クレハ【4023】株主還元の大幅強化で株価1年で6割高、増配2.5倍へ 今後どうなる? 実は厳しい事業環境、成長戦略に迫る

クレハ【4023】株主還元の大幅強化で株価1年で6割高、増配2.5倍へ 今後どうなる? 実は厳しい事業環境、成長戦略に迫る
25年から上昇トレンド
クレハの株価が停滞を抜け出しています。2023年以降は2800円前後で横ばいの推移が続き、25年4月のトランプ関税ショックでは2375円の安値を付けました。しかし、その後は顕著に右肩上がりとなっており、同年8月にはそれまでの上場来高値(3640円、22年6月)を3年ぶりに更新します。
高値を更新してからも上昇は続き、現在は4570円での取引です。1年間の上昇率は58.2%と、日経平均株価(同45.3%)を上回るパフォーマンスを残しています(26年2月9日終値)。
【クレハの株価チャート(過去5年間)】
・株価:4570円(26年2月9日終値)

出所:TradingView
株価は上昇していますが、配当利回りは高水準です。今期(26年3月期)は1株あたり219円の配当を予想しており、足元で配当利回りは4%台後半となっています。
【クレハの予想配当利回り(26年3月期)】
・予想配当金:219円
・予想配当利回り:4.79%
出所:クレハ 決算短信
投資家はなぜクレハを買っているのでしょうか。株価が上がった背景に迫りましょう。また、課題感のある業績もあわせて解説します。
株主還元が株価を下支え、DOE導入と自社株買いが好感
足元で株価を押し上げている主因は株主還元の強化です。クレハは25年5月、配当方針の引き上げと大型の自社株買いを発表しました。
配当方針は従来、配当性向で30%以上が基準でした。これをDOE(株主資本配当率)へと変更し、27年3月期までの2年間はDOEで5%を目指すとしています。今期(26年3月期)は前期比2.5倍の大幅な増配となる見通しです。

出所:クレハ 決算短信より著者作成
同時に公表した自社株買いは最大150億円を取得するものでした。これは自己株式を除く発行済み株式の11.26%に相当する規模です。クレハは24年5月、今期までの3年間で400億円の自社株買いを実施すると表明し、これまで250億円を取得していました。今回の発表は従来の計画に沿った内容です。
投資家はこの決定を好感しました。公表の翌営業日は株価が一時18.4%高と急騰します。
なお、自社株買いは6月に最大150億円から最大350億円(自己株式を除く発行済み株式の20.66%)へ引き上げられました。ただし、株価はこの発表の翌営業日に9.7%安と急落します。自己株式の取得が市場外へ変更され、市場内での需給は想定より弱まるとの思惑が働いたと考えられます。
もっとも、自社株買いの変更に伴う下落は短期に収束しました。株価は、冒頭のとおり現在まで上昇しています。
結局、自社株買いは変更前の方針で49億円を、変更後は341億円を取得し、計390億円となりました。従来の3年間で400億円を取得する計画は、640億円に大きく上振れた格好です。配当金の引き上げと合わせ、株主還元は大幅に強化されることとなり、投資家の買いを誘ったと考えられます。
業績は苦戦、2期連続の減収減益 電池材と掘削材のテコ入れ急務
株主還元の強化で足元の株価は好調な一方、業績には課題感があります。クレハは25年3月期まで2期連続の減収減益となりました。
苦戦の中心地は機能製品事業です。産業向けの領域で、リチウムイオン電池材料のPVDF(フッ化ビニリデン樹脂)や、シェールオイル・ガス掘削用の素材となるPGA(ポリグリコール酸)などが主力製品です。
PVDFとPGAは25年3月期に赤字となりました。PVDFはEV市場の停滞で需要が低迷したほか、PGAはガス市況の悪化に伴う販売減が痛手となり、機能製品事業の全体でも赤字に転落します。また「NEWクレラップ」といった主力の家庭用製品(樹脂製品事業)も減益の傾向となっており、けん引役が不在という状況でした。

出所:クレハ 決算短信より著者作成
【セグメント情報(25年3月期)】

※機能製品…機能製品事業、化学製品…化学製品事業、樹脂製品…樹脂製品事業、建設関連…建設関連事業、その他関連…その他関連事業
※PPS…ポリフェニレンサルファイド、PVDF…フッ化ビニリデン樹脂、PGA…ポリグリコール酸
出所:クレハ 決算短信
上述の流れから、25年3月期までの2年間は厳しい環境でした。特に24年3月期は中国におけるPVDF設備の増強中止や、業務用食品包装の熱収縮多層フィルム事業からの撤退などを判断しており、構造改革費も利益を圧迫しました。とはいえ、一時的な要因を除いても減益は大きな水準です。

出所:クレハ 決算短信より著者作成
株主還元の強化で資本は大きく引き締まることが予想されます。あとは利益の成長にも期待したいところです。
今期は増収増益も中計は未達の予想 成長戦略は?
先述のとおり、これまでの業績は厳しい状況でした。では、今後の見通しはどうでしょうか。計画を確認しましょう。
今期(26年3月期)は3年ぶりに増収増益の予想です。PVDFは主力の車載向けで鈍化を見込む一方、蓄電池向けは米国を中心に需要が伸びる見込みであるほか、前期に計上した在庫評価損のはく落影響から増益を計画します。
一方、PGAは赤字が継続する予想です。顧客のガス在庫の消化から需要は回復を見込むほか、手薄だった低温・超低温グレード製品の拡販に取り組むものの、黒字化には至らない計画です。ただし、収益は改善する見込みであり、全体の営業増益予想の一因となっています。
2月に公表した第3四半期の決算は順調でした。営業利益は前年同期比27.5%増と好調で、通期予想に対する進捗率は95.3%に達しました。ただし、事業環境や為替といった不確定要因から通期の見通しは据え置いています。
【クレハの業績予想(26年3月期)】
・売上高:1650億円(+1.8%)
・営業利益:140億円(+48.5%)
・純利益:100億円(+28.2%)
※()は前期比
※同第3四半期時点における同社の予想
出所:クレハ 決算短信
なお、上記の予想は従来の計画からは下振れています。24年5月に策定した中期経営計画では、今期の営業利益は200億円の設定でした。PVDFやPGAを中心に、策定時から環境が大きく悪化した様子がうかがえます。成長のカギは、PVDFとPGAが握っているといえそうです。
【営業利益の予想】

※機能製品…機能製品事業、化学製品…化学製品事業、樹脂製品…樹脂製品事業、建設関連…建設関連事業、その他関連…その他関連事業
出所:クレハ 決算説明会資料および中期経営計画
PVDFは今後、蓄電池に注力し成長を目指します。蓄電池はデータセンター向けに米国で市場が成長しており、当面は好調が続く想定です。クレハは生産能力を増強して拡販に努め、来期27年3月期以降の成長ドライバーとしたい考えです。
PGAも27年3月期は一定の回復を見込んでいます。中高温の鉱区は市況との連動性が高いとしつつも、ガスやオイルの生産量は堅調な見立てであり、需要は堅調としています。また、新しく投下した低温グレードの貢献も見込んでおり、売り上げは改善する見通しです。
クレハは収益性をどこまで高めていけるのでしょうか。成長フェーズへの復帰に期待がかかります。中期経営計画では、31年3月期に営業利益で350億円以上を目標としています。
若山 卓也/金融ライター
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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