ホルムズ海峡の緊迫化に中国が「怒り心頭」の理由…厄介な立場になったイラン・中東の上客「中国」

中国山東省青島港の原油ターミナルにて、タグボートに曳航されて横付けしている石油タンカー(2025年8月撮影)。
イラン情勢の緊迫化に伴い、国際指標となるブレント原油の先物価格が一時1バレル=115ドルを超えるなど、原油価格が高騰している。この事態を受けて、アジア各国では燃料価格の引き上げが相次いでいる。例えば石油の備蓄量が少ないことで知られるベトナムでは、首都ハノイの給油所に不安を強めた市民が行列を作っているようだ。
アジアの盟主たる中国もまた例外ではない。内閣に相当する国務院傘下の国家発展改革委員会は3月9日、翌日から国内の石油製品価格を引き上げると発表。レギュラーガソリンの場合、全国平均で1リットル当たり0.55元程度の値上げとなり、平均店頭価格は同7.5元前後。仮に50リットル給油すると27元(約630円)近い値上げとなる。
イギリスのロンドンにある国際的な調査機関・エナジーインスティテュート(EI)の推計によると、中国の原油輸入量に占める中東産原油の割合は2024年時点で57%と、中国は中東から多くの原油を輸入している(図表)。ゆえに中国は、イランがホルムズ海峡を封鎖し、湾岸諸国の産油・製油所を破壊した影響を強く受ける。

【図表】中国の原油輸入量の国別内訳(2024年)。
そして中国は、イランからも多くの原油を輸入していることで知られる。
ロシア産と同様、イラン産原油は主要国による制裁対象であるから、中国は欧米に配慮し、イラン産の原油を輸入していることを表立っては公表していない。しかし中国がイラン産原油を輸入していることは公然の秘密であり、中国もそれを声高に否定することはない。
前出のEIの推計によれば、中国はサウジアラビアとイラク、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェートを除く中東諸国からも、多くの原油を輸入している。この「その他中東」の中に、イランが含まれているようだ。多くの識者が中国が輸入する原油量の10%程度がイラン産だと指摘しているため、イラン産がその他中東の半分程度を占めているようだ。
中国を悩ませる、簡単に進まぬ「ロシア産原油」シフト

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と中国の習近平国家主席。
イラン産をはじめ、中東産原油が輸入できなくなったなら、代わりに中国はロシア産原油の輸入を増やせばいいと考えるかもしれない。しかし、言うは易く行うは難しで、ロシア産原油の輸入を増やすことはそう簡単ではない。最大の問題は、輸送能力の限界にある。基本的に、ロシアから中国への原油輸出は「ESPOパイプライン」※経由で行われる。
※ESPOパイプライン:ESPOとはEast Siberia-Pacific Oceanの略。東シベリア・太平洋石油パイプラインのこと
ただしESPOパイプラインによる輸送能力には上限があるため、原油不足の急場をしのぐことができない。
では、現実的な手段はというと、「タンカーによる輸入を増やすこと」だ。だが、そもそも、急場しのぎのタンカーを調達できるかという問題に中国は直面する。仮に調達できたとしても、ロシア産原油だけで中東産原油の不足分をカバーするには、なお不十分である。
それにロシア産原油へのシフトを強めれば、価格でロシアに足元を見られる恐れも強まる。これまでロシア産原油のプライスメイカーは、基本的に需要家である中国だった。中国がイラン産原油とロシア産原油を比較して、より安価な原油を輸入できる立場にあったためだ。しかし急場をしのぐなら、中国はプライス「テイカー」となり、ロシア産原油の価格支配力を損なう。

ロシア産原油に対する価格支配力は、中国にとって非常に重要。写真はロシアのカリーニングラード州にあるルクオイル製油所のタンク(2022年撮影)。
もっとも、ロシアにとって中国との関係は生命線だから、原油価格を極端に引き上げるようなことはしないだろう。一方、ロシアが対中輸出で人民元を稼ぎたいのも事実だ。これまでと同様、中国に有利なようにロシア産原油の価格が決まるとも考えにくい。結果として、ロシアの価格交渉力が高まることを中国は意識せざるを得ない。
つまり経済の観点から整理すると、中国にとっても、イラン情勢の緊迫化に伴う原油価格の上昇は受け入れがたい出来事となる。実際、中国がイランに対してホルムズ海峡を封鎖しないよう要請したとの報道もなされた。
しかしイランは、一番の得意客である中国の要請を無視してホルムズ海峡の封鎖を断行した。中国の面子は丸潰れになった形だ。
中国はイランの行動に「怒り心頭」か

米イスラエル間のイラン紛争が続き、イランがホルムズ海峡の封鎖を誓うなか、アラブ首長国連邦フジャイラ沖にタンカーが停泊している様子。 2026年3月3日撮影。
そもそも中国は独自の中東外交を展開しており、2023年3月にイランとサウジアラビアの国交が正常化した際の立役者であったことでも知られる。自らのエネルギーの供給源である中東の安定化を重視する中国は、中東では中立外交を貫いてきた。ゆえに中国は、主要国から制裁を科されたイラン産原油を輸入し続けたとも言えるだろう。
中国はイラン産原油の9割を輸入しているとも言われる。中国の機嫌を損ねれば、イランは原油を輸出できず、外貨を稼げない関係にある。そうした一番の得意客の要請にもかかわらず、イランはホルムズ海峡の封鎖し、中国との関係も深い、近隣の中東諸国の産油・精油施設まで破壊した。面子を潰された中国の内心は怒り心頭ではないか。
イランの狙いは、自らを空爆したアメリカやイスラエルに対する反発を国際社会に喚起することにあるようだ。まさに捨て身の戦術だが、同時に他の中東諸国を巻き込むという悪手でもある。これまで中立外交に徹してきた中国によるイランへの働きかけが期待される一方、中国は被害を受けた他の中東諸国にも配慮しなければならない、複雑な立場になった。
対アメリカの観点では、中国はさらに複雑な問題を抱える。まず、中国が前面に出過ぎると、今度はアメリカのトランプ政権を刺激しかねない。それよりも懸念されることは、アメリカから今回の事態の後始末を押し付けられることかもしれない。
いずれにせよ政治の観点からしても、中国にとってイラン情勢の緊迫化は、中東外交戦略を大きく揺るがす、非常に厄介な出来事といっていいだろう。
中国国内の油田開発が加速する可能性

原油採掘の海上プラント(写真はイメージです)。
ここで、中国が産油国であることを思い出す人がいるかもしれない。
東北部の黒竜江省にある大慶油田が有名だが、それ以外にも新疆ウイグル自治区(タリム油田)やオルドス盆地(長慶油田)といった内陸部に大型の油田があるほか、渤海には海上油田(渤海油田)も存在する。イラン情勢の緊迫化をきっかけに、こうした国内油田の開発に弾みがつく可能性も意識される。
国内油田の開発を進めて安価な原油を入手できれば、ロシア産などの輸入原油に対する価格交渉力も高まる。加えて、中国は非常に高い製油能力を持っている。これも大きなアドバンテージだ。ベトナムやインドネシアなど他のアジアの産油国が原油価格の上昇に脆弱なのは、国内の製油能力が低く石油製品を輸入する必要があるためである。
ただし、国内の油田開発もまた長期を要するプロジェクトであり、原油価格の安定に直ぐつながるような即効性はない。
結局のところ、イラン情勢の緊迫化は中国にとっても大きな頭痛の種である。アメリカの動きを睨みつつも、中国が今後、イラン情勢にどう関与していくのか。中東との関わりが深い日本もその動向に注目する必要がある。
※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です