【香港】温かい弁当自販機を日本中に[サービス]香港発企業の挑戦、人気店も導入

「お弁当物語」北浜店の自販機で売られている「だしから弁当」=4月、大阪市(NNA撮影)

温かい弁当を自動販売機で提供する——。香港発のスタートアップ、和田フードテック(東京都千代田区)が日本で事業を拡大している。調理から販売まで65度以上を保つ独自の「ホットチェーン」を武器に、飲食店やホテル、学校などで約20台を投入。5月からは人気の台湾料理店「麻膳堂」の弁当の自販機も手がけることになった。オーストラリアや英国、米国など海外市場の開拓にも乗り出しており、人手不足が続く飲食業で、無人販売の新たな形として注目されそうだ。【トウ淇文】

ランチタイムを過ぎた大阪のビジネス街・北浜の午後。弁当の自販機の中では、商品がゆっくりと回転していた。近くのオフィスで働く女性が選んだのは「だしから弁当」(680円)。取り出すと手に持てる程度の熱さで、全体がほどよく温まっていた。

「コンビニみたいにレンジにかける手間がないのがいい」。その日は結局仕事が立て込み、弁当を食べられたのは購入から約2時間後だったが、まだ温かさが残っていたという。

自販機は深夜0時まで稼働している。女性は「残業で夕食が遅くなった時にも使えそう。味と量も満足できるもので、リピートできると思う」 と話す。

■日本での経験を基に着想

女性が利用したのは、弁当チェーン「お弁当物語」北浜店に設置されている和田フードテックの自販機日本1号機だ。調理から販売まで商品を65度以上に保つホットチェーンを通して、出来たてに近い状態の弁当を届けることができる。これにより消費者はいつでも手間いらずで温かい弁当を食べることができ、飲食店は実店舗以外にも販売チャンネルを広げ、閉店後や従業員を配置しにくい時間帯にも営業することが可能となる。また、AIoT(人工知能=AIとモノのインターネット=IoTの融合)を駆使して温度や位置、湿度はクラウド上で常時監視され、異常時には自動で警告が発せられる。

このホットチェーンは、もともと電子工学の専門家で東京大学への留学経験もある和田フードテックのジェイソン・チェン最高経営責任者(CEO)と技術チームが、創業地の香港で構築した。香港では食品衛生当局が4~60度の「危険温度帯」での保管や陳列を原則認めておらず、4度以下で管理するコールドチェーン(低温物流)で商品を管理するのが当たり前だった。

和田フードテックのジェイソン・チェンCEO=4月、東京都(NNA撮影)

こうした中、日本留学時代に日本の弁当文化と自販機に着想を得たチェン氏は、「温かい弁当を提供しよう」と、ホットチェーンで商品を届ける仕組みの構築に挑戦。ついに高温での温度管理が可能な弁当自販機を開発し、香港当局からも食品衛生面での安全性と信頼性が認められた。従来の低温管理とは異なる流通モデルを生み出したのだ。

■温かいと「反応が変わる」

香港で40~50台を設置する実績を積み、満を持して2023年、チェン氏の原点とも言える日本に上陸。日本と香港で異なる電圧やPSE認証(電気用品安全法)の取得など技術面の壁を乗り越え、23年11月に大阪に第1号機を設置した。その後も建設現場やホテル、大学など設置先を広げていった。

建設現場に設置された自販機(和田フードテック提供)

25年には東京にオフィスとショールームを設け、実際に弁当を機械に入れて試食できる環境を整えた。顧客のフィードバックを基に、日本チームが製品改良を進めている。現在は内部にプラスチック部品を使わない第6世代機を投入している。

チェン氏は、日本の弁当市場について「どこにでも需要はあるが、どこででも買えるわけではない」と指摘する。コンビニなどで売っている冷えた弁当をそのまま食べる消費者はいるが、温かいままで提供すると、やはり反応は変わるという。

加えて飲食業界では人手不足が深刻だ。チェン氏は、無人販売が可能な弁当の自販機は十分ビジネスチャンスがあるとみる。ビジネスモデルとしては、地域ごとに加盟事業者を置くマスターフランチャイズ方式にも乗り出した。加盟事業者が設置先を開拓し、和田フードテックは初期費用と維持費用を受け取る仕組みで、これにより九州や北海道などへの展開も視野に入れる。

その一環として、今年5月からは台湾料理の名店の弁当も販売する。台湾のソウルフード「麻辣牛肉麺」や「滷肉飯」で知られる麻膳堂の日本店を運営するアセンションインターナショナル(東京都台東区)と契約を交わし、東京・蔵前で自販機3台を設ける予定だ。

アセンションのジョナサン・スー取締役はNNAに対して、和田フードテックの技術について「温かい弁当を販売する経験値を向上させるだけでなく、当社が目指すフードテックや商品開発、新たな販売チャンネルの方向性とも合致している」と説明する。また、安定した温度管理で販売できる範囲が広がるほか、人件費や原材料のロス、食品廃棄の抑制にもつながるとみる。

麻膳堂はその第1弾で、今後は韓国、タイ、ベトナムなど、さまざまな国の料理の弁当を計画しているという。

■オーストラリアや米国、英国にも

事業は拡大基調にある。チェン氏によると、25年には500万米ドル(約7億9,600万円)を資金調達し、累計調達額は1,000万米ドルに達した。日本法人も黒字化のめどがたった。同社の自販機を通しての弁当販売数は世界全体で累計120万食に上る。

米国で展示された自販機=米ニュージャージー州(和田フードテック提供)

今後は海外展開も加速する。「日本の厳しい品質要求に対応したことが海外展開にも生きる」(チェン氏)。海外では人件費の高い市場が狙い目とみている。オーストラリアでは西部パースに投入され、26年3月には追加の6台が設置された。英国では日本から出荷した機械を用いて試食会を実施し、米国でもニュージャージー州で現地事業者との連携を進めている。

「食品サービスの市場は大きい。自動化で朝から深夜まで働く飲食店の負担を少しでも軽くしたい」。日本で得た手応えを足掛かりに、温かい弁当の無人販売を世界規模で広げる考えだ。