【インド】自動車業界、生産停止を警戒[資源] 中国レアアース規制で部品調達困難

電気自動車(EV)に搭載される高性能モーター。レアアース磁石は高性能モーターの基幹部品となる=2025年1月20日、首都ニューデリー(NNA撮影)
中国によるレアアース(希土類)を使った磁石などの輸出規制を受け、インドの自動車業界が部品調達の危機に直面している。レアアース磁石は電気自動車(EV)だけでなく、従来のハイブリッド車(HV)や内燃機関(ICE)車の製造にも欠かせない。業界関係者は遅くとも7月には生産を一時停止する可能性があると警鐘を鳴らしている。【Atul Ranjan】
中国政府は4月、米国による相互関税への報復措置として7種(サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウム)のレアアースについて、関連品目も含め輸出を制限した。EVや家電に搭載される高性能モーターの中核部品であるレアアース磁石(ネオジム磁石)にはジスプロシウムやテルビウムが用いられる。
野村証券は2日付の報告書で、監視すべき潜在的リスクの1つに「中国によるレアアース磁石の輸出規制」を挙げ、6月以降、インドの自動車生産に影響が出る可能性を指摘した。野村証券のある関係者は5日、NNAに対し、「重要部品を中国に過度に依存していることは、サプライチェーン(供給網)の脆弱(ぜいじゃく)性として表面化する。大半の自動車部門が影響を受けるだろう」と語った。
■「最終利用者証明」に翻ろう
中国からの制限には、レアアース磁石が安全保障上、軍事目的に使用されないことを確認する「最終利用者証明」の提出が新たな要件に含まれた。これは中国政府、インド政府の双方が認証する必要があり、この認証プロセスの円滑化を望む声が強まっている。
地場二輪大手バジャジ・オートのラケッシュ・シャルマ常務取締役は、最終利用者証明のプロセスについては把握しているが、「認証までの道筋が見えていない」と話す。同氏は「プロセスに遅れや混乱が生じれば、7月までに生産に深刻な影響が出始める」と警戒する。
シャルマ氏によると、承認プロセスではまず、輸入者が使用目的を申告し、インド当局と在インド中国大使館の認証を受ける。次に書類は中国に送られ、中国商務省と地方政府が承認することになる。同氏は「インドから現在、約30件の申請書類が中国に送られた。このプロセスがどれだけ円滑に進むかを見守る必要がある」と述べた。
スズキの子会社で、インドの乗用車最大手マルチ・スズキのシニア・エグゼクティブ・オフィサー、ラフル・バルティ氏は報道陣に対し、「業界は既に最終利用者証明の認証プロセスに関してインド政府と協議している」と書面で回答した。
一方、ファイナンシャル・エクスプレスは6日付で地場自動車部品大手ソナBLWプレシジョン・フォージングス(ソナ・コムスター)による最終利用者証明を中国当局が却下したと報じた。NNAがソナ・コムスターに問い合わせたところ、同社はコメントを拒否した。

■中国の港湾で留め置きも
インドに拠点を置き、先進的なEVモーターを設計するイスラエル企業、EVRモーターズのマネージング・ディレクター、サハル・キショール氏は7日、NNAの電話取材に応じ、「複数の同業他社から、レアアースの供給が停滞しており、中国の港で留め置かれていると聞いた」と打ち明けた。
メーカーのみならず、インド自動車工業会(SIAM)をはじめ、インドの自動車販売店協会連合(FADA)、インド自動車部品製造協会(ACMA)といった主要な業界団体も状況を注視している。FADAのビグネシュワル会長は8日、NNAに対し、「供給が正常化しなければ、多くの工場が遅くとも7月末までに操業を停止する可能性がある」と語った。
既に生産の一時停止を余儀なくされている企業もある。テルビウムを使ったネオジム磁石を製造する地場クアンタム・マグネティクスは先月下旬、決算説明会で工場の稼働停止を認めた。クアンタムを傘下に持つパーマネント・マグネッツの幹部は、「インド政府は中国政府と協議中で、事態の解決を期待している」と述べた。
■代替素材の模索、短期的には困難
代替素材の調達や開発を模索する動きも出ている。先のソナ・コムスターは調達戦略を見直し、酸化鉄を主成分にコバルトやニッケルなどを混ぜ合わせて焼結した磁性体(電子素材)「フェライト」をはじめ、さまざまな代替素材を評価中だという。
ただ、現状では直面する供給不安を解消するのは難しく、地場二輪大手TVSモーター・カンパニーのスダルシャン・ベヌ社長は、「新しいソリューションとサプライヤーの開拓が急務だ」と強調しつつも、「短期的には生産に深刻な影響が出る可能性がある」と述べた。バジャジのシャルマ氏も、「短期的に代替案を見つけることは不可能だ」と話す。代替素材を採用するにしても、開発や投資、試験、検証、車両システムへの統合などが必要となるためだ。「業界全体の見解としては、外交ルートを通じて現在の認証プロセスを迅速化することでしか救済方法はない」と話す。先のパーマネント・マグネッツの幹部は、世界のメーカーが調達先の多様化を試みているが、「ほとんどの代替品は価格競争力がない」との見方を示した。
■クリシル「通関手続きは最低45日間」
匿名を条件にNNAの電話取材に応じた自動車業界団体の幹部は9日、「レアアース磁石の供給途絶に関するインド政府と中国当局との協議に大きな進展はない」と述べた。同幹部は、「問題が未解決のままであれば、自動車生産は深刻な打撃を受ける」と危機感を募らせる。
地場格付け会社クリシル・レーティングスは10日、レアアース磁石の輸出規制に関する報告書を発表し、自動車業界へのリスクをまとめた。クリシルは、中国政府が新たに要件に盛り込んだ最終利用者証明の承認に絡んで、「通関手続きには少なくとも45日かかる」と指摘。「追加的な審査によって承認が大幅に遅れており、世界の供給網が逼迫(ひっぱく)している」と報告した。
インドは24/25年度(24年4月~25年3月)に約540トンのレアアース磁石を輸入し、うち8割以上を中国から調達した。報告書によると、25年5月末までにインド政府はインド企業による約30件の輸入申請を承認したが、「中国当局の承認はまだ得られておらず、貨物は到着していない」としている。
同社のシニアディレクター、アヌジ・セティ氏は、「ほとんどの自動車メーカーは4~6週間分の在庫を抱えているものの、承認遅延が長引くと生産に影響が出始める可能性がある」とみている。また、レアアース磁石の加工の多くは中国に集中しており、「短期的な代替手段は限られている」との見解だ。同社のディレクター、プナム・ウパディヤイ氏は、「レアアース磁石は車両コストの5%未満を占めるに過ぎないが、高性能モーターや電動ステアリングシステムなどに不可欠だ。自動車メーカーは、ベトナムやインドネシア、日本、オーストラリア、米国などで代替サプライヤーと連携するとともに、既存在庫の最適化にも取り組んでいる」と述べた。
