バブルの残骸…豪華設備で売られた湯沢のリゾートマンション、苗場エリアでは「売値10万円」の衝撃

バブルの残骸…豪華設備で売られた湯沢のリゾートマンション、苗場エリアでは「売値10万円」の衝撃

昭和以前の不動産投資においては、「不動産は価値が下がらず資産性が保全されるもの」という発想が大前提。物件が何であれ「値上がりする前にとりあえず買う」という人が少なくなかったといいます。バブル期の湯沢のマンションも同様に投機の対象となりましたが、バブル崩壊後、一気に市場は冷え込むことに。その結果、膨大な数の売物件の出現と管理費の滞納が発生。しかし、売却もままならず、ついに手放すことを諦め、管理費や修繕積立金すらも払わないまま放置するオーナーが続出しているといいます。本記事では、吉川 祐介氏による著書『バブルリゾートの現在地 区分所有という迷宮』(角川新書)より一部を抜粋・再編集して、湯沢のリゾートマンションの実態についてご紹介します。

バブルの残骸…湯沢のリゾートマンション特有の問題点

本格的に不動産価格が低迷し始めた2000年代以降は、湯沢にとってまさに冬の時代であった。続出する管理費の滞納問題によって管理組合の財政は悪化し、なかには1億円を超える累積滞納額を抱え込むほどの事態に陥ってしまったマンションもある。

バブル期に建築された湯沢のリゾートマンションは、スキー用品のロッカールームやコインランドリーはごく標準的な設備で、共同の温泉大浴場のほか、トレーニングルームや温水プール、レストランやラウンジなど、一般の民間マンションではあまり見られない共用設備を豊富に揃えているが、もちろんその分管理費は高額になる[写真1]。

[写真1]ウォータースライダーを備えた湯沢町のリゾートマンション

では、共用設備が少なくて管理費が安いマンションが有利かといえば、そんな簡単な話でもない。豪華な設備が当たり前となった湯沢においては、そうしたマンションはリゾート物件としての魅力が相対的に低い。管理費の負担を切り詰めてまでリゾートマンションを購入し所有しようという人は少ないので、設備の乏しいマンションも在庫が膨れる一方であった。

基本的に外部に広く公開する情報ではないので、各マンションの管理費滞納状況を記録した資料などはないのだが、僕が湯沢で取材したところによれば、管理費の額にかかわらず、多かれ少なかれどこのマンションも滞納の問題には頭を悩ませているという。管理費の納入状況の悪化は、マンションの人気にも直結する。

一般的な不動産会社が仲介業者としてマンション販売に携わる場合、不動産会社は売買契約の締結時に、その物件の資産価値を左右する重要な問題点などについては「重要事項」として購入者に説明する義務がある。

マンションの場合、運営に重大な支障を及ぼすほどの多額の未納管理費があれば、もちろん購入者にその旨説明しなくてはならない。重要事項説明は契約締結時に行われるものだが、いずれ説明しなくてはならない話ということで、マンションの購入希望者の内見の時点で、管理組合の財政事情を明かしてしまう営業マンも存在する。

さすがに億単位の未納額を抱えたマンションの購入には二の足を踏むのが普通の感覚であろうから、管理費の納入状況が悪いマンションは引き合いが弱く成約率も低くなるだろう。その分、価格の下落が激しい。同じ程度の立地条件や築年数でも、それが価格面に明白に反映されてしまっているマンションもある。

管理会社も、マンションが建ったときから変わっていないマンションはあまりないようで、現在では地元の管理会社が管理しているところもある。

バブル期に湯沢町に参入してきたマンションデベロッパーは、首都圏でもその名をよく知られた大手が多かった。分譲販売後、自社の関連企業でマンションの管理業務を行っていた大手事業者も、冷え込む湯沢のマンション市場と続出する未納問題によって採算性が悪化し、次々と撤退していく。

あるデベロッパーの関係者によれば、今や大手管理会社にとって、リゾート部門は左前の事業で、言わば一種の「左遷先」とみなされているとのことだ。

湯沢の場合、その後釡として、地元で業務を行っていた不動産会社の管理部門が引き継いでいるが、大手管理会社の撤退は今も続いている。

こうした管理会社の変更は、リゾートマンションに限らず近年ではよく見られるが、湯沢町においては、以前は管理組合の判断で管理会社が変更されるケースが一般的だったものが、近年はむしろ、管理会社側から契約の解消を申し入れるケースも目立つようになってきた。

湯沢町の地元で営業する管理会社に話を聞いたところ、特に管理組合に熱心に営業を働きかけているというわけでもなく、何かしらの理由で元の管理会社との契約を解消した管理組合から管理契約の依頼が舞い込んだり、すでに管理契約を結んでいる別のマンションのオーナーからの紹介で、新たに管理契約を結ぶケースもあるという。

湯沢の3つのエリア、それぞれの状況

価格面において、特に深刻なのは苗場エリアの状況だ。苗場のマンションの市場価格があまりに暴落してしまったために、それがあたかも湯沢町全体のマンション事情であるかのように語られてきた。

湯沢町内にはマンションの密集エリアが大きく分けて3つある。越後湯沢駅周辺、上越線の岩原スキー場前駅周辺、そして苗場エリアの3か所で、また湯沢町の北に位置する舞子高原(南魚沼市)にもリゾートマンションが並ぶエリアが存在する。

一般的な都市型マンションにおいても、駅や商業地域からの距離によってその市場価格や資産性に違いがあるように、湯沢周辺においても、マンション密集エリアはそれぞれ条件が異なっており、それもまた価格を決める要因の一つになっている。

3つのエリアのうち、湯沢町の入口である越後湯沢駅は今も上越新幹線の停車駅であり、関東方面から新潟県に向かう際に最初に到着する駅である。その越後湯沢駅の徒歩圏内にリゾートマンションが複数存在するが、駅近くのリゾートマンションの部屋が10万円で販売されるようなことはまずない。

例外的に、ワンルームの部屋が数十万円で販売されることもあるにはあるが、そのようなマンションは大体、築年数が古く、バブル期のマンションと比較して居室の造りや設備が見劣りすることが多い。

しかしいずれにせよ、越後湯沢駅周辺、および上越線の岩原スキー場前駅周辺エリアに点在するマンションは、管理が放棄され朽ち果てているようなことはない[写真2]。

[写真2](上)上越新幹線越後湯沢駅と、周辺に立ち並ぶリゾートマンション(下)岩原スキー場前駅周辺のリゾートマンション群。価格は越後湯沢駅周辺よりは安めだが、多くは今も現役のリゾートマンションとして使われている

どのマンションも今なお、別荘、あるいは定住用途として利用されている。新築当時の販売価格から考えれば大きく下落しているのは間違いないが、それはリゾートに限らず地方や郊外のマンション全体に共通して言えることで、新築当初より価格が上昇しているマンションはむしろ都市部の、それも好条件に恵まれた限られた地域の現象である。

中古マンションの売値が10万円?苗場の異常なマンション市場

ではなぜ苗場エリアだけ価格が暴落しているのだろうか。

挙げられるのはやはりアクセスだ。このエリアは越後湯沢駅からおよそ20㎞も離れた山間に位置し、スキーに特化して開発が進んだリゾート地のため、他の利用用途に乏しいうえ、公共交通機関でのアクセスも悪い。それでいて数千戸にも及ぶ居室が供給されたため、圧倒的な供給過多の状況に陥ってしまった。

現在でも苗場周辺の中古マンションの物件広告を見ると、物件によって築年数や間取り、広さは様々であるにもかかわらず、価格はどの物件であれ一律10万円、という状況が常態化している。

この価格で業者に売買の仲介を依頼した場合、おそらく手数料を支払うと売主の手元には1円も残らないか、逆に販売価格以上の仲介手数料を支払って、事実上、お金を払って物件を売却(処分)しているのは間違いない。

購入を希望する人の視点に立って考えてみよう。どんな部屋でも一律10万円となれば、誰だって眺望がよく快適な部屋を選択するだろう。マンションの管理費は基本的に居室面積に応じて決まるもので、北向きの低層階だからと言って管理費が大きく割安になるわけではない。

リゾートマンションを購入する際は一番高額な部屋を買えと指南しているメディアを見たことがあるが、これは一理ある話で、限られた需要しかないリゾートマンションの場合、価格の高い部屋というものは、皆が欲する条件があるからこそ高いのであって、価格が安い部屋というのは、それはそのまま売却の困難さに直結しているのだ。

それが、最上階の部屋でも10万円となったらどうなるか。条件の悪い部屋は、たとえ10万円まで価格を下げたとしても、いつまでたっても何の引き合いもなくなってしまう。

そして実際、苗場のマンションには、おそらく長期間広告が出され続けていると推察される物件がかなりある。僕は湯沢に限らず、物件広告サイトは日常的にチェックして大まかな価格の動向は調べているが、そんな地域でも格安の物件というのは一定数の「お気に入り登録者数」(物件サイトによってはその数を公開している)が集まるものだ。

ところが、苗場に限ってはその傾向がまずなく、10万円のマンションの広告に、一人のお気に入り登録者もついていないときも多々ある。業者も商売なのだから、赤字になるような手数料設定を行うことはないが、旨味のある商品ではないので宣伝に熱心になるわけでもない。単に業者が提示できる最低限のラインが10万円というだけの話で、売主の皆が皆、10万円の売却益を求めて広告を出しているわけではないのだ。

売値に10万円と記載されていたとしても、長期間買い手を待ち続けている売主であれば、おそらく交渉次第でもっと値下げもできるとは思うが、もはやそれを行う人も現れないほど需要が激減している。そしてこの苗場の異常なマンション市場が、あたかも湯沢全体の状況であるかのように吹聴されている。

吉川 祐介