「公道カート」を乗り回す外国人が再び増加…無免許運転、違法車両のキケンな実態とは?

公道カートを乗り回す外国人観光客(写真はイメージです) Photo:PIXTA

コロナ禍で一時、「公道カート」を乗り回す外国人は日本から姿を消した。しかし、入国制限の解除とともにブームが再燃。今では東京都内だけでなく、関西エリアや富士山周辺でも、隊列を組んで走る訪日客の姿が見られるようになった。こうした過熱ぶりに伴い、無視できないのが無免許運転や違法車両だ。国交省は安全基準を強化するなど対策を講じているが、路上では依然として“違法カート”が走り続けている。(自動車生活ジャーナリスト 加藤久美子)

コロナ禍で消滅危機から一転

「公道カート」人気がV字回復

「カート」と聞いて、遊園地の「ゴーカート」やサーキットを走る「レーシングカート」をイメージする人は少なくないだろう。

 しかし、ゴーカートやレーシングカートは、そのままの仕様では公道を走れない。これらを改造して公道走行を可能にしたのが、いわゆる「公道カート」である。

 好みのコスプレや着ぐるみを着て乗る「コスプレ公道カート」は、2010年代半ばから外国人観光客の間で人気に火がついた。2012年3月には、日本発となるレンタル専門店「アキバカート」が東京・秋葉原に開業した。

 アキバカートのオープンから14年。コロナ禍の影響で一時は消滅しかけたものの、近年はブームが再燃し、さまざまなレンタル業者が参入。東京はもちろん、大阪・京都・沖縄などの繁華街でも、隊列を組んで走る公道カートの姿が見られるようになった。今では富士山周辺でもツアーが行われている。

写真はイメージです Photo:PIXTA

 ちなみに、コロナ禍でも営業していたレンタル業者はわずかにあるが、当時の利用客は米軍基地の駐留軍人や日本在住の外国人が中心だった。今では外国人経営のカート店も増え、ツアーを先導するスタッフも外国人が中心となっているようだ。

 そんな公道カートは、道路運送車両法においては「原付1種」に相当するが、道路交通法では「ミニカー」(原付サイズの普通自動車)として運用されている。すなわち、構造は原付だが、交通ルールは自動車という「二重構造」になっているのだ。

 このため公道カートは、電動キックボードとは違って“運転免許不要”で乗れるわけではない。日本の免許を持たない外国人が運転する場合は、有効な国際免許が必須となる。

 細かな説明は割愛するが、国際免許には大きく分けて「ジュネーブ条約形式」と「ウィーン条約形式」があり、条約の加盟国によって利用できる国や有効期間が異なる。日本で有効なのは前者のみで、公道カートに乗る外国人はジュネーブ形式の国際免許が必須となる。

 ところが、コロナ禍が落ち着いて公道カートが復活してから、日本では国際免許を巡るトラブルが目立つようになった。

公道カートが他のクルマに衝突

運転者は「無免許」

 例えば2024年10月、都内のレンタル業者が、日本で有効な国際免許証を持たない外国人観光客2名に対し、公道カートを1台ずつ貸し出していた問題が報じられた(貸し出しは同年4月)。この観光客が所持していたのはウィーン形式の国際免許だったとみられる。

 問題が発覚したきっかけは、業者が貸し出した2台のうち1台が、路肩に駐車していた車両に接触する物損事故を起こしたことだった。現場に駆け付けた警察が運転者の免許証を確認したところ、日本では無効な国際免許であることが判明。「無免許運転」の扱いとなった。

 カート店の従業員は、事前に送付されていた免許証の画像を十分に確認していなかったという。このため警視庁麻布署は同年9月、道路交通法違反(無免許運転車両提供)の疑いで、店の責任者を「厳重処分意見付き」で書類送検した(結果は不起訴)。

 国際免許を巡るトラブル以外にも、公道カートの課題は山積している。

 一度でも乗ったことがある人はご存じの通り、カートは車高が非常に低く、地面スレスレだ。遊園地のゴーカートは限定されたコースを走るため危険性は感じにくいが、公道では事情が異なる。車高の低さに加えて車幅も狭いため、周囲の交通から認識されにくいのだ。

写真はイメージです Photo:PIXTA

 また、米国や中国をはじめ、世界の約7割の国では「車道の右側通行」が採用されている。そうした国々から来た外国人にとって、左側通行の道路は不慣れな環境といえる。にもかかわらず、信号待ちで奇声をあげながら記念写真を撮るなど、注意散漫な訪日客も存在する。

 その結果、実際に事故や苦情も多発している。新型コロナの感染法上の位置付けが「5類」に移行し、インバウンド需要が復活した2023年には、都内だけで公道カートによる事故が12件発生。100件超の苦情や110番通報が寄せられた。

 さらに2024年1~8月にかけて、公道カートが絡んだ人身事故が7件、物損事故が18件起きたと報じられた。幸いにも死亡事故は起きていないようだが、周辺を走るドライバーからすれば危険な存在であることは間違いない。

 だが、周囲の冷ややかな目線をよそに、2024年には店舗数がコロナ前の19店から40店前後にまで急増。都内では、東京タワー周辺やお台場、浅草、渋谷、秋葉原などで、公道カートの隊列を日常的に見かけるようになった。関西や沖縄など、他地域にも広がっているのは冒頭の通りだ。

周りの日本人は冷ややかなのに

なぜ外国人客は公道カートにハマるのか?

 なぜ訪日客は、これほどまでに公道カートに熱中するのか。その大きな理由として考えられるのは、他国には同様のアクティビティはほぼなく、実はかなり希少だというものだ。

 何しろ日本の公道カートは、下記のようなメリットを享受できる、訪日客にとって魅力的なサービスである。

・カートの車体が、開放感のあるオープンタイプになっている

・先導車がいるため、ルートに迷わない

・仲間同士で隊列を組んで移動できる

・コスプレや着ぐるみOK

・時速30km前後の低速走行が基本で、無理なくゆっくりと観光できる

・繁華街の中心部を走行できる

 さらに、訪日客にできる限り安全に利用してもらえるよう、国土交通省は以前から公道カートの安全対策に力を入れている。

 具体的には、公道カートの保安基準を2018年4月27日に改正し、2020年4月1日から段階的に適用している。その内容は次のようなものだ。

・他車両からの視認性を向上させる部品(地上1メートル以上の高さでの視認性確保)の設置義務化

・尾灯など、夜間の視認性を向上させる灯火器の設置義務化

・シートベルト(2点式または3点式)の装備義務化

(※いずれも新車・稼働中の車を問わず共通)

 そのうえ、2021年4月1日からは新車を対象に、次のような仕組みを義務化した。

・3点式シートベルトの設置(2点式はNG)

・頭部後傾抑止装置(ヘッドレスト)の設置

・かじ取り衝撃吸収構造(衝突事故時に、ハンドルが運転者にぶつかる衝撃を緩和する機構)の導入

・回転部分の突出禁止(直接触れると危険なため、タイヤやホイールが車体の外側にはみ出す構造は禁止)

出典:国交省

 これらが全て守られるのであれば、日本の公道カートは安全性と娯楽性を兼ね備えた、世界的に見ても珍しいエンターテインメントだと言えそうだ。

 しかし実際は、安全性に関する規制を無視し、娯楽性だけを提供する「違法車両」が依然として多く存在する。

一応パーツは付けているが…

法令遵守を装う「違法車両」の実態

 違法車両の実態について、一般社団法人 訪日外国人安全運転支援機構(※)の松島隆太郎代表は次のように明かす。

(※)公道カートの安全実態調査・違法営業摘発支援・旅行会社への注意喚起を行う専門機関。

「保安基準が大幅に改正されてから5年以上が経過しましたが、相変わらず違反カートは多く確認されています。特に保安基準改正(2020年)の前から営業している事業者は、古い基準のカートを使用している例もあり問題です」(松島代表、以下同)

 松島代表によると、保安基準違反で目立つのは、他車両からの視認性を高める「被視認性向上部品」の装着義務違反だ。確かに部品は付いているものの、「メッシュのように透けて見えるパネル状のパーツを装着したカートが多く、他車両のヘッドライトの光が反射しにくいため危険です」という。

「さらに、保安基準で禁止されているレース用の『フルハーネス4点式シートベルト』を付けているカートもあります(※)。一方で、業者側は保安基準を満たしたシートベルトを設置しているのに、ドライバーがベルト無しで運転している例も数多く確認されています」

(※)4点式シートベルトは身体がシートに完全に固定され、緊急時の自由が制限されることなどから、公道走行には不適合とされる。

 このほか、「自転車用の電池式尾灯を取り付けることで、尾灯に関する基準違反をごまかしている例も少なくありません」と松島代表は語る。

 こうした状況を踏まえ、警察や国交省、東京都議会、渋谷区議会などは、公道カートの装備面だけでなく運用面についての規制強化に動いてきた。その一環で、2024年11月には、観光庁が国内の旅行業者団体(JATA・ANTA)に異例の通達を行った。

 旅行業者が訪日客に対し、違法な公道カート事業者が手掛けるツアーをあっせんすることは、旅行業法違反に該当するため処分対象になるという重い内容だ。

観光庁による通達 出典:観光庁

 また、東京都渋谷区は2025年7月、独自の公道カート規制をスタートさせ、新規の事業所に下記のような対応を求めた。任意協力なので罰則はないが、全国初の自治体独自の条例による取り組みとして注目されている。

・事業所開設30日前までの区への届け出(所在地、営業時間、走行台数、ルート、ナンバープレートなど)

・近隣住民(事業所周囲50m以内)への事業説明会の開催と報告

・安全誓約書提出(免許確認、車両保険、苦情窓口設置など)

 だが、こうした呼びかけを無視し、違法カートを訪日客に貸し出す業者が多いことは想像に難くない。悪質な業者と規制強化の“いたちごっこ”はいつまで続くのか――。