サケやサンマの漁獲量が激減、代わりに「大量捕獲」されている魚とは?

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SDGsが掲げられ、環境保全への意識が高まっている昨今。水産学の専門家である筆者は、地球温暖化対策のためには「肉よりも魚を食べよう」と推奨している。海水温上昇によって変容した日本の水産資源環境を解説する。※本稿は、水産学者の佐野雅昭『日本漁業の不都合な真実』(新潮社)の一部を抜粋・編集したものです。
「牛のゲップ」が
地球温暖化の原因に!?
本記事を執筆し始めたのは2024年夏ですが、これまでになく暑い日が長く続きました。筆者が住む鹿児島だけでなく、東京や大阪、北海道まで、時に危険を感じるほどの猛暑は読者の方々も経験されたはずです。実際、気象庁の長期データでは近年の気温の上昇傾向は明らかで、東京では1870年代後半の年間平均気温は約14度でしたが、2020年代には17度弱と3度近くも上昇しています。
地球温暖化の主な原因は、私たちのさまざまな活動から排出されるCO2やメタンガスなどの温室効果ガスです。産業革命以降、経済発展のために石油や石炭などの化石燃料を大量に燃焼させるようになりました。人口も爆発的に増え、その結果として温暖化が急速に進んだのです。J・S・ミルが危惧したのはまさにこれでした。
しかし、温室効果ガスの主たる発生源の1つが、急増する人口に食料を供給してきた農畜産業であることはあまり知られていません。国連関係組織「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第6次評価報告書では、世界全体の温室効果ガス排出量のうち約22パーセントが森林伐採や畜産業を含めた農畜産業によるものと報告されています。
現代の農畜産業は大型トラクターを動かし、1年中ボイラーを焚いて室温を調整した畜舎やビニールハウスなど工場のような施設を利用し、大量の化学肥料を使用します。
「真冬にイチゴを食べたい」というような贅沢な要求に応えれば「儲かる」ことから、現代の農畜産業は自然の姿とはほど遠い環境で生物を育成するため、エネルギーの大量使用が必要になるのです。そのためCO2やメタンガスを大量に排出します。私たちにとって馴染み深い水田も実はメタンガスの大きな発生源になっています。
中でも畜産業は問題が大きく、牛の消化管内発酵、つまり「ゲップ」や排泄物から放出されるメタンガスや亜酸化窒素の量は莫大です。畜産分野の排出量は世界の温室効果ガスの約14パーセントと計算され、世界全体の運輸部門(自動車や飛行機など)より多くの温室効果ガスを排出しているのです。このうち7割近くが「牛」から排出されています。
欧州諸国では畜食をすれば
冷ややかな視線を浴びる
また世界の農地のかなりの割合が畜産飼料の生産に利用されています。国際農林水産業研究センターの2022年報告によれば、世界の穀物の半分ほどが(飢餓に直面している人々の食料になり得るものでありながら)畜産飼料に利用されています。また、アマゾン川流域など南半球の熱帯雨林では放牧や牧草栽培のための大規模な森林伐採が行われ、過剰な放牧による草地の砂漠化が進んでいます。
畜産業、特に牛の飼育が温暖化の大きな要因となっていることが科学的に明らかになるにつれ、地球温暖化に敏感な西欧諸国の食卓では、畜肉を避ける傾向が強まっています。
ポール・マッカートニー氏は週に1日は畜肉を食べない「ミートフリーマンデー」を呼びかけ、誰でもできる地球温暖化問題への取り組みとして世界に広がりました。日本でも、気象庁や東京都庁の食堂がこの取り組みを行っており、週に1日は畜肉のメニューを提供しないことにしています。
筆者の研究室には毎年、欧州諸国から留学生がやってきます。2024年にはドイツとノルウェーから3名の留学生を受け入れました。ドイツ人留学生はベジタリアンで、「畜肉の消費は環境に良くないから」というのが理由でした。また同時期に逆にドイツに留学した日本人学生もいたのですが、ドイツの大学食堂で肉料理を食べていると冷ややかな視線を浴びることが多く、否応なしにベジタリアンになってしまったといいます。
ドイツの統計では、ベジタリアンやヴィーガンなど環境に配慮して食生活に制限をかけている人が人口の1割以上いるそうです。そこまで行かなくても、畜肉を食べることが環境に負荷をかけるのはすでに常識で、多くの若者が意識して畜肉の消費量を落としているといいます。
同じ畜肉でも、牛肉と豚肉、鶏肉では地球環境への負荷がかなり違います。国立研究開発法人である農研機構の調査によれば、牛肉の生産時に排出される温室効果ガスは、同じ重量の豚肉の4倍、鶏肉の10倍以上です。焼き肉を月1回我慢してその代わりに焼き鳥を食べるだけでも地球温暖化対策に貢献できるのです。これなら負担感もなく、簡単で効果のある取り組みだと思います。
地球温暖化を心配するなら
肉よりも魚を食べよう
でも、もっといい方法は代わりに魚を食べることです。漁船は航行時にCO2を排出しますが、その量は大きなものではありません。地球温暖化に対する影響では、環境の作り替えをしない漁業は間違いなく畜産よりも優れています。地球温暖化を心配するのであれば、動物性タンパク源を牛肉から豚肉や鶏肉に代えること、そして最終的に水産物に行き着くのが科学的で論理的な態度なのです。
ドイツでは水産物を食べる文化がないために、大豆ミートが流行しているそうです。しかし遺伝子を組み換え、化学肥料を大量消費して生産される大豆より、自然の中で生まれ育つ魚の方が環境にはずっと優しいのです。気候変動や地球温暖化を問題視しながら魚を食べず、牛肉を好んで食べる人の言葉を信用してはいけないと思います。
2019年の「国連気候行動サミット」に出席した小泉進次郎環境大臣(当時)が、日本の地球温暖化抑止の責任者にもかかわらず「毎日でもステーキを食べたい」と述べ、世界中の失笑を買いました。しかし、このような態度は日本人全体の意識を反映しているのです。日本人の多くは環境問題を知識としては理解しながら、行動に移す人はほとんどいないからです。
しかも、日本人が食べる畜産物のかなりの割合が輸入品です。国産品も、原料となる飼料はやはり輸入頼みですから、日本人の肉食への欲望が海外で環境を破壊し、温室効果ガスを排出させているとも言えます。実に無責任な話で、国内で自給できる水産物を多く消費するかつての日本型食生活に戻すこと、それが島国日本に暮らす私たちにとってあるべき姿なのだと筆者は思います。
スルメイカやサンマが
獲れなくなった理由
近年、スルメイカやサンマの大不漁が続きました。大きな理由の1つとして潮流の変化や海水温の上昇があると言われています。
かつてスルメイカは日本の漁業で最も漁獲の多い水産物の1つで、約30年前の1996年には40万トンを超える水揚げがありました(図4)。安くて美味しいスルメイカは、刺身や煮物、焼物など惣菜だけではなく、塩辛や珍味としても大量に消費されてきた、私たちには馴染み深い水産物でした。
しかし2016年以降は漁獲量が大きく減少、2023年には2.1万トンまで落ち込んでいます。10年前は日本中どこのスーパーでも解凍スルメイカを見かけたものですが、今ではまずありません。塩辛は値段が上がって内容量が減り、筆者も最近では食べる機会がめっきり少なくなりました。

同書より転載
同じように、サンマも資源量が大きな魚種であり、獲り過ぎて価格が暴落しないよう計画的に生産調整をしながら漁獲してきました。それでも2015年頃までは20万~30万トンを水揚げし、最盛期の秋半ばには1尾100円という手軽な値段で店頭に積まれていました。安くて美味しい庶民の味方だったのです。
しかし近年、サンマの漁獲量が激減しています。全国さんま棒受網漁業協同組合によれば、2022年にはわずか1.8万トンと過去最低を記録、2023年は2.4万トンとわずかに増加したものの、かつての10分の1という低水準です。
海水温上昇で
マイワシやブリは豊漁に
その一方でマイワシが豊漁です。1988年に449万トンと驚異的な漁獲量を記録した日本近海のマイワシですが、その後資源量が減少し、2000年代には10万トンを切る低水準になりました。価格が高騰し、「マイワシが高級魚に」と報じられたこともありました。
しかし近年は沿岸の海水温が上昇し、マイワシにとって快適な海が北海道の道東やサハリン沿岸まで広がりました。このあたりの海は栄養が豊富で、十分な餌を得たマイワシ資源が再び増大しているのです。ちょうどサンマと入れ替わるかのように、2023年には主漁場が道東釧路沖となり、漁獲量も69万トンと、日本で最も大量に漁獲される水産物になりました。
獲ろうとすればもっと獲れるのですが、あまりに大量に漁獲すると、水揚げ後の陸上での処理ができません。サンマ同様、漁獲しすぎて価格が暴落してしまわないように、現在は生産調整をしながら間引き操業している状況です。漁業は経営効率を考えながら操業しています。資源が多すぎて価格が下がりそうなら漁獲しなくなりますし、逆に資源が減少してコスト割れしそうでもやはり漁獲しなくなります。漁獲量は資源量を表してはいないことに注意する必要があります。

『日本漁業の不都合な真実』 (佐野雅昭、新潮社)
同時に、日本の中部以南の海を主な生息域にしてきたブリやサワラの漁場が北海道やオホーツク海まで北上しています。とくに天然ブリの北上は顕著です。北海道の漁獲量はここ数年、毎年1万トンを超え、日本最大の産地となりました。秋になり風が冷たくなる頃には、河川に遡上(そじょう)してくるサケを漁獲する定置網が仕掛けられますが、今ではこの定置網でサケではなくブリが大量に漁獲されるのです。
他方、肝心のサケの漁獲量は大きく減少しています。沿岸の海水温が高すぎて、低い水温を好むサケが川までたどり着けないためだといわれます。ブリが好む水温であれば、サケが帰ってこられないのは当然です。
1995年から2002年頃まで、全道で漁獲されるサケは10万~20万トンほどでしたが、北海道立総合研究機構の発表では2023年度の漁獲量は5万8000トンで、2024年度には5万トンを切りました。塩蔵サケやイクラを製造してきた道東の加工場の中には、ブリの切り身や照り焼きに切り替えるところも出ています。これまでの経験と常識では考えられない異変が出現しているのです。