富裕層の確定申告書を作成していると「寄付金の領収書」が大量に出てくる本当の理由【富裕層専門税理士が解説】

富裕層の大きな関心は「資産防衛」, 富裕層に多い、母校への「恩返しの寄付」の実績, 寄付は、富裕層にとって自己の価値観に基づいた投資, 寄付を通じて「社会的な豊かさ」に貢献

(※写真はイメージです/PIXTA)

富裕層の最大の関心事は「資産防衛」です。税務対策やリスク管理、専門家への適切な投資など、資産を守るための支出を徹底する一方で、母校や教育機関、社会貢献活動への寄付など、「自分の価値観」に基づく支出にも積極的です。なぜ富裕層は、目先の合理性を超えた支出に前向きなのでしょうか。本記事では、富裕層専門税理士の森田貴子氏による著書『富裕層の領収書1000万枚見てきた税理士が教える 億万長者になるお金の使い方』(SBクリエイティブ)から、富裕層のお金の使い方に共通する考えを解説します。

富裕層の大きな関心は「資産防衛」

富裕層の一番の関心事は「資産を保全・運用すること」です。

資産を守りながら運用していくためには、税金やお金の仕組みを「なんとなく理解したつもり」で済ませるわけにはいきません。合法的に節税を行い、正しく納税し、将来に備えてリスクを管理する──こうした「資産を守るための支出」は、富裕層にとって欠かせないテーマです。とはいえ、それが自然にできているわけではありません。むしろ、意識して備えていなければ、あっという間に足をすくわれるのが、資産防衛の世界です。

世界情勢や景気の変動、税務調査、制度変更、思わぬ訴訟……。一定以上の資産を持っているからこそ、「守る努力」を怠れば、一気に信頼も資産も失いかねないことを、彼らはよく知っています。

・信頼できる専門家を見つけること、そして適切な額の報酬を支払うこと。

・制度や税制の変化にアンテナを張っておくこと。

・柔軟な資金構成を整え、万一に備えること。

これらはすべて、表には見えないけれどリスクをコントロールする戦略的な支出です。

資産を「持ち続けること」そのものが努力といえます。資産防衛は、富裕層の支出哲学におけるもうひとつの重要な側面なのです。

富裕層に多い、母校への「恩返しの寄付」の実績

富裕層の確定申告書を作成していると、毎年多くの寄付金の領収書が出てきます。

日本の税制には「寄付金控除」という仕組みがあり、一定の条件を満たした寄付については、確定申告によって税金の負担を軽くすることができます。

寄付先を見てみると、被災地への義援金もあれば、公益財団法人日本ユニセフ協会や日本赤十字社、国や地方公共団体、学校法人への寄付などさまざまです。日本で寄付金控除の対象となる寄付先は限られていますが、富裕層のなかには寄付金控除の対象外である海外の母校(大学や大学院)への寄付を行う人もいます。

「控除がなくても、自分が学んだ場所やお世話になった教授の研究を支援したい」「母校への感謝の気持ちを表したい」と話してくださる方もいます。富裕層にとって、寄付という行為には税制上のメリットを超えたつながりや特別な想いが込められているようです。

寄付は、富裕層にとって自己の価値観に基づいた投資

お金を通じた社会貢献は、個人の寄付だけに限ったことではありません。本当のお金持ちは「自己の価値観に基づいた投資や支出を行うことが多い」と感じます。特に、経験や知識の共有、次世代の育成、地域から世界まで幅広い貢献に強い関心があります。

下記の表のように富裕層が出資者である財団が国内外に存在します。たとえば、ファーストリテイリング創業者・柳井正氏が設立した公益財団法人柳井正財団は、経済事情などにかかわらず、有望な人材が世界トップレベルの教育機会を得られるよう支援しています。その一環として、2017年より、アメリカとイギリスの大学に進学する学生に68億円もの給付型奨学金を支給しており、2024年9月までに、実に272人の奨学生を送り出してきました。

ソフトバンクグループ創業者の孫正義氏が創設した公益財団法人孫正義育英財団は、テクノロジーの研究開発費用や、起業や社会活動に関わる準備費用、留学や進学費用を支援しています。

富裕層の大きな関心は「資産防衛」, 富裕層に多い、母校への「恩返しの寄付」の実績, 寄付は、富裕層にとって自己の価値観に基づいた投資, 寄付を通じて「社会的な豊かさ」に貢献

[図表1]財団例1 出典:『億万長者になるお金の使い方 富裕層の領収書1000万枚見てきた税理士が教える』(SBクリエイティブ) [図表2]財団例2 出典:『億万長者になるお金の使い方 富裕層の領収書1000万枚見てきた税理士が教える』(SBクリエイティブ) [図表3]財団例3 出典:『億万長者になるお金の使い方 富裕層の領収書1000万枚見てきた税理士が教える』(SBクリエイティブ)

寄付を通じて「社会的な豊かさ」に貢献

2018年、アメリカの調査会社「Wealth-X」が、3000万米ドル以上の資産を持つ超富裕層を対象に、「世界の超富裕層の趣味・関心事」をまとめています。「ビジネス」に次いで2番目に大きな関心事に挙がったのは「慈善活動」や「社会奉仕」でした。多くの富裕層が、自身の資産を社会貢献に役立てたいという強い意志を持っていることがわかります。

富裕層の大きな関心は「資産防衛」, 富裕層に多い、母校への「恩返しの寄付」の実績, 寄付は、富裕層にとって自己の価値観に基づいた投資, 寄付を通じて「社会的な豊かさ」に貢献

[図表4]世界の超富裕層の趣味・関心事 出典:Wealth-X

一方、欧米で寄付文化が根づいている背景には、宗教的伝統に加えて、税制上の優遇措置が大きく作用しています。そのため、寄付は社会貢献でもあり、経済的にも合理的な選択なのです。

しかし、それだけではありません。2010年、ビル・ゲイツやウォーレン・バフェットが提唱した「The Giving Pledge」(自分の財産の大半を生前または遺言で慈善活動に寄付することを公約するよう呼びかけるもの)に象徴されるように、富裕層の多くは物質的な豊かさだけでなく、「精神的・社会的な豊かさ」を追求する姿勢を持っています。だからこそ寄付は単なる経済的支援にとどまりません。合理性を超えて「どんな未来をつくりたいか」を形にする手段が富裕層にとっての寄付なのです。

一方、日本では、ふるさと納税やクラウドファンディング、災害時の募金などを通じて、着実に「自分の意思でお金を使う」動きが広がりつつあります。ただ、世界寄付指数において常に下位にとどまっています。

富裕層の大きな関心は「資産防衛」, 富裕層に多い、母校への「恩返しの寄付」の実績, 寄付は、富裕層にとって自己の価値観に基づいた投資, 寄付を通じて「社会的な豊かさ」に貢献

[図表5]日本における寄付割合と世界平均の差 出典:Charities Aid Foundation「World Giving Report」2025

大切なのは、節税や返礼品のためではなく「その先に誰がいるか」を想像することです。

地域のお祭りへの協賛、図書館への本の寄贈など、身近なところから始められる社会貢献はたくさんあります。支援が「見える形」で生きる場所は私たちの生活のすぐそばにあるのです。富裕層の寄付が社会を支えるのと同じように、私たち一人ひとりの支出もまた「社会的な豊かさ」を育てる力になるのです。

森田 貴子

株式会社ユナイテッド・パートナーズ会計事務所

パートナー・税理士

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