イラン戦争、世界経済へのショックさらに拡大へ

経済的な打撃の深刻さは、ホルムズ海峡の混乱がどれだけ長く続くかに左右される
ドナルド・トランプ米大統領によるイランの海上封鎖は、数週間にわたる戦争ですでに打撃を受けている世界経済をさらに混乱させる可能性がある。地域的な衝突が世界規模の金融ショックへと拡大し、戦闘そのものよりも壊滅的な打撃をもたらすことも考えられる。
イランの港に出入りする船舶に対する米国の封鎖は、逼迫(ひっぱく)している市場で原油供給がさらに不足することになる。またホルムズ海峡を通じて輸送される他の主要商品の供給難が長引き、世界経済に多大な不確実性をもたらすだろう。
原油価格は13日に大幅高となり、アルミニウム価格は4年ぶりの高値に急騰した。背景には、世界の主要工業用金属の供給量の約10分の1を生産するこの地域で、供給難が長期化するとの懸念がある。
石油ショックはすでにアジア全域に波及しており、一部の工場では減産を余儀なくされ、ガソリンスタンドで配給制が導入されている所もある。域内の空港はジェット燃料不足に陥っており、早期解決の見通しは立っていない。これを受けて一部の航空会社はすでに減便している。

中東からの原油タンカー(東京湾、4月上旬)
一方で湾岸諸国にとって、今回の打撃はここ数十年で最悪の規模になりつつあり、大幅な経済収縮を引き起こしている。各国はビジネスや観光にとって安全な地域だとの評判も傷つけられた。欧州では、すでに低迷していた経済成長がさらに鈍化している。
エネルギー純輸出国である米国では供給不足が生じる可能性は低いが、ガソリン価格の上昇は消費者を直撃している。トランプ氏は12日、エネルギー価格がすぐに下落せず、今秋の中間選挙で有権者が投票所に向かう時点でも高止まりしている可能性があると認めた。
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は13日、ホルムズ海峡の封鎖継続は欧州にとって「非常に大きな被害をもたらす」と述べた。またEUとして補助金規制の一時的な緩和や、加盟国によるガス購入の協調促進といった計画を検討しているとした。
西オーストラリア大学パース米国アジアセンターのゴードン・フレーク所長は「全ての人がより困窮していることに疑いの余地はない」とした。
数少ない「勝ち組」の一つとなりそうなのは、原油と天然ガスが政府歳入の約4分の1を占めるロシアだ。
政治的な衝撃波も今後間違いなく生じるとみられる。アイルランドではここ数日間にわたり、不満を抱えた農民たちが燃料価格の上昇に抗議して道路や燃料ターミナル、製油所を封鎖した。インドでは戦争による調理用ガス価格の上昇が、賃金の停滞に不満を持つ工場労働者の労働争議を悪化させている。先週にはインド北部の州で数千人の契約労働者が工場の外で抗議活動を行った後、州政府は最低賃金を35%引き上げた。その後まもなく、隣接する州の工場労働者も街頭に繰り出した。
生活コストの上昇は世界各国で有権者の不満につながっており、現政権への批判票となって表れる可能性が高い。ハンガリーでは12日、有権者たちが野党に地滑り的勝利をもたらし、オルバン・ビクトル首相の16年にわたる政権に終止符を打った。
経済的打撃の深刻さは、これまで世界の石油の5分の1が輸送されていたホルムズ海峡の混乱がどれほど続くかにかかっている。その中で海峡の通航量が、戦争前の水準に戻る見通しが当面立っていないことは、好ましくない兆候となる。
あくまでも仮定の話だが、仮に戦闘が完全に終結したとしても、エネルギー価格への打撃は長期にわたる可能性が高い。輸送の遅延で供給がさらに滞るほか、湾岸地域の主要エネルギー施設が被害を受けていることも影響を及ぼすことになる。ドイツの政府系金融機関であるドイツ復興金融公庫(KfW)は最近の顧客向けメモで、原油価格が2027年末までに戦前の水準に戻ることはないだろうと警告している。
また原油価格の急騰はすでにインフレを後押ししていることから、各国の中央銀行は利上げを余儀なくされ、世界経済の成長に打撃となる可能性が高い。
アジアでは、すでに供給逼迫で影響が出始めている。

ブータンで給油のために列をなす車
韓国国会は週末、低所得者への最大約400ドル(約6万3700円)の現金給付などを含む170億ドル超の緊急経済対策を可決した。同国第2位の航空会社であるアシアナ航空は、5月末まで中国とカンボジアへの往復便十数便を一時運休。ベトナム航空もすでに減便している。
日本の住宅設備大手TOTOは13日、石油から生成される重要な石油化学製品であるナフサの不足を理由に、ユニットバスの受注を停止した。ナフサ不足の影響を最初に受けた国の一つである日本では、その影響が病院にも波及。医療機関は手術用手袋や透析用注射器などの医療用製品に関し、国内備蓄を早急に確保するよう求めている。日本の高市早苗首相は不足問題に対処するための閣僚チームを編成したと述べたが、大規模な不足は否定し、国内にはまだ少なくとも4カ月分のナフサが確保されていると述べた。
ヘリウムの供給混乱は、韓国とマレーシアの半導体産業に打撃を与える可能性がある。また中東で働いていたフィリピン人の一部は、戦争を理由に帰国しており、家族への送金が途絶えることを意味する。航空運賃の高騰は、世界の観光収入を減少させる可能性がある。
東南アジア専門のシンクタンク「ヴァーヴ・リサーチ」のブレイク・バーガー副所長は「あらゆる分野に波及している」とし、「シンガポールにいようとブルネイにいようと、カンボジアにいようとラオスにいようと、何らかの形でイランの戦争影響を受けている」と述べた。
ホルムズ海峡の封鎖がどれほど続くかは、大きな疑問として残る。UBSによると、海峡での輸送がさらに2カ月間制約された場合は世界経済の成長が鈍化し、従来のトレンドまで回復するのは2028年末になるとみられる。封鎖がより長期になれば、世界経済の成長率は1ポイント押し下げられ、米国で緩やかな景気後退(リセッション)を引き起こす可能性があるという。

ドバイなどの湾岸諸国にとって被害はここ数十年で最悪のものになりそうだ
この余波の最大の打撃を受けているのは、湾岸地域のイラン周辺国となっている。カタールは液化天然ガス(LNG)施設に大きな被害が生じ、修復には最大5年かかるとみられている。調査会社ライスタッド・エナジーによると、湾岸全域で被害を受けたエネルギー関連インフラの修復には、250億ドル超のコストがかかる可能性がある。
キャピタル・エコノミクスはカタールの今年の国内総生産(GDP)が13%、アラブ首長国連邦(UAE)は8%、サウジアラビアは6.6%それぞれ縮小するとみている。カタールのGDPは2020年の新型コロナウイルス禍時には3.6%縮小していた。
湾岸地域と欧州の重工業も苦境に立たされている。UAEなど湾岸諸国は、不安定な地域における安定性を売りにしてきたが、そのビジネスモデルは深刻な打撃を受けている。スポーツ、展示会、会合などの世界的一大拠点としての湾岸諸国の地位も傷ついた。金融・暗号資産(仮想通貨)関連の会合から自動車レースの最高峰「フォーミュラ・ワン(F1)」のレースに至るまで、この地域で予定されていたあらゆるイベントがここ数週間で中止となっている。
今回の戦争は急成長する中東地域の観光産業に加え、テクノロジーと人工知能(AI)へ積極的に進出する地域諸国の脅威となっている。中東地域ではアマゾンのデータセンターを含む重要インフラが攻撃の標的となった。
中東地域を専門とするエコノミストのハムゼ・アル・ガーオド氏は、たとえ戦争が終結しても、敵対姿勢を取るイランは地域にとって常にテールリスクであり続けると述べた。同氏は「これは企業として織り込まなければならないことであり、リスクプレミアムが上乗せされる」とした。
政治リスクコンサルティング会社ユーラシア・グループの欧州担当責任者ムジタバ・ラーマン氏は「イランの政権は戦争で鍛えられ、以前よりも過激になっている。より広い湾岸地域の予測可能性、確実性、安定性について、継続的な疑問が生じることになるだろう」とし、「その影響は非常に広範囲に及ぶ」と述べた。