BYDが軽EV市場参入、国産メーカーの動向と展望

日本独自規格の軽自動車市場に参入する意味, EV量産化は軽自動車からはじまった, 商用車とEVの歩み, 軽EVの販売状況, 軽EVの今後について

2024年度(2024年4月~2025年3月累計)国内販売2万832台を記録し、2022年度、2023年度に続き、3年連続で電気自動車(EV)販売台数No.1を獲得した日産の軽乗用EV「サクラ」(写真:日産自動車)

中国の比亜迪(BYD)で、日本の乗用車部門を担うビーワイディージャパンは、2026年後半に日本専用設計の軽乗用電気自動車(軽乗用EV)を市場導入すると、今年4月に発表した。

【写真を見る】日産「サクラ」をはじめ、三菱自「i-MiEV」「ミニキャブEV」「eKクロスEV」、ホンダ「N-VAN e:」などの軽EV(9枚)

それにあわせ、同社は軽自動車事業に詳しい人材を募集し、乗用車事業の人員強化を図るという。

【写真】日産「サクラ」をはじめ、三菱自「i-MiEV」「ミニキャブEV」「eKクロスEV」、ホンダ「N-VAN e:」などの軽EV(9枚)

日本独自規格の軽自動車市場に参入する意味

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2025年5月19日に乗用車部門と商用車部門の新規事業開始に伴い、人材募集を開始したビーワイディー ジャパン。とくに乗用車事業部では、軽自動車の人材確保を急いでいる(写真:ビーワイディージャパン)

軽自動車は、日本独自の規格で、とくに公共交通機関が十分とはいえない地域において、老若男女を問わず移動の足として大きな役割を担っている。

全国軽自動車協会連合会による昨2024年3月時点の統計では、軽自動車への依存度がもっとも高いのは和歌山県で56%におよぶ。次いで長崎県、和歌山県、島根県、沖縄県の順で、西日本の依存度が高く見える。だが、偏りがあるわけではなく、秋田県は47.7%、新潟県は47.5%と、北の地域でも軽自動車が欠かせぬ生活環境にある。47都道府県で軽自動車の保有率が低いのは東京だが、それでも22.1%の需要。全国平均では40.4%となり、軽自動車への依存が大都市部を除けば高い水準にあることがうかがえる。

こうした市場に、BYDは乗り出そうというわけだ。

大都市部では、3ナンバーの輸入車が列をなして走る様子に驚かされる。しかし、2024年3月時点での輸入車の新車販売における占有率は7.6%という数字だ。当然そこに、BYDなどのEVも含まれるわけで、パイの大きさでいえば、軽自動車の領域に挑戦する意味は大きいといえるだろう。

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BYDが日本国内で販売している乗用車の車種ラインナップ(写真:ビーワイディージャパン)

一方、軽自動車販売は、ディーラーと呼ばれる販売店だけでなく、整備工場などが代理店として仲介役になり、永年の付き合いがある地元消費者の手にわたっている現状もあり、全国でディーラー網100店舗を目指すBYDの拠点数で行きわたるのかという不確定要素はありそうだ。

とはいえ、BYDは今年4月に既存の新車において値下げを実行しており、割安感のあるEV販売は世界的な価格戦略でもある。今、日本で販売されている軽乗用EVの選択肢は、日産自動車(以下、日産)「サクラ」と三菱自動車工業(以下、三菱自)「eKクロスEV」で、ともに260万円以下から購入できる。それに対し、BYDはどのような価格設定でくるのだろうか。

EV量産化は軽自動車からはじまった

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世界初の量産EVとして2009年に登場した三菱自のi-MiEV(写真:三菱自動車工業)

世界ではじめてEVを量産市販したのは、三菱自であり、2009年に「i-MiEV(アイ・ミーブ)」を発売した。世界初の量産市販EVは、軽EVからはじまったのだ。

しかも翌2010年には、フランスのプジョー・シトロエングループ(PSA)に対してOEM供給され、プジョー「iOn(イオン)」、シトロエン「C-Zero(シー・ゼロ)」として欧州市場でも販売された。日本の軽EVが、欧州の日常の足として活躍する可能性があることを先取りした事例といえるだろう。

ただし、i-MiEVの国内における新車価格は、当初459万9000円(当時の消費税5%込み)と高価であり、予定販売台数も約1400台(6月発売での2009年度内)と限られ、大きな反響を呼ぶ数字にはいたらなかった。

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2010年に登場した日産の初代リーフ(写真:日産自動車)

翌2010年に日産が初代「リーフ」を発売し、価格は376万円余からとし、登録車のリーフのほうが安い状況となった。

さらに日産は、充電への不安を少しでも解消しようと、全国の販売店網(約2200店舗)に普通充電器を備え、そのうち約200店舗には急速充電器を設置し、半径40km圏内に日本全国急速充電拠点が設けられるという対策を施した。こうした日産の取り組みは、今日なお、充電のよりどころとしての安心を所有者にもたらしている。

一方のi-MiEVは、改良を重ねながら2021年まで販売された。そのあとを受け継ぐ形で、2022年にeKクロスEVと日産サクラが誕生する。つまり、軽EVは、もっとも長く販売され続けるEVでもあるのだ。

商用車とEVの歩み

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現行モデルのミニキャブEV(写真:三菱自動車工業)

三菱自はまた、i-MiEVのほかに、そのモーターやバッテリーを活用し、軽商用EVを開発し、販売した実績を持つ。

まず登場したのが、2011年の「ミニキャブMiEVバン」で、翌年には「ミニキャブMiEVトラック」が追加された。ただし、トラックのほうは、2017年に終了となった。軽トラックの需要は一次産業の農家などで顕著だが、作物の収穫などで畑から畝(うね)を超えて農道へ出る際、4輪駆動であることが望まれ、ミニキャブMiEVトラックはその対応が構造的にむずかしかったためである。

EVバンのほうは、2021年まで生産され、一旦製造を中断したが、その後、eKクロスEVの技術を適用し、「ミニキャブEV」の車名で販売が再開されている。

軽商用EVとしての活躍はわかりにくかったかもしれないが、たとえば、ミニキャブMiEVの時代に日本郵政に5000台以上納入し、ミニキャブEVとなってからも3000台を受注しているとのことで、赤い車体のミニキャブMiEVやミニキャブEVがじつは街を駆け抜けている。

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ホンダの商用軽EV「N-VAN e:」(写真:本田技研工業)

商用としても軽EVはじわじわと浸透しているといえるのではないか。そこに目を付けたひとつが、ホンダ「N-VAN e:」だろう。また、ダイハツが開発した軽商用EVがあり、これをトヨタとスズキがOEM供給を受けて市場導入することになっている。ただしこちらは、型式指定申請における不正問題があり、今年度中の販売がようやく確定した。

ほかに軽商用EVでは、ASFというファブレスメーカーの参入がある。ファブレスとは、自社工場は持たず、企画・設計・開発した商品を委託製造する事業だ。ASFは、2023年に佐川急便とマツキヨココカラ&カンパニーへ納車を開始した。

以上のように、軽EVの存在は決して小さくはない。では、現状はどうか。

軽EVの販売状況

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日産「サクラ」のリヤビュー(写真:日産自動車)

軽乗用EVで売れ筋の日産サクラは、直近の4月の販売台数は721台だが、3月には2008台を売っており、あと少しでベスト15位以内に入れそうな台数だった。2023年には、月に3800台ほど売れていた時期もあるが、今は2000台前後での推移となっている。それでも発売から約2年半を経て、街中でサクラが行き交うことが稀ではない状況になっている。

日産広報は、「2023年度以降はガソリン車から乗り換えるお客様が増えてきた」と言い、「まだEV希望のお客様に行きわたったという状態ではない」と見ている。このため、「戸建て住宅など自宅で充電できるお客様がまだ多くいらっしゃるので、サクラの、軽を超えた走行性能やEVの利便性を訴求していきたい」と話す。

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三菱自のeKクロスEV(写真:三菱自動車工業)

三菱自のeKクロスEVの4月販売台数は82台という数字だ。しかしこれも、3月以前の月には200台前後を売っている。サクラに比べると少なく感じるが、三菱自の販売店舗数は日産の約1/4なので、拠点数が限られるなかではそれほど低い数字ではないのではないか。2023年には、1500台以上売った月もあった。ただ、サクラと違ってeKクロスEVは、エンジン車のeKクロスと外観に差がほとんどなく、EVであることを示すバッジを見ないと区別がつきにくいため、街中を走る様子も気づきにくさがありそうだ。

三菱自はほかに、ミニキャブEVの販売も加わる。

サクラとeKクロスEV、そしてミニキャブEVは、すべて三菱自の水島工場で製造されている。日産と三菱自の提携がNMKV(日産・三菱・軽・ヴィークル)の設立につながり、水島工場で効率的に軽EVの生産が行われている。これが価格設定にも効果を出しているだろう。

軽商用EVでは、ホンダN-VAN e:の動向も興味深いところだ。販売状況は、昨年10月の発売から4月までで累計約5000台であるとホンダ広報は知らせてきた。月間の販売台数は600~800台で推移しているという。N-VAN e:は、軽商用EVとはいえ、個人での利用も視野に入れた商品性であり、ホンダ広報によれば、商用が7割、個人が3割の比率であるとのことだ。屋外活動など含め、ワンボックス型EVを個人で使いたいと希望する人が少なからずいることが見えてくる。

また、日産や三菱自ではなく、ホンダから買いたいという顧客の動機もあるはずだ。そもそもホンダは、1960年代に4輪事業へ参入するに際して、軽トラックと軽スポーツカーから開発したメーカーである。ホンダの軽商用EVを購入した顧客の反応は、「静粛性と軽自動車とは思えない力強さ」が評判で、自宅で充電できる点も新たな魅力として映っているようだ。

軽EVの今後について

この先、ハイトワゴンの「N-ONE」のEV導入の予定がある。また、N-VANと基本骨格を同じとする「N-BOX」のEVが登場する可能性もあるのではないか。新車販売で1位のN-BOXにEVが加われば、軽EVの販売動向は様変わりするかもしれない。

そもそも、国内の保有台数が4割近い軽自動車におけるEVの可能性は、まだ序の口といえる。BYD参入の影響を含め、なお、成長を続けていくことになるのではないだろうか。