「EVの充電は後回しでいい」 電力不足が迫る日本、巨大データセンター優先でクルマは社会の“手足”として扱われるのか

データセンターとEVの電力争奪

 2026年2月24日、世界の市場調査リポートを提供するレポートオーシャン(東京都中央区、本社米国イリノイ州)が発表した、日本データセンター市場に関する最新調査(対象:エンタープライズIT担当者、データセンター運営事業者、クラウド・ネットワーク関連のインフラ担当者550人)は、日本の産業の重心がゆっくりと移りつつあることを示している。今後5~10年の市場見通しについて「非常に前向き」「やや前向き」と答えた人は64%に達し、否定的な見方は13%にとどまった。

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 成長を後押しする要因として挙がったのは、デジタルデバイスによるデータ量の増加が26%、企業のクラウド導入が24%、AIの利用拡大が21%、5Gの普及が18%、政府の施策が11%である。データ増加が設備容量に「大きい影響」を与えるとの回答も67%にのぼった。数字だけ見れば、拡大の方向は揺らいでいない。

 注目すべきは投資の中身だ。費用負担が最も大きい項目として、サーバーが28%を占めるのは理解できる。しかし、それに並ぶ形で電力関連設備が26%を占めている。主役は計算能力だけではない。電気をどう確保し、どう送り続けるかが同じ重みを持ち始めている。

 拡張の壁として挙がったのは、エネルギー消費や環境負荷が29%、高額な投資・運用費が24%、電力供給や送電網の制約が21%だった。環境配慮を「重要」と考える人は71%に達する。一方、拡大と環境保全を両立できると「自信がある」と答えたのは55%にとどまった。16ポイントの開きは小さくない。前向きな期待の裏側で、足元の基盤に対する不安も確かに広がっている。

 なお、調査質問および回答結果は以下のとおりである。

Q1:今後5~10年における日本データセンター市場の見通しをどのように評価しますか。

・非常に前向き/やや前向き:64%

・横ばい:23%

・やや否定的/否定的:13%

Q2:日本におけるデータセンター需要の拡大に最も寄与している要因は何ですか。

・デジタルデバイスによるデータ量の増加:26%

・企業のクラウド導入:24%

・AI・高度分析ワークロード:21%

・5G・高速通信網の拡大:18%

・政府のデジタル施策:11%

Q3:スマートフォン、IoT、AIデバイスによるデータ増加は、データセンターの容量要件にどの程度影響していますか。

・非常に大きい/大きい:67%

・ある程度影響がある:22%

・あまり影響しない/影響しない:11%

Q4:現在、最も投資負担が大きいデータセンターインフラ要素はどれですか。

・サーバー:28%

・電力・電気インフラ(UPS、発電機):26%

・冷却・熱管理システム:18%

・ネットワーク機器:16%

・ストレージ:12%

Q5:日本におけるデータセンター拡張の最大の課題は何ですか。

・エネルギー消費・環境負荷:29%

・高額な設備投資・運用コスト:24%

・電力供給・送電網の制約:21%

・用地確保・立地条件:15%

・規制・コンプライアンス対応:11%

Q6:新規データセンター計画において、持続可能性や省エネルギーはどの程度重要ですか。

・非常に重要/重要:71%

・ある程度重要:19%

・あまり重要でない/重要でない:10%

Q7:今後、日本で最も成長が期待されるデータセンターのタイプはどれですか。

・クラウドデータセンター:30%

・コロケーションデータセンター:26%

・エンタープライズデータセンター:18%

・マネージドサービス型:16%

・ハイブリッド型:10%

Q8:新規導入において最も選好されるティアタイプはどれですか。

・ティア3:44%

・ティア4:22%

・ティア2:18%

・ティア1:9%

・わからない:7%

Q9:日本におけるデータセンター需要を最も牽引しているエンドユーザー分野はどれですか。

・銀行・金融・保険(BFSI):32%

・情報通信技術(ICT):24%

・電子商取引:18%

・メディア・エンターテインメント:14%

・政府・公共機関:12%

Q10:今後10年間で、日本のデータセンター産業が拡張と持続可能性を両立できると考えますか。

・非常に自信がある/ある程度自信がある:55%

・どちらとも言えない:26%

・あまり自信がない/自信がない:19%

同じ資源の奪い合い

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データセンターのイメージ(画像:写真AC)

 日本は現在、電気自動車(EV)を普及させるために、充電器の整備や電池工場の建設、補助金の提供などを進めている。しかし、これらはすべて電力が十分にあることが前提だ。データセンターとEVには共通点がある。どちらも大きな電力を安定して必要とし、使用場所が特定の地域に集中しやすく、止まることが許されない点である。

 データセンターを運営する側では、電力関連設備の費用が全体の26%を占める。加えて、解決すべき課題として、エネルギー問題が29%、送電網の不足が21%と挙げられている。これらは、電力を運ぶ枠組みがすでに限界に近いことを示す。

 かつては、広い土地さえあれば工場を建てられた。しかし今は、送電網に余裕がなければ、どれほど優れたクルマを作っても、それを動かす力は手に入らない。土地の価値だけでは不十分なのだ。

 人工知能を動かすデータセンターは、24時間休むことなく電力を消費する。一方、EVの急速充電は短時間で莫大な電力を必要とする。同じ時間、同じ場所で電力を奪い合えば、強者と弱者の差が生まれる。常に動かす必要があるデータセンターが優先され、移動が可能なEVは電力不足時に充電を止められる不安定な立場に置かれる恐れがある。

 これまで自動車メーカーの競争相手は技術やブランド力だった。しかし、クルマが電気で動く時代では、勝負の基準は変わる。どれだけ電力を優先的に回してもらえるか、電力設備が整った場所を確保できるかが、新たな競争力になる。これは自動車メーカーだけで決められる問題ではない。

 同調査によれば、データセンターを最も活用しているのは、銀行や保険などの金融分野が32%、ITや通信分野が24%である。これらは社会の基盤を支える分野であり、一瞬でも止まれば国全体が混乱する。電力不足が起きた際、どちらを優先すべきかとなれば、個人の移動より社会の基盤が優先されるのは避けられない。

持続可能性71%の裏側

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データセンターのイメージ(画像:写真AC)

 環境への配慮を重要だと考える人は71%にのぼる。しかし、事業の規模拡大と環境保護を両立できると自信を持つ人は55%にとどまる。冒頭のとおり、この16ポイントの差は、理想と現実が大きくかけ離れていることを示す。

 誰もが地球に優しい仕組みを求める一方、その実現は容易ではない。太陽光や風力といった自然の力による発電は、天候によって送電量が大きく変動する。対して、人工知能を動かすデータセンターは44%が「ティア3」、22%が「ティア4」と呼ばれる高い安定性を必要とし、一瞬の停電も許されない。

 不安定な自然電力を無理に安定させるには、予備電源の確保などで莫大な費用がかかる。その結果、クリーンな電力は、高い費用を支払える限られた組織だけが利用できる特別な資源になっていくだろう。

 EVも、環境に優しいという価値を維持するには、この高価な電力を確保し続ける必要がある。環境重視の71%という数字の裏には、限られたクリーン電力をめぐる厳しい競争が隠されている。

産業間調整という課題

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データセンターのイメージ(画像:写真AC)

 本稿が伝えたいのは、電力不足そのものではない。重要なのは、限られた電力をいつ、誰が、どう使うかを調整することだ。具体的には、利用時間をずらす、送電設備を強化するといった対応を、各業界がバラバラに行うのではなく、連携して進める必要がある。

 これまでのクルマは、道さえあれば自由に走れた。しかし今後は、エネルギーの仕組みと切り離して考えることはできない。EVが普及することは環境にとって望ましいが、電力が不足して価格が跳ね上がれば、人々の生活は圧迫され、クルマの魅力も薄れてしまう。

 今回の調査で「エネルギー問題(29%)」や「送電網の限界(21%)」が大きな課題として浮き彫りになったように、このままでは両業界とも立ち行かなくなる。成長を続けるデータセンターも、電力不足の壁にぶつかれば進展は止まる。どちらの業界も、自分たちだけの都合で活動することはできない。限られた電力を社会全体でどう分け合うか。その仕組みの中で、クルマをどう位置づけるかを真剣に考える必要がある。

末梢組織としての車

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日本データセンター市場の成長と電力制約。

 前述のとおり、データセンター市場の先行きに明るさを感じている人は64%にのぼる。一方、地球環境の保護を重視する人は71%に達した。しかし、29%が最大の壁としてエネルギー問題を挙げている。この数字は、私たちに向けられた明確な警告である。

 EVの普及は、もはやクルマだけの問題ではない。限られた国の電力をどの産業にどれだけ配分するかという、大きな国家判断に直結している。デジタル化とクルマの電動化を同時に進めるには、個別の業界を助けるだけでは足りない。電力という共通の資源を土台に、社会全体のあり方を見直す必要がある。

 問題は、電力が足りないことではない。足りなくなることが予測されるのに、現行の仕組みを放置していることが本質的な問題だ。クルマはもはや単独で存在するものではなく、巨大なデータセンターを「頭脳」とする際の「手足」のような末梢組織になりつつある。限られた電力を奪い合う状況で、クルマが価値を認められ続けるためには、社会全体の流れの中でその役割を改めて見つめ直す必要があるのだ。