「中国勢にはもう勝てないのか」世界の企業幹部1000人が打ち明けた「SDV開発」の重い現実――再利用率48%が示す競争条件の変化
主導権構造の転換局面
アリックスパートナーズが公表した「ソフトウエア・ディファインド・ビークル(SDV)に関する調査レポート」によれば、日米欧韓の自動車・部品メーカーは、複数の指標で中国勢に後れを取っているようだ。
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本調査は2025年11月から12月、米国、欧州29か国、英国、中国、日本、韓国、インドを舞台に行われた。自動車メーカーやティア1サプライヤー、テクノロジー企業の最高経営責任者(CEO)から電気・電子(E/E)アーキテクチャの責任者に至るまで、SDV開発の舵取りを担う上級幹部1002人の声を拾い上げている。
ソフトウェアの主導権や再利用のしやすさ、あるいは車の一生を通じた収益性といった面で、中国勢が優位を広げている実態が浮かび上がっている。価値の置きどころがハードウェアの所有からソフトウェアによる体験の更新へと移るなかで、その中身を決める力が弱まっている点に本質はあるのだろう。中国勢がソフトウェアを常に動く中核の資産と位置づける一方で、日米欧韓にはいまだに
「追加機能」
として扱う傾向が残る。こうした考え方の違いが、投じた資本がどれほど利益につながるかという効率の差に、そのままつながっている。
それぞれの地域の企業は、置かれた事情のなかで戦略を選んできたはずだ。今回の結果に見る差は、企業のあり方や組織の形、あるいは投資をどこに振り向けるかといった、より根本的な判断の違いが表れている。
アリックスパートナーズの鈴木智之氏は、この現状を「多くの人が認識している以上に、中国の自動車メーカーやテクノロジー企業に移りつつあります」と指摘する。
「SDVは『グローバル自動車産業の未来』です。しかも多くの場合、欧米・日本のメーカーやサプライヤー自身がその主導権を手放しているのが実情です。重要なコントロールポイントでの影響力を失えば、将来の選択肢が狭まり、コスト競争力が低下し、車両ライフサイクル全体を通じたSDVの恩恵を取り込むことが難しくなります」
鈴木氏の言葉は、日米欧が直面しているのが一時的な遅れではなく、将来の存立基盤に関わる問題であることを物語っている。
内製化率に表れる統御構造の格差

SDVの定義と全体像(画像:PwC Japan)
SDVの開発現場では、自社でどこまで賄うかという内製の比率に明らかな開きが見て取れる。中国が41%に達しているのに対し、米国は25%、欧州は27%、日韓は37%にとどまる。この数字の差は、車の挙動をどの企業が掌握するかという、主導権の所在に直結する。
自前でソフトウェアを書き上げる体制があれば、不具合の修正や機能の追加を自らの判断で即座に行える。一方で外部への依存度が上がれば、それだけ調整の手間が増え、歩みも鈍らざるを得ない。製造業としての地平で戦うのか、あるいはソフトウェアを中心とした組織へ脱皮するのか。その立ち位置の違いが、この内製化率に表れているのだろう。
ソフトウェアの組み立て方についても、地域ごとの思想がわかれているようだ。中国では59%が更新を前提とした柔軟な基盤を取り入れている。対照的に、米国は59%、欧州は67%、日韓も67%が、これまでの仕組みをそのまま引き継ぐ道を選んだ。
既存の枠組みを使い続けることは目先の安定には寄与するが、新機能を取り込もうとする際には大きな重荷となる。ソフトウェアを先行して進化させる土壌を整えた中国と、過去のしがらみから変化の幅を狭めている他地域。そのコントラストは、時間が経つほどに鮮明になっていくのではないか。
車両全体の構造を見ても、同様の傾向がうかがえる。全体をまとめて制御する最新の方式を選んだのは中国で39%。対して米国は60%、欧州は67%、日韓は55%が、過去の部品を寄せ集める手法を続けている。これまでの取引先との関係や既存の設備を守るための判断ともいえるが、結果としてシステムを複雑にしている側面も否定できない。
ゼロから更新を前提に作り上げた中国と、過去との整合性に重きを置いた日米欧韓。この選択の違いが、のちの更新作業で発生するコストや手間の差として、重くのしかかってくることになるだろう。
ソフトウェア設計思想の分岐点

中国(画像:Pexels)
収益化の壁については、地域の枠を超えて共通の悩みが横たわっているようだ。調査によれば、自動車メーカーの94%が現在載せているSDV機能のうち、有料で提供できているものは半分に満たないと明かしている。その背景にあるのは、
・技術的な限界
・利用者側の意識
だろう。いまの無線更新は不具合の直しが主な役割となっており、利用者がわざわざ対価を払うだけの価値を提示できているとはいい難い。5万ドルから10万ドルもする高額な車を手にする層からすれば、機能が磨かれるのは当たり前の振る舞いとして映る。
同社の自動車&製造業プラクティスにおけるパートナー&マネージング・ディレクターであるヒマンシュウ・カンデルワル氏は、この期待と現実の乖離と、目指すべき真の価値について次のように述べている。
「欧米・日本の自動車メーカーのほぼすべてがSDV機能の収益化に苦戦しているという現実は、多くを物語っています。SDVの本質的な価値は追加収益ではなく、R&Dから生産現場に至る企業全体の効率化にあります。5万~10万ドルの車両を購入した顧客は、OTAアップデートを当然のものとして期待していますが、実際に提供されているのはバグ修正が大半です。また、“ワールドカー”という前提も崩れつつあります。欧米や日本の自動車メーカーおよびサプライヤーは、単にビジネスケースを見直すだけでなく、オペレーティングモデルそのものを再考する必要があります」
不具合を直したという知らせに対して、さらなる支払いを求めるやり方は、なかなか受け入れられないのが現実ではないか。もはや価値の源泉は、目に見える何かを売ることよりも、開発や生産の仕組みを整え、全体の効率をいかに高めるかという一点に移りつつある。
ソフトウェアを使い回す仕組み、すなわち再利用の面でも大きな開きが見られる。中国が48%に達する一方で、米国は31%、欧州と日韓はともに33%にとどまり、15ポイント以上の差がついている。企業の成り立ちで見ると、IT企業の39%に対して、ティア1サプライヤーは19%とさらに厳しい。この再利用率という指標は、開発の現場がどれほど整理されているかを雄弁に物語る。機能を部品のように蓄え、繰り返し使える形を整えた中国に対し、他の地域ではいまだに案件ごとに一から作り上げる古い手法が色濃く残る。開発にかかる人手と時間を削ぎ落とせない体質が、そのまま競争力の差となって表れているのだろう。
メーカーが内製化へとかじを切るなかで、ティア1サプライヤーもまた、立ち位置の変え方を迫られている。これまで彼らが担ってきたシステムを取りまとめる役割は、メーカーの懐へと取り込まれ始めている。情報を囲い込むことで利益を得てきた従来のモデルは通用しなくなりつつあり、ソフトウェアの領域でどのような貢献ができるのか、その力量が問われている。
部品をまとめて納めるという商売から、ソフトウェアの深い階層へいかに関わっていくかという、より本質的な場所へと価値の重みは移っている。
組織設計と資本回転速度の非対称性

中国(画像:Pexels)
今回の調査結果を俯瞰してみると、そこにあるのは技術の優劣という表面的な話ではなく、開発の出発点となる条件そのものが、地域ごとに大きく異なっている実態が浮かび上がる。組織のあり方ひとつをとっても、中国が高い内製化率を背景に判断の多くを社内に集約させているのに対し、米国、欧州、日韓は依然として
「外部への依存度」
が高い。これまでのやり方を保ちながら分散した体制を続ける他地域とは対照的に、中国は資金を素早く回して開発の回転を上げている。日米欧は過去の資産への投資が重荷となり、どうしても動きが鈍くなっているようだ。
ソフトウェアの組み立て方においても、その思想の差は鮮明だ。中国が何よりも更新のしやすさを重く見ている一方で、日米欧は過去の部品とのつながりや安定を優先している。未完成に近い状態でもまず市場に出し、その後に改良を積み重ねていく中国。対照的に、最初から完成度の高さを求めるあまり歩みが遅くなる他地域。この対比は、利益を得る手法にも表れているだろう。中国が車の機能を組み合わせて新しい収益の形を模索しているのに対し、日米欧はいまだに従来の販売方法に新機能を付け加えるという試行錯誤の途上にある。
こうした状況を踏まえると、向き合うべき論点はいくつかに絞られる。今ある設備や部品を使い続けることを優先するのか、それとも投資効率を高めるためにそれらを見直すのか。工場を出た時点を完成形とする製品を売るのか、あるいは納車後も中身が変わり続けるものを届けるのか。そして、自らの体制をソフトウェア中心の形へと移すのか、製造業の延長線上で進むのか。これらは、今後の生存を左右する問いになるだろう。
日米欧の歩みは、これまでの自動車という枠組みを磨き続ける道に近い。対する中国は、車を巨大な計算の仕組みの一部と捉え、外の環境に合わせて中身を入れ替え続ける方向へとかじを切っている。先に触れたソフトウェアの再利用率において他地域が低水準にとどまっている事実は、これまでのやり方を守ろうとする姿勢が、新しい形への移行を遅らせている現状を物語っている。
どちらの道が残るのか。それは技術の差というより、市場がこれからどのような形を求めていくのか、その一点にかかっているのではないか。
再利用性が規定する開発競争力の差

SDV開発の国際比較と課題。
地域間で生じているこうした差は、これから先、競争の行方を左右する重い要素として働いてくるだろう。なかでもソフトウェアの再利用率に開きがあるという事実は、そのまま開発スピードの差へと直結する。
自社で手がける割合を高めた組織は、実車を走らせずとも仮想の環境で数百万km分もの検証を終える力を備えつつある。確認作業がデジタル空間へ移っていくなか、日米欧が重んじてきた「現物による確認」という手法は、中国の圧倒的な速さの前にその効力を失いかねない。
内製化がどこまで進むかは、技術力というよりも組織のあり方に左右される側面が強いからだ。同時に、無線更新による収益化が軌道に乗るかどうかも、技術的な課題というより、市場がその価値を認める仕組みを整えられるかにかかっている。
SDVをめぐる争いは、もはや個別の技術の出来栄えだけで決まる段階を越えている。組織の形や収益の上げ方、そして車の作り方そのものが、いま同時に変わりつつあるのだ。それぞれの地域は置かれた条件のなかで理にかなった判断を下しており、その積み重ねが現在の数字の差となって表れている。
この競争の本質は、既存の商売の枠内での勝ち負けではない。車の販売というモデルから、
「ソフトウェアを通じた管理」
というモデルへ、商売の枠組み自体を移していく過程そのものなのだ。日米欧韓のメーカーがこの差を埋めようとするならば、これまでの強みであった仕事の進め方を一度見直し、作り替える作業を避けては通れないだろう。この先、この溝がどう変化していくかは、規制や市場の動向といった外部の条件に委ねられているだろう。