「トヨタ、ホンダも他人事ではない?」 ヒョンデ「北米100万台突破」でも純利益1兆円減――売れるほど利益率が削られる根本理由
関税の津波に飲まれた好調
韓国の現代自動車(ヒョンデ)が発表した2025年通期決算は、世界中の関係者に大きな衝撃を与えた。2025年の売上高は186兆ウォン(約20兆円)を超え、前年比で6.3%増という過去最高の数字を記録している。北米市場での年間販売台数も初めて100万台の大台を突破しており、製品そのものの競争力は絶好調といえる。しかし、その優れた業績の裏側で、純利益は約71億ドル(1兆1050億円)、率にして約21.7%という大幅な減少に陥った。
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グローバル市場、特に北米においてヒョンデがブランドとしての地位を固め、多くの消費者に支持されている事実に疑いの余地はない。今回の決算で見られた最大の問題は、本業の販売が非常に好調であったにもかかわらず、手元に残る利益が大幅に削り取られたという矛盾した現象だ。
その背景には、2025年4月に米国が発動した「対米関税25%」措置がある。この措置は同年11月に15%へ引き下げられたものの、通年での影響は深刻だった。関税の支払いによる直接的な負担だけで、約4.1兆ウォンもの巨額な資金が失われた計算になる。
これまで輸出を増やして利益を積み上げる手法で成長してきたが、国境を越える際にかかる費用が利益を打ち消してしまうという、極めて厳しい状況に直面している。市場での販売規模を拡大すればするほど、政治的な判断によって発生するコストも膨らんでいく構造になっており、効率を追求した従来の輸出モデルが、保護主義的な政策の前では通用しなくなっている現状がはっきりと示された――。
第4四半期の二重苦

HYUNDAI SANTA CRUZ(画像:現代自動車)
関税の影響がもっとも強く出たのは2025年の第4四半期だった。この時期の営業利益は1.7兆ウォンとなり、前年の同じ時期と比べて39.9%減という大幅な急落を記録した。これは事前の予想を大きく下回る結果となり、投資家たちに強い衝撃を与えている。
この利益減少の仕組みを詳しく見ると、関税の支払いそのものに加えて、それに対応しようとして発生した別の損失が経営を圧迫していることがわかる。関税によって車の価格が上がり、他社との競争に負けてしまうのを防ぐため、ヒョンデは販売奨励金と呼ばれる値引きのための資金を大幅に積み増した。
関税の支払いによるコストの増加と、値引きによる利益の低下。このふたつの負担が同時にのしかかったことで、利益率はかつてない勢いで悪化した。在庫を減らすために無理をして安売りを行う状況は、これまで築いてきた高い収益性を失うことを意味している。
さらに、こうした値引きによる無理な販売は、中古車市場での価値を下げることにもつながる。一度価格を下げて売る流れができると、後から利益を元に戻すことは難しくなる。目の前の販売台数を維持するために選んだ値引きという手法が、結果として会社全体の利益を生み出す力を根底から削り取ってしまったのだ。
北米100万台の光と影

HYUNDAI KONA HYBRID(画像:現代自動車)
ヒョンデの現状は、成功とリスクが複雑に絡み合っている。よい面に目を向ければ、米国市場での年間販売台数が初めて100万台を突破した事実は称賛に値する。特に、ハイブリッド車(HV)を中心とした電動車販売は前年比27%増と大きく伸びた。電気自動車(EV)の普及スピードが落ちるなかで、多くの人が使いやすいHVを充実させて需要をしっかり取り込んだ製品の展開は成功している。商品を作る力やブランドの価値は、間違いなく過去最高レベルにある。
しかし、その成功が大きければ大きいほど、影の部分も濃くなる。よい車を作り、たくさん売れば勝てるというこれまでの常識が、もはや通用しない時代になった。どれほど魅力的なヒット商品を生み出しても、政治の判断ひとつで、その利益は一瞬でなくなってしまうからだ。今回の決算は、輸出に頼るビジネスの形が、政治の動きに対して非常にもろいことをはっきりと示した。
さらに、効率よく売れる車を大量に供給できる高い実力があるからこそ、現地の雇用を脅かす外敵として政治的な攻撃を受けやすくなる側面もある。市場での強さが、かえって厳しい関税を引き出す理由になってしまうという皮肉な状況が生まれている。商品の魅力が上がるほど、政治的な交渉の材料として扱われやすくなるという難しい現実に直面している。
2026年の逆襲シナリオ

HYUNDAI IONIQ 5 N(画像:Hyundai Mobility Japan)
ヒョンデはこの苦境をどう乗り越えようとしているのか。2026年に向けた戦略の柱は、関税を避けるために現地で作り現地で売る体制へ急いで移ることだ。これまでの輸出に頼った形を改めて、米国での生産を加速させている。特に、ジョージア州の新工場であるHMGMAをはじめとする北米工場の稼働率を高めることが、2026年以降の利益を戻すために欠かせない要素となる。
さらに注目したいのは、利益が減っているなかでも、次世代技術への巨額の投資を続けている姿勢だ。ヒョンデはAIや自動運転技術に17.8兆ウォンもの資金を投じる計画を立てている。これは、車という機械を売るだけでなく、ソフトやAIが生み出す価値で稼ぐビジネスへの転換を目指しているからだ。
こうしたデジタル技術によるサービスは、物理的な国境を越えて物を受け渡す必要がないため、高い関税の影響を回避できるという利点がある。車をデジタル技術の土台へと変えていくことで、政治の動きに左右されにくい新しい稼ぎ方を手に入れようとする、生き残りをかけた長期的な戦略がうかがえる。
これまでの形のある車という製品に頼りすぎた利益の仕組みを変え、新しい時代の競争に備えようとしているのだ。
日本メーカーへの警告

HYUNDAI PALISADE(画像:現代自動車)
ヒョンデが直面したこの厳しい状況は、決して日本の自動車メーカーにとって無関係な話ではない。トヨタやホンダのように、米国への輸出が多い日本のメーカーにとっても、自国の産業を守ろうとする政策が生み出す
「売れても利益が出ない」
という事態は、明日は自分たちの身に起こるかもしれない重大な問題だ。
2026年は、コストを削ったり魅力的な新車を開発したりする努力だけでは生き残ることができない。関税のリスクや政治の変動をあらかじめ計算に入れた、強い供給体制を整えることが経営の最優先事項になる。政治的な交渉と現地での生産のバランスをどう取るかが問われている。ヒョンデが失った71億ドルという巨額の利益は、製造業をめぐる世界的なルールがすっかり変わってしまったことを知らせる“警報”だ。
特に日本企業は、メキシコの拠点から米国へ輸出する仕組みを長年活用してきたが、今後はこのルートも米国の政策によって厳しい制限を受けるリスクがある。これまで低コストで効率的だと考えてきた供給網が、ある日突然、利益を奪い去る要因に変わってしまう可能性も否定できない。
これからの時代は、性能のよい車を作る力と同じくらい、複雑な政治の動きを読み解きながら、関税の影響を受けないような生産体制を整える力が欠かせないものとなっていくだろう。
製造業の転換点

記録的売上と利益激減の決算分析。
ヒョンデが今回の決算で見せた186兆ウォンの売上高と、71億ドルの純利益減という極端な数字は、これからの製造業が進むべき道の険しさを物語っている。これまでは、優れた製品を効率よく作り、世界中に届けることが成長への近道だった。しかし、関税だけで4.1兆ウォンもの負担が生じる今の米国市場では、販売を伸ばせば伸ばすほど利益が失われるという矛盾が起きている。
これからの時代を生き残るためには、形のある車を売るだけのビジネスから脱却しなければならない。ヒョンデがAIや自動運転技術に17.8兆ウォンを投じているのは、国境の壁に左右されないデジタルな価値で収益を上げるための挑戦でもある。物理的な製品の輸出に頼りすぎている現状を変えなければ、どんなに性能のよい車を作っても、政治の一振りで努力が水の泡になってしまう。
トヨタやホンダを含む日本のメーカーにとって、ヒョンデの苦境はまさに自分たちの将来の姿を示している。これまで当たり前だと思ってきた供給の仕組みが、ある日突然、大きなリスクに変わる可能性がある。2026年は、技術の開発と同じくらい、世界の情勢を読み解きながら生産の場所や稼ぎ方を柔軟に変えていく判断力が求められる一年になるだろう。