「原油200ドル」の警告、再エネ阻むロビーの罪

写真:AP/アフロ
「1バレル200ドルを覚悟せよ」イランはアメリカの攻撃に対して、警告した。
【グラフを見る】GDPに占める日本のエネルギー輸入コストはどこまで上昇?
日本の化石燃料ロビーが再生可能エネルギーの普及を阻むために用いる論理の1つに、「太陽光発電は安全保障上のリスクである」というものがある。太陽光パネルを中国に過度に依存することになるからだという主張だ。
しかし、この主張はもともと理に適ったものではなかった。一度限りの設備購入と、日々の継続的な依存は別物であり、太陽光パネルは中国以外の供給源も育成されつつあるからだ。
そして今、イランでの戦闘が、この論理がいかに「詭弁」であるかを国民に知らしめている。石油、天然ガス、石炭にこれほどまでに依存することで、日本はドナルド・トランプ、ベンヤミン・ネタニヤフ、そしてモジタバ・ハメネイといった指導者たちの思惑の「人質」となっているのだ。
ホルムズ海峡の封鎖は日本に大打撃
日本は石油供給の約95%、液化天然ガス(LNG)輸入の11%を中東に依存している。石油の約70%、ガスの約6%がホルムズ海峡を通過しなければならない。さらに言えば、世界の石油・ガス供給の5分の1がこの海峡を通過するため、日本は高騰する国際価格を支払わざるをえない。
戦争がいつまで続くか、そして地域の石油・ガス施設がどの程度の被害を受けるかによっては、日本は深刻な打撃を受ける可能性がある。
テヘラン(イラン当局)は自国のタンカーには海峡通過を許すが、他国の船は阻止している。日本企業が所有する船を含め、周辺海域の船舶を攻撃してもいる。
トランプ大統領の強気な発言とは裏腹に、アメリカはイランの攻撃能力を無力化するまでは船舶の護衛要請を拒否しており、テヘランは「アメリカはいざという時に頼りにならない」という教訓を植え付けようとしている。
日本への影響が、供給遮断ではなく大幅な価格上昇にとどまったとしても、それだけで十分に深刻だ。
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストによれば、もし原油価格が1バレル120ドルに戻り、その状態が一定期間続けば、年間GDP成長率を0.47ポイント押し下げ、インフレ率を0.83ポイント上昇させるという。同氏は開戦時、「価格上昇が続けば個人消費のレベルを維持できず、日本経済は景気後退に陥る可能性がある」と断言した。
さらに野村証券によれば、原油価格が10%上昇した状態が1年続けば、円相場は3〜4円安くなるという。直感的にはやや過大な予測にも思えるが、いずれにせよ円安が進めば進むほど、エネルギーや食料品の価格上昇は一段と激しくなる。
より恐ろしい脅威は、双方による石油・ガス施設への攻撃だ。被害の程度によっては、通常の能力を回復するまでに数カ月、下手をすれば数年かかる。
LNGの備蓄はわずか2週間分程度
LNGは石油よりもさらに脆弱かもしれない。その結果、1973年のアラブ諸国による一時的な石油禁輸措置以来、初めて日本は「いくら金を積んでも十分な供給を確保できない」事態に直面する可能性がある。日本のLNG備蓄はわずか2週間分程度であり、200日分ある石油とは対照的だ。
前回の価格高騰時(2022年、ブレント原油が101ドル、ガスが33ドルだった際)、日本のエネルギー輸入コストはGDPの3%から5.8%へと倍増した。石油はこのエネルギー代金の半分を占める。
22年のコスト増は、21年の1ドル=110円から131円へと急激に進んだ円安によって悪化した。昨年、原油が69ドルでドル/円の平均が145円だった時、燃料輸入コストはGDPの3.3%だった。

(出所)https://www.customs.go.jp/toukei/info/tsdl_e.htm
今年のこれまでのドル/円の平均は156円で、現在は159円に迫っている。戦争の期間と物理的被害の程度によっては、円はさらに弱含み、日本はGDPの6〜7%、あるいはそれ以上を石油、ガス、石炭に費やすことを余儀なくされる可能性がある。
3月12日のブレント原油価格は22年と同じ100ドルであり、アメリカが効果的な対応をとらなければ、イランによる船舶や石油施設への攻撃継続によって、価格はさらに上昇しうる。
日本の輸入コストの跳ね上がりは、日本の家計から諸外国への莫大な所得移転を意味し、経済を確実に押し下げる打撃となるだろう。
原油だけではない。原油価格が高騰すれば、天然ガスや石炭の価格も上昇する。日本はこれらについて長期契約を結んでいるが、それは「供給」を確保するものであって「価格」を固定するものではない。
戦争や自然災害を理由にサプライヤーが契約上の「不可抗力(フォース・マジュール)」条項を発動すれば、供給すら保証されない。すでに一部のアジアの石油化学メーカーなどは発動に踏み切っている。LNGの確保をめぐる争奪戦はすでに始まっているのだ。
高市首相の慎重姿勢と化石燃料への固執
国会でイラン情勢とアメリカの支援要請について問われた高市早苗首相は、この戦争は安保法制上の「存立危機事態」には当たらず、自衛隊がアメリカ軍の作戦を支援できる状況ではないとの認識を示した。外相によれば、今のところアメリカからの支援要請はないという。
しかし事態は急速に変化しており、1週間後(3月19日)にワシントンで予定されている日米首脳会談でトランプ氏が何を要求してくるかは未知数だ。日本政府はイランを敵に回したくない一方で、トランプ氏の要請を袖にすることも避けたいという苦境にある。
エネルギー安全保障の名の下に、日本は石油依存度の低減に努めてきた。14年から24年の間に、日本の1日あたりの石油消費量は26%減少した。発電燃料を石油からLNGへ切り替えたことなどが要因だ。これは主要富裕国33カ国の中で4番目に大きな減少幅である。

(注)単位は1000バレル(出所)https://www.energyinst.org/statistical-review
その結果、GDP1ドルあたりの石油消費量(石油集約度)において、日本は主要富裕国33カ国のちょうど中央値に位置している。しかし、化石燃料全般への依存度はそれほど下がっていない。日本の一次エネルギーの83%がいまだ化石燃料由来であり、中国やアメリカの80%、EUの67%よりも高い水準にある。
再エネが日本の脆弱性を救う
日本の全エネルギー消費の半分は石油だ。一方、中国では現在、バッテリー式電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド(PHEV)が新車販売の半分、走行車両全体の12%を占めており、そのシェアは急上昇している。
政府の買い替え補助金もあり、中国の石油消費は27年にピークを迎えるとの予測もある。国際エネルギー機関(IEA)は、中国の石油消費はすでに高原状態(横ばい)に達したと考えている。
また、再生可能エネルギーによる発電により、中国は化石燃料の使用を抑えつつ電力量を大幅に増やしている。15年から23年にかけて、電力消費が65%急増したにもかかわらず、建物・産業・運輸部門の最終エネルギー消費における化石燃料使用量は1.7%減少した。再エネの伸びが電力消費全体の伸びを上回っている今、中国が化石燃料使用の絶対的な減少に転じるのは時間の問題だ。
日本が再生可能エネルギーへシフトする障害は、化石燃料・原子力ロビーの力だ。「土地が足りない」といった主張は根拠が薄いことが証明されている。バークレー研究所は、日本は35年までに電力の70%を再生可能エネルギーで賄うことが可能だとしている。
中国が太陽光パネル生産で影響力を行使
政府は、原発を増やすことで再エネ導入を遅らせても安全保障は強化できるとしている。だが現実は、原発はコストが高いだけでなく、建設に膨大な時間がかかる。さらに国民の不信感も大きな壁だ。政府の長期目標でも原発の割合は20〜22%にすぎず、専門家はその達成すら危ういと見ている。
真に警戒すべきは、日本や欧米が太陽光発電の生産から撤退したことで、中国がその空白を埋め、途上国での影響力を強めていることだ。太陽光は長期的には化石燃料や原子力より安価だが、初期費用が高い。中国は安価なパネルと資金提供を通じて、貧しい国々がこのハードルを越えるのを支援し、それによって恩義と影響力を築いている。