米経済は成長、雇用は伸びず それでも大丈夫な理由

シアトルでの就職フェア

ここ1年、二つの主要指標が米経済の健全性について正反対の状況を示してきた。米経済自体は2025年に成長した一方、雇用は今年3月に堅調だったものの過去1年間では伸びなかったのだ。

この謎の現象については心強い説明があるかもしれない。労働者がより効率的に財やサービスを生み出していることを意味する「生産性」が、まさに適切なタイミングで回復しているというものだ。

経済を成長させる主な方法は二つある。一つ目は、労働者を増やすことだ。しかし、これは一層難しくなっている。ドナルド・トランプ大統領の政策によって大半の移民の流入が停止する一方、労働人口の高齢化や数十年にわたる出生率の低下で米国生まれの労働力人口の伸びが徐々に低下しているためだ。そこで残るのは二つ目の手段、すなわち既存の労働者の生産性を高めることである。

「労働力人口の伸びが鈍化する中、生産性はもはや成長エンジンの一つにすぎないのではなく、残されたほぼ唯一のエンジンだ」。スタンフォード大学デジタルエコノミーラボのエリック・ブリニョルフソン所長はこう話す。

幸運なことに、そのエンジンは稼働している。米労働省によると、非農業部門の1時間当たりの生産は昨年、2.1%増加した。過去6年間の平均伸び率も2.1%で、2007~19年の年平均1.5%から上昇しており、他の西側諸国を上回っている。エコノミストらは、人工知能(AI)の役割を判断するのは時期尚早としながらも、AIが貢献しているとみている。

労働力人口の減少と雇用の伸びの鈍化という、近年の歴史では前例のない状況下でこうした労働生産性の上昇が起きている。今年3月までの1年間に、移民の取り締まりと、以前から続くベビーブーマー世代の大量退職によって、労働力人口(就業中か求職中の人々)は55万4000人減少した。

文民労働力人口の前年比増減数

新型コロナウイルス流行期を除くと、これほどの規模で労働力人口が落ち込んだ直近のケースは、2013年終盤に多数のベビーブーマー世代が退職した時期に起きた。米国内の出生率が過去最低水準にあることから、より長期の見通しは暗いままだ。

新たに労働力として加わる人が減る中、失業率を安定的に維持するのに必要とされる新規雇用数である「ブレークイーブン雇用数」も減っている。これは、過去1年間の雇用創出が月平均2万2000人弱と横ばいに推移しているにもかかわらず、失業率がそれほど上昇していない理由を説明するのに役立つ。この2万2000人弱という数は、リセッション(景気後退)期を除くと、2003年3月までの1年間以来の低水準だった。

1970年代の月間のブレークイーブン雇用数は、はるかに多い18万5000人に達していた。女性やベビーブーマーが労働力に加わったことが背景にあった。新型コロナ下の2020年終盤には、ブレークイーブン雇用数がわずか5万人に落ち込んだ。連邦準備制度理事会(FRB)の最近の論文によると、今年は移民の伸びが鈍化したため、「ブレークイーブン雇用数がほぼゼロに落ち込み、2026年に必要とされる新規雇用数は1カ月当たり1万人に達しない可能性がある」。移民の伸び鈍化と労働者の退職により、今年は労働者数が全く伸びない可能性があるという。

「その場合、今年の潜在成長率は、すべて生産性の伸びによるものになる必要がある」と論文は指摘する。「これは近年の歴史において経済成長の構成要素が大きく変わることを意味する」

これは未知の領域だ。

「雇用のゼロ成長は、雇用やその他もろもろに関して、いかなる類いの安定をも示すものではない」。クリストファー・ウォラーFRB理事は2月下旬の経済会議でこう述べた。「このような経済成長と雇用のゼロ成長を目撃するのは、私のキャリア、私の人生において初めてになる。これまでに経験したことがない事態であり、これについてどう考えたらよいのかさえ分からない」

通常であれば、労働力人口の停滞は経済成長に壊滅的な打撃を与える。例えば日本では、人口減少と労働力人口の伸び悩みが主因となり、2000年以降の成長率は年平均0.7%にとどまっている。

米国も、生産性の伸びが加速しなければ同じ運命をたどる恐れがある。経済学者らは労働生産性について、長期的な生活水準を左右する最も重要な要因の一つと考えている。これは本質的に労働時間当たりの経済生産量を指し、技術と資本の寄与度を反映している。生産性が年率1%向上すれば、生活水準は70年ごとに2倍になる。年率2%なら、これがわずか35年で達成される。

潜在GDP成長率の内訳

生産性の伸びは変動が大きく、短期的な景気循環要因に左右されることが多い。だが、最近の加速は持続的なものになる可能性がある。エコノミストらによれば、新型コロナの流行拡大を受けたロックダウン(都市封鎖)とその後の労働力不足によって、多くの企業が自動化の取り組みを加速させざるを得なくなった。労働市場の活況とリモートワーク制度への移行進展を受けて、より多くの労働者がより高い生産性を発揮できる仕事に就くことが可能になった。月間の退職者数は6年ぶりの低水準に落ち込んでいる。労働者は同じ職に長くとどまるほど生産性が高まる傾向がある。

「コロナ禍を脱する中で、労働力人口には長い間見られなかったような活発な動きが相次いだ」とシカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスのチャド・サイバーソン教授(経済学)は指摘する。「人々は自分にとってより良い仕事へと移っていった」

もちろんAIという要因もある。AI自体は何十年も前から存在していたが、2022年にオープンAIのチャットボット「チャットGPT」が公開されたことによって、その発展は一気に加速した。

エコノミストらは、AIが生産性に与える影響を判断するには時期尚早だと警告している。サイバーソン氏は「目を凝らして見れば、データの中にそのようなストーリーを読み取ることができるかもしれない」と述べた。

遅れる雇用創出

だが、一部の予測では、生産性の向上が長期的な成長見通しに織り込まれつつある。FRB当局者は3月、成長率の長期見通しを1.8%から2%に上方修正した。トランプ氏から次期FRB議長に指名されたケビン・ウォーシュ氏は、AIによる生産性の伸びの加速がコスト上昇圧力を抑制することで、FRBの利下げが可能になると主張している。

スタンフォード大のブリニョルフソン氏は、AIがもたらす利益は有意義なものになると予想しているが、それは必ずしも単純なプロセスではなく、すぐに効果が分かるものでもないとみている。「有力な汎用(はんよう)技術から得られる最大の利益は通常、企業がそれを補完する環境、すなわちワークフローの再編や従業員の再教育、プロセスの再設計、その技術を効果的に活用するために必要な無形資本の構築に投資した後に初めて得られる」と同氏は述べた。

AIによる生産性の向上を示す証拠は増えている。アナリストらによると、もう一つの利点は、AIツールが過去の革新的な生産性向上技術と比べてはるかに使いやすいことだという。

パーソナルコンピューターは、1990年代半ばから始まった生産性向上ブームの要因としてエコノミストらに認識されている。ただ当初は扱いにくく、使いやすくなるまでに何年もかかったとブルッキングス研究所のエコノミスト、マーティン・ニール・ベイリー氏は指摘する。

ベイリー氏は「今は生成AIがあり、対話型なので誰でも使うことができる」とした上で、「一定のプロセスは必要になるだろう。他の幾つかの技術的変革よりも少しスピードが速いかもしれないが、一夜にして変わるものではない」と述べた。