「教えてもらったことなんてない!」と部長の声 会社を蝕む「大課長」が生まれる3つの根本原因

 知らず知らずのうちに会社を良くない方向へ導いてしまう「大課長」。なぜ、その存在が好ましくないと誰もがわかっているのに、次々と生まれてしまうのでしょうか。本人視点で見ると、その理由は大きく3つに分類できます。この記事では、朝日新書『上司はリスクばかりを指摘する 会社を潰す「大課長」問題』から抜粋して、大課長が生まれてしまう理由の全体像と、その最初の原因である「自分の役割を正しく認識していない」という根深い問題について、詳しく掘り下げていきます。(第14回)

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 会社組織の中で、部長や本部長に昇進しても、そのマインドや振る舞いは課長の頃のまま。肩書だけが偉くなってしまい、仕事ぶりの伴わない部長クラス以上の管理職を、私たちは「大課長」と呼んでいます。

 知らず知らずのうちに、しかし確実に、会社をよくない方向へ導いていく「大課長」。それが好ましい姿でないことは誰もがわかっているはずなのに、一体なぜそうなってしまうのでしょうか。第3章では、「大課長」が生まれる理由を本人の視点で、問題をひもといていきます。次の第4章では、会社の構造や社会全体の動向などを俯瞰して日本全体で「大課長」が増えている背景を探りますが、本人の問題か会社や社会の問題かはオーバーラップする部分もあり、明確に線引きはできないところがあります。その点をご理解いただきつつ、整理してみると、部長や本部長が「大課長」になってしまう理由は、大きく分けて次の3つがあると、私は考えます。

1.自分の役割を正しく認識していない

2.管理職業務のケイパビリティがない

3.管理職業務をやりたくない

まずは1つ目について見ていきましょう。

■1.自分の役割を正しく認識していない

役職自体が「名誉」であるという考え方

 第1章で人口ボーナス期の話をしましたが、経済が好調だった当時、組織は拡大していくものでした。そしてそれに伴い、管理職の増員も必要となります。つまり、ある程度の頻度で部長や課長が任用されることが当たり前の時代だったのです。現場で頑張ってさえいれば、一定の年齢を迎えた社員は課長になりやすかった時代でした。その中でさらに頑張っていれば、また一定の割合の社員が部長職に任命されます。このように過去には、勤務年数を踏まえた慣習的な任用が行われていました。

 景気が低迷する今でも、日本の会社には当時の人事の名残があります。しかし、組織が従来のように拡大できなくなった今、部下を持つ課長や部長を簡単に増やすことはできなくなりました。その結果、多くの会社で、部下を持たない「担当課長」や「担当部長」といった肩書が生まれました。管理職は必ずしもメンバーを束ねるリーダーではなく、そもそも役職自体が「名誉」であるという考え方があるからです。上層部では引き続き、「これだけ長く働いているんだから、肩書は渡してあげたい」「あの年で肩書がないのはかわいそうだ」といった感情的なジャッジがなされます。社員の側もやはり、過去の名残で、課長と部長・本部長といった役職が連続的なものだと考えています。本来は役割やスキルによって判断されるべきものが、過去の頑張りや勤続年数、上長との関係性などによって決定され、管理職に就く社員が増えてきたのです。

■そもそもの「役割定義」がない

 管理職の役割定義についても、第1章の「管理職とは何か、課長と部長の違いは何か」の中で詳しく解説しました。なぜこの解説が必要だったかと言えば、大半の社会人が役割の定義を知らないからです。「課長と部長・本部長の役割の違いは何でしょうか」と尋ねても、答えられない人が本当に多くいます。私が相談を受けるほぼすべての会社が同じ状況になっていて、「そんなこと、教えてもらったことなんてありません」と言われます。管理職について話すとき、英語で言えば「マネジメント」という言葉が出てきますが、「大課長」と思しき方々からは「マネジメントについて話す場なんて、ないですよ」「ほかの管理職がどんなマネジメントをしているかを聞くのは、何だか野暮な感じがする。聞こうとしたら『どうした、何かにかぶれたのか』と笑われたこともあります」などという話を聞いたこともあります。

 足下の話で言えば、役職がついて管理監督者になることで、残業手当がなくなることすら知らなかったというケースもあります。残業代がなくなると、昇進前より年収が下がることも珍しくはありません。「定義なんて大きな話の前に、まずそういうことから教えてほしい」という気持ちになったとしても、仕方ないのかもしれません。

 こうして、誰にも「課長とは、部長とは」ということを教わらずに役職に就いた人たちは当然、後任や後輩にもそれを教えることはできません。誰もが明確な答えを持たないまま、何となく仕事を分け合いながら取り組んでいるのが、日本の会社の実情です。

 景気がよかった頃は既存事業を磨き込んでいればよかったので、求められる戦略策定もKPIマネジメントも、今よりずっとおおらかでした。新卒一括採用と終身雇用制度が職場の一体感の醸成に効いていて、社内のコミュニケーションも「あうんの呼吸」や不文律で成立しました。一人ひとりのスキルやコンディションの把握も容易だったため、組織運営も今ほど難しいものではありませんでした。つまり役割の定義がなくとも、時代背景の力を借りて、会社はそれなりに回っていたということです。しかし今は、そうはいきません。人口オーナス期のさなか、中途採用も多くなり、組織運営の難度は格段に上がっています。

 部長・本部長がそれまでの課長とは異なる役割を持つことを教えられず、ただ前任の部長・本部長の姿を真似て職務を遂行しているとしたら、それは景気がよかった頃の何代も前の部長・本部長の役割を追い求めてしまっているのかもしれません。

*書籍『上司はリスクばかりを指摘する 会社を潰す「大課長」問題』より

著者プロフィール

林 宏昌(はやし・ひろまさ)

リデザインワーク株式会社代表取締役社長。早稲田大学理工学部情報学科卒業。2005年株式会社リクルートに入社し、経営企画室長、広報ブランド推進室長、働き方変革推進室長を歴任。2017年にリデザインワーク株式会社を創業し、大手企業を中心とした経営戦略・人事戦略・働き方改革のコンサルティングを推進。2025年には2社目となる株式会社スキルキャンバスを創業。情報経営イノベーション専門職大学客員教授。本書が初の著書となる。

・【ショート動画】大課長問題あるある①~⑤はこちら あなたの会社にも?

・第1回)『上司はリスクばかりを指摘する』著者が指摘 会社の成長阻む「大課長」5つの兆候とは?

・第2回)なぜ若手は報われない? 部長に昇進してもマインドは課長のままの「大課長」問題が深刻化