「ETCなのに止まるの?」 数十億円かけても導入進まぬ「地方有料道路」、ETCXからフルETCまで火花散る転換点とは
キャッシュレス化の転換期
高速道路の自動料金収受システム(ETC)をめぐる近年の動きは、鉄道や路線バスがキャッシュレス決済を導入する際の課題と重なる部分が多い。全国の有料道路では、いまだ現金払いのみの運用が散見される。
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多くの管理主体が効率化に踏み切れないのは、システム導入にともなう初期投資が膨大だからだ。高速道路と同等の仕組みを維持するには、高価な専用機器や強固な通信網を自前で維持しなければならず、経営への負担は軽くない。
そのため、既存の仕組みを活かしながら運用負担を抑える別の決済サービスを採用する動きが目立つ。これは、維持費がかさむ交通系ICカードをやめ、外部ネットワークを使ったクレジットカードのタッチ決済に移行する公共交通機関の戦略と構造的に同じである。
自社で資産を重く抱える形から、外部の決済網に依存して負担を軽減する方向へ、インフラ運営のあり方は変化している。この背景にある論点を整理していく。
導入を阻む費用の壁

ETCGO(画像:西武・プリンスホテルズワールドワイド)
首都圏のドライバーにとって馴染み深い伊豆の有料道路では、長くETCが使えなかった。高速道路では普及が進んだが、地方の有料道路は依然として現金払いを求める。全くキャッシュレス化を進めていないわけではなく、
・ETCX(事前登録制で対応カードを通じて通行料を自動決済する仕組み)
・ETCGO(登録不要でクレジットカードタッチで通行料を支払う簡易型システム)
といった別の仕組みを導入するケースもある。しかし、これらは事前登録が必要だったり、対応カードが限られたりして、不便さが目立つ。なぜ高速道路と同じ仕組みを導入できないのか。静岡朝日テレビのウェブメディア「LOOK」が2026年2月7日に伝えた記事「伊豆縦貫道に残る2つの有料道路がいつまでたっても無料にならないワケ ETCはなぜ使えない?」に、その理由がある。
静岡県道路公社が管理する伊豆中央道と修善寺道路は、2027年3月にETCを導入する方針を固めた。2021年7月から一時停止をともなうETCXを運用してきたが、本格的な移行にようやく踏み出す。導入を阻んできたのは、
「費用面」
の問題だ。高速道路と同等の仕組みを整えるには、ETCXの10倍近い投資が必要になる。これは通信機器の設置費だけではない。ノンストップで走る車両の間を職員が安全に通り抜けるための地下通路や跨道橋の建設も不可欠で、これらを含めると導入には数十億円規模の資金が必要になる。
地方の道路管理主体にとって、これほど多額の支出は経営に大きく影響する。料金徴収期間の短い路線では、投資を回収する時間が限られる。つまり、土木工事の負担と回収期間の短さが、最新の仕組み導入の大きな障害となっていた。2027年の導入は、運営期間の見直しなどによって数十億円の投資を正当化できる見通しが立った結果である。インフラの寿命と収益性のバランスが、どの決済技術を選ぶかを決める根本的な要素となっているのだ。
規格間の競争と特性

ETCXロゴ(画像:ETCソリューションズ)
2025年7月1日、長野県と群馬県にまたがる鬼押ハイウェーの料金所に、ETCGOが導入された。当初は4月の開始を予定していたが、計画は延期され、ようやく稼働にこぎ着けた。ETCGOは道路管理者にとって、大規模な土木改修を必要としない低コストなシステムである。ETCXと比べると、利用者が事前に情報を登録する手間を省ける点が利点だ。通行時に一時停止は求められるものの、現金払いの手間を考えれば時間的な損失は小さい。
その3か月後の10月1日、静岡県道路公社の伊豆スカイラインではETCXの運用が始まった。この動きから、ETCXとETCGOが
「市場の主導権」
を巡って競り合っている状況がうかがえる。鉄道やバスの決済、タクシー配車アプリに比べると注目度は低い領域だが、実際には激しい競争が繰り広げられている。
この対立は、角界で大の里、豊昇龍、安青錦が競い合う状況に似ている。それぞれ
「明確な強みと弱みを抱えている」
からだ。ETCXは事前会員登録が必須で、知らない利用者は通過できない。一方、ETCGOは登録の手間がないが、決済網を管理する企業との利害調整が難航しており、利用可能なクレジットカードの種類が限られる。高速道路と同水準のETCは利便性が高いものの、多額の資金投入が必要になる。三者の争いは、
・利用者の負担軽減
・管理側の投資効率
のどちらを優先するかという経営判断につながる。各陣営は、有料道路での採用を目指し、それぞれの弱点を補う戦略を練っているのだ。
道路外展開の戦略

群馬サファリパークではETCXを導入(画像:ETCソリューションズ)
もしETCGOが、対応クレジットカードの少なさを解消し、ETCX並みの柔軟さを手に入れれば、競争の形は大きく変わるだろう。しかし、勝負はそれほど単純ではない。ETCXは現在、道路以外の場所での普及に力を注いでいるからだ。
2025年12月1日には、群馬サファリパークの入園ゲートでETCXが導入された。車載器を通じて入園料が自動決済される仕組みだ。道路以外の施設で広がり、多くの人が自発的に登録すれば、ETCXが共通の決済手段として定着する道筋も見えてくる。
ここで進められているのは、車載器を通行料支払いだけに使うのではなく、移動に関わる多様な支払いを担う基盤へと成長させる試みである。規格間の激しい攻防は、将来の移動社会で収益の源泉をどこが握るかをめぐる争いを映している。インフラの裏側で続くこうした競争の実態を、読者に伝えておきたい。
経営判断と移動の価値

有料道路キャッシュレス化規格比較。
有料道路のキャッシュレス化の動きは、インフラ運営が大きな転換期を迎えていることを示している。これまでのように高額な投資で完璧な環境を整える時代は過ぎ、残された運営期間や予算に応じた現実的な選択が求められる。
数十億円を投じるETC、データ活用を視野に入れたETCX、利便性を優先するETCGOという三つの選択肢は、運営者が直面する経営課題の複雑さを映し出している。
今後は、車載器が通行料の支払いにとどまらず、移動にともなう多様な決済の窓口となるだろう。群馬サファリパークのような事例が積み重なれば、特定の規格が利用者の生活圏に浸透し、それが道路側での採用を後押しする好循環を生む。
競争の結末は、効率的なインフラ維持と利用者の利便性向上をどう両立させるかにかかっている。どの規格が市場の主流となるにせよ、移動の価値を高める変化につながるはずだ。