日本の大学の研究費は削るのに…海外からの研究者呼び込みに政府が「1000億円」 噴き出した訴えと嘆き

 政府は、海外の研究者を日本に呼び込むための政策パッケージを発表した。トランプ政権下で米国から研究者が流出する状況を踏まえた対応で、事業は「1000億円規模」という。日本の研究力強化を狙うが、国内の研究者の環境整備はおろそかになっていないか。(中川紘希)

◆1000億円はどこから?

 「わが国が研究者にとって世界で最も魅力的な国となることを目指す」。城内実・科学技術担当相は13日の会見でこう口にした。

 国は大学や研究機関に海外の研究者を呼び込むため、研究環境の整備や十分な給与支給を支援し、日本の治安や文化的な魅力の発信などを進めるという。

首相官邸に入る城内科学技術担当相=5月13日、東京・永田町で(佐藤哲紀撮影)

 内閣府科学技術・イノベーション推進事務局の担当者は「国際的に研究者の獲得競争が盛んになっており、日本が研究立国であることをアピールすることが必要だ」と説明した。

 城内担当相は政策パッケージについて「1000億円規模」と強調する。ただ内閣府によると、新事業に予算を付けたのではなく、政府が既に実施している大学支援策などの額を足したのが「1000億」という。東北大が6日、国が先進的な研究に助成金を出す「国際卓越研究大学制度」を活用し、5年間で約500人の海外の研究者を採用する方針を示したが、この費用も「1000億」に盛り込まれている。内閣府の担当者は「今後の予算措置で、研究者の家族も定着できるように大学での雇用を支援するなど追加措置を検討している」と話す。

◆人件費を削って、雇用も不安定

 翻って日本の教育環境はどうか。

 国立大学は2004年の法人化以降、運営費交付金は削減されてきた。文部科学省によると、初年度が1兆2415億円だったのに対し、2025年度は1兆784億円。約13%減少した。

東京大学本郷キャンパス。中央上は安田講堂=東京都文京区で(資料写真)

 政府の大学改革に厳しい目を向ける新潟大の原直史教授(日本近世史)は「人件費が削られ、任期付きの研究員が増えている。期間内で論文を出さないと次のポストが得られないため、長期的な視点の研究もできない。活動の制限が質の低下にもつながっている」と指摘し、雇用の安定化の必要性を訴える。「政策パッケージが国内の研究者の研究費を奪うことになれば、本末転倒だ」

 大学の研究費が削られる中、例外に映るのが軍事研究だ。防衛分野に応用が期待される研究の費用を助成する防衛省の「安全保障技術研究推進制度」は毎年約100億円の予算が確保され、大学などの応募数は2025年度に最多となった。

◆「全体の発展より、軍事転用ばかり」

 防衛省は12日に科学技術の専門家から助言を受けるための新組織「防衛科学技術委員会」を省内に設置することを発表した。東北大の井原聡名誉教授(科学史、技術史)は「政府は、日本の研究全体の発展より、科学技術研究を軍事に活用することばかりを考えている」と憂える。

 政府は13日の閣議で、科学技術の歩みをまとめた白書を決定。「基礎研究低下は未解決の課題だ」とつづっている。井原氏は「国内の研究もどれが花開くかは分からないため、幅広く支援すべきだ。既に花開いた研究者を海外から呼ぶだけでは周りの植物は育たない」と話した。

13日、閣議に臨む石破首相。左は村上総務相、右は中谷防衛相=首相官邸で(佐藤哲紀撮影)

 全国の大学では交付金減少や物価高により、授業料の値上げが進んでいる。

 先の原氏は「国内の研究力の底上げのためには、研究者の支援だけでなく、大学生や大学院生が学業を続けられるように支援することも大事だ」と話し、こう唱える。

 「研究室にいる大学職員が貧困にあえいでいる。こんな状態では、将来の学術研究を担う若者たちが未来を描けないままだ」

城内実・科学技術担当相(左)、右上から時計回りに東京大学、筑波大学、東京科学大学のキャンパス(コラージュ)

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