赤が赤でなく、緑が緑に見えない「色覚少数派」 男性は20人に1人が実は…レンズを通すと変わる世界、夫婦で驚き「あんた、こんなふうに見えてたん?」

美術展で貸し出している補助レンズを手にするNPO法人「True Colors」の高橋紀子代表=25年12月、大阪市

 大阪府の玉井実夫さん(54)は焼き肉が苦手だ。網の上で焼いている肉の中で、いつも生焼けの肉を取ってしまう。

  「『もう焼けてるやん』と思って取っても、家族に『まだ全然生やん』って言われるんです」

 赤い生肉が、茶色く焼けた色に見えてしまうのだ。原因は玉井さんの目にある。玉井さんは生まれつき赤や緑など一部の色の区別が難しい「色覚少数派」だ。

 日本眼科学会によると、玉井さんのような先天性の人は男性が約20人に1人いるとされるのに対し、女性では約500人に1人という性別による差がある。この数字を用いると、日本全体で約300万人がいる計算だ。 

 本人たちは、あらゆる場面で工夫をしながら、日々の生活を送っている。その実態とは…。(共同通信=西村曜)

色覚の検査で用いる検査表=NPO法人True Colors提供

▽「52」か「89」か

 掲載した写真は、色覚少数派かどうかの検査する際に用いる画像の1つだ。色覚少数派についての啓発活動に取り組む大阪市のNPO法人「True Colors」によると、二つの円が重なった図形の中に書いている二桁の数字が「89」なら色覚多数派、「52」なら色覚少数派の可能性があるという。(ただし、この画像だけでは少数派かどうかは判断できないので注意が必要だ)

見え方の一例。左は一般的な風景の見え方で、右が色覚少数派。斜面に咲く彼岸花の赤色がくすんで黒っぽく見える=NPO法人True Colors提供

 色覚少数派は、「色弱」や「色覚障害」といった呼ばれ方もする。見え方は人それぞれだが、主に赤が黒や茶に感じたり、赤と緑の見分けが付かなかったりするという。

 遺伝で起き、現時点で治療法はない。偏見を恐れて周囲に明かさなかったり、子どもが該当した場合に両親が自身を過度に責めたりする場合もある。

手元のマジックの色が「分からない」と話す前田茂輝さん=25年12月10日、大阪市

▽見え方は人それぞれ、信号や桜が分からないことも

 他の当事者は、どんな世界が見えているのか。

 大阪市で整骨院を営む前田茂輝さん(52)は「赤が緑っぽく見える」と話す。

 日常生活では「運転時に信号の見分けが難しく、配置で覚えている」と話し、服選びも実際の色が分からないのでいつも妻と一緒に買いに行くという。

 紫やピンク、肌色も見分けるのが苦手だ。単体だと分かるのに、隣り合うと分からなくなったり、光の当たり方でも分からなくなったりする。

 「(当事者でなくても)黒と濃紺が分かりにくかったりするでしょ。それに近い感覚です」

 取材中、店にあった3色のマジックを取り出して、見え方を説明してくれた前田さん。手にしたのは緑、ピンク、青の3色だったが「ピンクなのか、緑なのか分からない。青も紫っぽく見える」と話した。

 東京都江東区の植村瑛一郎さん(36)は「サクラの花がピンクだとは思えない。(満開のサクラが咲く)春の色はいつも白っぽい印象だ」と話す。秋の紅葉も「よく分からない」のだという。

 玉井さん同様、料理の焼き加減も苦手。「いつもよく焼くように気をつけている」といい、仕事で資料を作るときもグラデーションの色は見分けが付きにくいので避けている。 

オンラインで取材に応じる東京都江東区の植村瑛一郎さん=25年12月17日

▽認知度低く、遺伝に悩む

 色覚少数派は遺伝の影響が強い。そのため当事者の親が強く悩むこともあるという。

 「True Colors」の高橋紀子代表は「当事者のお子さんを持つお母さんが、おしゅうとめさんから『(色覚少数派の遺伝子を)誰が持ってきたのか』となじられたり、お母さんご本人が『産んだのが間違いだ』と悩んだりする姿を見てきた」。

 高橋代表は言う。「自然界にある色を少数派の人はより細かく、繊細に見分けられる。一般の人が見つけにくい、山菜や川の中の魚などはすぐに見つけることができる」

 こうしたことは当事者も気付かず、知らないまま他の人と見え方が違うと言うことで気を病んでふさぎ込んだり、いじめにつながったりするケースもあるという。

 背景にはそもそも色覚少数派への認知度の低さもある。

 しかし、高橋代表は言う。「決して当事者は一般の人と比べて劣っているわけではない」

 赤が緑っぽく見える前田さんは「多くの人に色覚少数派のことを知ってもらえればいじめも減ると思う。『聞いたことある、そうなんだ』で済めば、当事者もウィークポイントだと感じず、ふさぎ込むこともなくなるはずだ」と訴える。

 実は色覚少数派という呼び方は団体独自のもの。一般的には色弱や色覚障害といった呼び方になるが、「障害とか弱いという言い方はおかしい」と考えるからだ。直訳すると「本当の色」を意味する団体名にも「多数派の見え方だけが正しいわけではない」との思いを込めているという。 

 サクラの花が白っぽく見える植村さんも「母や祖母に『自分たちのせいだ』と言われるとすごく悲しい。だから私としては強みだと考えている。遺伝でしかもらえないものだと捉えたい」と話す。

見え方を助けてくれる補助レンズを使った眼鏡=25年12月、大阪市

▽色を見られるチャンスはある

 色覚少数派の治療法はないが、見え方を補助するレンズはある。

 「True Colors」では大阪市内の区役所で補助レンズの体験イベントをしたり、学校を訪ねて講義をしたり。色が見分けられないとして当事者たちが敬遠しがちな美術展で、補助レンズを貸し出す取り組みも行っている。

 高橋代表は、体験イベントに小学生の男の子を連れてきていた母親が「子どもに色を見せられてうれしい」と泣いていたり、小さな子が色を感じてにこっと笑ったりする姿を見てきたという。

 補助レンズは見え方ごとに自分に合ったものを選ぶ。例えば赤を覚知する細胞が少ない人は赤みがかったレンズを使って強制的に赤を補う仕組みだ。ただし赤以外の色も赤みを帯びて見えてしまう側面もある。このレンズを使った眼鏡の価格も約8万~10万円と安くはない。

 高橋代表は「補助レンズを知らず、『自分は色を見られない』と思っている人もいる。当事者にはそれがつらいこと。見えなくて当たり前はおかしい。補助レンズを買うかどうかはそれぞれの判断だが、見られるチャンスはあるということは知らせたい」と話す。

 補助レンズを扱う大阪市の会社によると、大手眼鏡チェーンにも卸しており、購入することは可能だという。

色覚少数派に該当する大阪府の玉井実夫さん=26年1月22日、大阪市

▽初めて見えた色

 色覚少数派のため肉を焼くのが苦手な玉井さんも数年前、大阪市で開かれた美術展「UNKNOWN ASIA」で補助レンズを初めて体験した。

 「思わず隣の妻に、『こんな色やったん?』って聞いてしまった」

 青空を背景に、赤やオレンジ、黄、白など色とりどりの花が描かれた華やかな絵だった。裸眼ではオレンジやベージュ、黒など3色程度にしか見えていなかった絵が、レンズを通すと全く違った物になっていた。

 「これまで見えていなかった色と色の境目が見えて、色が浮き出てくるようだった。見ていて楽しかった」と振り返る。

  「True Colors」では2022年から活動の趣旨に賛同した主催者の協力を得て、大阪市で毎年12月に開かれる「UNKNOWN ASIA」で補助レンズの貸し出しを行っている。玉井さんのように毎年訪れる人もいれば、東京からやってくる当事者もいるという。

 この美術展では色覚少数派向けの補助レンズだけでなく、一般の人が色覚少数派の見え方を体験できるレンズも用意している。

 玉井さんの妻はこちらのレンズをつけて「あんた、こんなふうに見えてたん?」と驚いていたという。

 高橋代表は話した。

 「私は、知ることは知性と寛容をもたらすと思っている。当事者でない人も体験することで、色覚少数派へ優しさを持ってほしい。そして色覚少数派が病気や障害ではなく、その人の特性だと感じてほしい」

アート展「UNKNOWN ASIA」の一角に設けられた補助レンズの貸し出しコーナー=25年12月、大阪市