テスラは維持、BYDは激減…「新・EV補助金」で明暗分かれた黒船2社、日本攻略の勝ち筋は?

テスラはガソリン車との燃料対比では数十万円相当の節約効果が見込めるという(写真はイメージです) Photo:JIJI

日本の自動車市場は「EV不毛の地」とまで言われるほど、EV普及率が低い。にもかかわらず、米テスラと中国BYDが日本攻勢に改めて舵を切るという。イラン情勢の影響でガソリン価格の高騰が懸念される中、EVが再び注目される可能性もあるが、果たして……。(佃モビリティ総研代表 佃 義夫)

トヨタは全方位で過去最高

EV専業のテスラやBYDは…?

 トヨタ自動車の2025年度(25年4月〜26年3月)の世界販売台数(トヨタ、レクサス両ブランド)が1047万台(前年度比2.0%増)と過去最高となった。いわゆるトランプ関税の逆風が吹く中でも、ガソリン車やハイブリッド車をはじめ、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)そして電気自動車(EV)と、あらゆる選択肢を提供する「全方位戦略」が勝因のひとつと言えるだろう。

 ところで、一時期は世界的に大注目されたEVは、欧米における需要減退でかげりが見えている。かつてEVのリーダーだった米テスラの25年(暦年)の世界販売台数は約164万台。その同社を抜いてEV首位に立ったのが、中国のBYDであり、25年は同約225万台(前年比27.9%増)となった。しかしそのBYDでさえ、26年1〜3月の世界販売は前年比約20~40%減と失速している。

 特に日本ではEV自体が伸び悩んでおり、新車販売のうちEVは2%にも満たない状況だ。そうした中でも、テスラやBYDが今、「日本流」で販売強化に乗り出している。

 日本自動車輸入組合が発表した25年度(25年4月〜26年3月)販売実績では、テスラが約1万3000台ほど※(前年の約2倍)、BYDは4536台(同)と確かに勢いはある。※同社が大半を占める「その他」の台数より

 今後のカギを握るのが、国のEV購入補助金制度だ。4月から制度が変更されたことにより、各社で「悲喜こもごも」の結果となった。この影響は大きい。

テスラがミニバン需要を狙って

日本投入するEVの補助金額とは

 テスラジャパンは4月3日、「モデルYL」を日本発売すると発表した。テスラのベストセラーであるミッドサイズSUV「モデルY」の派生車種であり、3列シートの6人乗り。「ミニバンの利便性を超える可能性がある。日本のEV空白地帯となっているファミリー需要を獲得していく」(橋本理智テスラジャパン社長)と意気込む。

 注目は補助金の額だ。4月に制度変更も、「127万円の補助金が継続できた。テスラのこれまでの実績を評価された」(同)という。モデルYLの価格749万円に、国の補助金127万円が適用される。さらに東京都在住なら都からも基本的に40万円(条件により最大80万円)が適用される。

 テスラジャパンは、この新型車発売をきっかけに販売・整備店舗をいっそう拡大させる。これまではオンライン販売が主体だったが、「テスラアドバイザー」を増員して、実店舗における接客・試乗を重視していく。

 テスラ車を4月1日以降に注文し、6月30日までに納車を完了したユーザーに対して、テスラの急速充電ネットワークを利用した充電料金が3年間無料になるキャンペーンも開始。ガソリン車との燃料対比では数十万円相当の燃料の節約効果が見込めるという。

 テスラの日本進出は2010年。この戦略シフトにより「日本でのテスラ車販売の倍増を目指す」(橋本社長)という。25年の1万台超えを、弾みにしようとしている。

テスラのトップのイーロン・マスク氏も「日本での投資を強化していく」方針だという(写真は2016年撮影) Photo:South China Morning Post/gettyimages

BYDが軽ハイトワゴンの

ニーズを奪えるか

 一方、BYDは7月頃に軽ハイトワゴンEV「RACCO(ラッコ)」を発売予定だ。このラッコは発表当初から、日本の軽自動車の規格のEVとして大注目されている。

 BYDが日本で本格的に乗用車を販売開始したのは23年。積極的に販売拠点を全国展開し、新モデルを相次ぎ投入している。現在は「ATTO3」「DOLPHIN」「SEAL」「SEALION7」「SEALION6」の5車種に増えた。

 RACCOは、軽市場におけるゲームチェンジャーになり得るのではないか、と前評判は高い。というのも軽ハイトワゴンのホンダ「N-BOX」が国内新車販売において5年連続でトップであり、そこに殴り込みをかける形になるからだ。メディアでは“黒船襲来”ともいわれ、スズキやダイハツを含め軽自動車メーカーにとって脅威になり得る。

 だが一方で、BYDの日本戦略にデメリットとなってしまったのが、今般変更されたEV補助金だ。詳しくいうと、4月から「産業政策・社会インフラ一体型補助金」となり、EV普及を見据えて持続可能性と実用性を両立するメーカーを選別する制度に転換した。具体的には、海外メーカーの電池を調達するか、国産電池を調達するかで補助金に差が出た。

BYDが日本の軽自動車の規格で開発した「RACCO」 Photo:SOPA Images/gettyimages

テスラとBYDで

補助金に格差の悲喜こもごも

 テスラは127万円の補助金が継続された。それに対して、BYDは以前35万〜45万円だったのが、今般の変更で半分以下の15万円になってしまった。まさに悲喜こもごもの制度変更である。

 BYDオートジャパンの東福寺厚樹社長は、埼玉県川越市の販売拠点開所式にて、補助金の変更についてコメント。「公平感を持った運用を求める。大きな補助金の差がつくのは環境政策を進める上で良い結果にならない」と訴えた。また、「補助金に頼らず、クルマ本来の価格と性能でBYDの良さを実感して欲しい」とも述べている。

 日本の乗用車市場は8ブランドがひしめき、強固な全国販売網を誇る。この熾烈な競争に、テスラやBYDは食い込み、EV普及のリーダーになれるのか?かつてその役を務めようとした日産自動車が経営難に陥っていることもあり、期待したい。

 最後に、両社の日本法人トップのキャリアが興味深いので紹介しよう。

 東福寺BYDオートジャパン社長は、三菱自動車で国内外の営業を主体にキャリアを積み、VWジャパンセールス社長に転じた後、22年に現職に就任した。日本の自動車販売・輸入車販売に精通していて、全国100店舗の形成を急ピッチで進めてきた。

 一方の橋本テスラジャパン社長は、カリフォルニア大学アーバイン校卒の48歳で、飲料のレッドブルや家電のダイソンなどを経て、24年7月にテスラジャパン入りし、9月に社長就任。輸入車業界では異色の経歴だ。異業種での経験も生かして、現在の実店舗重視の新戦略を推し進めている。

佃プロフィール