「SLは仮の姿だった?」 実は“石灰石”などで4割稼ぐ異色鉄道――創業127年の上場企業とは
鉄道本業と沿線観光の注力
秩父鉄道(埼玉県熊谷市)は2026年1月、宝登山(ほどさん)ロープウェイ山頂のレストハウスをリニューアルオープンした。埼玉県北部で70km弱の路線を持つ地方私鉄である秩父鉄道は、宝登山ロープウェイや長瀞ラインくだりなど、沿線の観光事業に力を入れている。鉄道事業でも、SLパレオエクスプレスを運行し、観光客の集客に努めてきた。
【画像】「えぇぇぇぇぇ!?」 これが63年前の「宝登山麓駅」です! 画像で見る(9枚)
山頂エリアでは2025年7月7日に展望テラス「SUSABINOテラス」が開業しており、今回のレストハウスリニューアルでは、メニュー内容や内装、テラス席の配置を一新し、自然と調和した明るく開放的な空間を整備した。展望テラスと併せ、山頂の新たな魅力を打ち出す狙いだ。
秩父鉄道はプレスリリースを通じ、自社の観光施設や観光列車、観光ツアーの情報を積極的に発信しており、
「観光鉄道」
としての印象が強い。一方、創業の経緯や事業モデルを振り返ると、観光業に注力しつつも、他の地方私鉄とは異なる側面があることがわかる。
鉄道事業の4割を占める貨物

秩父鉄道が運営する宝登山ロープウェイ(画像:秩父鉄道)
秩父鉄道の特徴のひとつは、「貨物輸送」の比重が高い点だ。国土交通省の2024年度鉄道輸送統計調査によると、秩父鉄道の旅客運輸収入は17億3500万円、貨物運輸収入は約12億4000万円で、鉄道事業の
「約4割」
は貨物で稼いでいることになる。
主な取扱貨物は「石灰石」で、比較的近年までセメント輸送も行っていた。かつては鉄道収入の約7割を貨物が占めていたが、その比率は徐々に低下している。それでも臨海部の貨物専用鉄道を除けば、地方私鉄としては異例の高さである。
創業当初から貨物輸送が中心だったわけではない。秩父鉄道は1899(明治32)年に上武鉄道として設立され、1901年に熊谷~寄居間18.9kmを開業した。その後路線を順次延伸し、1930(昭和5)年には本線の羽生~三峰口間全線を開業した。現在は秩父本線71.7kmと三ヶ尻線(貨物専用)3.7kmを営業しており、70km超の路線延長は地方私鉄としては大規模である。
貨物輸送が本格化したのは、1923(大正12)年に秩父セメント(現・太平洋セメント)が発足したことが契機だ。沿線の武甲山でセメント原料となる石灰石鉱山が創業し、鉄道はこれを運ぶ役割を担った。鉄道創業が先でセメント事業が後という点で、明治期の鉱山鉄道とは逆のパターンだ。秩父セメントは現在も秩父鉄道の株式を保有し、傘下企業として位置付けている。
秩父セメントは業界再編を経て、1994(平成6)年に旧小野田セメントと合併して秩父小野田となり、1998年に日本セメントと合併して太平洋セメントとなった。さらに2000年には、秩父エリアの事業所が秩父太平洋セメントとして100%独立し、リサイクル燃料事業なども手掛けている。
明治期の鉱山鉄道は「先に鉱山ありき」で開業する例が多かったが、秩父鉄道は鉄道が先に開業し、後から貨物の需要が生まれた点で特異である。
ジャスダック上場の意外性

秩父鉄道の鉱石輸送列車(画像:秩父鉄道)
秩父鉄道の筆頭株主は、秩父セメントの流れを汲む太平洋セメントである。ただし、公式サイトによると保有比率は33.52%で、大株主ではあるものの100%子会社ではない。
注目すべきは、秩父鉄道が上場企業である点だ。大手私鉄や都市近郊の中堅私鉄を除けば、上場している鉄道会社は珍しい。かつては伊豆急行や箱根登山鉄道、伊豆箱根鉄道なども上場していたが、現在は完全子会社化や上場廃止などで姿を消している。2026年1月時点で、大手私鉄や都市近郊の中堅私鉄を除けば、上場している鉄道会社は秩父鉄道、富士急行、広島電鉄のみだ。
秩父鉄道が上場している株式市場は、かつての東証二部とジャスダックスタンダードを統合した
「東証スタンダード」
である。2022年の東証スタンダード発足以前は、鉄道会社として唯一ジャスダックスタンダードに上場していた。ジャスダックは新興企業向けの市場という印象が強い。
一方、筆頭株主の太平洋セメントは東証プライム上場で、2025年3月期の連結売上高は8000億円超と、セメント業界最大手である。
秩父鉄道は、こうした安定した大株主のバックボーンを持ち、創業から100年以上の歴史を持つ企業でありながら、鉄道という伝統的事業でありつつ、新興企業向け市場に上場していたという点で独自性がある。
新たな収益鉱脈の発掘

アウトレットモールの最寄り駅となるふかや花園駅(画像:写真AC)秩父鉄道、観光と貨物の両立
秩父鉄道の2025年3月期の営業収益は52億7600万円、営業利益は3億400万円だった。鉄道事業単体の営業収益は34億2600万円、営業利益は1700万円である。貨物部門は輸送量の減少で収入が落ち込んだ。
一方、旅客部門では運賃改定に加え、体験型イベントの開催や夜行貸切列車の運行、各種記念乗車券の販売などの営業施策が奏功し、定期・定期外の旅客ともに増収となった。鉄道部門は前期の1億4300万円の赤字から黒字に転じている。
その他の事業も黒字で、駐車場などの不動産業が3億7300万円、長瀞ラインくだりや宝登山ロープウェイなどの観光業が4億9400万円、コンビニや駅売店などの卸売・小売業が6億2500万円の営業収益を上げた。
課題は、収益の約4割を占める貨物部門が
「中長期的に減少傾向」
にある点で、今後も増収は容易ではない。現状は旅客部門の増収策やその他の付帯事業の収益でカバーして黒字を維持しているが、さらなる収益拡大策が求められる。
貨物や観光以外では、沿線で新たな収益源の兆しも見えている。秩父本線では2017年にソシオ流通センター駅、2018年にふかや花園駅が開業した。ソシオ流通センター駅は熊谷流通センター至近に位置し、2025年には県北エリア最大級の大規模展示場がオープンし、新たな需要が期待される。ふかや花園駅は、2022年開業のアウトレットモール最寄駅として先行開業した駅で、沿線広域からの需要を掘り起こした形だ。
長い歴史を持つ秩父鉄道の実力が本格的に発揮されるのは、これからだろう。