トランプ政権のスピリット航空救済、瓦解の内幕

イラン戦争が勃発してジェット燃料価格が急騰すると、スピリットの苦境は深まった

米格安航空会社(LCC)スピリット航空の時間は4月30日夜に尽きた。

15分間の電話会談で、ハワード・ラトニック商務長官とスピリットのデーブ・デービス最高経営責任者(CEO)は、同社に他の選択肢がなくなったことで同意した。

この短い会話は、ドナルド・トランプ大統領の側近と米主要航空各社を率いる幹部たち、スピリットの破産に関与する投資会社の間で数週間にわたって行われた交渉劇の終わりを告げるものだった。

米格安航空の先駆けとなったスピリットにとって、これは最終章を意味する。同社は何年も苦戦を強いられてきた。最後に黒字を計上したのは2019年で、この1年半は破産裁判所への出入りを繰り返してきた。

2月末にイラン戦争が勃発してジェット燃料価格が急騰すると、スピリットの経費は毎週1000万~1500万ドル(約15億7000万~23億5000万円)増加し、破産から脱却するという同社の計画は頓挫した。

スピリットの考えに詳しい複数の関係者によると、同社はすでに航空機を売却して事業を縮小し、幹部はさらに多くのことを行う必要があると認識していた。同社は4月半ば、ラトニック氏に連絡を取るために動いた。

アドバイザーが会議の設定に動く一方、デービス氏はホワイトハウスのスージー・ワイルズ首席補佐官に連絡を取り、問題点とスピリットが破綻すれば何千もの雇用が失われることを伝えた。ワイルズ氏は、スピリットがラトニック氏の目にとまるように手を貸した。

協議に近い人物らによると、スピリットがトランプ政権当局者と救済について話し合いを始めると、債権者の懸念は深まっていったという。彼らは、スピリットの機体やその他の資産売却を含む代替案の検討を始めた。

ラトニック氏が先頭に立ってトランプ政権による救済を模索する中、スピリットと政府は5億ドルの救済計画に近づいた。米国に見返りとして同社の株式90%を与えるものだった。トランプ氏は何千もの雇用が失われることに懸念を表明し、買い手が現れることを望んでいると述べた。

最終的にトランプ氏は、原油価格が下がったときに政府はスピリットを売却して利益を得ることができるだろうと語った。同氏は4月23日、大統領執務室で「航空会社を救うことができればうれしい」と話した。

一方、ショーン・ダフィー運輸長官はスピリットの買い手候補を求めて業界を調査した。2022年にスピリットを38億ドルで買収することで合意したが、のちに反トラスト法(独占禁止法)を理由に連邦判事によって阻止されたジェットブルー・エアウェイズには何度か連絡が取られた。アメリカン航空は関心がないことを示唆した。

買い手は現れなかった。

政権の内外で反発が強まっていた。ユナイテッド航空のスコット・カービーCEOら航空会社幹部はダフィー氏に対し、スピリットの破産を容認すべきだと主張した。業界関係者らは他の航空会社がスピリットの従業員の多くを採用するだろうと論じた。

この件に詳しい複数の関係者によると、航空各社の代表者らは救済後もスピリットが存続できるかどうか疑問視していた。

ダフィー氏はトランプ氏に対し、政治的なマイナス面について密かに懸念を表明し、政府がこの取引から得られることについて懐疑的な見方を示した。他の共和党指導者らも政権に警告しようとした。

ダフィー運輸長官はスピリット救済を巡り、懐疑的な見方を示していた

一方、ラトニック氏は、スピリットの何千もの雇用を救うことは、中間選挙を前に政治的勝利をもたらす可能性があるとトランプ氏に助言した。

シタデルやサイラス・キャピタルを含む債権者グループは、政府の当初の提案に反発した。自分たちが後回しにされる内容だったためだ。事情に詳しい関係者らによると、彼らは対案を提示したが、支持を得られなかった。

債権者グループは政府の条件に同意するよりも、スピリットが航空機材の整理を進める方が得策だと判断したという。機材の売却益からある程度、回収できるとみられている。

協議に詳しい人物らによると、トランプ政権はここ数日間、スピリットの運航を維持する別のアプローチも模索した。国防生産法の適用だ。これは朝鮮戦争時代の法律で、大統領が緊急事態に対応するために民間の産業を動員できるようにする。

だが一部の国家安全保障当局者が懸念を表明し、このアイデアは進展しなかったという。

一部の関係者によると、債権者グループは30日夜、スピリット経営陣に書簡を送り、「唯一の責任ある道」として秩序ある清算を行い、直ちに事業を縮小するよう促した。

スピリットに破産融資を提供していた者も含む債権者グループは現金を一部放出し、従業員の退職金と医療費に充てる意向であることも同書簡には記されていた。

トランプ氏は1日、政権が同社に「最終提案」を行ったと述べた。

ホワイトハウスで1日、記者会見するトランプ大統領

トランプ氏は「もしできるならやるが、それが良い取引である場合に限る」と語った。

スピリットの幹部らは、便数の多い日に運航を停止するのは避けたかった。運航便数は火曜日、水曜日、土曜日が最も少ない。

しかし、5日の火曜日まで持ちこたえるのに十分な現金がないことに彼らは気づいた。土曜日の2日未明、スピリットは従業員に通知し、運航を停止させた。