「え、これって八百長?」マンション修繕費をコンサルに食い物にされない「4つの対策」とは

近年における資材価格や人件費の上昇は、大規模修繕工事の費用そのものを大きく押し上げているのが実情である(写真はイメージです) Photo:PIXTA
首都圏の大規模修繕工事で
表面化した談合疑惑
マンションの資産価値を維持するために不可欠な大規模修繕工事。しかし、その裏で大切な修繕積立金が本来よりも割高な工事費用に充てられているとしたら――。
その懸念を裏付けるかのようなニュースが、この3月に明らかとなった。首都圏の大規模修繕工事における談合疑惑が表面化し、公正取引委員会(公取委)が約20社の施工業者に対し独占禁止法違反容疑での立ち入り検査に踏み切ったというものだ。この疑惑が事実であれば、将来の修繕資金の不足やマンションの資産価値低下など多方面への影響が懸念される。
この一連の報道に対し、驚きや不安を感じつつ、事態を深刻に受け止めたマンション所有者も多かったはずだ。しかし、業界事情に詳しい専門家の間では、今回の公取委の動きは、むしろ「起こるべくして起こった」事態でもあったのだ。
実際、公取委の調査はその後も続き、4月下旬には対象企業が30社超にまで拡大していることからも、問題の根深さがうかがえる。つまり、表面化した事件は氷山の一角に過ぎず、より根深い構造的な問題が存在しているとも考えられるのだ。
談合とは異なる
「構造的癒着」の実態とは
では、根深い構造的な問題、とは何を指すのだろうか。今回の疑惑で特に注目されるのは、本来、管理組合の代理人として公正な立場でチェック機能を果たすべき設計コンサルタント(設計事務所)が、特定の施工会社と癒着し、受注調整に関与しているとされる部分だ。これは、一般的にイメージされるような、施工業者同士だけで価格を申し合わせる「談合」とは少し異なり、「構造的な癒着」と呼ぶべき状態に近い。その癒着の具体的な仕組みの一つとして、業界内で「チャンピオン制」と呼ばれる慣行の存在が指摘されている。
これは、形式上は複数の施工会社から見積もりを取るものの、実際には受注させる施工会社(チャンピオン)が、設計コンサルタントなどによって事前に内定しているという「出来レース」の構造だ。他の業者は、チャンピオン企業を引き立てるための「当て馬」として、意図的に高めの見積もりを提出する役割を担わされる。驚くべきことに、当て馬役の見積金額まで、チャンピオン企業が指示して作成させているケースすらあるという。
この「チャンピオン制」という出来レースによって、本来の適正価格よりも高い金額で工事契約が結ばれることになる。その水増しされた費用の一部が、管理組合には知らされないまま、受注を差配した設計コンサルタントや関係者に「バックマージン」として支払われている、という構図だ。
バックマージンの額は、総工事費の10%から、悪質な場合には20%にも達するとも言われる。つまり、管理組合が支払った工事費の一部が、本来の工事目的以外に充当されている可能性も考えられるのだ。相場が1億円の工事が、15%割高な1億1500万円で契約された場合、差額の1500万円が、キックバックの原資となっている…といった例である。
さらに、この癒着構造を隠蔽(いんぺい)する巧妙な手口の一つに、設計コンサルタントが管理組合に対し、相場では考えられないほど安いコンサルティング費用(設計監理料)を提示するというものがある。
一見すると、管理組合にとっては費用を大幅に節約できる魅力的な提案に映るだろう。しかしその裏には、工事費を割高に設定することで得られる多額のバックマージンで、コンサルタントは十分に利益を確保できるという計算が隠れている場合も少なくない。表面的な費用だけを見ると、むしろ良心的にさえ見えるケースもあるため、その裏にある癒着や不当な費用の流れは見過ごされやすくなってしまう。これが問題の発覚を困難にしているとも言えるのだ。
加えて、近年における資材価格や人件費の上昇は、大規模修繕工事の費用そのものを大きく押し上げているのが実情である。管理組合が計画的に積み立ててきた修繕積立金だけでは必要な費用を賄いきれず、住宅金融支援機構をはじめとする外部機関からの借り入れに踏み切るケースも増加している。こうした厳しい財政状況が、癒着による不当な費用上乗せのリスクをより一層深刻なものとしているのである。
不正の兆候?
チェックすべき業者選定の「シグナル」
建築や業界慣行に関する専門的な知見がなければ、管理組合がこの巧妙に仕組まれた癒着構造を見抜くことは簡単ではない。見抜くことが難しいからこそ、選定プロセスの中に現れる具体的な「シグナル」に目を向けることが大切になってくる。
例えば、設計コンサルティングの費用が相場と比較して異常に安いにもかかわらず、提示される工事見積総額が不自然に高額であったり、修繕積立金の残高に合わせたかのようにピッタリだったりする場合は警戒が必要だ。
また、コンサルタントが紹介した特定の業者以外に応募がなかったり、他の参加業者が明らかに受注に消極的な態度を示したりする場合も、水面下での調整が疑われる。
見積もり合わせの結果、特定の1社だけが突出して安い(もしくは予定価格に近い)場合や、他の業者が横並びで高額な見積もりを提示している状況は、もしかすると出来レースの兆候かもしれない。
これらのシグナルに気づくことが、不正を見抜くきっかけともなり得る。
透明性を確保し、資産を守る
「4つの鉄則」
では、管理組合はどうすれば、この見えにくい構造的癒着から、自分たちの大切な修繕積立金を守ることができるのだろうか。そこで重要となるのが次の「4つの鉄則」の実践である。
まず、第一の鉄則として、コンサルタント選定において「安さ」だけで決めるべきではない。大規模修繕工事のいわば入り口でもあるコンサルタント選定こそ、最も重要な関門と心得ておきたい。「安さ」を前面に提示された場合も、その裏には何があるのかを冷静に見極め、なぜその価格が可能なのか、納得のいく説明を求める姿勢が求められる。過去の実績、評判、担当者の経験、業務の進め方、そして何より特定の施工会社とのしがらみの有無などを多角的に検証し、信頼できるパートナーを見極めることが肝要だ。
第二の鉄則として、管理組合が主役であるという意識が重要となる。専門家の意見は参考にしつつも、最終的な決定権は自分たちにある、という当事者意識を忘れてはならない。コンサルタントにすべてを委ねるのではなく、どのような修繕を行いたいのか、優先順位は何なのか、といった組合としての要望を明確にし、それをコンサルタントや施工会社に的確に伝える必要がある。業者選定のプロセスにも積極的に関与し、選定基準の策定や候補業者の評価に主体的に取り組むべきである。
さらに第三の鉄則として、なれ合いやしがらみを排除し、プロセスの透明性を高めるには、客観的な視点を持つ第三者の活用を検討すべきだろう。管理組合としては、利害関係のない独立した専門家のサポートを得ることが望ましい。
そうした専門家にアドバイスを仰ぐことは、単に価格の比較に終始するのではなく、設計コンサルタントと施工会社の結託による利益相反を生むリスクのある従来の「設計監理方式」とは異なり、管理組合の要望に基づき各施工会社に技術的な提案と見積もりを求める「プロポーザル方式」の導入を積極的に支援するなど、より透明性が高く、かつ質の高い提案を引き出すプロセス構築に貢献することが期待される。こうした徹底した第三者性は、私たちさくら事務所が常に追求するコンサルティングの根幹でもある。

※「設計監理方式」による施工会社選定の仕組み(出典:さくら事務所)

※「プロポーザル方式」による施工会社選定の仕組み(出典:さくら事務所)
第四の鉄則は、スケジュールへの過度な固執を避けることである。大規模修繕には長期的な視点が不可欠であり、「急がば回れ」の精神こそが、結果的に最良の選択に繋がることも少なくない。計画の遅れを気にするあまり、検討や検証が不十分なままプロセスを急いでしまうと、後々、大きな問題へと発展する可能性もある。もしプロセスに疑問が生じたり、癒着が疑われるような状況になったりした場合には、一度立ち止まる勇気も必要となるだろう。
「うちは大丈夫」こそが危険
自らの手で資産価値を守るために

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大規模修繕工事に潜む「構造的癒着」は、決してひとごとではない。その見えにくい性質ゆえ、どの管理組合においても、意図せず貴重な修繕積立金が目減りしてしまうケースも起こり得る。しかし、先に掲げた「4つの鉄則」のように、管理組合が主体的に関与し、透明性を追求するならば、そのリスクは大幅に減らすこともできるのだ。
管理組合には、自ら情報を収集し、プロセスに関与しながら、必要に応じて第三者の客観的な視点を導入する姿勢が求められる。こういった地道な取り組みこそが、マンションの資産価値を守るための確実な道筋となるのである。公取委の調査が業界全体の透明化を促す好機となることを期待しつつ、まずは管理組合自身が主体的に行動を起こすことが、誰もが安心して修繕工事を進められる未来への第一歩となるだろう。
(株式会社さくら事務所創業者・会長 長嶋 修)
さくら事務所公式サイト
https://www.sakurajimusyo.com/