「マセラティ・クラシケ」旧車とSDGsの在り方

オートモティブ カウンシル 2025のブースには、現行モデルの「グランカブリオ」と、1969年製の「ギブリ スパイダー」の2台が並べられた。マセラティにとって、ロードカー第1号のプロジェクトがオープントップであり、つねにラインアップには存在してきた重要なモデル。そこで新旧オープンカーを並べたという(筆者撮影)
イタリアを代表するラグジュアリーカーブランド「マセラティ」は、2021年からクラシックカー公式認定プログラム「マセラティ・クラシケ」を本国イタリアで展開している。そのプログラムの日本導入を4月11日に発表した。ちなみにイタリア以外でマセラティ・クラシケを展開するのは日本が初となる。
【写真を見る】マセラティの初代「ギブリ スパイダー」と最新モデル「グランカブリオ」。そのほかオートモビルカウンシル2025の展示車両たち(59枚)
なぜマセラティは、新車販売だけではなく、自動車メーカーとしてクラシックカーのサポートに力を入れるのか。また、なぜ本国の次に日本でサービスを開始するのか。その理由や詳細について、発表の場となった「オートモビル カウンシル 2025(2025年4月11~13日・幕張メッセ)」でインタビューした。
イタリアを代表する自動車メーカー「マセラティ」とは

マセラティを象徴する「トライデント」のエンブレム(筆者撮影)
最初にマセラティというブランドについて簡単に説明しておく。マセラティは、1914年にマセラティ兄弟によって創設され、モータースポーツを中心に活動を開始する。1926年にはマセラティの名を冠したレーシングカー「ティーポ26」を完成させ、名実ともにレーシングコンストラクターとしての地位を確立。このとき、マセラティのシンボルとして今も愛されている三叉のもり「トライデント」のバッジをはじめて掲げた。
その後、レーシングコンストラクターとして順調に成績を残し、1947年にマセラティ初のロードモデル「A6 1500」を発表。その後、「3500GT」「セブリング」「ミストラル」「クアトロポルテ」「メキシコ」「ギブリ」「ボーラ」などの歴史的な名車を生み出した。現在は、フィアットやプジョー、ジープなど数多くのブランドを抱えるステランティスグループで唯一のラグジュアリーカーブランドとなっている。

1969~1973年に販売された初代ギブリ スパイダー。優雅なスタイリングはジョルジェット・ジウジアーロによるデザインで、4.7LのV型8気筒エンジンを搭載(SSバージョンは4.9Lエンジンを搭載)。累計生産台数は125台という貴重価値の高いモデル(筆者撮影)
ちなみに本拠地はイタリア北部のエミリア=ロマーニャ州モデナで、同じくイタリアを代表するスーパーカーブランドのフェラーリやランボルギーニも近くに本拠地を構えている。この3ブランドはイタリアン高級スポーツという共通点を持つが、ものづくりにおいては異なる趣を持つ。例えば、フェラーリやランボルギーニはV12エンジンに代表されるハイパフォーマンスエンジンを搭載し、流麗かつ低いボディで、一般の人がイメージするスポーツカー像に近いだろう。
対するマセラティは、モータースポーツを起源とするが、市販車においては“グランツーリスモ”の思想が強い。グランツーリスモとは、長距離ドライブを快適にこなす高性能マシンであり、フェラーリやランボルギーニなどのピュアスポーツとは異なる方向性だ。優雅で快適、控えめな上品さこそがマセラティの持つ魅力といえる。
マセラティ・クラシケの概要について

マセラティの公式認定プログラム「マセラティ・クラシケ」の日本導入を発表する、マセラティ ジャパンの代表取締役 木村隆之氏(筆者撮影)
ブランドの歴史や思想はこれくらいにして、本題の「マセラティ・クラシケ」ついて説明していく。概要は、マセラティのクラシックモデルの保存、修復、および車両の正当性(当時の仕様・状態を維持していること)を証明するヘリテージプログラムとなる。審査・検証を受けて認証された場合は、正当性を証明する認定証が発行され、さらに本国でスペアパーツの再生産や車両レストアなどのサービスも受けられるようになる。簡単にいえば、生産が終了した絶版車であっても、新車同様に自動車メーカーがサポートしてくれるサービスだ。ただし、これまでは認定を含む、すべてが本国イタリアでのみの対応となっていた。
マセラティ ジャパン代表取締役の木村隆之氏に日本導入について聞くと、「マセラティ・クラシケの認定プロセスは、これまで本国イタリアに車両を輸送する必要がありました。しかし、それではコストや時間もかかりますし、歴史的価値の高いクルマは輸送にかかる保険料も高額になりがちです。さらにイタリアへ輸送するので、事故等のリスクもゼロではありません。そんなオーナーの負担を軽減し、日本国内で審査・検証をできるようにしたのが今回のマセラティ・クラシケになります」と説明した。
認定プロセスについては、本国イタリアから専任の担当者が日本に来日して実施するそうだ。イタリア以外では日本が初の試みとなり、今年は最大8台を対象に審査を実施する予定。募集期間は2025年6月1~30日で、需要があれば来年以降も継続していくということだ。

ギブリ スパイダーとともに展示された、現行モデルの「グランカブリオ」。マセラティの最新オープンカーで、展示されていたグランカブリオ トロフェオの車両本体価格は3120万円。オプションを含んだ価格は3294万円(筆者撮影)
そんなマセラティ・クラシケだが、2021年のイタリアでスタート以来、日本を含めた世界各国から申請のあった80台以上の車両に対して審査を行い、認定証を発行している。その中には日本から車両を輸送し、認定を受けた1968年製ギブリ4.7クーペも含まれている。現状、日本国内でマセラティ・クラシケの認定を受けているのは、その1台のみとのこと。そのことからもイタリアに輸送して認定を受けのは、非常にハードルが高いことがうかがえる。
認定の対象になる車両は、1947~2002年に生産されたモデル。具体的には、1947年から1978年に生産されたクラシックモデル、1978年以降に生産されて20年以上が経過したネオクラシックモデル(「クアトロポルテIII」を含む)、「MC12」やその派生モデルをはじめとするスペシャルカーだ。例えば、セブリングやメキシコ、ギブリなど、歴史的にも価値の高いモデルが該当する。
なぜ、新車と同様に旧車を扱うのか?

ギブリ スパイダーのインテリア(筆者撮影)
ただ、残存台数も限られ、減っていくクラシックカーのサポートまでするというのは、自動車メーカーのビジネスモデルを考えれば非効率に感じる。販売台数の多い新型車や現行車ならともかく、日本国内にあるマセラティのクラシックカーとなると非常に希少だ。話によれば、1947~2002年という時期の車両は、全世界でも年間数千台程度の販売で、日本に入っている車両は非常に少ないと聞く。
そんなマセラティ・クラシケ日本導入の理由として、マセラティのオーナーは、現行モデルであれ、クラシックカーであれ、自身でロングドライブを楽しむ人が圧倒的に多いことを挙げる。「高級スポーツカーの場合、資産価値が下がることを懸念し、ほとんど乗らないというユーザーが近年増えています。しかし、マセラティは、普段の足として選ばれる方が多く、サポートを求める声が多いんです。その理由は、運転しても疲れない、グランツーリスモとしての作り込みに起因しています。例えば軽井沢の別荘に行き、東京に戻るときに、首都高をもう1周したくなる、そんな楽しさがマセラティにはあります」と、木村氏は話す。

ギブリ スパイダーのリアビュー(筆者撮影)
さらに「マセラティは1度手に入れたら長く乗られる方が多く、とくに日本では現行モデルとクラシックカーのように複数台所有している方もいらっしゃいます。そういったユーザーから現行モデルと同様にクラシックカーの面倒をみてほしいという声がありました」と付け加えた。
古いクルマに乗り続けることは、エコの観点からも意義があるとマセラティでは考えているそうだ。日本では、「古いクルマ=環境に悪い」というイメージも少なからずあるが、マセラティでは、クラシックカーを大切に、コンディションのよい状態で長く乗ってもらうことも、ひとつのSDGsの在り方と捉えているように感じた。それが非効率であろうとも、オーナーをを第一に考えたマセラティ・クラシケを心意気なのだろう。

トヨタが展示していた初代セリカ リフトバック(筆者撮影)
こういった考えは、輸入車に限らず、最近では国産車でも少しずつ広がりつつある。例えば、オートモビル カウンシル 2025に出展していたトヨタ自動車も、初代セリカのリフトバックやA70型&A80型スープラなどを絶版車に加え、その復刻部品となるGRヘリテージパーツを多数展示して賑わっていた。そのほか開発中を含む、AE86のパーツ群なども展示し、古きよき旧車を未来につなげる活動をアピールしていたのが印象的だった。
簡易版の認定プログラムも開始
また、マセラティ・クラシケの簡易版プログラムも同時にスタート。こちらは生産証明や注文書類、車両テスト資料、技術データ資料、ラインオフ確認書類、工場出荷書類などの歴史的アーカイブや資料をオーナー向けに複製して提供する「アーカイブ資料複製サービス」。車両の製造番号等の確認のみなので、面倒な実車の確認作業も不要となっている。
このアーカイブ資料複製サービスでは、「どのようにクルマが作られたのか」「どのようなオリジナルパーツが使われていたのか」「以前のオーナーはどこで、どのようにメンテナンスを受けていたのか」などの情報を、わかる範囲でユーザーに提供する。このようにマセラティでは絶版車の保存、さらに現オーナーに対して“新車同等に普通の乗って楽しめる”という価値を提供しているのだ。
ユーザーの若返りを図るマセラティの戦略

マセラティ・クラシケの日本導入、また新型車も含めた今後について語る木村氏(筆者撮影)
最後にマセラティの成長戦略についても触れておく。新車購入者の年齢層について、現在の中央値は53歳という話だった。さらに経営者や開業医などのセルフエンプロイ(自営業者や起業家など)が85%、企業で働くビジネスパーソンは15%という比率だという。また、その中で女性ユーザーは15%ほどということだ。ちなみにお隣の韓国をはじめ、ASEAN地域における購入者の平均年齢は30代後半と、かなり若返りが進んでいるそうだ。
ただ、2016年にブランド初のSUVとして登場し、日本国内で月販100台、年間で1000台以上を記録した「レヴァンテ」からは購入者層にも変化が表れたという。街中でも「マセラティを見かける機会が増えた」と感じた読者もいるだろう。
さらに現行モデルの「グレンカーレ」も車両価格1100万円からという価格設定で、高嶺の花から頑張れば買えるブランドにイメージが変化しつつある。そのほかにも近年は若年層や女性にも積極的にアプローチを行い、マセラティはビジネスパーソンの購入比率を15%から30%、女性購入比率も15%から25%へ増やすという目標を掲げ、若返りを図っているという話も聞けた。
とはいえ、まだまだ手の届かないラグジュアリーカーというイメージも強いだろう。そんな声に対し、木村氏は「10年後には、完全にEVにクルマが置き換わっているかもしれません。だからこそ、少しでも余裕があれば、ためらわずに趣味性の強いクルマを楽しんでもらいたい。そのひとつの選択肢として、マセラティを考えてもらえれば嬉しい」と語った。