ボーイング失速なら日本勢に影響 トランプ関税、インド事故…エアバス乗り換えも難題

ボーイング787向けの部品を製造するアオキの工場。新型コロナウイルス禍からの回復はまだ中小企業に波及していない=大阪府東大阪市

トランプ米政権の関税政策による混乱が航空機産業にも及んでいる。米商務省は5月、航空機や部品への追加関税に関する調査を開始したと発表。日本企業は高い技術力を背景に米ボーイング機に多くの部品を供給しており、関税が課されれば影響は避けられない。今月12日にはインドでボーイング中型機「787」による初の墜落事故が発生。新型コロナウイルス禍などからの業績回復軌道に暗雲が垂れ込めている。

「コロナ禍で減少した受注がいまだに回復していないのに関税が課されたらどうなるか」。航空機の部品製造を手がけるアオキ(大阪府東大阪市)の青木理社長はため息交じりにそう話す。

同社はボーイングの認定工場として787などの外装を手がけている。受注はコロナ禍前の6割減の状態が続いており、工場内に所狭しと並ぶ工作機械も半数が稼働を止めている。20人以上いた従業員も13人にまで減らしたという。

ボーイングは2000年代以降、コスト削減などの目的で部品生産を日本や欧州の企業に移管してきた。特に787では日本製の部品が占める割合は35%に上る。水平尾翼を構成する「水平安定板作動アクチュエータ」を島津製作所、補助動力装置向けのオイルクーラーを住友精密工業(兵庫県尼崎市)が供給するなど、関西企業の貢献度も高い。これらの企業の下請けとして多くの中小企業が部品を製造する。

しかし、新型コロナによる旅客数の激減で、20年度の航空機産業の国内生産額(防衛関連含む)は1兆2619億円と、前年度から約3割落ち込んだ。22年度から3年連続で回復し、24年度には過去最高の2兆619億円になったものの、相次ぐボーイング機の事故やストライキにより、同社の業績は低迷している。

そこへ追い打ちをかけると懸念されるのがトランプ関税だ。米商務省は、航空機やエンジン、部品などを対象に、特定の海外企業への依存や外国政府の補助金が競争力に影響を与えていないかなどを調査。期間は270日以内で、米国の安全保障に影響があると判断されれば、追加関税が課される可能性がある。

関税率が引き上げられれば、高い部品を購入しなくてはならないボーイングの経営に打撃となり、仕入れ先の日本企業にも影響が予想される。

機体の製造に欠かせない炭素繊維素材を供給する東レは、26年3月期の業績見通しに米国の関税政策による事業利益への150億円のマイナス影響を織り込んだ。ただし、航空機部品への追加関税の影響は考慮していない。担当者は「追加関税が決まっていない段階で影響を想定することは難しい」と話す。

同様に各社が追加関税の影響を図りかねている中、インド西部でエア・インディアが運航する787の墜落事故が発生した。事故原因は調査が始まったばかりだが、発生直後の6月12日のニューヨーク株式市場でボーイングの株価は前日終値と比べて一時6%近く下落。経営への先行き不安が漂う。

航空機産業を手掛ける日本企業にとって、民間航空機の製造がボーイングと欧州エアバスの寡占状態にあることが、経営の選択肢を狭める結果になっている。

国策の影響もあって日本航空や全日本空輸がボーイング機を優先的に購入してきたことや、部品を製造する日本企業も767以降、ボーイングとの関係を深めてきた。

立命館大経営学部の山崎文徳教授(技術経営論)は「日本企業の製品は信頼性が高いため、ボーイングが調達先を切り替えるのは難しい」と日本とボーイングとの結びつきの強さを指摘。

エアバス機にも日本勢は部品を供給しているが、エアバスの部品供給網(サプライチェーン)の50%以上は欧州が占めており、山崎氏は「日本企業が食い込みづらい要因になっているかもしれない」と話す。

ボーイングを支えるか、エアバスに接近を図るか。いずれにせよ、他国がまねできない日本の高い技術力の存在感が試されている。(桑島浩任、写真も)