「売上の99.7%は架空取引」KDDI子会社の巨額不正はなぜ7年もバレなかったのか?

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通信大手KDDIは2026年3月、子会社で起きた不適切な取引に関する調査報告書を公表しました。そこで明らかになったのは、7年で2461億円に上る架空取引が行われていたという信じがたい事実でした。報告書で明らかになった“カネの流れ”とは? 詳しく解説します。(公認会計士 白井敬祐)

「事業の99.7%は架空取引」

明らかになった衝撃の事実

 2026年3月31日、通信大手KDDIの子会社であるビッグローブおよびその子会社であるジー・プランで発覚した不正の調査報告書が公表されました。

 80人の関係者へのヒアリング、337万件のデジタルフォレンジック調査を経て、明らかになったのは、ある社員がほんの一時的な穴埋めのつもりで始めた架空取引が、7年間で累計2461億円にまで膨れ上がっていたという、にわかには信じがたい物語でした。

 しかも、ビッグローブおよびジー・プランが手掛ける広告代理事業の売り上げのうち、本物はわずか0.3%――。残りの99.7%は、実体のない架空取引だったのです。

 いったいなぜ、たった2人の社員による不正が、日本を代表する巨大企業グループの中で7年も見過ごされたのでしょうか。

始まりはちょっとだけだった……

雪だるま式に膨れ上がる「循環取引」の恐ろしさ

 今回、問題が発覚したのは、KDDIの連結子会社であるビッグローブ。インターネットサービスプロバイダーとしてご存じの方も多いでしょう。そして、そのビッグローブの子会社が、広告代理事業を手掛けていたジー・プランです。KDDIから見れば「孫会社」にあたります。

 ジー・プランは、ポイントサービス「Gポイント」を主力事業としていましたが、集客力の低下に悩んでいました。そこで新たな収益の柱として、広告代理事業を始めました。

 この事業を立ち上げたのが、2010年に入社したa氏でした。a氏は2017年頃にジー・プランにて広告代理事業を立ち上げ、部下のb氏とともに、広告代理事業を回していくことになります。

 話は2018年8月に遡ります。広告事業は数十万円規模の赤字を出して、売上目標の数千万円が未達という状況でした。自ら立ち上げた事業を撤退しなければいけなくなるかもしれない、と焦りを抱いたa氏は、架空取引で赤字を補てんすることにしました。

 その時は一時的に赤字の穴を埋めて、その後、正規の取引の利益で取り返せばいいと考えていたのです。

 しかし、この「ちょっとだけ」が、全ての始まりでした。

 a氏が手を染めたのは、架空循環取引と呼ばれる手口です。実際には存在しない広告案件の伝票だけを、複数の会社の間でぐるぐると回し続けることで、あたかも売り上げが発生しているように見せかける……いわばネタの乗っていない空の皿だけがレーンを回り続け、誰も食べていないのに会計伝票だけが膨らんでいく「空回り回転寿司」です。

調査報告書を基に筆者作成

 2019年3月期には、架空の売り上げはおよそ4億円でした。それが翌年には11億円、24億円と膨らみ、22年3月期には88億円に達します。そして24年3月期には543億円、25年3月期にはついに824億円にまで雪だるま式に膨れ上がりました。数千万円の穴埋めのつもりが、取り返しのつかないうそになってしまっていたのです。

 調査報告書には、周囲が業績不振に苦しむ中で自分で立ち上げた広告事業だけが好調に見えていたため、架空な取引である以上、広告事業を拡大すべきではないと言い出すことができなかったというa氏の心境が記されています。また、架空であっても利益面で会社に貢献しているという、一種の正義感すら抱いていたといいます。

消えた「329億円」はどこへ?

なぜ何年も「循環し続けられた」のか

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 ここで一つ、素朴な疑問が浮かびます。架空の取引なのだから、本来広告主からのお金は入ってこないはず。なのに、なぜ何年も回し続けることができたのでしょうか。

 架空循環取引では、各社が手数料を抜いていくため、架空の広告案件を回すたびにお金は目減りしていきます。燃料タンクに穴が空いている車のようなもので、ガソリンを補給し続けなければすぐに止まってしまいます。

 その「燃料タンクへの補給係」となったのが、KDDIからビッグローブへのグループファイナンス――親会社から子会社への資金の貸し付けでした。広告事業を始めたばかりだから資金が要る、という名目で、その枠は最終的に830億円にまで膨れ上がったのです。

 KDDIは当然、そのお金が架空取引に使われているなど知る由もありません。結果として、架空循環取引によって、外部に流出した手数料は累計329億円。いわば漏れていた燃料……知らぬ間に持ち出されたお金でした。

 では、その329億円はどこに消えたのか。答えは、循環取引に加わっていた外部の代理店です。各社が「手数料」の名目で差し引いた金額の合計が329億円に上るのです。中でも最大の取引先であるC社は、手数料率2.5〜3%で取引総額9174億円。単純計算でも莫大な利益を得ていたことになります。

 a氏は、今回発覚した架空取引について、循環の中に入っていた代理店関係者や自身の私的な利益のために行ったものではないと述べています。ただ一方で、調査報告書には、a氏が自分のキャバクラなどの飲食代の領収書をC社の社長に渡し、C社の社長がそれに基づいてa氏に現金を渡していた事実が記録されています。その額は、2年間で累計約3000万円に上りました。

 KDDIのお金が、グループファイナンスを通じてビッグローブに渡り、架空取引で外部代理店に流出し、その一部がキャバクラ代としてa氏のポケットに戻ってくる。329億円という巨大な資金の漏れと、3000万円という生々しい現金の授受。規模は違えど、同じパイプラインの上流と下流の話なのです。