「37年間ありがとうございました」 横浜駅西口のランドマークが9月閉館へ――都心直通の“逆説”が示す、街の未来とは?
相鉄ムービル閉館と西口改造
相鉄グループの相鉄アーバンクリエイツと相鉄ビルマネジメントは、横浜駅西口エリアで約37年営業してきた「相鉄ムービル(相鉄南幸第2ビル)」を2026年9月30日に閉館する。
【画像】「えぇぇぇぇぇ!」 これが36年前の「横浜駅」です!(8枚)
同ビルは、横浜駅西口にあった5スクリーンの映画館「初代 相鉄ムービル」を移設して1988(昭和63)年11月12日に開業した「2代目 相鉄ムービル」である。映画館「ムービル」のほか、「相鉄本多劇場」(2014年閉館)やライブハウス、ジャズバー(2019年閉店)も設置し、映画や演劇、音楽など幅広い文化を発信してきた。また、隣接する「1000クラブ(相鉄南幸第10ビル)」と「横浜西口一番街(相鉄南幸第13ビル)」も2026年9月30日をもって営業を終了する。
相鉄グループは2024年9月に「横浜駅西口大改造構想」を発表した。この構想は、開発開始から70年以上が経過した横浜駅西口周辺を、新しい時代にふさわしい都市に生まれ変わらせることを目的とするもので、地域住民や行政と連携して新たな街づくりを進める。同構想に基づく開発は2026年以降、2040年代までの段階で実施される予定である。
相鉄ムービルの敷地についても、同構想の一環として一体的な開発が検討されている。
不動産中心の相鉄グループ

横浜駅を出発した相鉄線の列車(画像:相鉄グループ)
相鉄グループの中核企業である相模鉄道(神奈川県横浜市)は、神奈川県を地盤とする大手私鉄16社のひとつである。営業キロ数は44.4kmで、16社のなかでは最も短く、首都圏の大手私鉄では唯一東京都内に路線を持たない。
2025年3月期決算のセグメント別では、営業収益は運輸業が435億4000万円(鉄道業は367億6900万円)、流通業が948億5400万円、不動産業が712億1800万円、ホテル業が669億1000万円で、その他・調整額を加えた連結売上は2921億7800万円である。セグメント比率は運輸業15%(鉄道は13%)、流通業32%、不動産業24%、ホテル業23%となる。
もともと中核だった鉄道業の比率が低く、グループ全体は不動産や流通、ホテルなどの事業に支えられている。この構造は大手私鉄全般に共通するが、相模鉄道は鉄道業の規模が小さい分、派生事業、とくに不動産に力を入れる傾向が強い。
横浜駅西口では1952(昭和27)年に土地を取得し、同エリアに大規模な繁華街を形成するため「横浜駅西口総合繁華街構想」を策定して開発を進めた。相鉄ジョイナスや横浜ベイシェラトンホテル&タワーズ、相鉄ムービルなどを順次整備し、横浜駅西口を日本有数の繁華街に成長させたのは、東急や京急ではなく相模鉄道である。
また、1970年に1期区間を開業したいずみ野線は、沿線のニュータウン開発と一体で建設された路線である。
横浜一極集中から東京都心直通

横浜駅西口(画像:写真AC)
横浜駅前を繁華街として成長させ、沿線のベッドタウンから乗客を横浜駅に運ぶことを軸に発展してきた相鉄グループは、長らく神奈川県内でほぼ完結する鉄道会社グループであった。しかし21世紀に入り、転機を迎える。
2000(平成12)年の運輸政策審議会答申第18号に基づき、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が鉄道施設を建設・保有し、相模鉄道と東急電鉄が営業を行う「神奈川東部方面線」の計画が始まった。この計画は、2019年11月に相鉄・JR直通線として、2023年3月に相鉄新横浜線・東急新横浜線として開業した。両路線は相鉄本線の西谷駅から分岐し、JR線や東急東横線を経由して東京都心方面に乗り入れる路線である。
相鉄グループは当初、東京都心方面への乗り入れに消極的であった。長年育ててきたターミナルである横浜が経由されないことを懸念したためである。しかし、首都圏であっても少子高齢化で通勤・通学需要の中長期的な減少が見込まれるなか、選ばれる沿線であり続けるには、神奈川県内だけの路線では限界があり、東京都心方面への直結は必要と判断した。
両路線の開業により、西谷駅の上り方面は横浜一択から、相鉄・JR直通線を経由してJR埼京線・川越線方面、相鉄新横浜線・東急新横浜線を経由して東急東横線・東京メトロ副都心線・東武東上線方面、さらに東急目黒線・都営三田線・東京メトロ南北線・埼玉高速鉄道線方面まで選択肢が広がった。行き先や系統が複雑に増えたうえ、特急・急行・各停など列車種別も多く、西谷駅は短期間で混雑が増す状況に変化した。
横浜西口最大所有者の維持

横浜駅西口大改造構想のイメージ(画像:相鉄グループ)
話を相鉄ムービルの閉館と横浜駅西口大改造構想に戻す。
相鉄横浜駅の1日あたりの乗降客数は、相鉄・JR直通線開業前の2019年度が42万9114人、相鉄新横浜線・東急新横浜線開業後の2024年度が31万4229人となる。数字上では、両線の開業により
「約10万人」
が横浜を通らなくなったことになる。ただ、この31万人という数字は今もなお相鉄全線では最大であり、相鉄に加えJR・東急・京急・横浜市営地下鉄・横浜高速鉄道を合算した横浜駅全体の1日あたり乗降客数は198万人に上る。この合算数は、新宿・渋谷・池袋に次いで国内第4位である。
相鉄横浜駅に限れば1日10万人の乗降客減少は大きな影響だが、相鉄グループが長年育ててきた横浜駅西口の施設利用客は、相鉄線の乗客に限定されない。東京都心方面への乗り入れは、横浜駅前で最大の施設所有者である相鉄グループにとって、横浜駅西口の施設利用を縮小する理由にはならない。
現時点では横浜駅西口大改造構想は抽象的な方向性を示すにとどまり、閉館後の相鉄ムービル跡地の具体的な計画は示されていない。同構想の推進期間は2040年代までの長期にわたり、今後徐々に全貌が明らかになっていくだろう。