「遅刻→仕事の遅れ→残業」が常態化、無自覚な先延ばしグセがある部下を「戦力に変える」接し方とは

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遅刻や納期遅れを繰り返す部下を前に、「もしかしてADHDなのでは」と指導を諦めかけた経験はないだろうか。本人に迷惑をかけた自覚がないまま問い詰めても、状況は改善しない。重要なのはどこでつまずいているのかを的確に見極めること。先延ばし癖のある社員を変えるコーチング術を解説する。※本稿は、公認心理師の中島美鈴『なぜあの人は時間を守れないのか』(PHP研究所)の一部を抜粋・編集したものです。
ADHD疑惑のある社員に
どうやって話を切り出すか?
上司が時間管理のできない部下にアプローチする際に、最も困難なことは「どのように話を切り出すか」です。私はさまざまな企業で時間管理の研修をさせていただいておりますが、どこでも必ずと言っていいほど管理職のみなさんからは、この点について質問されます。
「本人に時間管理ができていない自覚がないときに、どのように話を切り出したらいいのでしょうか」
当然この場合、本人は病院にも通っていませんし、仕事上なんの支障もないとすら思っているようです。
そのような部下に、突然「あなたはADHDかもしれない」とは倫理上言えません。あくまで職場では、生産性を上げているかどうかのパフォーマンスの話を切り出すべきでしょう。
「最近遅刻が多いんだって?」「〇〇の締め切りが間に合わなかったそうだね」「残業が多くなっているみたいだけど、仕事量について聞かせて」などがそうです。
時間管理ができないため、どのような結果になっているのかに目を向けましょう。そして、それが仕事の遂行上どのような支障を来しているのでしょうか。初めはその点からスタートするのです。あくまで事実ベースです。
その事実について、本人が、「そうなんです。すみません。ここ最近少し遅刻が続いていて」などと認めれば、話を次に進めることができるでしょう。
問題の在処を明らかにする
4ステップの実行機能モデル
次のステップでは、「なぜ遅刻や締め切りが遅れ、残業せざるを得ないほど時間がかかっているのか」について本人の現状を確認していきます。
このときに、「なんで遅刻してしまうのか」と尋ねると、多くの部下は責められていると捉え、「すみません。気をつけます!」と反省モードになって、それ以上話は前に進まなくなってしまいます。
結局、実行機能のどこがうまく働いていないのかわからないのです。原因がわからないので、対策も「気をつける」といった精神論のみで、曖昧です。仮に気を引き締めて遅刻が直ったとしても、一時的なものになるでしょう。
ここで活躍するのが、4ステップの実行機能モデル(ゼラゾら、1997)です。私はゼラゾら(1997)のモデルを簡略化した4ステップを用いています。
ゼラゾら(1997)の研究では、表象、計画、実行、評価の4ステップから構成される実行機能モデルでしたが、「評価」のステップは、時間管理の調査を行ったところ、最も多い悩みは「先延ばし」であったという結果を踏まえて、「とりかかり」→「計画立て(表象を含む)」→「進捗気にして」→「脱線防止」の4ステップに改変しました。
このステップを下の図表に示し、どこでつまずいているの?と尋ねることで、部下にも「どうやら感情的に反省の色を示せというのとは違う面談なんだな。もっと具体的な対策を求められているんだな」と伝わるでしょう。

同書より転載
遅刻をしてしまう人の
あるあるな生活スタイル
この私が提唱する実行機能モデルで、締め切りに間に合わない社員を説明してみましょう。
一度布団の中で目を覚ましたものの、「起きるの、面倒だなあ」などと朝の準備の内容を思い浮かべてうんざりし、「まだ1時間もあるから大丈夫」などと楽観視し、スマホを触っている「とりかかり」の問題。
思った以上に朝からスマホを触り過ぎてしまい、いつのまにか時間が経ってしまい、モーニングルーティンなど確立していないため、「とにかく急げばなんとかなる!」と、計画など立てずに、がむしゃらに準備を進める様子も見えてきました。これらでつまずいているとすれば「計画立て」の問題です。
いざ身支度を進めている最中に、メイクしようと鏡を覗き込んだら、ふと目についたボサボサの眉。朝の時間のないときに手入れをすべきではないとわかりつつも、「今を逃すと眉毛の手入れをしないんだよね」という言い訳や、今を逃したくないという気持ちも手伝って、眉をカットし始めるかもしれません。ここは、「進捗気にして」の段階です。
最後は、「脱線防止」です。朝の準備とは関係のないことでも、誘惑に駆られて、ブレーキがかからずに脱線してしまうと、これもまた遅刻につながります。メイクをしながら、スマホで芸能人の結婚を知れば、相手の顔も見てみたいと検索が止まりません。
どこでつまずいたかわかれば
失敗を防ぐことができる
このように4つのステップのどこでつまずいているかを具体的に聞き出すことができれば、対策もかなり具体的に打つことができます。このように解像度の高い面談に効率的に辿り着くためにも、こうした図表を用いることは大切です。
図表の右側に対策例が4つありますね。これらは、ステップごとの対策の例です。遅刻の例ですと、次のような対策がとれるでしょう。
「とりかかり」でつまずいた部下には、動機づけのための自己報酬マネジメントと整理整頓をお勧めしています。
具体的には、朝起きてから身支度や朝ごはんを準備することへの億劫感を訴えているわけですから、「朝起きたら、あのおいしいパンが食べられる」といったご褒美を用意してとりかかりをよくするのが自己報酬マネジメントです。自分で自分のご褒美を設定して、やる気を起こすわけです。
また、「身支度の億劫感を少しでも減らすために、夜寝る前に明日着ていく服を準備しておく」「仕事の日の持ち物を1カ所にまとめる」といった物理的な工夫をしてもらいます。
次に、「計画立て」でつまずいた部下には、計画を立てることで安心感が得られることや、上司としても進捗を管理しやすくなるので助かることなどを伝えた上で、タスクの全体像が見えているかどうか、完璧主義から壮大すぎるゴールを描いていないかを確認します。
また、タスクの見積もりが甘くないか(時間処理障害)――タイムログをとって、それに基づいて計画を立てるといいことなども助言します。

『 なぜあの人は時間を守れないのか 』(中島美鈴、PHP研究所)
次が「進捗気にして」です。ここでつまずいた部下には、ゴールを意識して取り組んでいるか、時計を意識して取り組んでいるか、間に合いそうにないときには計画を見直すことも必要であること、その場合、省略していい部分や重要な部分はどこか見極められるのか、自分のひとりよがりの価値観で自己判断していないかなども確認します。仕事の中でも、没頭し過ぎてしまう(過集中を起こしてしまう)ことはないかについても尋ねます。
締め切りを守れない社員の
「先延ばし問題」解決法
そして最後に、「脱線防止」です。ここで部下がつまずいている場合には、職場の環境を見直します。
外部の業者や顧客がひっきりなしに訪れるカウンターに近い場所、外線電話がたびたび鳴る場所、たとえ業務上の話であったとしても人の話し声に囲まれている場所などは、集中力を途切れさせる環境といえます。
抑制制御障害(編集部注/他のことに気がそれてしまい集中力が保てない性質)のあるタイプの部下の場合には、基本対策として「本人が我慢するより誘惑の少ない環境にする」ことが推奨されます。
ケアレスミスを起こしやすいタスクを行うときには、自分のデスクを離れて、会議室で行う許可を出すという配慮も有効でしょう。逆に完全個室で誰の目もなく管理が行き届かないことについても、見直すほうがいいでしょう。席の配置を工夫したり、30分ごとの定期報告を求めるのもいいでしょう。
ざっと大まかにお伝えしてきましたが、実行機能モデルを使えば、どこでつまずいているかがスムーズに聞き取れて、かつぴったりの対策を提案することができるのです。ちなみに、この実行機能モデルを用いると、締め切りまでに書類が提出できない人も下の図表のように分析できます。

同書より転載
先延ばしの問題で特に確認しておきたいのが、「完璧主義」の問題です。「とりかかり」時点において「壮大すぎるゴール」を描いていないか、それで「手に負えそうにない」「私には無理」と不安になっていないかを部下に尋ねるのです。
YESという答えが返ってくるのであれば、課題を細かく分けて手に負える大きさにして、ひとつずつこなすように伝えるといいでしょう。図表の右側に示しているのが、つまずいたステップごとにとっておきたい対策例です。