なぜANAは"一斉足切り"を選んだのか JALとの比較で見えた戦略の差 ついにメスが入った上級会員制度
2026年4月23日、ANAのヘビーユーザー界隈に激震が走った。2028年度から、ANAマイレージクラブの上級会員「スーパーフライヤーズカード」会員の条件が変わり、年間決済額が300万円以上でないと空港のラウンジが利用できなくなると発表されたのだ。
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「スーパーフライヤーズカード」会員のルール変更を伝えるANAのサイト(画像:ANAホームページより)
ここで念のため、「スーパーフライヤーズカード」会員とはいかなるものなのか、おさらいをしておきたい。
「貢がざる者上級会員を得るべからず」
世界の主要航空会社はいずれもマイレージプログラムに上級会員の制度を設けている。そのほとんどは毎年フライトの距離や頻度、フライトに利用した金額に応じて翌年の上級会員の維持が決まる。言い換えれば「貢がざる者上級会員を得るべからず」というわけだ。
ところが、世界中のマイレージプログラム界に、2つだけかなり異質な上級会員が存在してきた。それがANAマイレージクラブの「スーパーフライヤーズカード(以下SFCと省略)」とJALマイレージバンクの「JALグローバルクラブ(以下JGCと省略)」である。
この2つの会員は、いずれも特定のある年に上級会員を獲得したうえで、提携クレジットカードの会員となると、それ以降は極端な話まったくフライトに乗らなくてもカードの年会費を払い続けるだけで上級会員が維持できるという日本独自のガラパゴス的な制度だった。
この制度は古くから議論を呼んできた。
ANAは1999年にスターアライアンス、JALは07年にワンワールドというアライアンスにそれぞれ加盟しており、アライアンス内であれば他社のラウンジも自由に利用できる制度となっている。
ところが、他社の上級会員がすべて毎年のように実績を積んでステータスを維持しているにもかかわらず、ANAのSFCやJALのJGCはカード所持だけで半永久的に上級会員が維持できる。これは不公平ではないのかという声は00年代にはすでに存在していた。そのため、この制度が「改悪」されるのではないかという声は毎年のようにネット上でささやかれていた。
先に動いたのはJALだった。24年1月から「JAL Life Status プログラム」へと移行。既存のJGC会員は従来どおりカード保持によって上級会員維持を認める一方で、新規のJGCになるためには、非常に高いハードルを設定。それにより、新規参入を絞るという形をとったのだ。
言い換えれば「既存の会員にとって甘く、新規で獲得しようとする人には厳しい」ルールとなった。
ルール変更点
これに対してANAは今回どのようなルールを設定したのだろうか。
詳しくはANAのサイトで確認できるが、次のようになる。
2026年12月16日から2027年12月15日までの「判定期間」にANAカード・ANA Payの決済額が300万円を超える
↓
「ANAスーパーフライヤーズカード SFC PLUS」となり、従来どおり、スターアライアンス・ゴールドのステータスとANAラウンジへのアクセスが認められる(マイル特典として5000マイルも獲得)。
2026年12月16日から2027年12月15日までの「判定期間」にANAカード・ANA Payの決済額が300万円未満である
↓
「ANAスーパーフライヤーズカード SFC LITE」となり、スターアライアンス・シルバーのステータスを獲得。ANAラウンジを含むスターアライアンスのラウンジは利用できない(ANAグループ運航便搭乗時、ラウンジ以外の各種サービスについてはこれまで通り利用できる)。

現在、SFC会員は自動的にスターアライアンス・ゴールド会員となり、スターアライアンス提携各社のラウンジにくわえて、スターアライアンスラウンジも利用できたが、2028年度以降は「ANAスーパーフライヤーズカード SFC PLUS」のみが利用可能となる(画像:スターアライアンスホームページより)
この制度変更はSFCの獲得時期にかかわらず、すべての人が対象となる。
なお、ANAグループ運航便において100万ライフタイムマイルに到達すると、決済額にかかわらず「ANAスーパーフライヤーズカード SFC PLUS」となる例外がある。
300万円以上というハードルについて、家族会員の利用分は本会員の利用分に合算される。また、ANAカードからANA Payへのチャージは対象外となる。
このニュースが流れると、Xなどは賛否両論を含む多数の意見であふれた。
これらの意見は大きく分けて3つに分類される。
・いまのANAラウンジはあまりにも混雑している。今回の改定でラウンジに入れる人が減り、改善されるだろう。
・企業が継続的に貢献する顧客を優先するのは当然のこと。
・年間300万円の決済額は月25万円。メインカードにするならそれほど高いハードルではないだろう。
反対派の主張
・ANAはかつてSFCを「永続的なサービス」と謳っていた(その画像をキャプチャーしたものをアップする人も現れた)。
・決済額300万円というハードルは高すぎる(メインカードなら可能でもANAカードをメインカードにはしたくない)。ラウンジにそこまでの価値はない。
・ANA自体がプレミアムポイント2倍キャンペーンで修行を誘発する状況をつくり、上級会員を増やしておいて金額でハードルを設定するのはフェアではないのではないか。
・自分は安全地帯にいると高みの見物で、ラウンジ利用が維持できないと慌てている人を冷笑する姿はどうなのか。
・赤組(JALの上級会員)なので直接的な影響はない。
あげるとキリがないが、ともかくネット上の航空界隈は一時この話題で持ちきりとなった。
なお、2026年12月1日以降に適用される「ANAスーパーフライヤーズ会則」を確認すると、次のようになっている。

2026年12月1日以降に適用される「ANAスーパーフライヤーズ会則」(画像:「ANAスーパーフライヤーズ会則」より)
この会則から読み取れることは、金額などの条件に応じてSFCを区分することは会則に定めるほど固定的であるということだ。その一方で年間300万円が永続的などうかはもちろん分からない(少なくとも当面はほぼ確実に現状のままと推定はできるが)。
客観的な視点にたてば、ANAマイレージクラブにおいてSFCのクレジットカード維持によるラウンジ利用とスターアライアンス保持はハードルが低いといえる。ANAのダイヤモンド会員の維持に必要な年間の獲得プレミアムポイントが10万ポイント、ANAのプラチナ会員は5万ポイントとなる。
これらをフライトのみで達成するためには、それぞれ少なく見積もっても年間100万円、50万円以上は必要となる。さらに昨今は航空券や燃油サーチャージの高騰もあり、その維持コストは高くなりつつあった。
それに対してSFCの維持はクレジットカード維持費のみでも年間1万円台(ANAスーパーフライヤーズ ゴールドカードの場合1万6500円)にとどまり、その差は優に数十倍を超える。そのため、すでに記事内で述べたようにメスが入ることは長い間想定されてきた。
JALとANAの違い
JALが既存のJGC会員の条件を変えずに新規参入のハードルを上げることに対してANAが全会員を対象にハードルを上げたことで、両社の思想のちがいがクリアとなった。ANAの方法は、どの世代にとっても平等といえるのかもしれないが、既得権益を持っている多くの会員からの反発は当然のことながら大きなものとなる。
コアな層は純粋な消費なのか、あるいは家族会員の消費の合算によるものなのかはともかくとして、年間300万円のハードルをめざすだろう。だが、300万円という消費はANAに対してある程度顧客として「忠誠」をつくすことになり、そのハードルに達せずに脱落する人はかなり多いことが想定される。

国内線のANAラウンジが利用できるクレジットカードとして、ANA VISAプラチナ プレミアムカード(年会費税込み9万6800円)、「ANA JCB カードプレミアム」(年会費税込み7万7000円)などがあげられる(画像:ANAホームページより)
ANAの国内線利用が中心となる人であれば、所持するだけで、ANAラウンジに無料で入室できるクレジットカードの会員になるのも解決策の一つである。そのなかで最安なのが、「ANA JCB カードプレミアム」だ。年会費は税込み7万7000円と高いが、入会・継続ボーナスが年間1万マイルもらえる。
VISAカードがよいということであれば、三井住友カードのANA VISAプラチナ プレミアムカード(年会費税込み9万6800円)が選択肢になるだろう。
その選択をとらない場合、ANAラウンジではなく、クレジットカード会員を対象としたラウンジへ客が移行し、混雑することが想定される。これらのカードラウンジは、日本発行のゴールドカード相当のクレジットカードを所持していれば入室することが可能だからだ。
日本国外の場合は、一部のクレジットカードに付帯するプライオリティパスでのラウンジ利用者が増えるだろう。
別の選択肢もある
筆者も利用している「三菱UFJカード・プラチナ・アメリカン・エキスプレス®・カード」の場合、年会費2万2000円(家族会員1名までは無料)で、世界中のプライオリティの提携ラウンジを回数無制限で利用することができる。
ネット上では、「ANAに裏切られた」というニュアンスの投稿も見られた。だが、マイレージプログラムの世界で生殺与奪の権を握っているのは原則として航空会社である(顧客のクレームにより、プログラムの改悪が中止になった例は存在する)。
ただし、顧客は他の選択肢を選ぶこともできる。ANAの戦略にしたがって年間300万円の決済をめざす人が多くなり、ANAにより多くの収益をもたらす可能性も、あるいは今回の改悪でANAの利用頻度を減らし、結果としてANAの収益悪化となる可能性もある。今後のゆくえによっては300万円という条件になんらかの影響をおよぼす可能性もあるだろう。
いずれにせよ、ユーザーとしては、与えられた状況のなかで最善手をつくすしかない。それがマイレージ界の掟であることが今回も再確認されたといえよう。