「学歴だけで終わる子」と「社会で生き残れる子」の決定的な違い【進学校の校長が教える】

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塾業界30年以上のベテランであり、神奈川県の中学受験国語塾「中学受験PREX」の渋田隆之塾長と、企業が設立主体となり、全寮制の特色ある教育を行う海陽学園海陽中等教育学校の西村英明校長が対談。前後編の後編では社会にどのように貢献してほしいのか、学校運営の理念を詳しく聞いた。(国語専門塾の中学受験PREX代表、教育コンサルタント・学習アドバイザー 渋田隆之、構成/ライター 奥田由意)
故・葛西敬之氏(元JR東海名誉会長)が託した
「社会を変えるリーダーの育成」
渋田隆之先生(以下、渋田) 海陽学園は、勉強もしっかり教えながらも、大学進学という目先の目標ではなく、社会で活躍し、社会を変えていく大人に育てたいというところまで射程に入れて教育されていますね。
西村英明校長(以下、西村) 前編でもお話したように、将来の日本を引っ張るようなリーダーになる子を育てたい、それは、学校だけで育てられるのかという疑問が出発点にあり、家庭、地域社会を含めた教育の場を作りたいと始まった学校です。
私が校長になるときに、理事長だった故・葛西敬之氏(元東海旅客鉄道〈JR東海〉名誉会長)は「企業が母体の学校ではあるが、利益を上げるために運営しているのではない。われわれにとっては、将来卒業生たちが社会に出たときに、社会が利益を得る、つまり社会還元こそが利益なのだ」と言っていました。「学校の経営が(数字的に)どうということは全く考えなくていい、とにかく先を見てやりなさい」と。
渋田 具体的に、リーダーシップの涵養(かんよう)について、どのような取り組みをされているのでしょうか。
いいフォロワーがいなければ
組織は成り立たない

にしむら・ひであき/96年京都大学農学部卒業後、三和銀行(現三菱UFJ銀行)に入社。2004年、銀行員7年目の時に海陽学園の創立プロジェクトに声が掛かり参加。30歳を過ぎてから教員免許を取得し、初代「ハウスマスター」(寮の監督役)も経験した。理科教諭、教頭・副校長を経て、21年4月より現職。
西村 リーダーシップだけでなく、1年生から「フォロワーシップ」も教えているのが特徴です。いいフォロワーがいなければ組織は成り立たない。
私は、リーダーとはその集団の中で最もふさわしい人がなるべきだと考えています。だとすれば、ある集団ではリーダーでなかったとしても、別の集団で他にリーダーになるべき人がいなければ、自分がリーダーをやる。そういう柔軟性も育んでいます。
渋田 フォロワーに徹するタイプの子もいますか。
西村 実は、卒業生に聞くと、海陽学園ではリーダーを経験していない子でも、卒業後にゼミ長やサークル長や部長をやっているという人が多い。
在校中にリーダーはどうあるべきかをちゃんと見て、何をやるべきかをしっかり学んでいるので、将来どのパートを担っても臨機応変にそのパートの役割を果たせる力がついている。最後の最後に誰もいなければ自分が引き受ける用意はできているんです。
渋田 ああ、フォロワーがしっかりできれば、実はリーダーもできるということですよね。
西村 そうです。集団の中で何かが一番うまいとか、すぐれているからリーダーが向いているわけでもないし、集団を引っ張っていくだけがリーダーでもない。集団の中のひとりひとりの力を引き出して、掛け算して集団の力を高めていける人がリーダーなんです。そうしたリーダーシップはやはり集団で生活していなければ生まれてこない。
渋田 寮生活では、いろいろな子がいて、嫌いな子や、合わない子もいる。そういう中で、他人を受け入れられるようになるプロセスとはどのようなものでしょうか。

ハウス(寮)行事に沸く生徒たちのひととき
今の時代に欠けている
「諦めない姿勢」が強み
西村 当然中学1、2年生の間は誰かのことが苦手だとか、嫌いということも多いんですが、よくよく考えたら、相手が嫌だということは、絶対に自分にも嫌なところがあって完璧じゃないよね、相手が嫌だから排除するということをした時点で、自分も排除されなくちゃいけなくなるよね、ということも分かってくる。
「彼のここが悪いんです」と子どもが言ってきたときに、「じゃあ、君は完璧なのか」と返す。フロアマスターやハウスマスターが上手にサポートして、お互いが理解し合う場面をたくさん作るようにしています。
渋田 創立20年で卒業生の厚みも出てきたかと思います。海陽学園の「ゴール」はどこに置いていますか。
西村 現在、卒業生が1500人に近くなり、卒業生たちは橘会という同窓会を作っています。歴代のフロアマスターのOBも含めて、日本全国の大企業、中小企業、様々な職業で活躍する人材のネットワークができつつあります。
卒業生たちには、同窓会が学校を支えるとか経営を助けるとか、そんなことはしてくれなくていい。それより何より「あなたたちがプレーヤーとなって、社会を動かす側になってほしい」と伝えています。
私たちは激変していく世界に柔軟に対応しながら、一生懸命教育して、橘会を通じて社会に送り出していく。海陽学園そのものは人材輩出機関でしかない。私たちの目標は卒業生に日本を引っ張るリーダーになってほしいということなので、もし本当に社会を変えるようなスーパースターが出てきたとき、卒業生が一緒に支え合える関係ができれば理想的です。
社会に貢献したいと思った子たちが橘会を目指して入学してくれる学校になることが私たちの夢です。
今はまだ卒業生の最年長が32歳なので、成果が見えるのはもっと先でしょう。ただ、社会人になったOBの話を聞くと、同僚と比べて「諦めない姿勢」が身についていると感じます。社会に出れば、自分よりすごい人はいくらでもいる。ただ、企業でプロジェクトを任されたとき、とことんまで努力して全力を出し切ったとしても、計画通りにいかないということは往々にしてある。
そんなとき、すごく優秀な人でも、「精一杯やってだめだった、もうこれ以上はできない」と諦めてしまう。海陽学園の卒業生は「もう一回やればいいじゃん」「手伝うから、また一緒にやろうよ」と、諦めることが不思議に思えると言うんですね。これはまさに海陽学園での生活の賜物なんですよ。
一般に今の子どもは負けたり失敗したりする経験が圧倒的に少ない。けれども、海陽学園での寮生活では日々トライアンドエラーを繰り返して失敗に慣れているから、一生懸命やってだめだったとしても、力尽きることなく、何度でもやり直そうと思えるんです。
今や学歴だけでは、社会で生きていけないのは明らかで、実際にトヨタでも、「生き残れる人」でなければ採らないと言っている。一緒に働くメンバーとして苦労していない人は困るというわけです。
大学受験を山登りと例えると
山頂で子どもにどんな気持ちになってもらいたいか
渋田 これからがますます楽しみですね。改めて他校との違いはどんなところにあるとお考えですか。
西村 保護者にはよく山登りの比喩でお話ししています。大学受験を山頂とするならば、山頂に着いたときに、お子さんにどんな気持ちになってもらいたいかを考えてほしい。
山頂まで、最短距離でまっすぐ登るというのももちろん一つの考え方です。ただ、簡単に楽に登れて特に何の感慨もなかったというのと、とても大変だったし無駄なこともいっぱいしたけれど、だからこそすごく充実感があって、途中でいろいろな風景も見られて楽しかった、また別の山にも登りたいと思うのとどちらがいいか。
一つの山を越え、次の山を登るとき、もう子どもは成人して自分で道を選ぶわけですから、保護者ができるのは、最初の山頂までの登り方――6年間をどう過ごさせてあげるかということしかない。
大学4年間では人としての基本的な力は変わらないということが研究でも徐々に証明されてきているので、中高時代を左右する中学受験でどこの学校に行くかはとても大切な選択です。
どう育てたいかというよりも、どんな大人として、どのように社会貢献するのかを考えてもらいながら、人としてベースの力をつけていく――海陽学園はそこに心血を注いでいます。
渋田 海陽学園では子ども扱いしないということも特徴の一つですね。
西村 それはよく言われますね。海陽学園は、学校の先生ではない社会人と教師という両方のスタッフで運営されている。両者はそれぞれアプローチが違って正反対といってもいい。教師はどちらかというと帰納法的な積み上げで、「できるようになるよ」と、ちょっとずつ大人の側に近づけようとする。
それに対して、教師ではない社会人(寮生活をサポートするハウスマスターやフロアマスターなど)の場合、言わば「ここまで来いよ」「できて当然だよ、できるんだよ」と演繹法的に引き上げようとする。
私は後者の「ここまで来いよ」の方なので、子ども扱いできないんですよ。もちろん成長段階に応じた適切なサポートは必要ですが、子ども扱いせず接することで、子どもの能力が開花しやすくなる面もあるのではと思います。

渋田隆之先生 撮影/加藤昌人
渋田 西村先生が教育者でありながら、教育関係者だけでなく、企業の方ともよく話をしているのは海陽学園の教育にとって大きいでしょうね。
西村 「教師志望ではない教育者」という少数派のカテゴリーに属しているんでしょうね。こういう学校を運営するには、学校内に閉じた論理でも、企業の論理だけでもだめなんです。
企業の動きは早い。一方で、学校の動きは遅いですが、変えてはいけないものもある。未来をどう造るかというビジョンの中で両者の論理をバランスさせていく視点がないと、社会とのつながりがなくなり、進学実績だけになってしまう。

ハウス行事で二条城 二の丸御殿(京都市)へ
「偏差値が足りない」といって
中学受験を諦めないで
渋田 ところで、海陽学園には様々な入試制度がありますね。4科目型の首都圏模試の偏差値だけで判断しなくてよい、学校で子どもの良いところをちゃんと探してあげたいという意志の現れだろうと思うのですが。
西村 はい。特別給費生制度もあれば、2科目型、3科目型、4科目型、英語を加えた英語型選考もあります。3科目型というのは、関西圏も近いので、算理重視の関西の男子校と似た国算理の受験です。さらに、視聴型入試といって映像や音声を利用し、知識面よりも、聞く力・伝える力を重視した形態の試験もあります。
生徒全員が首都圏から来ているわけではなく、進学塾が全国に行き渡っているわけでもありません。日本全国から集まってほしいので、多様な入試にしています。
説明会で保護者から「偏差値が足りないんです」と相談を受けることもありますが、首都圏大手塾の模試の偏差値がこうだから無理ということではなく、理念に賛同していただいた方に入学していただきたい。
渋田 最後に、読者へのエールをお願いします。
西村 中学受験での学校選びは保護者と子が一緒に選んでいくものだと思います。前述のとおり山を登り切ったときに頂上でどういう気持ちになってほしいかで、学校選びが変わってくる。お子さんのタイプによって、一生懸命いろいろな学校を研究してほしい。その選択肢のうちの一つに入れていただければ嬉しいですね。
目の前に受験が迫っている保護者やお子さんは本当に大変だと思いますが、中学受験は、我慢、努力、工夫を重ねることでもあります。勉強ができることが素晴らしいというのではなく、小学校という早い段階で、自分の目標を立て、その達成のために高いレベルで取り組むという経験をしていること自体を尊重してもらいたいなと思います。
渋田 前回の鬼ごっこ(学生が企画した寮のイベント)の話なども含め、“寮と学校で朝から晩まで勉強させる”などといった一般的なイメージとは少し違う、寮生活のリアルな日常や教育方針が読者に伝わったのではないかと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。
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