独占・サイバーエージェント藤田晋氏「僕が表に出るのはたぶんこれで最後」社長退任の“悲報”に答えた

■26歳最年少上場, ■ABEMAが成長の真ん中, ■表に出るのはこれで最後, ■世界で通用するものを, ■睡眠にこだわり

 サイバーエージェントの創業者、藤田晋さんにインタビュー。史上最年少(当時)の東証上場から四半世紀。2025年12月、社長から会長に。【本記事はアエラ増刊「AERA Money 2026春号」から抜粋しています】

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「スタートアップの先駆者」「カリスマ社長」「勝負師」――。藤田さんには数々の異名がある。

 2025年11月発刊の新著『勝負眼』(文藝春秋)では、『「押し引き」を見極める思考と技術』との副題をつけ、経営者としての勝負の極意や苦悩も明かしている。

 本書は社長業の傍ら「自分の手で」書いた。多忙な人が本を出す際、ライターに原稿を書いてもらってチェックすることも多いが、藤田さんは直筆にこだわった。

「自分の手で書かないと本心が伝わらないと思ったから。ほぼ毎週2400字を1年ちょっと続けてトータル約13万字。スラスラ書ける週もありましたが、だいたいの週は大変でした」

 その結果、藤田さんの本心は伝わったようだ。予約段階から注文が殺到し、アマゾンの書籍ランキングやリアル書店でもベストセラーとなり増刷を連発。会社員から起業を目指す学生まで、藤田さんのファン層の厚さがうかがえる。

■26歳最年少上場

 藤田さんがサイバーエージェントを設立したのは1998年。青山学院大学を卒業し、人材派遣のインテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社した翌年だ。

 2年後の2000年3月、サイバーエージェントは早くも東証上場を果たす。

 26歳と10カ月。藤田さんは当時の上場企業の史上最年少社長として「時の人」となった。

「上場を急いでいたし、最年少にもこだわっていました」

 と藤田さんは振り返る。

 インターネットの普及がはじまった当時はITバブルの渦中。100年分の利益を織り込む形で値上がりする銘柄も珍しくなかった。

「焦っていました。自分の目から見てもバブルだと感じていたので、崩れる前に安全圏にたどり着きたい、つまり上場して資金調達を済ませておきたかったから」

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 藤田さんの予想は的中し、上場直後にITバブル崩壊。それよりあとに上場がずれ込んでいたら、資金調達のハードルは上がっていただろう。

 とはいえサイバーエージェントも株式分割調整後の株価で初値146円台(当時は1500万円)から安値11~12円まで10分の1以下に暴落。

「創業以来、一番つらかった時期を問われたら上場直後のあの頃と答えます」。

 若くして起業したのはなぜ?

「カネボウの社宅で生まれ育ちました。右も左も同じような家です。だから『特別な何か』になりたかったのかも。中学、高校とバンドをやっていたので、ミュージシャンになりたいと思ったことも」

 筆者はサイバーエージェントの上場直後、藤田さんにインタビューしたことがある。

「26歳で若いことが嫌だ。相手にされないことが多すぎる。寝て起きたら40歳になっていたらいいのに」と言っていたのが忘れられない。

 そんな青年社長も今年の5月で53歳。魔法が使えるなら若返りたいですか?何歳に戻りたい?

「寿命と体力の衰えがないなら今が最高です。30代より40代、40代より50代。経営者としては年々快適になっているので」

「仕事がやりやすい。実績を重ねてきたから、認めてくださる方も増えた。会社が大きくなるにつれて、やりたいことを昔ほど苦労せずにできるようになりました」

■ABEMAが成長の真ん中

 サイバーエージェントの2025年9月期の通期決算では、売上高が前期実績を9%上回る8740億円と創業以来28期連続で増収だった。

 主力分野の営業利益を見るとゲーム事業が600億円と大きく、祖業のインターネット広告事業が176億円、動画配信の「ABEMA」を核とするメディア&IP(知的財産)事業が72億円。

 藤田さんは「ここから先の成長の真ん中はメディア&IP」と言い、ABEMAの強化を目指す。

 そういえば2023年9月末の権利確定分から導入した株主優待では、100株以上の保有でABEMAのプレミアム利用料が3カ月無料(税込みで1カ月1080円×3カ月=3240円分)、500株以上の保有なら1年間無料になる。個人株主には魅力的だ。

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「ネット広告事業がメインだった時代は、本業に関連する株主優待が難しかった。ゲーム関連の優待は熱中する方とそうでない方に分かれてしまう。

 はじめてABEMAで多くの株主に喜ばれる優待ができたと思っています」

 2025年11月、サイバーエージェントは次期社長の山内隆裕さんの名を発表し、12月の株主総会で正式決定。

 藤田さんは人気ブログ「渋谷ではたらく社長のアメブロ」で2029年をメドに藤田さん2割、新社長の山内さん8割くらいまでに仕事を引き継ぐイメージであることを記した。

■表に出るのはこれで最後

「2022年から準備してきました。

 入社式のあいさつや決算発表のプレゼン、社内イベントの登壇などはすぐにでも引き継げます。

 大切なのは求心力、会社を理解したうえでの事業構想力、洞察力。この3つが難しいと思う。伴走しながら実践でやっていきます」

 藤田さんの存在感が大きいゆえの悩みだろう。長く会社を成長させてきた創業社長から後任者へのバトンタッチが難しいことは、藤田さん自身も強く意識している。

「引き継ぎリストを出して機械的にバトンを渡すなんて、無理ですよ。何か起きたらどうするか。社長としての動き方をそのつど伝えていきます。

 ただ、ここから何か起きたときに僕が出ていくとサイバーエージェント=藤田がやっている、と会社の中でも外部の方からも受け止められてしまう。だから僕は前に出ず、徐々に名実ともに引き継ぎます。

 僕がサイバーエージェントのトップとしてマスコミなどの取材で表に出るのも年内(2025年12月)でいったん最後。

 え、これが出るの3月(2026年)なの? 年内で全部終わりかと思ってたのに(笑)」

 藤田さんの社長退任が判明すると、SNSや株式関係サイトでは「悲報」の文字があふれた。株価は急落し、チャートに断層(窓=ギャップ)を残した。

 本当に藤田さん以外の方が社長になってもサイバーエージェントは大丈夫か。

 山内社長体制になっても変わらずサイバーエージェントが成長を続けるヒントとして、藤田さんは英国の資産運用会社ベイリー・ギフォードの話をした。

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「この運用会社は2000年代のはじめから米国のアマゾン(アマゾン・ドット・コム)に投資し続けていることで知られます。

 アマゾンの株を20年以上も保有してきた理由として『経営者が常に長期目線で将来の準備を怠らない企業だから』と言っています」

 アマゾンといえば創業当時は赤字続きだった。次の事業への「種まき」(投資)をし続けていたからだが、はたから見ると「なかなか花開かない」ように思えた。

「アマゾンは常に『次の事業』に投資することが社内文化として根付いた会社。

 サイバーエージェントも同じです。うちも長い赤字時代がありました。うまくいっている時期でもABEMAのような新規事業に投資していきます。

 上場直後を振り返っても、個別事業がそれなりの規模に育つまで利益を出しませんでした」

 そう、サイバーエージェントは今の稼ぎとは別に中長期での種まきを常にしている会社である。

「それは私が社長を退いてもサイバーエージェントのカルチャーとして残ります。役員合宿は3カ月に1回のペースで続けています。

『あした会議』という会社の主要メンバー50人以上の合宿があるんですが、そこでは提案するアイデアのもととして、先送りしている問題ややり損ねている事業をくまなく探し回ります。僕に『他に何か課題はないですか』と聞いてくる人もいるほどです」

■世界で通用するものを

 足元の業績は2026年度の通期で増収減益予想。事業拡大のペース自体は緩んでいない。藤田さんに言わせれば「何年も前からやってきたことの結実の繰り返しであって、調子のいい今を謳歌(おうか)する会社ではありません」。

 世界にも進出している。

「ゲーム事業の海外売上高は2025年9月期の第4四半期(7~9月)で200億円規模に成長しました。海外進出は支社を置いて物流網を築くイメージですが、うちはオンラインで各国に配信すれば売り上げが立つので低コスト」

 海外の成功には絶対条件がある。

「海外から選ばれるサービスをつくることです。

 これ、順序が逆になりがちなのですが、先に海外拠点をつくってからではダメ。

 まずは世界で通用するものをつくる。これが長年のテーマでした。ようやく芽が出てきた感じです」

■26歳最年少上場, ■ABEMAが成長の真ん中, ■表に出るのはこれで最後, ■世界で通用するものを, ■睡眠にこだわり

 藤田さんは何度も「本当にいいものを」と繰り返した。

「本物だとマーケティング(売るための施策、工夫)をしなくても選ばれます。

 本物ではないものは、一生懸命に営業活動をしても大量の広告を打ってもどうしようもない。

 一瞬はよくても、すぐダメになるんです。それがインターネットの世界。

 みんなから支持され、好かれるものをつくらないと最終的に生き残れません」

 ネット広告の礎を築き、コンテンツビジネスでも海外に活路を開いた藤田さんの目に、海外企業はどう映っているのだろう。

「ABEMAは提携先のネットフリックスを引き合いに出されることが増えましたが、僕たちは基本的に無料、あちらは常に有料ですから、ビジネスモデルが違います。

 われわれが見習わなければならないのは、ネットフリックスのコンテンツのレベルの高さです。

 つい日本のテレビの地上波番組と比べてしまいますが、国内で比べても意味がない。

 ネットフリックスの世界ランキングで上位に入るような上質なものをつくらないと。ネットフリックスに番組を供給するようになってから、社内の意識も変わってきました」

 ネットの世界では、グーグルやアップルなどの英語の頭文字から「GAFAM」と呼ばれる巨大テック企業の存在が大きい。

「彼らは基本的にプラットフォームでありOS(パソコンやスマホなどを動かすための基本ソフトウェア)であり、根幹の部分を押さえています。

 GAFAMがつくった土台の上で、広告やEコマースなどのプレーヤーがビジネスを展開しています。プラットフォームやOSに着目し、大胆に投資する風土が米国では根付いていたわけです。

 本当に残念ですが、日本企業は根幹部分を米国企業に取られた形になってしまいました」

■睡眠にこだわり

 藤田さんは最近、ストレッチをはじめた。

「交感神経が高まりっぱなしのような人生を送ってきたので、これからは副交感神経を優位にしようと思って、ほぐしています」

 睡眠にもこだわりはじめた。

■26歳最年少上場, ■ABEMAが成長の真ん中, ■表に出るのはこれで最後, ■世界で通用するものを, ■睡眠にこだわり

「ずっと3時間睡眠の時代もありましたが、最近は6~7時間は寝ています。

 良質な睡眠のために、就寝前はパソコンやスマホのブルーライトを控えて、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を読んでいます。すぐ眠くなるから」

 オフタイムも寝食を忘れて飛び回っているイメージだったが。

「血圧を下げるために塩分も控えています。あれだけ好きだったラーメンも食べていません」

 一般的な50代の「健康を気にするようになりました感」に親近感を覚えた。

 なお、藤田さんは世の中に出回っている写真より見た目がかなり若かった。

「以前の写真の僕は酒でむくんでいたみたいです。でも、人間ドックの際にびっくりするような注意を受けたので酒を控えるようにしました。

 そうしたら、10キロぐらいスルスル痩せて。体の調子がよくて羽が生えたみたい」

 気が休まる間もなかった藤田さんだが、山内新社長へのバトンタッチが進めば自由時間が増えるはずだ。ただ、藤田さんは社長在任中に「特にがまんしていたことはない」と言い、世界一周旅行などには興味がない。やはり今は会社の先行きが気になる様子。

「精神的な負担が軽くなっていくことが、引き継ぎの進展の目安と思っています。

 今はまだ背負っている感覚ですが、少しずつ軽くなるはず。そのとき何をしたいと思うのか、自分でも興味があります」

取材・文/中島晶子(AERA編集部)、大場宏明

藤田 晋(ふじた・すすむ)/1973年、福井県生まれ。1997年、青山学院大学経営学部卒業、インテリジェンス(現パーソルキャリア)入社。1998年、サイバーエージェント設立、代表取締役社長に就任。2000年の26歳のとき、当時の史上最年少で東証マザーズ(現グロース市場)に上場(現在はプライム市場)。2025年12月、サイバーエージェント代表取締役会長、代表執行役員会長に就任(現在のサイバーエージェント代表取締役社長は山内隆裕氏)

編集/綾小路麗香、伊藤忍

『AERA Money 2026春号』から抜粋

・【画像5点】「表に出るのはたぶんこれで最後」サイバーエージェント会長の藤田晋さんの、たぶんラストショット(かっこいい!)

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