどのような意見がありますか?
柴:浸透していると思います。ちゃんと座れる3列目シートがあるSUVということで、(CX-)8は8で市場に浸透していると思っています。
F:CX-8、その流れを汲む今回のCX-80。これを選ぶお客は、ミニバンと比較検討しているのでしょうか。

CX-80のインテリア。CX-8同様、3列目も大人が乗れる設計になっている(広報写真)

3列目の背もたれを倒して大きな荷物を積むこともできる(広報写真)
柴:そうですね。全く同じタイプのクルマではありませんが、多くの方がミニバンと比較検討されています。
売れると分かっているミニバンをやめた理由は?
F:スライドドアではないし、ミニバンと比べると天井も低い。走りはこちらの方が良いけれども利便性では負ける。ミニバン志向の客をマツダは拾えないことになりはしませんか。いま、ミニバンを持たないマツダは、「やっぱりミニバンが便利で良いよな」という客が100%他社に流れてしまう。
柴:そうですね。一定数はミニバンに行ってしまう。
F:売れると分かっているのに、なぜミニバンをやめたのですか。
柴:我々も7年前までミニバンを持っていたからよく分かるのですが、あの土俵で勝負するのは得策ではないからです。
F:有り体にいえば、アル(ファード)・ヴェル(ファイア)、あるいはノア・ヴォク(シー)、セレナが強すぎるということですか。レッドオーシャン過ぎると。
柴:その通りです。ステップワゴンとノア・ヴォクとセレナ。あの手のミニバンの使い勝手は、間違いなく、ものすごく優れている。でもマツダがあえてその土俵に上って勝負しに行くのは賢明ではありません。
F:マツダの規模からすると……。
柴:そうです。会社の規模から考えてやっぱり難しい。アル・ヴェルの市場になると、日産さんは結局エルグランドの新規開発を長らくやっていませんし※、ホンダさんも前はやっていたけれども、今はラインナップから外している。もともとあのクラスの市場はエルグランドが切り開いたはずなんです。でも今はすっかりアル・ヴェルの独壇場になってしまった。「俺のクルマはアルファード」といえるほどのネームバリューとステータス性ができている。周囲の人も「あれはいいクルマで、いくらぐらいして……」ということまで分かっている。それが成り立つような世界観が構築されているんです。
F:つまりはブランドが確立している。アルファード強し、ですね。ベストカーか何かで、次期モデルのエルグランドのスクープが出ていましたが※。
※いずれもインタビュー時(4月上旬)。4月22日、日産は新型エルグランドを発表し、現在(4月24日時点)はティザー広告が出ている。
3列目シートがあるSUVで“異種格闘技戦”
柴:そうですか。日産さん、ついにやるんですね。でもなかなか難しいと思いますよ。だから我々はあえてその土俵には上がらずに、「異種格闘技戦」の戦法を取ることにしたんです。
F:なるほど。3列目シートを持つSUVは異種格闘技戦。打撃あり、寝技あり、関節ありの総合ルールで(笑)。
柴:はい。そしてその手応えはマツダのみんながしっかり感じていると思っています。「家族のために良いクルマ」という視点で物事を考えた時に、果たしてスライドドアは絶対に必要なのか。乗り降りがしやすいのは家族に取って間違いなく大事だし、車内を広く使える事も非常に大事です。それじゃ安全性はどうなのかとか。走りは、乗り心地はどうなのかと。そんな視点もあると思うんです。
F:ミニバンは構造上、側突(側面衝突)に弱い。ワンボックス形状で開口部も大きいから、SUVと比べればねじれ剛性も弱い。当然、走りも乗り心地もSUVには劣る。良い悪いではなく、物理的な特性でそうなりますよね。
柴:そういう話になるでしょう。その部分に目をつむってまで買ってほしいクルマなのかと。
F:とはいえ、スライドドアは魅力です。大変な商品力がある。CX-80にスライドドアを付けることはできないのですか?SUVとミニバンのいいとこ取りということで(笑)。
柴:CX-80にスライドドアですか?いや、今から付けるのは非常に難しい。骨格から大改造しないと無理ですね。
スライドドアを付けようという考えはなかった?
F:商品企画の段階で、スライドドアが候補に上がったことはないですか?
柴:ありません。一度も出ませんでした。
F:それはなぜですか?売れそうじゃないですか。
柴:失うものが多すぎるからです。さっきフェルさんが言ったように開口部が大きいので剛性が下がる。ドアを電動で持たせるためのフレームが必要になるから、骨格ごと重くなる。かなり重くなります。当然値段も上がる。
F:重くなる。高くなる。弱くなる、か。三重苦ですね。
柴:ラージ車群は、4車型をいかに効率よく造るかが一つの課題でした。CXの60、70、80、90を造るにあたって、全体の投資を抑えながら、4車型を使ってアメリカ中心のカバーと日本とヨーロッパ中心の市場のカバレッジをできるだけ広げて行きたいという思いで造っています。その中で3列車のためだけにスライドドア分の投資をするというのは非常に難しいですよね。
F:するといま現在、マツダはスライドドアのクルマを造っていない。
柴:OEM供給を受けている軽バンや商用車を“売って”はいますが、マツダが“造って”はいませんね。
F:いまのマツダのフィロソフィーには適合しないということですか?
柴:いや、それは違います。ボンゴフレンディとか、過去には良いクルマもたくさんありましたし、別にスライドドアを否定するものではありません。現状は造っていませんよ、ということです。ただ、おっしゃる通りスライドドアに大きなディマンドがあることは間違いありません。何らかの形で技術革新的なことを考えなければいけないという思いはありますね。
アメリカは「マッチョ」が正義、スライドドアはウケない
F:軽くて丈夫でしかも安価なスライドドア。これは難しそうです……。ちなみにアメリカでスライドドアのクルマはウケないのですか?
柴:正直、ウケません。アメリカではウケませんね。そもそも駐車場が広いから、横に気遣ってドアを開ける必要がありませんし。向こうでスライドドアのクルマは「サッカーマムが乗るクルマ」と言われてしまうことがありますので。
※サッカーマム(soccer mom):子どもをサッカーの練習や試合に送り迎えするお母さん。“良き母”というニュアンスがある一方で、“所帯じみている”というイメージも含まれる。
F:なるほど、サッカーマム。
柴:アメリカはマッチョ。とにかくマッチョなクルマがウケますね。
F:マッチョの象徴であるF-150※が一番売れる国ですからねぇ……と、スライドドアの話に寄ってしまいましたが、ラージ車両群を造るにあたってもう少し詳しく教えてください。特にミニバンとのオルタナティブについて。
※F-150:フォードのピックアップトラック。大きくてパワーがあってゴツい。
運転する人だけではなく、乗っている人がみんな楽しいクルマを
柴:走りが良いと強調してはいますが、単に「運転する人だけが楽しむ」とか、「どうだカッコ良いだろう」というのではない、「大事な人を乗せて楽しんでもらう」ことに注力しました。もちろん直列6気筒に反応していただきたいし、後輪駆動にも反応していただきたい。しっかり楽しんでいただきたいという気持ちはありますが、運転する人が1人で楽しむのではなく、一緒に乗る人、周りの人たちと良い時間をしっかり共有してもらいたい。その思いが番上にあって、その下に乗り心地やデザインや安全性が来るんです。
これらを並べていくと、相反する要素も出てきます。それをどう両立させていくか。それが開発のポイントです。クルマを買うときって、どうしても何かを優先させて、何かを諦めるということが起きてしまいがちです。子どもができたら、もう自分の大好きなRX-7は諦めて売ってしまうとか。逆にお父さんが好きだから家族は我慢して硬いセダンに乗るとか。
F:ランエボとか(スバル)STIのことですね。「セダンだから安心だろ」と家族を煙に巻いて、あれを買うお父さんが多かった(笑)。
芝:いや、そうとは言っていませんよ。例えばの話です(苦笑)。運転手が「楽しい楽しい」というだけではいけません。大きなクルマの動きで、中にいる人も心地よくなるような乗り心地を追求しました。ドライバーは運転を楽しんでいるのに、後部座席に乗る人がスヤスヤ寝始めたりして。そうなるとドライバーは心に余裕を持って運転できる。そんなようなことをイメージしてクルマを造りました。
F:試乗したCX-80で兄貴分を乗せてスキーに行ったのですが、走り出して10分もしないで本当にスヤスヤ眠り始めました。私の場合は「心に余裕」というよりも「なに寝てるんだよ……」と軽くムカつきましたが(笑)。
柴:そこは寛大な気持ちで運転していただいて(笑)。

マツダ 商品開発本部 主査 柴田浩平さん
このお話は次号に続きます。来週は、試乗で気になった異音について切り込んでいきます。
(フェルディナント・ヤマグチ)
3列シートの仕様、何を選ぶ?
こんにちは、AD高橋です。
3列シートのクルマを選ぶ際、どの仕様を選ぶか迷うポイントの一つに「2列目シートの形状」があります。
例えば、CX-80の2列目には、以下の3つのタイプが用意されています。
【ベンチシート】

3人がけのベンチシート仕様。多人数乗車が多い人におすすめ(CX-80ウェブサイトより引用)
【センターウォークスルー】

キャプテンシート(センターウォークスルー仕様)。3列目へのアクセスが楽なので、3列目を頻繁に使う人におすすめ(広報写真)
【センターコンソール】

キャプテンシート(センターコンソール付き)。2列目の快適性にとことんこだわった仕様(広報写真)
最近はキャプテンシートを選ぶ人が増えている
1990年代にミニバンがブームになりはじめた頃にも2列目キャプテンシート仕様はありましたが、主流はベンチシート仕様でした。しかし近年はキャプテンシート仕様を選ぶ人が増えています。
マツダ初の3列シートSUVであるCX-8の中古車を調べてみると、流通している約1800台の中古車のうち、1000台以上がキャプテンシート仕様でした。そのため、メーカーもキャプテンシートの快適性にこだわったモデルを開発しています。
これはSUVだけでなくミニバンでも同様の傾向が見られます。人気のトヨタ アルファードはエントリーグレード以外がすべてキャプテンシート仕様になっているし、ファミリーカー色の強いノアもすべてのグレードで2列目キャプテンシート仕様が設定されています。現行型ノアの中古車を調べると9割が2列目キャプテンシート仕様になります。
フルフラットシートは人気だったが……
90年代に多くの人がベンチシート仕様の3列シート車を選んでいた時は、多彩なシートアレンジが大きなウリになっていました。中でもフルフラットシートは3列シート車のマストアイテムで、1~3列目をすべてフラットにして巨大なベッドにできるものが人気でした。
一方で限られた室内空間でフルフラット機構を持たせるためには、犠牲にしなければならないものもあります。その筆頭がシートバック(背もたれ)です。フルフラットの際に後ろの席の座面との間に段差をなくすためにはどうしても背もたれの高さを抑えなければならず、普通に座る時の快適性がスポイルされてしまっていました。さらにベッド(フルフラット)にした際の「フラット感」を重視して、シートとして使用する際にカーブで身体を支えてくれるサイドサポートが存在しないものもありました。
多彩なシートアレンジは購入検討時にとても魅力的なもの。でも購入したクルマを実際に使い始めると、フルフラットにするのは年に数回遊びに出かける時だけだったり、そもそも後席までシートポジションが固定化されてほとんどシートアレンジを使わないという人がほとんどだったと思います。

CX-80の3列目席格納時。キャプテンシート仕様でも細いものなら長尺物を積むことができます(広報写真)
それよりも2列目席がキャプテンシートかベンチシートかで大きく影響が出るのが、ラゲッジスペース容量でしょう。ベンチシートはシートバックを完全に前に倒してシートを格納して、荷室を最大限広くすることができます。でも座り心地を最優先に設計されたキャプテンシートは、シートバックを前に倒すことはできますが完全に格納することはできないので、ベンチシート仕様に比べると荷室スペースは狭くなります。
今回CX-80を試乗した際も、フェルさんはセンターコンソール付きのキャプテンシート仕様車にどうやってスキー板を積むか、四苦八苦するシーンがあったようです。確かに長尺物を積む時は2列目もフラットにできたほうが便利ですが、日常での使い方を考えると後席も快適に座れるほうが便利。私としてはキャプテンシート仕様をおすすめしたいですね。
(AD高橋)