「トイレのTOTO」利益の半分は半導体。極めた技術が生んだもう一つの顔

TOTOは、神奈川県・茅ヶ崎に研究拠点を構えている。
TOTOと聞いて、多くの人が思い浮かべるのはトイレや水まわりなどの住宅設備だろう。イラン情勢の影響で、トイレユニットやユニットバスの受注を一時停止したことも大きな話題となった。
しかし同社には、もうひとつの顔がある。高度なセラミックス技術で最先端の「半導体」の製造を支えるプレイヤーという一面だ。
TOTOの半導体関連部材を含む「新領域事業(セラミック事業)」の2025年3月期の売上高は503億円(前年比プラス138億円)。TOTO全体の売上高7245億円に対して1割以下と小さい。それにもかかわらず、同事業部ではTOTOの全営業利益485億円中約4割となる204億円(前年比95億円増)を稼ぎ出す。

TOTOの売上高、営業利益に占める半導体関連事業(新領域)の内訳。
データセンターやAIブームの追い風もあり、4月30日に発表を控える2026年3月期通期決算ではさらなる成長が期待される。業績予想では、セラミック事業の売上高が670億円になる見込み。営業利益も270億円とTOTO全体の営業利益の半分以上をカバーする計画だ。広報によると、同事業部ではホルムズ海峡閉鎖による原材料調達等の影響もない。
いまやTOTOの屋台骨を支えているセラミック事業だが、大きく成長し始めたのはここ数年のことだ。その歩みは決して順風満帆ではなかった。
「トイレのTOTO」が半導体に重心をかけ急成長するまでの背景を、執行役員セラミック事業部長の升本浩之氏に聞いた。
利益の4割を稼ぐ、TOTOの半導体製品

取材に応じる、TOTO執行役員セラミック事業部長の升本浩之氏。入社以来、ずっとセラミック事業に携わってきた。
「AIを中心とした半導体市況の活況という外的要因と、スマートファクトリー化による事業体質の改善という内的要因があります」
入社以来、セラミック事業一筋だという升本氏は、近年の好調の要因をそう説明する。
TOTOの半導体事業の売り上げの多くを占めているのが、「静電チャック」と「AD(エアロゾルデポジション)部材」と呼ばれる半導体部材だ。静電チャックは半導体製造装置のチャンバー(真空容器)内で、シリコンウェハを電気的な力で吸着、固定するためのもの。装置ごとに必要なサイズや性能が異なり、年単位で交換需要もある。
「半導体装置にあわせて静電チャックを納入すれば、(交換需要で)後々2倍、3倍の需要を生む。それもビジネスが伸びる要因になっています」
と、升本氏は説明する。

TOTOが製造する、静電チャック。この上にシリコンウェハを載せて、電気的に吸着する。
AD部材は半導体製造装置のチャンバー内壁の保護に使用されている。
「チャンバー内は強力なプラズマが飛び交う過酷な環境ですが、数ナノレベルの最先端半導体では1ナノメートルの“ちり”も許されません。極限の環境でも発塵しない。高い耐久性を持つ部材を提供できるのが、私たちの最大の強みです」
いずれの製品も、その品質の高さから特に最先端メモリーの製造装置などに導入される。
トイレ製造で極めた「焼く技術」と「磨く技術」

トイレで知られるTOTO。その真髄は、長年にわたる陶器(セラミックス)を加工する技術にある。
TOTOは1917年に東洋陶器として創業した老舗企業だ。創業当初から「陶製腰掛式水洗便器」などの開発を続け、衛生陶器の国産化を推進。今では、国内トップシェアはもちろん、世界でも知られた存在だ。事業の拡大や海外展開の加速に伴い、1970年には東陶機器に。2007年にはTOTOへと社名を変更した。
「トイレ」の印象が強いTOTOが、なぜ半導体を支える存在になったのか。セラミック事業が本格的に事業部として独立したのは、実は1984年と40年以上も前にさかのぼる。
もともとTOTOでは1976年から、高機能性を持ったセラミック、いわゆる「ファインセラミックス」の調査・研究に参入していた。その後、1980年前後の第二次オイルショック期を経て、省エネ・高耐熱素材としてファインセラミックスに産業界の関心が集まるようになっていった。そこに、TOTOがトイレの便器等の製造で長年培ってきた「陶器を繊細に加工する技術」がハマった。

セラミックス素材を研磨する様子。
TOTOには、トイレの便器をはじめとした伝統的な陶器製品「オールドセラミックス」の製造において、粒径をミリ単位で制御したり、細かく加工したりする高い技術があった。ファインセラミックスでは、さらに細かいミクロン(1000分の1ミリ)単位での管理が求められる。
「一見すると畑違いに見えますが、便器はかなり複雑な形をしています。それを均一に焼く『焼成』の技術や、削って『磨く』という加工精度を出せる技術があった。ファインセラミックスの市場ができる中で、自分たちの強みが生かせて、世の中にも貢献できるんじゃないかと考えたんです」(升本氏)
こうしてTOTOは1984年にセラミック事業部を立ち上げると、蛇口についている水と湯を切り替える混合栓バルブ部品やセラミックヒーターなど、さまざまな商品を開発した。市場開拓を進める中でフォーカスしていくことになったのが、光通信分野、そして半導体だった。
光通信分野が急成長も、震災で大幅縮小
現在のTOTOの半導体領域を牽引する静電チャックは、1982年から開発をはじめ、1988年から量産がスタートした。当時から、半導体の製造環境が将来的により過酷化すると見越し、大量のプラズマを浴びても摩耗せずにシリコンウェハを固定できる「静電チャック」のような素材が必要だと考えていた。
ただ、事業として先に芽が出たのは、光通信分野だった。

光ファイバのケーブルをつなぐコネクターの主要部品である光フェルール(左)とレセプタクル(右)。TOTOのセラミックスの技術が生かされていた。
TOTOは、1990年代から2000年代にかけて、データセンターなどの通信網を支える光ファイバー用の部材(光フェルールやレセプタクル)を開発・販売。2000年ITバブル期には売り上げを牽引した。
光ファイバーの束をうまく接続するには、セラミックでできた小さなコネクタに、無数のマイクロ単位の微細な穴をずれなく正確に開ける必要がある。TOTOにはこの技術があった。
ただ、同分野はその後不遇の道を歩む。ITバブルの崩壊や、2009年のリーマンショックを乗り越えて再成長に向かっていた矢先の2011年、東日本大震災が発生。主力工場が福島第一原子力発電所から20km圏内の避難対象地域に含まれていたため、立入禁止となった。別の場所に新たな設備を建設することは難しく、安価な中国製品の台頭もあって、TOTOは光通信分野の事業を大きく縮小せざるを得なくなった。
半導体、利益ゼロの年も

セラミック事業は、売り上げが伸びてもなかなか利益率が伸びなかった。ただ、改善できる余地も多いことは認識していたという。
市場のニーズを掴んでいた光通信部門の縮小は、大きな痛手だった。それでも、震災前後から静電チャックをはじめとした半導体関連部材が少しずつニーズを掴み始めていた。2017年度には、静電チャックの需要が急増しセラミック事業の売上高は200億円を突破した。
もっとも、半導体市場には約3〜4年の周期で「シリコンサイクル」という景気循環の波がある。需要が立ち上がりはじめても、一筋縄ではいかなかったと升本氏は振り返る。
実際、2016年頃に静電チャックの需要が急増した際には、TOTOは「増員」で生産をカバーした。当時の製造現場では、製造から検品までの工程に少なからず人の手が必要だった。
しかし、人の手による作業はどうしても品質にばらつきが生じ、歩留まりは悪い。売り上げは伸びてもほとんど利益が出なかった。2013年移行、2020年まで利益率は10%以下と低迷を続け、シリコンサイクルの低調期である2019年には、売上高167億円に対して営業利益はゼロだった。
ただこの頃から、TOTOはセラミック事業の抜本的な改革を進めていくことになる。

2025年までのセラミック事業の売り上げと営業利益。2019年は営業利益がゼロだった。