コーヒーだけの朝食、冷たい役所…「私は歓迎されてない」 〈生活保護引き下げ訴訟6月27日判決〉連載㊤

〈生活保護支給額引き下げ訴訟 6・27最高裁判決〉㊤全3回

 生活保護基準額を引き下げた厚生労働相の処分は裁量権の逸脱や乱用にあたるのか。生活保護の利用者らが、引き下げは生活保護法に違反するとして、減額処分の取り消しと国家賠償を求めた2件の訴訟の上告審判決が27日、最高裁第3小法廷(宇賀克也裁判長)で言い渡される。

 全国29の都道府県で同種の裁判が起こされているが、司法判断が割れており、最高裁判決は今後の訴訟の結果に大きな影響を与える統一判断として注目される。

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◆切り詰め生活「われながら情けない」

 「頭の中はダメダメって言うんだけど、我慢できずに買ってしまった。本当にばかみたい」

 生活保護を利用する堤洋子さん(75)は、1人暮らしの東京都中野区の木造アパートで、600円で買ったインスタントコーヒーのビンを見つめた。1日2食のうち朝はコーヒーに牛乳を混ぜて飲むだけだ。

◆切り詰め生活「われながら情けない」, ◆生活保護支給額、10年前と比べ年7万6000円減少, ◆自治体の「水際作戦」さらに追い打ち, ◆国の裁量権 裁判の争点に

インスタントコーヒーで食事を済ませる堤洋子さん=東京都中野区で

 部屋は電気代を浮かすため、常に薄暗い。洗濯機が買えず、洗濯物は手洗いだ。5、6年前に壊れてから、直せていないポットが床に転がる。節約してもしきれず、「ストレスだらけ。われながら情けない」と言葉を詰まらせた。

 生活保護の利用開始は、リーマン・ショックで派遣切りに遭った2008年ごろ。その後も仕事は長続きせず、2013年ごろから生活がより苦しくなった。国が物価下落などを理由に、食費や光熱費などに充てる生活扶助費の基準額を引き下げたからだ。

◆生活保護支給額、10年前と比べ年7万6000円減少

 厚生労働省は物価下落の独自指標を作り、テレビやパソコンなど高額製品の価格下落率を加味して減額幅を決めた。しかし、「テレビなんて、正規の価格では買えない」。当時使っていたテレビは、2008年に7000円で購入した中古品だ。

10年前に比べて、現在受け取る生活保護は年間7万6000円ほど減った。かつては月5000円ほどためることもできたが、今は物価高もあり何も残らない。映画が好きで、年2回ほど行けていた映画館にも、もう長く行っていない。

 「生活はめちゃめちゃ。せめて、年1回くらいは映画館に行きたい。それも、『ぜいたく』って言われちゃうのかしら」

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◆自治体の「水際作戦」さらに追い打ち

 10年以上前に国が減額を決めた背景には、生活保護利用者への非難があった。2012年ごろ、利用者のモラル低下を指摘する声が大きくなり批判が過熱。本来利用する権利のある人に対し、自治体がさまざまな理由を挙げて申請を妨げる「水際作戦」も各地で起きた。

 「親が1人でも生きていたら、生活保護は受給できません」。精神疾患があり、フルタイムで働けない埼玉県内の40代女性は2012年春ごろ、相談した役所の職員に冷たくあしらわれた。

◆切り詰め生活「われながら情けない」, ◆生活保護支給額、10年前と比べ年7万6000円減少, ◆自治体の「水際作戦」さらに追い打ち, ◆国の裁量権 裁判の争点に

生活保護申請時に「水際作戦」に遭った女性=埼玉県で

 疑問に思い、本を読んで制度を調べると、職員の説明が虚偽だと分かった。「生きていけるかどうかで困っている状態でうそをつかれた。保護を申請する私は歓迎されていない」。不信感は今も消えない。

 利用を始めて1年後に減額が始まった。減額前に比べ、生活扶助費は最大で月約5000円減り、今も月約4000円少ないままだ。

◆切り詰め生活「われながら情けない」, ◆生活保護支給額、10年前と比べ年7万6000円減少, ◆自治体の「水際作戦」さらに追い打ち, ◆国の裁量権 裁判の争点に

 生活保護の支給額は、保護を利用していない低所得世帯の消費水準とつり合うよう算定される。水際作戦などで権利がある人が保護を利用しなければ、低所得世帯の水準も下がり、支給額も下がっていく連鎖が起きる。国の減額処分は、この悪循環に拍車をかけ、その影響は今も続く。

 生活保護を恥とするまなざしも強い現状に、女性は司法が一石を投じることを願う。「生きていくことがこんなに苦しいのはおかしい。どんな困難な状況の人でも、前向きに生きられるための制度であってほしい」(中村真暁)

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◆国の裁量権 裁判の争点に

 厚労省は2013〜15年、生活保護費のうち食費や光熱水費などの「生活扶助」の基準を平均6.5%引き下げ、年最大670億円を削減。その際、物価下落を反映した「デフレ調整」と、低所得者世帯の消費実態との乖離(かいり)を是正した「ゆがみ調整」を併せて行った。

 減額処分の取り消しなどを求めた訴訟の原告側は、デフレ調整を「厚労省の部会の検証を経ず、専門的知見との整合性を欠く」などとして、減額は違法と訴えている。

◆切り詰め生活「われながら情けない」, ◆生活保護支給額、10年前と比べ年7万6000円減少, ◆自治体の「水際作戦」さらに追い打ち, ◆国の裁量権 裁判の争点に

 国側は、基準の改定には厚労相に極めて広い裁量権があるとして適法だったと主張している。

 上告審での審理対象は、大阪高裁が原告敗訴とした訴訟と、名古屋高裁が原告勝訴とした訴訟。原告側は、減額処分は憲法が保障する生存権に違反すると訴えたが、最高裁は違憲かどうかは審理対象にしなかった。(三宅千智)

◆切り詰め生活「われながら情けない」, ◆生活保護支給額、10年前と比べ年7万6000円減少, ◆自治体の「水際作戦」さらに追い打ち, ◆国の裁量権 裁判の争点に

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