「静岡空港を世界と直結させます」ANA事実上撤退、どう打開? 3年で11倍成長の決済規格は変化を生めるのか

クレジットカード決済の影響

 クレジットカードという決済手段は、地方空港の運営にも影響を及ぼす。日本は火山島で形成された国であり、山を越えた拠点間を最短時間で移動するには空路が欠かせない。大都市だけでなく、中小都市にも空港が存在することは、地域の利便性を維持する上で重要だ。しかし地方空港が採算を確保するのは容易ではない。富士山静岡空港(静岡県牧之原市)は、その収益性の問題に直面している。

【画像】「えぇぇぇぇぇ!」 これが36年前の「富士山静岡空港」です!(10枚)

 この課題に対し注目されるのが、現在「クレカ乗車」として社会インフラ化が進む、クレジットカードのタッチ決済乗車システムである。支払いの手間を省き、地域の交通網を世界標準のネットワークに接続することは、国内外の利用者の流れを滑らかにし、空港の稼働率を高める具体的な手段となる。

 2026年2月の月間利用件数は598万件に達し、3年前の11倍に成長しており、この仕組みの潜在力を示している(『Impress Watch』2026年3月9日付け)。

静岡鉄道の中核的インフラ

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「stera transit」のウェブサイト(画像:三井住友カード)

 静岡市内の公共交通を支えるのは、静岡鉄道とグループのしずてつジャストラインが運営する「静鉄バス」である。市民の生活は鉄道やバスと密接に結びつき、移動手段だけでなく、自社所有の商業施設「新静岡セノバ」での消費活動も含め、地域の基盤となっている。静岡鉄道の影響力は大きく、この交通網は地域に欠かせないインフラだ。

 同社は2026年2月18日、三井住友カードが提供する「stera transit」を活用し、2026年3月23日からクレジットカードによる決済サービスを開始すると発表した。専用端末にカードをかざすだけで、現金の用意や券売機での購入を経ずに乗車できる。国内におけるカードのタッチ決済比率は60%を超え、三井住友カードユーザーでは70%を突破している。「クレカ乗車」と呼ばれるこの仕組みは、2025年度には45都道府県の232事業者にまで広がる見通しだ(同)。

 今回の導入で富士山静岡空港静岡線が優先的に選ばれたことは重要だ。地域住民向けに最適化されていた既存の支払い環境を、世界標準の規格へ開放し、外部からの来訪者を円滑に受け入れる導線を整える狙いがある。

富士山静岡空港の方向性転換

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富士山静岡空港のウェブサイト(画像:富士山静岡空港)

 富士山静岡空港を取り巻く環境は大きく変化している。2026年10月には全日空が札幌線と沖縄線の運休を決め、事実上の撤退となった。2009(平成21)年の開港以来、運航を続けてきた航空会社の判断は、従来の運営モデルが限界に達していたことを示している。

 一方で、富士山静岡空港は東南アジアからの旅客誘致に活路を見出している。2026年4月28日からはベトジェットエアによるハノイ線が就航し、開港以来初めて東南アジアとの定期便が実現する。

 こうした格安航空会社の利用者は、片道1万円台という低運賃の恩恵を受ける一方、移動の効率を重視する。2025年の訪日外国人旅行者が4268万人に達するなか、日本の交通系ICカードを持たない層にとって、空港到着直後の現金支払いは負担となる。

 実際、関西エリアでは3月1日から関西国際空港や大阪空港のリムジンバス260台で「クレカ乗車」が開始された。静鉄バスが空港線を優先導入したのは、この世界的な流れに乗り、到着旅客を滞りなく市街地へ導く戦略である。旅客の属性変化に合わせ、地上の移動手段を国際規格へ接続することは、空港の存在価値を守る具体的な手段となる。

地域ICカードとの共存

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静鉄バス(画像:写真AC)

 公共交通は本来、その土地で暮らす人々のためのものである。stera transitの利便性を地域住民に理解してもらうことは、空港利用者の利便性向上とは別の課題だ。

 静岡鉄道が発行する地域ICカード「LuLuCa」との折り合いには、熊本の5社のバスの事例が参考になる。同社はICカード機材の更新に多額の費用がかかることから、その約半分の6.7億円でstera transitを導入し、前年比102%の利用者増を達成した(同)。静岡鉄道も連結売上高1800億円超の余力のある中小私鉄であり、同様に効率的な投資を行える体力がある。

 住民の生活に馴染むLuLuCaは、ポイント還元などで顧客をつなぎ止める役割を維持する。一方、クレカ乗車は、自前でカードを発行するコストやチャージ機の保守費用を抑えつつ、外部の利用者をスムーズに受け入れる手段となる。三井住友カードは2027年春から、乗車額に応じた上限制の定期サービスを開始し、同年秋には区間式の定期サービスも提供予定だ。

 さらに、乗車によってVポイントが貯まる仕組みも順次導入される。自社の経済圏を守りつつ世界標準の規格を併用することで、現金管理の負担を減らし、経営効率を高める狙いがある。インフラの維持と収益性の確保を両立させる、現実的な判断といえる。

デジタル化による地域活性化

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クレジットカード乗車による公共交通の生存戦略。

 静岡鉄道が進める支払いのデジタル化は、連結売上高1800億円を誇る企業集団が、地元の商圏を世界へ直結させる意思表示でもある。ANAの撤退という現実を前に、ベトジェットエアという新たな需要を呼び込むには、空港から市街地への移動にともなう負担を徹底的に取り除く必要がある。今回の導入は、外部からの資金を静岡市内へ確実に流すための経路を整える作業だ。

 三井住友カードが2026年3月9日のシンポジウムで示したように、タッチ決済による移動は「クレカ乗車」と呼ばれ、全国共通の社会インフラへと発展している。今後は、移動の記録を「新静岡セノバ」などの商業施設での購買へつなげる具体策が求められる。例えば、乗車に応じてVポイントを付与する仕組みや、神戸市で実証実験が始まったマイナンバーカード連携による敬老割引は、地域住民にも大きな利点となるだろう。

 地域住民との絆を担うLuLuCaを維持しながら、世界標準の支払規格を併用する手法は、人口減少社会における地方インフラの生存確率を高める有効な手段だ。地方空港の生き残りは、空の便を増やすことだけでなく、降り立った後の経済活動をいかに円滑にするかにかかっている。今回の決断は、静岡を訪れる人々の体験を変え、地域経済の活性化に直結する重要な要素となるだろう。