ホンダ「EV後退」は時間稼ぎ? 2030年「HV220万台」目標の背景──生産会計・地域戦略から読み解く“次の制空権”

見直された「EV偏重」路線

 本田技研工業は2025年5月20日、四輪電動化に関する説明会「2025ビジネスアップデート」を開催した。

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 この場でホンダは、足元の電気自動車(EV)市場の変化を踏まえ、四輪電動化戦略の軌道修正を発表した。新たな方針はふたつある。ひとつは、知能化を軸としたEVとハイブリッド車(HV)の競争力強化。もうひとつは、パワートレーンのポートフォリオを見直し、事業基盤を再構築することだ。

 戦略転換の背景には、想定を上回るEV市場の冷え込みがある。加えて、各国の通商政策の変化も事業環境の不確実性を高めている。

 こうした現実を前に、ホンダは従来目標としていた2030年にグローバルEV販売比率30%の達成が困難であることを示唆した。一方で、需要が底堅いHVに活路を見出し、2027年から4年間で13車種を投入する方針を打ち出した。

 本稿では、ホンダの軌道修正にどのような経営的合理性があるのかを検証する。これはEV戦略の後退を意味するのか。それとも、通商環境の変化を見据えた再始動の布石なのか。戦略の内実を掘り下げていく。

過渡期を生き抜く「中庸」の技術

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「2025ビジネスアップデート」四輪事業化戦略(画像:本田技研工業)

 ホンダは2022年4月時点で、2030年までにグローバルでEVを30車種投入し、年間200万台超の生産を計画していた。その後、2024年11月に電動化目標を更新。EVおよび燃料電池車の販売比率を2030年に40%、2035年に80%、2040年に100%とし、脱エンジン車の方針を明確にした。

 しかし、今回のビジネスアップデートでは、2030年の四輪販売台数を360万台以上とする一方で、HVを220万台とする目標を示した。EVの具体的な販売目標は公表されなかったが、140万台を下回る見通しとなり、2022年時点の目標(200万台)の7割にとどまる。

 ホンダは、次世代ハイブリッド車をEV普及までの過渡期を支えるパワートレーンとして位置づける。これにより、社内のエンジニアに活躍の場を残し、既存の生産設備も活用する構えだ。HVの延命は、エンジン技術に強みを持つメーカーとして、残された利益を確保するための“最後の砦”ともいえる。

 同時に、本格的な電動化を見据えた事業基盤の強化策として、HVを中核に据える道も開かれる。今後、トヨタとの競争が激化するハイブリッド市場において、ホンダは技術優位とコスト競争力の両立をかけた勝負に挑む姿勢を見せている。

知能化の主戦場化

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上海モーターショー2025でのホンダとモメンタの提携発表の様子(画像:モメンタ)

 ホンダは、次世代の先進運転支援システム(ADAS)を独自に開発し、四輪車への適用拡大を通じて競争力の強化を図る。具体的には、2027年ごろをめどに、北米と日本でEVおよびHVの主力モデルに幅広く搭載する方針だ。

 とりわけ、ADAS導入のハードルが高い市街地走行に重点を置く。自動運転開発で培った認識技術や行動計画技術を応用し、複雑な都市環境での運転支援に挑む。この取り組みは、ホンダにとって技術開発への覚悟の表れでもあり、移動体験の定義そのものを塗り替える挑戦となる。

 一方、中国市場では、自動運転スタートアップのMomenta(モメンタ)と共同開発を進める。現地の道路環境に最適化した次世代ADASをすべての新型車に搭載する計画だ。北米や日本では自社開発を堅持する一方で、中国では外部パートナーとの連携によって、急速に進む電動化・知能化の流れに対応する。

 これは知能化を競争優位の核心と位置づけた、戦略的な布石である。

SDV構想のリアリティ

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Honda 0 SUV(画像:本田技研工業)

 ホンダは、EV事業の柱として「Honda 0(ゼロ)シリーズ」を展開する。第1弾は2026年に市場投入される予定で、本格的なEV市場参入の起点となる。2025年1月に開催された「CES 2025」で、世界初公開された「Honda 0 SALOON」と「Honda 0 SUV」の2車種が対象となる見込みだ。

 両モデルには、独自のビークルOS「ASIMO OS」を搭載する。これは、ヒューマノイドロボット「ASIMO」で培ったロボティクス技術をベースに進化させたものだ。先進的な知能化技術と融合することで、個々のユーザーに最適化されたソフトウェア定義型自動車(SDV)を実現する。

 ホンダは、EVのハードウェア性能を限界まで引き上げることを目指す。その一方で、ソフトウェア開発についてはルネサスエレクトロニクスと共同で進め、投資の分散を図る。両社が描く新たな将来像は、EVの本格普及期に備えた中長期的な事業基盤の構築にある。

EVからハイブリッド、そして知能へ

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「2025ビジネスアップデート」知能化進化(画像:本田技研工業)

 今回のビジネスアップデートは、資源の集中と展開を同時に進める投資再編である。

 ホンダは、EVへの急速な一本化がもたらす収益構造の脆弱化を見極めた上で、HVに経営資源を再配分することで、短期的な利益の回収と中期的な製品開発の持続性を両立しようとしている。ADASを搭載した次世代HVは、その橋渡し役として設計されており、EV導入期の不確実性を吸収するバッファとなる。

 これにともない、生産拠点ではHVとEVを同一ラインで製造可能にする体制整備が進むと考えられる。いわゆる「混流生産」は、生産効率を高めるだけでなく、需要の振れ幅を吸収する可変性の高い構造を形成。部材在庫、工程管理、人員配置といったオペレーション全体にわたり、柔軟性を前提とした設計への移行が進むだろう。

 ただし、こうした対応は単なる延命措置ではない。HVとEVの製造・販売両面におけるコスト構造を検証し、市場投入のタイミングを見直すことは、次の資本投入フェーズに向けた準備工程でもある。生産体制を切り替えるだけでなく、製品ライフサイクルと規制動向のズレを織り込んだ上で、再投資を適正化する構造変更といえる。

 加えて、ホンダは拠点再編を通じて、供給網の地理的分散と現地最適化を図る構えだろう。中国、ASEAN、北米といった主要市場それぞれにおいて、政策変動や通貨リスクを織り込んだ地域別モデルの展開が本格化すると考えられる。

 この動きは、単なるコスト対応を超え、販売・開発・生産を地域別に独立性のある運用単位として最適化し直す構図に近い。輸出主導の集中型モデルから、政策起点の需給変動に対処できる分散型モデルへの移行であり、それが中長期の製品競争力と収益基盤の再設計に直結する。

中国とインドの「両輪」

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ホンダ・CUV e:(画像:本田技研工業)

 モメンタとの提携が示すのは、受容と脱中心という姿勢だ。ホンダは中国における開発の一部を委ね、自主性を持たせる。中国市場のニーズに即した製品開発を加速させる狙いがある。

 一方、二輪事業ではインドを最大市場と位置づけ、電動二輪車への注力を強める。2025年2月、インドで「ACTIVA e:」と「QC1」を発売した。グローバルモデルの「CUV e:」と「ICON e:」は、インドネシア、ベトナム、タイ、フィリピンで展開される。日本でも2025年6月から「CUV e:」の販売が始まる予定だ。

 今後は、専用に設計した電動二輪車をモジュール化し、インドで2028年稼働予定の新工場で量産する計画だ。将来的には、電動二輪で世界シェア首位を目指す。ホンダはEV過渡期においても、新興国を軸とする二輪事業を成長エンジンのひとつと位置づけ、バランス型成長戦略を具体化していく。

「自由な移動の喜び」は誰のものか

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「2025ビジネスアップデート」新Hマーク適用(画像:本田技研工業)

 ビジネスアップデートの冒頭には、「人々に自由な移動の喜びをサステイナブルに提供していくこと」というメッセージが掲げられた。ホンダはこの理念を、現代に即したかたちで再解釈しようとしている。

 知能化と電動化の進展は、移動の自由という言葉の意味そのものを変えつつある。ホンダが2030年ビジョンで掲げた「すべての人に、「生活の可能性が拡がる喜び」を提供する」という目標も、その文脈で再評価される。モビリティの進化が喜びの形を変えている。

 ホンダは、操る楽しさだけでなく、より快適でストレスの少ない移動体験の提供を目指す。その姿勢を象徴するのが、新たなブランドアイコンとなる「Hマーク」だ。2027年以降、次世代EVおよびHVに順次採用される予定である。

 この新Hマークは、四輪事業の変革を象徴すると同時に、新しい体験価値へのコミットメントを示すシグナルといえる。

分岐点としての2025年

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「2025ビジネスアップデート」に出席したホンダ・代表執行役社長 三部(みべ)敏宏氏(画像:本田技研工業)

ホンダはビジネスアップデートで、2025年をEV拡大期を待つためのつなぎかつ分岐点と位置付けた。今後5年間の注目点は、次世代ADASの投入時期、EVの供給体制整備、そしてSDV開発の動向にある。

ホンダの四輪事業の軌道修正は、EV減速に対応した戦略転換なのか。それとも一時的な調整にすぎないのか。あるいはEV市場からの撤退の序章となるのか。ホンダの次の選択は、自動車産業の行方を示す指標となるだろう。