中国企業、貿易戦争の「痛み」もはや隠せず
中国は、国家として長期的な関税戦争の痛みに耐える力が米国よりも優れていると示唆してきた。だがここにきて、亀裂が徐々に表れている。その痛みはすでに中国経済全体に深く根を下ろし始めたようだ。
太平洋を挟んだ貿易の衰退が生産停止につながり、何百万人もの中国人の雇用安定を脅かしている。中国経済が貿易戦争によって被る大きなダメージの兆候が4月30日に初めて示された。中国国家統計局が発表した4月の製造業購買担当者指数(PMI)は、新規輸出受注が落ち込み、1年超ぶりの低水準だった。
中国当局者は苦境を示すいかなる証拠も軽視する一方で、今年の経済成長目標5%前後は達成されるとの自信を繰り返し表明している。
だがここ数週間、多くの中国企業が生き残りに苦しんでいる事例が増えている。米国市場の売り上げに依存する企業は、おもちゃ・家具・Tシャツを生産するメーカーから、金属生産者、家電や建設機械を手がける企業に至るまで、生産を停止し、従業員を待機させている。米国製部品を調達しなければ生産できない半導体工場や自動車メーカーなどは、操業を続けようと奔走している。
一部の経営者はこの混乱を新型コロナウイルス流行下の工場閉鎖になぞらえる。だが、今回はより見通しが暗そうだと警鐘を鳴らす。
「私の知る限り、誰もが心配している」。中国南部・広東省で小さな機械工場を経営するフェン・チアン氏はこう語った。米国の顧客からの注文がキャンセルになったため、最近、従業員十数人を一時帰休させた。「終わりは見えない」という。
貿易戦争は米企業にも打撃を与え、国内でインフレ圧力と景気後退リスクを高めているが、中国の痛みはより深部に及ぶ可能性が高い。輸出主導型経済を脱却するどころか、むしろ強めてきたことが一因だ。
不動産バブル崩壊による投資と消費の低迷、財政ひっ迫、銀行への圧力といった状況下で、過去数年間の輸出急増は、中国が金融危機を回避するのに一役買った。ノムラの中国担当チーフエコノミスト、ティン・ルー氏は新たな調査報告書でそう指摘している。
不動産セクターの病弊に加え、米国が極めて高い関税を課すことで「中国経済は同時に二つの大きな下押し要因に直面することになる」とルー氏は述べている。
中国の習近平国家主席が報復関税を取り下げる気配は見えない。中国政府は最後まで戦うと繰り返しており、1950年代の朝鮮戦争で当時指導者だった毛沢東が中国を率いて米軍と戦ったのを想起させるように、長期戦に向けて国民を備えさせている。
習氏が主宰する共産党政治局員24人からなる中央政治局会議は先週、新たな景気刺激策の発動を見送り、「底線思維(ボトムライン思考)」を強化する重要性を唱えた。これは中国のシステムを最悪の事態に備えさせるために習氏が使う言葉だ。

中国の工場労働者は、貿易減少による打撃を受けやすい
「現在の習氏は毛沢東と同じメンタリティーを持つ」。中国政府の顧問を務める人物はこう語った。「習氏にとって重要なのは、大きな危機であっても自身の権力掌握を危険にさらすことがあってはならないということだ」
中国は、自国の輸出に占める米国のシェアが2018年の18%から15%前後に低下したことを示す公式データを重視している。2018年は前回の米中貿易戦争が始まった年だ。ただ、他国を迂回(うかい)した商品を含めると、中国の輸出に米国市場が占める割合は実際21%に近いと、多くのエコノミストが指摘する。
彼らは中国経済にとって対米貿易は極めて重要だとしている。中国の輸出は国内総生産(GDP)の約13%を占めるが、米国だけで中国GDPの推定約3%に相当する。
マッコーリーの中国担当チーフエコノミスト、ラリー・フー氏は、中国の輸出は今年10%減る可能性が高く、米国向けは「おおむね消滅する」との見方を示した。
アナリストらは、今年1-3月期の中国経済は公式データが示すよりも弱かった可能性が高いと述べている。
関税の最大の影響は、貿易関連の雇用のほか、製造業が抱える大勢の労働者、原材料の生産、そして貿易の流れを促進する物流や金融などのサービスにも及ぶだろう。ノムラのルー氏は、トランプ関税によって中国で1580万人もの雇用が失われると予測した。
企業経営者らはすでに痛みが広がっていると証言する。
約20年前から輸出向けの衣料品やクリスマスの装飾品を製造してきたフアン・デミン氏は、4月に中国南部にある工場の1日の勤務シフトを3交代制から2交代制に減らし、主要顧客3社が米国向けの注文をキャンセルしたため、従業員の3割を一時帰休にした。

中国東部の卸売市場で出荷の準備をする女性
「痛みは非常に大きい。関税だけでなく、予測不能な状況だからだ」とフアン氏は述べた。新規顧客を開拓するため、香港やオーストラリア、イタリアに息子2人を派遣しているが、5月には一時帰休の従業員を増やす必要があるかもしれない。
フアン氏の会社は米国市場からの多角化を目指しており、事業に占める米国の割合はコロナ前の80%から現在は60%に低下した。だが他市場は米国ほど稼げないため、それより低下させるのは難しい、と同氏は言う。
中国政府内で、雇用に対する貿易の重要性は周知の事実だ。2020年のコロナ流行の最悪期に、当時の李克強首相は輸出安定化の必要性をめぐる会議を開き、「対外貿易セクターは直接・間接を含めて1億8000万人を超える雇用を創出している」と述べた。李氏は中でも繊維やかばん、プラスチック製品などの産業に注目し、これらは全て米国が主な仕向け地であり、中国の雇用にとって特に重要だと力説した。
エコノミストは、輸出の落ち込みが経済全体に波及効果を与え、さらに大勢の雇用を危険にさらし、この先何年も抜け出せない景気後退のリスクをもたらすと警告する。

小型電子機器を組み立てる中国南部の工場
貿易が急激に干上がる兆候も出ている。世界各地で法人貨物輸送を支援するフレックスポート(本社・サンフランシスコ)によると、中国から米国に向かう貨物輸送の予約は60%減少したという。
中国政府は経済への予期せぬ影響が心配だとしても、その懸念をうまく隠している。市場急落が経済における信頼のバロメーターとなる米国とは異なり、中国指導部はそうした懸念が表に出ないよう厳しく管理し、例えば当局が機関投資家による株式売却を制限したり、政府資金を投じて市場を下支えしたりしてきた。
経済コストを軽減するため、中国はすでに発動した125%の報復関税から一部の米国製品をひそかに除外している。これは中国企業が直ちに代替地域からそれらを調達できずにいることを物語る。
華勤技術(Huaqin Technology)のディレクター、スー・マイ氏にはこの措置が大きな救いとなった。スー氏によると、納入業者が全て米国製半導体の販売を停止したため、在庫を補充し、受注を処理するのに苦慮していた。同社は、企業が半導体やその他の設備を自社システムに統合するのを支援している。
とはいえ、一部の米国製メモリーチップは依然として中国による高関税の対象だ。「関税の有無にかかわらず、注意を喚起している」とスー氏は言う。「いかにして製品やサプライチェーン(供給網)を安全で貿易戦争の影響を受けないものにするか、われわれは慎重に考えるべきだ」
一方、苦境にあえぐ企業の訴えには、雇用への影響が色濃く表れている。
従業員1800人余りを抱えるベビー用品メーカーの広東楽美達集団(Guangdong Road Mate Group)は最近、労働時間を短縮するとともに一部の労働者を帰休させると発表した。理由は「地政学や関税政策などの不可抗力の影響」だとした。同社のマネジャーは業務に米関税による悪影響が出ていることを認めた。