なぜ欧州では「9割がマニュアル車」だったのか?AT大国・日本との違いと、急速な「AT化」の理由

2000年代初頭、欧州の主要市場において、新車登録に占めるMT車の比率は約90パーセントという圧倒的な水準に達していた。
「ヨーロッパの人たちは、なぜあんなに面倒なマニュアル車に乗り続けるのか?」
筆者の住むハンガリーに訪れた友人を助手席に乗せると、決まってこの質問を投げかけられる。無理もない。現在の日本の新車市場において、オートマチックトランスミッション(AT)や無段変速機(CVT)の比率は実に98パーセントを超えている。我々日本人はすっかり「左足を休ませる」ことに慣れきってしまった。アメリカ、韓国と並ぶ世界でも稀な「AT大国」の住人であるからだ。
しかし、自動車誕生の地であるヨーロッパに降り立つと、その常識は裏切られる。自動運転技術すら実用化されようとしている現代において、彼らは「アナログな方式」をいまだに選び続けている。
日本が世界有数の「AT大国」になった理由

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日本が現在のようなAT大国になれた背景には、国土の狭さと人口密集地帯という要因がある。このストップ・アンド・ゴーを際限なく繰り返す環境下において、日本の自動車メーカーとトランスミッションメーカー(アイシンやジヤトコなど)は、渋滞路でも変速ショックがなく滑らかに走り、かつ10万キロを超えても絶対に壊れないという、世界最高水準の信頼性を持つ多段ATやCVTを早い段階で開発し、熟成させていった。
ハンガリーの街角に見る「生きたMT文化」

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一方で、ハンガリーの首都ブダペストの街角に立つと、その「生きたMT文化」のすさまじさを肌で感じることができる。
想像してみてほしい。中世から続く起伏の激しい石畳(コブルストーン)の坂道に、複雑に交差する路面電車(トラム)の軌道。そんな運転初心者にとって過酷極まりないインフラ環境のなかを、白髪の高齢女性や免許を取り立ての若者たちが、小型のルノーを駆って極めてアグレッシブに走り抜けていくのである。雨に濡れて滑りやすくなった急勾配での坂道発進でも、エンスト一つ起こさない。絶妙なアクセルワークと見事な半クラッチでトラムの横をすり抜けていくその姿には、つい目を奪われてしまう。
ハンガリーの社会においてMT車の運転は「歩行」や「自転車の操作」と同等の、完全に身体化された基礎的な生活スキルとして認識されており、特別な技術を誇示するものでは決してない。2000年代初頭、ドイツやイギリスといった欧州の主要市場において、新車登録に占めるMT車の比率は約90パーセントという圧倒的な水準に達していた。さらにイタリアやフランス、スペイン、そして筆者の住むハンガリーなどの一部の国々に至っては、その比率が95パーセントを超えていたほどである。
「ラウンドアバウトだらけ」という環境

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欧州におけるMT車の普及を語る上で、道路のつくりや交通事情の違いの構造的な違い、とりわけ「信号機がない交差点」の存在を無視することはできない。ヨーロッパの郊外や都市部をドライブすればすぐに気づくのが、交差点の大部分が信号機ではなく「ラウンドアバウト(環状交差点)」によって処理されているという事実である。
欧州のラウンドアバウトは、日本の交差点のようなストップ・アンド・ゴーの連続になることを防ぎ、交通の流れを止めずに流し続けることを目的として設置されている。ドライバーはラウンドアバウトに近づきながらシフトダウンしてエンジンブレーキを効かせ、円内を走るクルマの切れ目を見極めて半クラッチで滑らかに進入し、アクセルを踏み込んで一気にシフトアップして退出していく。この「減速・進入・加速」の一連の流れるようなリズムを構築する上で、ドライバーの意思をダイレクトに駆動輪に伝えることができるマニュアルトランスミッションは、欧州の道路環境と極めて親和性が高い。