再び忍び寄る円安インフレの足音、円建ての輸入物価は2024年7月以来の伸びに、インフレ圧力は国内物価に波及必至

円建て輸入物価は加速中

 4月24日、ロイターは月例経済報告関係閣僚会議において、日銀の植田総裁が「為替は所管でないのでコメントしないが、インフレ率への影響はあり得るので注⁠視している」と述べたことを報じている。円安がインフレに与える影響について参加者から意見を求められた際に、そのように発言したという。

 同じ趣旨のコメントはこれまでにも繰り返されているので意外感はないが、ドル/円相場に関し、今年1~4月平均のドル/円相場は約157円と前年同期(約150円)よりも際立って円安・ドル高の水準にある。

4月会合での利上げ期待はほぼ消滅している。写真は日銀の植田総裁(写真:つのだよしお/アフロ)

 2025年は円安に起因するインフレ圧力の輸入は認められなかったという言説が多く見られるが、それは2025年のドル/円相場が前年比で見ればほとんど横ばい、もしくは円高の時間帯が多かったからに過ぎない。

 もっとも、円建て輸入物価指数は昨年12月に11カ月ぶりの前年比上昇に転じた後、加速が続き、最新の3月時点では前年比+7.9%を記録している。これは今回の円安局面でドル/円相場が最高値をつけた2024年7月(同+10.6%)以来の大きな伸びだ。順当な展開を想定すれば、あと数カ月後に、こうしたインフレ圧力が国内物価に波及してくる可能性が高い。

 円建て輸入物価指数の浮揚は、見方を変えれば円安インフレの足音が企業部門にまで及んでいるということだ。ここから先、国内物価へ波及してくるかどうかを注目する段階にある。

円安と国内インフレ率の因果関係

 植田総裁は3月の衆院予算委で円安について問われた際も、「企業の賃金・価格設定が積極化するもとで、過去と比べると為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている」と円安と国内インフレ率の因果関係が強くなっている可能性に言及していた。

 現状、実務の現場に携わる者からすれば「円安とインフレは関係がない(あるいは薄い)」という主張は(理論的な説明はどうあれ)浮世離れしており、植田総裁の弁は至極真っ当なものだと言える。

 なお、金融引き締めに慎重な向きからは、足もとの円安がホルムズ海峡封鎖に伴う供給ショックに起因していることを理由に、「利上げで供給ショックは解消せず、景気を下押しするだけ」という見方もある。交易損失が実質賃金に与える影響が甚大な日本において、その視点が重要であることは間違いない。

 とはいえ、2022年3月頃も同じことが言われていたし、当時から現在までの経緯を振り返ると、そうして利上げを温存したことで実質金利が急低下し、これに伴う円安を通じてインフレ圧力が一気呵成に輸入されてきた印象が強い。結果、その時期を境に日本のインフレ期待が押し上げられ、企業部門の価格設定行動も大きく変わったのではないか。

 家計部門においても同様である。最新の日銀「生活意識に関するアンケート調査」では「5年後の物価上昇率(平均)」に関する回答が「+10.3%」と統計開始以来で最高を記録したことが目を引いた。図表②を見る限り、やはり2022年以降にインフレ期待が急騰しており、円安がそれを駆動した疑いは非常に強い。

現状維持はインフレ期待の安定に資するのか?

 もちろん、為替(円安)要因が全てと言うつもりはないが、短期間で円の実効相場が大幅に下落したことで、日本経済の主要貿易相手国に対する購買力は明確に劣化している。あらゆる財・サービスは為替変動と無縁でいられることはなく、2022年以降の円安がインフレ期待を引き上げるにあたってのショック療法となった可能性はある。

 本稿執筆時点で4月の日銀会合に関する利上げ織り込み期待はほぼ消滅しているが、過去4年間の経緯を踏まえると、果たして現状維持がインフレ期待の安定に資する政策決定と言えるのか一抹の不安は残る。

 植田総裁の弁を踏まえる限り、この点は4月の展望レポートで入念に点検が行われているだろうし、今後も要注視のポイントとして留意されるはずだ。4月会合が現状維持になるとしても、6月や7月に向けた地ならしは比較的強めに行われるものと考えている。

 過去の記事でも指摘したように、当面の日本の貿易収支は原油の備蓄放出効果もあって急激な悪化は避けられそうではある。そうして時間稼ぎをしているうちに、極力、金利面からの円安圧力は削いでおきたいというのが今の日本経済が置かれた状況ではないか。

※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2026年4日24日時点の分析です

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中

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