テスラが未来託す「ハンドルなき新型車」軌道に乗るか

ロサンゼルスのオートショーに展示されたサイバーキャブ
米電気自動車(EV)メーカー、テスラの数年ぶりの新型車が2月、テキサス州オースティンの生産ラインにお目見えした。ヘルメットと安全ベストを付けた作業員が見守るこの第1号車に続き、数百万台規模の生産を軌道に乗せるのが同社の狙いだ。
こうした「お祝い」の場面はこれまでもあったが、このような車が登場したのは初めてだ。この「サイバーキャブ」にはハンドルもなければアクセルやブレーキのペダルもない。同社幹部が言うように4月に量産が始まれば、従来の自動車メーカーの枠を超えたいテスラにとってのみならず、このようなものは想定していなかった米国の安全規制にとっても試金石となる。
サイバーキャブはテスラの「完全自動運転」ソフトウエアで自律走行することを前提に設計されている。同社はこれを自社の無人配車サービスに導入するほか、タクシー事業者や個人への販売も計画しており、いずれ個人の所有車もテスラの配車サービスに登録できるようにする。イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)によると、車両価格は3万ドル(約480万円)を割る可能性がある。
テスラはこれまでもEVで新境地を開いてきたが、標準的な操縦装置のない車両を販売するのは自動車業界では前例がない。マスク氏は、サイバーキャブの導入と完全自動運転ソフトの普及こそ、同社が目指す自律走行車とヒューマノイド(ヒト型ロボット)事業への移行に不可欠だと主張する。
マスク氏はサイバーキャブを優先するため新型モデルの開発を後回しにし、既存の2車種の廃止を決めた。テスラが目指すのは人工知能(AI)とロボティクスの大手企業だ。独フォルクスワーゲンや中国の比亜迪(BYD)など従来型の自動車メーカーはもはや眼中にない。
マスク氏は1月、後戻りという選択肢はないと投資家に語った。「この車が自力で走るか全く走らないかのどちらかだ」と述べた。

サイバーキャブはテスラの「完全自動運転」ソフトで自律走行することを前提に設計されている
モルガン・スタンレーのアナリスト、アンドリュー・パーココ氏は、テスラが今後数年間に生産するサイバーキャブは多く売れるとは思えず、むしろ同社の「ロボタクシー」配車サービスに使われることになるのではないかとみている。
「個人がハンドルのない車を購入するのに抵抗を感じなくなるには時間がかかるだろう」と同氏は述べた。
事情に詳しい関係者によると、テスラはサイバーキャブを週に数百台製造できるよう生産ラインを設計している。オースティンにある同社のギガ工場では、人員を増やし新しい機械を導入して、4月にサイバーキャブの製造を開始する準備を進めている。マスク氏は先に、当初の生産ペースは「苦痛を感じるほど遅いだろう」と述べていた。

テキサス州にあるテスラのギガ工場
先週ソーシャルメディアに投稿された同工場の写真や動画には、10台以上のサイバーキャブをトラックに積み込む様子が映っている。
テスラはサイバーキャブを主に自社のロボタクシー配車サービスに使う計画だ。同サービスは現在、限られた営業しか行っていない。
ただ、サイバーキャブを販売するには米道路交通安全局(NHTSA)の認可が必要になる。ハンドルもアクセルやブレーキのペダルもサイドミラーもないためだ。NHTSAは要件を完全に満たしていない車両の販売を認めることもあるが、年間2500台という上限がある。
NHTSAの報道官によると、テスラはまだサイバーキャブの要件免除を申請していない。免除されなければ、同社はサイバーキャブが連邦の安全基準を満たしていることを証明する必要がある。
NHTSAはサイバーキャブが安全基準を満たしていないと判断した場合、リコール(回収・無償修理)を命じる可能性がある。テスラは従わなければ多額の罰金を科されかねず、NHTSAが訴訟を起こす可能性もある。
テスラはコメント要請に応じなかった。
他の自動車メーカーやテック企業も、米国内で完全自律走行車を広めようとしている。現在は州や地方自治体ごとに規制が異なる。マスク氏はこれを「信じられないほどの苦痛」だとし、全国一律の枠組みを求めている。
マスク氏によると、テスラはサイバーキャブを年間200万台製造する計画で、2026年末までに決算にも影響するようになる可能性がある。
テスラはサイバーキャブをヒットさせる必要がある。同社のエネルギー事業とサービス事業は昨年伸びたとはいえ、成長投資の原資は今も自動車事業だ。2025年に売上高全体の73%余りを占めた自動車事業は、10%の減収だった。
ウォール街の一部アナリストは、テスラは26年も減収になると予想する。もしそうなれば3年連続の減収だ。