「プラグインハイブリッド車」ブームは1年で終焉か? EVの弱点を補った「次世代電動車」が真の本命に躍り出る理由
世界の電動化動向
世界的な自動車の電動化は、これまで電気自動車(EV:バッテリーのみで走る車)とプラグインハイブリッド車(PHV:モーターとエンジンを併用し、外部充電で一定距離をモーターだけで走行できる車)を中心に進んできた。近年、EVの需要は伸び悩む一方で、PHVは急速に拡大し、2025年の世界販売台数は800万台に迫る勢いを見せた。
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前年比17%増、全体シェア8%という数字は、一見すると普及の成功を示しているように見える。しかし、この膨張は環境規制への対応を急ぐメーカーの論理が生んだ一時的な現象である可能性が高い。実際、2026年1月の世界販売は前年を下回り、市場が自律的な経済合理性に戻りつつあることを示した。
公的支援や規制の強制力が限界を迎え、製品そのものの実力が問われる局面に入ったことで、PHVもEVと同じように減速に直面している。こうした状況のなかで、EVやPHVの課題を補う
「レンジエクステンダーEV(EREV:EVを基本構造とし、バッテリー残量が減ると小型エンジンで発電し、モーター駆動をサポートする車)」
が急速に存在感を増している。本稿では、PHVに吹く逆風の正体を探り、EREVが今後の主流となり得るのかを考察する。
PHVとEREVの構造差

レンジエクステンダーEV(EREV)の簡易構造図(画像:東京電力エナジーパートナー)
PHVとEREVはいずれもモーターとエンジンを併用するが、その構造とコストの考え方は根本的に異なる。
PHVは、内燃機関とモーターを搭載したハイブリッド車(HV)を基本とする。外部充電によりモーターだけで走行できる点が特徴だ。EVは長距離を走る際に充電スポットを気にする必要があるが、PHVはバッテリーを使い切ってもエンジンで走れるため、航続距離の不安は少ない。ガソリン車の利便性とEVの環境性能を兼ね備えている。
燃費はHVとほぼ同等だが、大型バッテリーによる重量増が燃費を押し下げる面もある。それでも、事前に充電した電気で走ることで総合的な航続距離を伸ばせる利点はある。災害時には給電も可能で、ガソリンがあれば一定期間の発電を維持できる。
しかし、課題は車両価格だ。HVとの差額は100万円以上が相場で、短距離利用のユーザーには負担感が大きい。これは、エンジン走行とモーター走行の両方を高い水準で両立させる複雑な機構がコストを押し上げているためであり、ガソリン車向け部品を残したまま電動化要素を加える構造が、収益性を圧迫している。
一方、EREVはEVの構造を基盤とし、発電専用の小排気量エンジンを搭載する。バッテリー残量が減るとエンジンが発電を行い、駆動用バッテリーに電力を供給する。駆動自体はモーターだけで行われる。日産の「e-power」と駆動方式は似ているが、e-powerはバッテリーが小さく外部充電もできない点で区別される。
PHVのモーター走行距離は数十km程度だが、EREVは100km以上の走行が可能で、実用性が高い。価格もEVとの差額は数十万円程度に抑えられる。前述のとおり、EREVはEVの土台を活かし、高価な大容量バッテリーの一部を安価な発電ユニットに置き換える発想で作られており、費用対効果に優れる。既存のガソリン車技術を積み上げたPHVと、EVをベースに効率化したEREV。この開発コンセプトの差が、環境性能や市場での競争力に大きく影響している。
PHVの利用実態と課題

コンシュマーレポートによる調査結果の一部(画像:コンシュマーレポート)
PHVは、日常的に充電しなければ本来の性能を発揮できず、実態としてはHVと同じ運用にとどまる。この状況が広がった結果、排出されるCO2は当初の想定を大きく上回ることが明らかになった。
PHVは蓄えた電力で走る間は排出をゼロに抑えられるが、エンジン走行時には燃費に応じた負荷がかかる。欧州の実測データでは、充電を避けてエンジン走行や発電に頼るユーザーが多く、結果として環境負荷が増大している。
当局もこの実態を重く見て対応を急いだ。2025年に欧州で導入された規制「Euro 6e-bis」では、試験距離を800kmから2200kmへ大幅に延長し、電力走行の割合を低く見積もるよう改めた。その結果、ユーティリティファクター(UF)の算出値が実態に近づき、カタログ上のCO2排出量は従来の3倍前後に膨らんだ。
具体例では、メルセデス・ベンツ「C300e」は12~16g/kmだった数値が、現在は47~52g/kmに上昇。プジョー「3008 ALLURE Plug-in Hybrid」も19g/kmから55g/kmへ急増した。環境貢献の根拠とされてきたカタログ値が、もはや実態を反映していないことが示されている。
品質面でも課題は深刻だ。EV専門メディア「クリーンテクニカ」は、PHVの不具合がエンジン車より8割も多いと報じている。米国の消費者団体「コンシューマー・レポート」が2020~2025年に販売された38万台のデータを分析したところ、HVはエンジン車よりトラブルが15%少ないのに対し、PHVは8割増の問題を抱えていた。ふたつの異なる動力源をひとつの車体に詰め込む構造上の制約が、故障リスクとして現れている格好だ。
制度上の優遇を受けてきたPHVだが、ユーザーの行動変化をともなわない技術が本当に環境対策となり得るのか。あるいは、品質と環境性能の両立を阻む構造的な壁に直面しているのか、厳しい視線が注がれている。
米国PHV市場の変化

ステランティスのウェブサイト(画像:ステランティス)
米国市場ではPHV離れが鮮明で、複数のモデルが生産中止となり、販売現場から姿を消しつつある。2025年10月以降、米国のPHV販売は前年実績を下回り続け、2026年1月には前年比48%減と大幅に落ち込んだ。平均車両価格は前年から約1割上昇しており、需要の減退と価格高騰が重なったことで、メーカー各社はPHVを商品群から外す動きを強めている。
この動きをけん引するのはステランティスだ。この1年でジープ「グランドチェロキー/ラングラー・4xe」、クライスラー「パシフィカ」、アルファロメオ「トナーレ」、ダッジ「ホーネットR/T」など、5モデルの提供を停止した。フォードも2025年に「エスケープ」や「コルセア」のPHVを廃止し、ラインアップからPHVが消えた。起亜やボルボなど海外勢もこれに続き、PHVの販売終了を計画している。
縮小の背景には、メーカーの収益重視の戦略転換がある。PHVは、HVとEVの機能をひとつに詰め込んだ構造で、EV用の主要部品を網羅しながら、内燃機関や従来の動力伝達部品も搭載する。その上で両者を連携させる補機類も必要となる。結果としてPHVは、あらゆるパワートレインのなかで最もコストが膨らむ存在となった。
収益を圧迫する重荷を切り捨てることが、企業の生存を左右する状況だ。PHVは将来にわたって価値を維持すべき存在なのか、それとも合理化の過程で淘汰されるべき存在なのか。市場は冷徹にその答えを示しているのだ。
EREVの市場優位性

スカウトモーターズ・テラ(画像:スカウトモーターズ)
EREVはEVを基本構造としつつ、充電インフラの制約を補い、航続距離への不安を解消する。EVの弱点を実利で補える特性が、市場浸透の後押しとなっている。このためメーカー各社は、EREVへの投資を加速させている。
ステランティスは、競争力のある電動化手段としてEREVに注力する方針を示した。フォルクスワーゲングループのEVブランド、スカウト・モーターズのスコット・キーオー最高経営責任者(CEO)も、2026年1月27日のサミットで、EVよりEREVを先行して米国で発売する意向を表明した。
予約注文の8割がEREVに集中している事実は、消費者が求めているのは純粋な環境性能だけではなく、
「どこまでも走れる確信」
であることを示している。広大な土地を移動する北米市場では、高コストなPHVを避け、効率的なEREVを選ぶ流れが一段と強まる。先行市場で実証された収益性の高さが、欧米メーカーの参入を強力に後押ししているのだ。
EREVの現実的選択肢

EVイメージ(画像:Pexels)
これまでの電動化を巡る議論は、
「EVかHVか」
という二者択一の構図で語られることが多かった。だが実際には、PHVやEREVといった
「中間的な選択肢」
が市場を動かしている。そのなかでPHVは、完全な電動化までの橋渡し役として期待を集めてきた。しかし、公表された性能と実際の利用実態との間に大きな溝が生じ、存在の根拠が揺らぎ始めている。環境負荷の低減が当初の見込み通りに進まなければ、メーカーや政策当局は技術の進め方を根本から見直す必要があるだろう。
PHVに代わり、EREVは電動化を現実的に進める有力な候補となる可能性が高い。技術の優劣だけでなく、ユーザーが日常でどう使うかという実態に即した製品が市場を制するからだ。PHVの失速とEREVの台頭は、今後の勢力図を塗り替える大きな転換点になる。
しかしEREVもガソリンを使う以上、化石燃料を完全に断ち切るものではない。将来、全固体電池などの革新が進めば、EREVもまた一時的な役目に終わる可能性がある。コストと利便性のバランスを重視したEREVが普及の王道となるのか、それとも純粋なEVが覇権を握るまでの短い繋ぎに過ぎないのか――その進路を決定づけるのは、インフラの整備状況と実益を求める消費者の選択である。
電動化の消費者視点

PHV対EREVの動向比較。
2026年、電動化の波はかつてない勢いで押し寄せている。PHVブームが終わりを迎え、EREVが注目を集める今の流れは、理想と現実がぶつかり合った結果である。どれほど理屈を並べても、使う側が手間を感じ、作る側が利益を確保できなければ、その技術が生き残ることは難しい。
EREVは、現行の充電環境や車両価格の制約のなかで、効率的に動ける選択肢として浮上した。しかし、これが長期的に最善の答えとなるかはまだわからない。電池性能が飛躍的に高まり、コストが下がれば、再び純粋なEVが主役に返り咲く可能性もある。
目先の流行に流されず、自分の暮らしや社会の変化をどう見据えるかが問われている。手軽な利便性を取るか、究極の環境性能を追求するか。これからの進路を決めるのは、作り手ではなく、消費者の選択にほかならない。