代金返還求めて泥沼化 大阪・関西万博で使われたEVバス導入でわかる大阪メトロの杜撰さ

 大阪・関西万博で使用されていた電気自動車バス(EVバス)がトラブル続きで放置された問題は、購入代金や補助金の返還を求める動きが続き、大炎上の様相だ。そもそも、大量のEVバスを、大阪メトロ(大阪市高速電気軌道)が、実績のないベンチャー企業から購入したのはなぜか。内部資料と証言から、大阪メトロの杜撰さが浮かび上がった。

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 大阪メトロにEVバスを販売した北九州市のEVモーターズ・ジャパン(EVMJ)は4月14日、民事再生法の適用を申請し、事実上倒産した。負債総額は約57億円という。

 同じ4月14日、大阪市役所ではEVMJに関する重要な会議が午後2時から開催されていた。大阪市と市議会の各会派代表、大阪メトロ、その子会社である大阪シティバスによる「大阪市会・Osaka Metro・シティバス連絡会議」。大阪メトロからは河井英明社長以下、幹部が出席していた。

 大阪市議会でEVバス問題を追及してきた杉田忠裕市議(公明)によると、

「連絡会議は年数回開かれていますが、今回はEVMJの問題のため、イレギュラーに開かれました。2時間程度、議論があり、私も質問をした」

 だが、杉田市議を驚かせたのは会議の終了後だった。

「自宅に戻って夕方のニュースを見ると、EVMJが民事再生法を申請したと報じられていたんです。会議ではまったくそんな話は出なかった。連絡会議が終わるのを見すかした時間に発表したのでしょうか。EVMJと、事前に知っていたであろう大阪メトロに、不信感を持ちました」

 大阪メトロは、昨年の万博開催にあわせてEVMJからEVバス150台を約75億円で購入し、万博会場と近隣の駅や駐車場を結ぶシャトルバス、万博会場内の移動などに使った。購入にあたっては、国(国土交通省、環境省など)、大阪府、大阪市からあわせて43億円超の補助金を得ている。

 しかし、EVバスは中央分離帯に衝突するなど、トラブルが頻発。大阪メトロは万博終了後、EVバスを路線バスや自動運転の実証実験に使用する計画だったが撤回し、今後はバスを使用しないことを今年3月31日に発表。EVMJとの契約を解除し、EVMJに販売代金の返金と車両の引き取りを求めていくことも明かしている。これに対してEVMJは4月30日に、「契約の解除は認められない」という方針を発表。「契約解除の有効性を争う方針」としている。

 また、国土交通省は4月3日に、金子恭之大臣が記者会見で、

「法令に則り、補助金返還を(大阪メトロに)求めていく」

 と発言。今後も大阪メトロに補助金返還を求める動きは続きそうだ。万博の目玉になるはずだったEVバスが、万博の“負の遺産”となり、カネの問題で泥沼化しているのだ。

■消えてしまった「中国製バスの試験導入」

 そもそも大阪メトロは、なぜEVMJから150台ものEVバスを購入したのか。記者は、その一端がうかがえる大阪メトロと大阪シティバスの内部資料を入手した。

 この資料などによると、万博でEVバスをどこから入手するかどうか、2022年春ごろに急ピッチで検討が始まっていたという。

 同年3月22日、大阪メトロから委託を受けて実際に運行を手掛ける大阪シティバスの幹部に回覧されたメールによると、

〈「2022年度の導入は見送る」と決定します〉

 と記載されている。

 この一方で、世界的に実績をもつEVメーカーであるBYD(中国)のEVバス1台を試験導入するという案が決まりつつあったという。大阪市幹部のA氏が説明する。

「BYDのEVバスを試験導入するという案は賛同を得て、実質的には決まっていた。バス運送業者に最も大事なことは、まず安全と定時運行。BYDはアメリカ・ロサンゼルスのバスや、ロンドン名物の2階建てバスでも採用されており、EVバスの実績があるため、まず1台導入することにした。しかし、大阪メトロは22年3月16日と25日の経営会議で、万博向けにEVバスを大量導入の方向で『再審議』と方針転換。大阪メトロに押し切られ、シティバスが予定していたテストの1台は気が付けば消えてしまった」

 内部資料に、大阪メトロの〈経営課題検討会議〉という会議録がある。そこには〈再度審議〉と記され、EVバスと補助金に関する提案のシミュレーションの資料が幹部に配布されたことがわかる。EVバスを導入すれば、国などから多額の補助金が得られ、そのバスを万博終了後に路線バスで活用すれば利益が得られるという内容だ。

 A氏によれば、同年3月30日の大阪メトロの株主総会でも、議案としてEVバス導入と補助金の活用が提案され、全会一致で承認されたという。そして同年10月、大阪メトロでは万博での大量導入を視野に社内稟議を経て、EVMJのEVバス2台の購入を決定。内部資料にはこう記されている。

〈万博における大規模実証実験に伴い、大量のEVバスが必要〉

〈国産のEVバスを取り扱っている企業が少なく、短期間に量産化が可能な企業はEVMJのみ〉

 A氏が説明する。

「それまで、BYDと日本でEVバスの実績があったアルファバスという中国系の2社が候補だった。それが『国産』『短期間に量産化』という言葉で外された。この時点でEVMJから150台を導入という方針が固まった」

■赤字が続いていたEVMJ

 だが、EVMJは2019年に設立されたばかりのベンチャー企業で、大阪メトロとの契約時点で3年連続の赤字経営が続いていた。それがなぜ、大型発注にいたるのか。A氏が続ける。

「補助金申請する事業で、赤字続きの会社に発注するというのは役所の常識としては考えにくい。それでも大阪メトロがEVMJにこだわったのは、あの人に忖度したのか、プレッシャーがあったのでしょうかね」

 そう言って名前をあげたのは元経済産業相の西村康稔衆院議員だ。西村氏は経産相時代の2023年2月にEVMJを訪問。EVバスに試乗し、当時の同社社長と会談した後、会見を開き、こう語っている。

「商用車のEV化で世界をリードしていく大きな可能性を感じた。こうした新しい動きが出てきていること、新たな挑戦を大いに歓迎したいし、しっかりと支援していきたい」

 大阪メトロがEVMJへの大量発注を決めたのはその後で、EVMJは23年6月、「大阪メトロにEVバス100台を納車する」とプレスリリースで公表している。

 また、西村氏はこの後、Xに次のようにポスト(投稿)している。

〈万博関連のEVバスについて、まず舞州駐車場と会場を結ぶEVバスと会場内運行するEVバスの計100台はすべて日本企業製です。それ以外に民間事業者が購入するEVバスも大半が日本企業製となります。今後、いすゞ、EVMJ(EVモータースジャパン:日本企業)が国内生産をしていきます。日本の技術力が活かされていくことを期待します〉

 西村氏はEVMJが「日本企業」であることを強調するとともに、国産のEVバスを製造する会社だと理解していることがわかる。

 だが、EVMJはバスを製造しているわけではなく、受注を受けて中国企業に委託し、中国で製造したEVバスを販売する会社だった。EVMJが国内製造工場を計画していたのは事実だが、結局、実現していない。

 大阪メトロもEVMJが販売するEVバスが“日本製”ではないことはわかっていただろう。EVMJの元社員がこう証言する。

「うちは国産、日本製とセールスしていたが、実態は中国で製造し、北九州に運んでいた。大阪メトロも工場を視察していますから、日本で製造していないのは一目瞭然だったはず」

 この元社員によると、大阪メトロの幹部が中国に出向き、EVMJの中国での委託企業を複数回訪問し、中国からほぼ完成した車両が日本に送られることも確認していたという。

■「中国製だとわかっても後に引けなかった?」

 冒頭の4月14日の連絡会議では、大阪メトロの河井社長はこう発言した。

「国産車を検討していたが、条件の整った企業はEVMJのみと事務方から説明を受けた。EVMJは二次架装や最終検査は日本で行い、将来的に九州地区で自社工場を設けて車両を製造とあったので、日本企業の製造、国産車同等と認識していた」

 EVMJが日本で製造するのは「将来的」なことだとは認識していたのだ。

 また、EVMJのEVバスは、中国国内では安全認証を得られず販売許可が出ていなかったのだが、これについて河井社長は、

「当時は販売許可がないことは知らなかった」

 と調査の不十分さを認めている。

 前出のA氏はこう話す。

「国などから多くの補助金をちょうだいするわけです。当時の西村大臣がEVMJを訪問し、SNSでも『日本製』を訴えている。『中国製』だとわかっても、後に引けなかったというのが実情ではないでしょうか」

 結果として、万博ではEVバスの不具合やトラブルが多発し、国土交通省が立入検査。EVMJはEVバスのブレーキホースに不具合があったとしてリコールを届け出ている。大量受注したEVバスは路線バスに切り替えできず、多額の損失を生んだ。

 万博でEVバスの運行を担ったのは、大阪メトロの子会社、大阪シティバス。その労働組合に話を聞くと、EVバスについてこんな話をする。

「トラブルはかなり報告されている。導入当初は万博開幕前の作業員を輸送していたが、そのときから問題があった。万博開幕後2カ月ほどして急激に故障が増えた。始発に間に合わせるため、ブレーキホースの故障をEVMJの担当と大阪シティバスが一緒になって修理をしていたほどだった。事故でケガ人が出なかったが、紙一重だった。路線バスとしてはとてもじゃないが使えないと大阪メトロには伝えていた」

 だが、大阪メトロはEVMJのEVバスにこだわった。

「なんとか路線バスで使ってくれ。メンツが立たないと大阪シティバスに懇願したそうです」(Aさん)

 だが、大阪シティバスが大阪メトロに屈せず、大阪メトロはEVMJとの契約解除に至ったという。

 大阪メトロの河井社長は連絡会議で、

「最終責任は社長がとる」

「(損失は)経営合理化などで100%カバーできる。(株主配当も)しっかりと計画通り以上にやる」

 と説明した。だが、前出の杉田市議は批判する。

「河井社長の話は信用できません。国産でないことをわかっていながら撤回せず、安全性も確認せずに購入し、万博終了後は路線バスという計画はあまりに杜撰だった。国から補助金の返還も求められる見込みで、EVバスの購入代金も無駄になった。結局は税金の損失です」

(AERA編集部・今西憲之)

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