解説|エヌビディア躍進の陰で深まる経済停滞感

解説|エヌビディア躍進の陰で深まる経済停滞感
こんにちは、NEKO ADVISORIES 岩倉です。毎週金曜日のNEKO TIMESは話題のニュースを取り上げ、経済・ビジネスのトレンドについて解説します。
今週の市場は一言で表現するなら「激動」でした。米半導体大手エヌビディアが発表した第1四半期決算では売上高が予想を上回り、AI半導体への旺盛な需要を改めて示しました。しかし、同時に第2四半期の見通しでは対中輸出規制の影響で80億ドルの減収を予想するなど、地政学リスクの影響も鮮明となっています。
エヌビディア、第1四半期売上高が予想上回る 株価5%高 | ロイター
この好決算を受けて一時は市場が沸き立ったものの、すぐにトランプ政権の関税措置を巡る動きが市場を翻弄することになります。米国際貿易裁判所が包括的な関税措置を違法として差し止め命令を出すと、投資家はリスク選好姿勢を強めました。しかし、政権側が即座に控訴し、さらに連邦巡回区控訴裁判所がこの差し止めを一時停止するという展開に、市場の不透明感は一層高まっています。(ブルームバーグ)
こうした政治的混乱の中で、日本市場も大きく揺れ動きました。エヌビディア効果で上昇していた株価も、関税政策の不透明感から一転して大幅な下落となり、投資家のリスク回避姿勢が鮮明となっています。(時事通信)一方で、日米双方の経済指標からは、それぞれの経済の基調に関する重要なシグナルが発せられており、今後の金融政策の方向性を占う上で注目すべき材料が揃っています。
AI革命の旗手であるエヌビディアの躍進と政治リスクの暗雲、そして経済指標が示す実体経済の現在地。これらの要素が複雑に絡み合う中で、投資家はどのような判断を下すべきなのでしょうか。
<本日のトピック>
・AI革命の旗手エヌビディアと揺れ動くテック株市場
・関税外交の迷走が市場を翻弄
・3年ぶりマイナス成長、米国のジレンマ
・インフレ継続と成長持続に挑戦する日本
AI革命の旗手エヌビディアと揺れ動くテック株市場
エヌビディアが28日に発表した第1四半期決算は、改めてAI革命の凄まじさを印象づけるものでした。売上高は前年同期比69%増の440億ドルと、驚異的な伸びを記録しています。トランプ政権によるAI半導体の中国向け輸出制限がなければ、この数字はさらに大きなものになっていたでしょう。注目すべきは、こうした猛烈な成長にもかかわらず、同社の将来利益に基づく株価水準が過去平均を大幅に下回っていることです。

エヌビディアの12カ月後予想利益に基づく株価収益率(PER)は28倍と、5年平均を約33%下回る
この決算を受けた市場の反応は興味深いものでした。29日の米株式市場では、エヌビディアの上昇がナスダック総合株価指数を押し上げ、ブロードコムなど半導体株の一角も連れ高となりました。しかし、決算・大型買収を発表したセールスフォースの株価は軟調となり、ダウ平均の重荷となりました。テック株全体を見ると一進一退の様相を呈しています。
メタのAI設備投資、25年は最大650億ドルに=CEO | ロイター
AI投資を牽引する企業群の業績は明暗が分かれています。マイクロソフトのクラウド事業は大幅な増収を記録するも、アマゾンのクラウド事業は低調でした。しかしながら、各社の投資はますます増加しています。CBインサイツの調べによるとメタは大幅に投資額を引き上げていることがわかります。(日経)こうした巨額投資の多くがエヌビディアに流れ込んでいるのです。

伝統的セクターでは、トランプ外交の恩恵を受けるボーイングが受注積み上がりを背景に堅調な推移を見せる一方で、景気敏感株も日によって買われたり売られたりと、投資家心理の揺れが鮮明に表れています。
解説|トランプ流「経済外交」でハイテク株急伸ー中東歴訪で半導体とAIの新市場を開拓 | NEKO TIMES
関税外交の迷走が市場を翻弄
5月のマーケットは、エヌビディアのような企業業績だけでなく、トランプ政権の通商戦略に大きく左右される展開となっています。今月8日、英国が関税措置発表後初の合意国となり、農産品から工業製品まで幅広い分野で市場アクセス拡大に応じました。この合意は各国に対話の道筋を示すものの、続く交渉では各国それぞれが厳しい条件交渉に臨むことになりそうです。
解説|トランプ関税外交の潮目:世界経済の綱引きと対応戦略 | NEKO TIMES
欧州との駆け引きはより複雑な様相を呈しています。当初6月1日に予定されていたEU向けの大幅関税引き上げは、フォンデアライエン委員長との直接協議を経て7月まで先送りされました。欧州側は製造業分野での相互関税撤廃や、AI技術分野での協力を提案していますが、交渉関係者からは米国の要求水準が欧州の受け入れ可能な範囲を超えているとの声も聞かれています。(ブルームバーグ)
アングル:EUの対米貿易交渉、50%関税延期でも「互恵的」合意は見通せず | ロイター
最も市場を混乱させたのは、関税措置を巡る法廷闘争です。28日に国際貿易裁判所がトランプ関税の大部分を違法として差し止めたことで、実効関税率は6%まで下がると期待されました。(ロイター)しかし翌29日、連邦巡回控訴裁判所がこの差し止めを一時停止し、関税措置を復活させたのです。結果として関税率は15%にとどまり、市場は政策の方向性を見極めることができない状況に翻弄されています。(ロイター)

報復的な動きも広がりを見せています。ドイツが米IT大手への課税強化を検討するなど、既に多くの国で実施されているデジタル課税の拡大が続いています。(ロイター)ビジネス感覚を前面に出すトランプ大統領の交渉スタイルは、短期的な成果獲得には効果的かもしれませんが、長期的な国際通商秩序の安定性という観点では課題を残しています。
「米国経済の減速が示す政策転換点」
米国経済は明確な減速局面に入っています。29日発表の第1四半期GDP改定値は年率換算で前期比0.2%減となり、2022年第1四半期以来3年ぶりのマイナス成長となりました。特に深刻なのは企業収益の悪化で、前期比1181億ドルの大幅減益となっています。これは前四半期の2047億ドル増益から一転した結果で、関税政策の不確実性が企業マインドを直撃していることを物語っています。実際、航空、小売、自動車など幅広い業界で企業が業績見通しの公表を見送る異例の事態が続いています。(ロイター)
物価動向では明るい兆しも見えています。4月の消費者物価指数は前年比2.3%上昇と、3月の2.4%から減速し、約4年ぶりの低い伸びとなりました。個人消費支出価格指数も前年比2.1%上昇と前月の2.3%から鈍化し、FRBの目標である2%に徐々に近づいています。個人消費支出も4月は0.2%増と3月の0.7%増から大幅に鈍化しており、消費者の慎重姿勢が鮮明になっています。(ロイター)
こうした経済減速を背景に、トランプ大統領は金融政策への圧力を強めています。29日にはパウエルFRB議長と2019年11月以来の面会を行い、利下げを行わないことは「間違いだ」と直接伝えました。関税政策による市場の混乱や経済の一進一退を、金融緩和によって帳消しにしようとする狙いが透けて見えます。しかし、パウエル議長は政策決定が今後の経済指標に依存すると強調し、慎重かつ客観的で非政治的な分析に基づいて判断する姿勢を改めて示しました。
「利下げしないのは間違い」、トランプ氏がパウエルFRB議長に直接伝える | ロイター
金融政策を巡る環境は複雑さを増しています。貿易政策を巡る混乱がインフレ見通しを曇らせる中、政治的圧力も加わり、FRBの独立性が改めて問われています。関税措置の行方次第では物価上昇圧力が再燃する可能性もあり、金融緩和への転換は夏場以降にずれ込むとの見方が支配的です。さらに、ムーディーズによる米国債格付け引き下げは、膨張する財政赤字への警鐘として市場に重く受け止められており、金融政策運営の制約要因となる可能性があります。
ムーディーズ、米国債の格付けを最上位から引き下げ 財政赤字拡大などを理由に - BBCニュース
インフレ継続と成長持続に挑戦する日本
米国経済の減速とは対照的に、日本経済は異なる課題と向き合っています。4月の全国消費者物価指数は前年比3.5%上昇と市場予想を上回り、2023年1月以来約1年4カ月ぶりの高い伸びとなりました。政府による補助金縮小でエネルギーコストが大幅に上昇したほか、食料品価格の継続的な値上がりが全体を押し上げています。日銀の目標水準を大幅に上回る物価上昇が3年以上継続しており、インフレ圧力の根強さが浮き彫りになっています。(ブルームバーグ)

植田日銀総裁は、物価上昇の主因をコメを中心とした食料品価格の高騰と分析し、日本の物価上昇率が欧米を上回る水準に達していることを認めています。食料品価格上昇の影響は今後和らぐと予想される一方で、持続的な物価動向への波及効果については警戒感を示しています。(日経新聞)
解説|備蓄米随意契約の真意 —小泉農相の米価抑制策と農協改革の行方 | NEKO TIMES
労働市場の状況は極めて良好です。4月の失業率は2.5%の低水準で安定し、求人倍率も1.26倍を維持しています。正規雇用者数は統計開始以来の最高水準に達し、雇用の質的改善も進んでいます。製造業や建設業では人手不足が続き、高齢化を背景とした医療・福祉分野でも求人需要が拡大しています。(ロイター)
しかし、経済の先行きを占う生産活動には懸念材料も見えています。4月の鉱工業生産は3カ月ぶりに減少に転じ、特に半導体関連製造装置の輸出不振が製造業全体の足を引っ張りました。経済産業省は生産動向を「一進一退」と評価しており、企業の投資マインドにも慎重さが広がっています。(ロイター)来年度の設備投資を計画する企業の割合は減少傾向にあり、多くの企業が将来の不透明感を投資見送りの理由に挙げています。(帝国データバンク)
金融政策を巡る環境はより複雑になっています。植田総裁は金融正常化の継続方針を表明する一方で、米国の通商政策による不確実性の高まりを重要なリスク要因として位置づけています。国内の物価・雇用情勢は利上げを後押しする材料が揃っているものの、外部環境の急変が政策判断を困難にしており、データに基づく慎重な運営が求められています。(ロイター)