新型リーフは「BYD」に勝てるのか? 累計70万台の重みと600km超の性能――それでも揺らぐ“再建の突破口”の本質

かつての主役、今は再建の象徴

 2025年6月17日、日産自動車が約8年ぶりとなる新型「日産リーフ」を発表した。初代モデルは2010(平成22)年、世界初の量産型電気自動車(EV)として登場し、EV市場の先駆けとして大きな注目を集めた。

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 これまでに日産は、リーフを世界で約70万台販売している。累計走行距離は推定で280億kmを超える。ただし、テスラや中国メーカーの参入により市場競争が激化。価格や性能で後れをとったリーフは、次第に存在感を失っていった。

 第3世代の新型リーフは、ただのフルモデルチェンジにとどまらない。かつてEVの象徴だったモデルが、経営不振にあえぐ日産にとって再建の中核となることが期待されている。本稿では、新型リーフが日産にとって真の

「再建の突破口」

となり得るのか、公表されたモデルの内容から検証する。

600km超えが示す航続改革

かつての主役、今は再建の象徴, 600km超えが示す航続改革, 中間EV市場の主戦場化, 競争力を左右する価格の行方, 世界市場の覇権争い, 価格と戦略の整合性の重要性, EV事業との整合性の課題

日産自動車のロゴマーク。2022年1月14日撮影(画像:時事)

 新型リーフの最大の特徴は、エンジン車からEVへ移行する際の現実的な選択肢を提示した点にある。航続距離の大幅な向上や充電時間の短縮によって、EVが日常生活に自然に溶け込み、ライフスタイルの質を高める存在へと進化した。

 バッテリー容量は、従来の40kWhと60kWhから、52kWhと75kWhに拡大された。150kWの急速充電器を使用すれば、10%から80%までの充電が最短35分で完了する。

 75kWhバッテリー搭載モデルでは、航続距離が600km超(WLTC基準)に達する。空気抵抗を抑えるためにボディ形状も刷新。Cd値は日本および米国仕様で0.26を記録し、フェアレディZを0.05下回る。日産GT-Rと同水準の空力性能を実現している。

 車体は従来のハッチバック型から、スポーツタイプ多目的車(SUV)に変更された。市場の主流を見据えた構成といえる。

 これらの改良は、日産が持つ技術力の進化を示す一方で、競合に出遅れたことで急速に追いつこうとする側面も色濃い。評価は分かれる可能性がある。

中間EV市場の主戦場化

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新型日産リーフに施された「II三」モチーフ(画像:日産自動車)

 新型リーフは、日産のEVラインナップにおいて中間価格帯を担う存在だ。高価格帯のアリア(660万~900万円)と、軽EV・サクラ(260万~300万円)のちょうど谷間に位置づけられる。

 中間層としてのリーフに求められるのは、一定の販売ボリュームと収益の確保である。車両価格は現時点で非公表だが、従来モデルは408万1000円(Xグレード/40kWh)から583万4400円(e+Gグレード/60kWh)だった。新型もこのレンジ内に収まると見られている。

 仮に価格がこの範囲を逸脱すれば、アリアやサクラとのカニバリゼーション(市場の食い合い)が起こる可能性がある。消費者にとっても、明確なポジショニングがなければ選択が混乱しかねない。

 そもそも、なぜ日産はリーフというモデル名を残したのか。名称を刷新し、新たなEVブランドとして立ち上げれば、企業イメージの刷新にもつながったはずだ。

 その代わりに象徴的な変更として採用されたのが、チャージングポートリッドなどに施された「II三」のマークである。これはローマ数字の「II」と漢数字の「三」を組み合わせ、

「に・さん = 日産」

を表すデザイン。日産デザインセンターが独自に考案したものであり、新型車にも「隠れアイテム」として随時展開される見通しだ。新生日産のメッセージを静かに発信する意匠といえる。

競争力を左右する価格の行方

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日産栃木工場(画像:日産自動車)

 新型リーフに搭載される充電ポートは市場ごとに異なる。日本仕様はCHAdeMO、北米仕様はNACSを初採用し、欧州仕様はCCSとなる。NACSはテスラのスーパーチャージャーと互換性があり、充電利便性が大幅に向上する。

 一方、日産は自社によるEV充電網の構築を事実上放棄した。他社インフラに依存する戦略に大きく舵を切った形だ。北米仕様では助手席側(右側)にNACSポート、反対側に低速充電用ポートを配置する。充電器の種類によって使用するポートが異なる設計だ。

 EVでは一般的に、OTA(Over the Air)による無線通信で車載ソフトが自動更新される。システムは常に最新状態に保たれ、車両寿命の延伸につながる。保有期間が長期化すれば、再販や買い替えのタイミングは後ろ倒しになる。

 この構造は、従来のハード売り切り型ビジネスモデルと根本的に相容れない。ユーザーの買い替えサイクルが鈍化すれば、メーカーの販売機会は減少する。EVがプロダクトからサービスへと変質するなか、日産がこの転換点にどう向き合うかが問われている。

 新型リーフは日本の栃木工場と英国サンダーランド工場で生産される。一方、福岡県に計画していた国内電池工場は見送られた。安価なバッテリーの内製を断念し、外部調達に切り替えた判断は、コスト競争力の面で今後足かせとなる可能性がある。状況次第では、国内電池工場を断念した是非が再び問われるだろう。

 さらに、トランプ政権による対日関税の見直しをめぐり日米協議が続いているが、依然として合意に至っていない。米国向けリーフは日本から輸出されるが、現時点で長期的なコスト優位を確保する体制は整っていない。こうした点からも、日産の生産戦略には機能不全が露呈しつつある。

 新型リーフの価格など詳細は、販売開始時期に合わせて各市場で発表される予定だ。現時点で日産が詳細な発表を控えたことは、社内でのコスト検証が完了していない可能性を示唆する。

 一定の販売ボリュームを確保するには、競争力のある価格設定が不可欠だ。車両単体で採算が取れ、市場競争力と両立できるかを見極める必要がある。最大の変数である価格が未知の今、新型リーフが日産の経営再建の「突破口」となるかは依然として不透明だ。

世界市場の覇権争い

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日産新型リーフ(画像:日産自動車)

 グローバル市場で新型リーフと競合するのは、

・BYD

・テスラ

・フォルクスワーゲン

などである。特にBYDは、自社開発バッテリーの量産体制と価格競争力を武器に、欧州やアセアン、南米で販売網を拡大している。製品性能とコストの両面で市場を侵食しており、中国国内のEV普及インフラと政策支援、内製化率の高さによる柔軟な価格設計が背景にある。

 テスラは近年、経営トップの政治的立場に起因する混乱を一部市場で経験したが、ロボタクシーの商用化やエネルギー事業の拡張により、再び技術革新の旗手として存在感を高めている。フォルクスワーゲンも欧州規制対応を軸にEV戦略を進め、プラットフォーム共通化によるスケールメリットを追求している。

 こうした競合企業との競争において、新型リーフが選ばれる理由はどこにあるのか。

・バッテリー火災未発生という実績に象徴される信頼性

・既存ユーザーの運用実績に基づく商品改善

は潜在的な価値として注目される。ただし、高品質な製品であっても、急速に陳腐化する技術環境下では訴求軸の再設計が求められる。安全性と使いやすさを担保しつつ、価格帯と機能性のバランスをどう取るかが今後の焦点となる。

価格と戦略の整合性の重要性

 一方で新型リーフには、モデル単体の成功にとどまらず、

・ブランド信頼回復

・事業全体の収益性改善

に資する戦略的役割が期待されている。しかし、発表された製品概要を見る限り、経営再建の基軸となり得るかは慎重に検討する必要がある。新型リーフの位置づけが従来のアリアやサクラと明確に差別化され、持続的な市場販売を維持できなければ、経営再構築計画との接続も不十分に終わる可能性がある。加えて、

・開発コスト

・バッテリー調達戦略

・販売インセンティブの設計

など周辺条件の整備も製品評価に密接に関係する。例えば国内電池生産の断念は、長期的なコスト最適化と競争力維持に影響を及ぼす要素であり、再建を託された製品としては不安定要素となる。販売価格発表の遅延も、こうした調整困難さが影響している可能性が否定できない。

 結局、新型リーフが再建の突破口と評価されるかは、製品完成度より

「経営戦略内での活用方法」

にかかっている。期待の大きさと現時点の施策乖離が続く限り、慎重な見極めが必要だ。価格設定や販売動向、それを支える市場政策の整合性が今後の評価を左右する。事態は依然途上であり、評価の決定は時期尚早と考えられる面もある。

EV事業との整合性の課題

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日産自動車のロゴマーク(画像:EPA=時事)

 日産が投入する新型リーフは、長年の知見を最大限に活かし、

「過去と決別する設計思想」

を具現化したモデルである。しかし、再建の突破口となるには、日産のEV事業全体との整合性が求められる。この点で新型リーフはまだ途上にあるといわざるを得ない。

 今後の市場動向が冷静な評価を下すだろう。