時価総額「100億未満は上場廃止」で何が起こる?グロース企業が直面する“次の選択”

東証グロース市場の上場維持基準が見直される。

2025年4月、東京証券取引所はグロース市場の上場維持基準を見直す方針を発表した。新たなルールでは、上場から5年が経過した企業に対し、時価総額100億円以上を求める。2025年3月末時点で時価総額100億円未満の企業は約420社にのぼり、グロース上場企業全体の68%を占める。

適用は2030年以降とされており、一定の猶予期間はある。しかし、成長のスピードが問われるルールの導入は、多くの企業に「このままでは市場に残れないかもしれない」という現実を突きつけた。

いまグロース市場で、どのような動きが起きているのか。M&Aのマッチングプラットフォーム「M&Aクラウド」を運営する、M&Aクラウド代表取締役CEOの及川厚博氏に話を聞いた。

M&Aプラットフォーム「アクセス2倍」

上場維持基準の見直しによって影響を受ける企業。現在の上場維持基準は「上場10年経過後から時価総額40億円以上」。

今回の基準見直しは、グロース市場を中心にM&Aを加速させる引き金になると見られている。時価総額が100億円に届かない企業が買収によって規模を拡大し、基準クリアを目指す動きが加速する。また、未上場のスタートアップも、上場前に同業他社を取り込み“まとめて上場”を狙うケースが増える可能性がある。

実際に現場はすでに動き始めている。フォースタートアップスが提供する情報プラットフォーム「STARTUP DB」によると、2024年のスタートアップの買収件数は178件と前年比で32.8%増えた。同社の志水雄一郎社長は

「実際に事業戦略に関する相談が増加している。市場の再編を見据えてM&Aを成長の加速や事業承継の選択肢として検討する動きも出始めており、今後その傾向は強まる可能性を感じている」

とコメントする。

M&Aのマッチングプラットフォーム「M&Aクラウド」には、発表後からアクセスが急増。通常の2倍に跳ね上がったという。及川氏のもとにも、経営者からの相談が相次いでいる。

「以前は“いい案件あったら教えてください”という受け身な相談が多かったが、明確に意思を持った相談が増えた」(及川氏)

経営層へのプレッシャーの変化について、これまでもPL(損益計算書)上の圧力はあったとした上で、 

「今は、“時価総額が上がらなきゃ上場維持できない”という明確なタイムリミットができたことで、動きが主体的になってきていると感じます」(及川氏)

と見る。

「100億円未満」の企業はどうなる?

撮影:今村拓馬

今回の上場維持基準の見直しによって“当事者”となったのは、時価総額100億円未満のグロース上場企業たちだ。制度変更の内容はシンプルだが厳しい。

「自力で成長していく道もあります。ただ、現実的には“買い手になるか、買われるか”ではないか」(及川氏)

同社によると、「M&Aクラウド」には、すでにグロース市場の上場企業の約4割が“買い手”として登録している。企業は「買い手」として自らの存在を明確にアピールするためにこのプラットフォームを活用しているという。

M&Aをテコに時価総額を引き上げたグロース上場企業もある。2023年末に上場したアパレル企業・yutoriは、当初の時価総額が40億円に満たなかったが、小嶋陽菜氏のアパレルブランドを始めとした複数のM&Aによって現在の時価総額は100億円前後で推移する。

一方で、「買う側」になれる企業ばかりではない。財務や実行力に課題を抱える企業は、むしろ「買われる側」になる可能性が高い。グロース上場企業の主な買い手になるとみられるのが、PEファンドだ。ベインキャピタルによるイグニス(2021年)やインパクトホールディングス(2023年)の買収事例は、その典型といえる。

「上場ベンチャーは、レイターステージのスタートアップよりも割安感がある場合が多い。ファンドが買収して非公開化し、数年後に再上場を目指す、といった流れも今後増えてくるのではないか」(及川CEO)