三菱アウトランダーが音響を「BOSE」から「ヤマハ」に変えたワケ

フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える
三菱自動車のフラッグシップSUV「アウトランダー」は、外国のプレミアムブランドやレクサスから乗り換える人が多いというプレミアムカー。車内は極めて静かで、カーオーディオも非常にいい音で楽しめます。AD高橋氏に至っては「ヤバイ!すごい!」と後ヨタで大感激していたほど。実はこのサウンドシステムはヤマハと三菱の共同開発で、サウンドマイスターという、ヤマハが誇る音の専門家の全面協力で実現したものなのです。世界中にたくさんの音響メーカーがある中で、なぜヤマハが選ばれたのか?今回のインタビューはそのあたりをじっくり聞いていきます。(コラムニスト フェルディナント・ヤマグチ)
ゴルフ趣味、復活してます
みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
今週も明るく楽しくヨタ話からまいりましょう。
今週は久しぶりに東京で過ごしました。最近、ゴルフ趣味が復活いたしまして、わりと頻繁にコースに出ています。なかなかスコアには結びつきませんが、続けていると徐々に球筋が良くなって来るものですね。

この日はトライアスロン仲間と気軽なラウンド。日本創生投資の三戸政和くん、「カレーだしっ!」を経営する吉野公貴くん(通称「カレーマン」)、平和酒造の山本典正くんと。東京クラシッククラブにて Photo by Ferdinand Yamaguchi
しかし暑いですね。この記事が出る頃には梅雨明け宣言がなされているのかもしれませんが、警報級の暑さが続いています。この日は、諸先輩方と笑いの絶えないゴルフを。

このメンバーで遊ぶのは35年以上になります。下卑た会話から、政治・経済の最新情報まで。いろいろ勉強になります Photo by F.Y.
クルマ仲間と楽しい会食
クルマ仲間と藤沢の五島料理専門店で楽しい会食を。
クルマ談義は尽きることがありません。このあとカラオケパブに流れたのですが、maniacs STADIUMの山下さんの歌が異常に上手くて驚きました。酔って騒ぐ他の客が黙り込んでしまうほどの歌唱力。今からでも遅くないから歌手に転向するべきとお伝えしました。

ジムニー界の帝王、 アピオ の河野仁さんの声掛けで集まった今回のメンツ Photo by F.Y.
日本茶と焼酎を合わせた「茶割り」専門店へ
鬼才・多治見智高くんが経営するお店「wacasu」。日本茶と焼酎を合わせた「茶割り」や、“茶醸酒”と呼ばれるオリジナルのお酒を揃え、従来のお茶割りのイメージを覆す、繊細で香り高い味わいを楽しめます。落ち着いた雰囲気のとてもいい店です。近いうちにまた行ってみましょう。

若い友人諸君と学芸大の「wacasu」へ Photo by F.Y.
ということで本編へとまいりましょう。
ヤマハ「サウンドマイスター」インタビューの続きをお送りします。
過去最大、7人が参加したインタビュー
本連載のインタビューは、基本的に「インタビュイー1人」で行われる。大勢の人が出てくると、話が散らかってしまう可能性があるからだ。
だから今回のように大勢が出てくるインタビューは極めてレアだ。“走りながら考える”15年の歴史の中で、「初めてのこと」と言っていい。今回、取材に同行したのはヤマハから3人、三菱からは4人。総勢7名が参加する大型インタビューである。
・ヤマハ音響事業本部 疋田智一さん(サウンドマイスター)
・ヤマハ音響事業本部 本陣一宏さん(営業部)
・ヤマハコーポレートコミュニケーション部 佐藤歩さん(広報)
・三菱自動車工業第二車両技術開発本部 秋葉一臣さん
・三菱自動車工業商品戦略本部 矢口信之さん
・三菱自動車工業第二車両技術開発本部 賀来馨さん
・三菱自動車工業広報部 田中直哉さん
このうちの4人が主にこちらの質問に答えてくれたのだが、不思議なことに話が散らかることは全くなく、やりとりは実に小気味いいテンポで進んでいった。参加者全員が音楽に深く関わる人だからだろうか。

3代目三菱アウトランダー。デビュー3年でマイナーチェンジが施され、サウンドシステムがヤマハ製になった(広報写真)
三菱の3代目「アウトランダー」はBOSE製のサウンドシステムが搭載されていたが、2024年のマイナーチェンジの際にヤマハのサウンドシステムを新たに採用した。このとき、三菱の人たちと一緒にアウトランダーの「音」をつくり込んでいったのが、ヤマハのサウンドマイスター、疋田さんだ。
BOSE製だったサウンドシステムを、なぜヤマハに変更したのか?
前回は、アウトランダーにはアンプが2台あり低音用と中高音用で分けていること、スピーカーは12個あるがハイエンドのクルマとしては決して多くないことなどを聞いた。さらに「音」について聞いていこう。
フェルディナント・ヤマグチ(以下、F):三菱の方に伺います。世の中にはたくさんのオーディオメーカーがあります。たくさんの選択肢がある中で「なぜヤマハだったのか?」その理由を教えてください。
三菱自動車工業 第二車両技術開発本部 インフォテイメント開発部 インフォテイメント設計 担当マネージャー 秋葉一臣さん(以下、秋):話は6年前、2019年までさかのぼるのですが、三菱自動車の中で、「三菱自動車らしさって何だろう?」という議論が活発になされました。中期経営計画なんかにも「三菱自動車らしさ」という言葉が出て来るようになった頃の話です。これは別にオーディオに限った話ではなく、会社全体の話です。その動きを受けて、我々の部門でも「じゃあオーディオには何ができるのか?」と議論を始めたのがそもそもの始まりです。

右から三菱自動車工業第二車両技術開発本部 秋葉一臣さん、ヤマハ音響事業本部 疋田智一さん、三菱自動車第二車両技術開発本部 賀来馨さん、三菱自動車商品戦略本部 矢口信之さん、フェル Photo by AD Takahashi
F:その“三菱自動車らしさ”を言葉にできますか?
秋:「冒険」とか「一歩を踏み出す勇気」とか、そんな言葉が出てきました。
F:なるほど。四駆のイメージが強い三菱だと、やはりそうなりますよね。
秋:行進曲とか軍歌とか、音楽には人を奮い立たせるような力があります。人を楽しくさせることも、リラックスさせることもできる。カーオーディオは、そうした力を正しく表現できるような、三菱らしさを音で示せるような正確さがなければいけません。そのためには優れたオーディオ装置が必要です。
むろんこれは我々だけの力でできることではありません。ですから国内外のたくさんのメーカーさんに声をかけました。実はヤマハさんだけでなく、他の会社さんにもたくさん声をかけました。その中で、我々の思いを製品に落とし込んでくれるのがヤマハさんだった、というわけです。
三菱自動車は「音」の評価ができるのか?
F:ここでまた大変失礼なことを伺いますが、その評価は三菱の中で誰がするのですか?疋田さんのような音の専門家がいればいいですが、三菱自動車は文字通り自動車の会社。社員の皆さんはクルマの専門家であって音の専門家ではない。
音によって「三菱らしさ」を表現するという崇高なお話は実に結構ですが、それを正しく評価できる人が社内にいるのかどうか。ともすると「これはこういうものですから」とオーディオメーカーに言われたら、「はぁそういうものですか……」と相手の言いなりになってしまったりはしませんか?
秋:フェルさんがそう思われるのは当然のことです。クルマ屋に音のことなど分かるのか?という疑問は誠にごもっとも。ですが、心配ご無用です。我々は正しい評価が可能です。
私個人の話をしますと、前はオーディオメーカーにいて、もともとスピーカーの開発設計をやっていたんです。いわゆる“メーカー純正カーオーディオ”というやつを、オーディオメーカーの立場で開発に携わっていました。三菱ヘは中途入社です。
F:なんと。ガチで専門家。それはご無礼を申し上げました。では、転職によって立場が逆転したのですね。前職はオーディオを売る側で、今度は買う側になった。
秋:結果的にはそうなりますね。当時の相手先は三菱自動車ではなく、他のメーカーだったのですが。OEM(自動車メーカー)向けの開発って非常に難しいんです。自社製品を自社のブランドで売るなら好きにできますが、OEM向けとなるとそうはいかない。
当たり前ですが、お客様である自動車メーカーが「こうやるよ」と言ったものをやるしかない。予算やら重量やら形状やら、たくさんの制約の中でやるしかない。たとえ「もっとこうすれば良いのに……」と思うようなことがあっても、それが通るとは限らない。自分がOEMに行ったら、やりたいことをやれるかも……という思いがあって三菱に行こうと思いました。
F:カーオーディオを開発するために、自動車メーカーに転職した。
秋:そうですね。思い通りにやりたくて。
F:前の会社に利益誘導をしたりとかは……「やっぱり○○(秋葉さんが前にいた会社)が一番ですよ。ここにしましょう」とか(笑)。
秋:そこはフェアにやります。もちろんあえて排除する必要もないので、前の会社にも声はかけましたが、選考はフェアにやりました。一番がヤマハさんだったので、ヤマハさんに決めた。極めてシンプルな話です。
音響メーカーにとって、カーオーディオのOEMはうれしい話?
F:具体的には何社くらいに声を掛けたのですか?
秋:軽く10社は超えますね。
F:10社も!その中からヤマハが選ばれた。しかしそれをさばくのも大変だったでしょう。自動車メーカーには絶対に採用されたいから、どこの会社も必死になりますよね。「いまちょっと忙しいのでウチは結構です」なんて会社は一社もない。
秋:いや、それがそうでもないんですよ。三菱自動車くらいの規模だと、専用開発がメーカーさんにとって有難いかどうかは微妙なところです。それほどの数が期待できないのに、リソースを投入して専用に型を起こして……果たしてそれがビジネスとして成り立つのか、と。
これは他社さんの判断なので何とも言えませんが、お声がけした会社さん全てが大乗り気、という訳では正直ありませんでした。
F:これがトヨタからの依頼というなら、また話も変わってくるのでしょうか。
秋:そうかもしれません。やはり出る数が違いますから。
三菱とヤマハは、目指す音が近かった
三菱自動車工業 商品戦略本部 CPSチーム(Light Commercial Vehicle)商品企画 担当マネージャー 矢口信之さん(以下、矢):商品企画の立場から、「なぜヤマハさんなのか?」という話を補足させていただきます。
各オーディオメーカーさんにはそれぞれに「私たちの音はこういう音です」という“こだわり”がある。我々の「届けたい音」と、オーディオメーカーさんが持っている「こだわりの音」が合わないと悲惨です。同じ方向を向いて開発ができなくなりますから。
ヤマハさんの出す音と我々が届けたい音は、非常に近かったんです。しかもヤマハさんは我々の考えを汲んでくれた。非常に柔軟な開発体制をとってくれました。これなら信頼してやっていけるなと。お客様にも一貫した価値を提供できるなと。こう思ったので、企画側としても「組むならヤマハさんしかないな」と感じたんです。
F:向かいたい方向が一緒、それは大事ですね。とはいえ違う会社です。「セロリ」の歌詞じゃありませんが、エンジニアとして育ってきた環境が違うのだから、すれ違いもありましょう。疋田さんが「これがベストだ」と思って出した音でも、秋葉さんや賀来さんが、「これじゃないよ」ということもありますよね。
秋:多少はあります。
ヤマハ 音楽事業本部 モビリティソリューション事業部 開発1部 サウンドデザイングループ 主事 サウンドマイスター 疋田智一さん(以下、疋):ありますね。
三菱自動車 第二車両技術開発本部 電子実験部 インフォテイメント実験 主任 賀来馨さん(以下、賀):ありました。微調整の範囲ですが、「もうちょっと変えてください」というのは事実としてありました。
F:「はぁ?音響メーカーの専門家が出した音に、クルマ屋風情が何言ってんの?」とは思いませんでしたか?
疋:それはない、ありません(苦笑)。やはりみなさんプロなので、変なことは絶対に言ってこない。矢口さんの言う通り、ヤマハにはヤマハの音があります。
ウチは総合楽器メーカーですから、やっぱり楽器の音が自然に感じられる音づくりを目指しています。透明感があって、キレイで美しい。その中に力強さもある。そんな音です。一方で三菱アウトランダーのコンセプトは「威風堂々」。これを音にされたいと。
F:威風堂々。具体的にはどのような?
疋:上質で活気に満ちていて躍動感がみなぎってワクワクする。伸びやかで澄んでいて楽器の音をリアルに再現する。そして低音ですね。のびやかな量感と、正確なビートを刻めるような、ズシンズシンとパンチ感のある低音。
F:盛りだくさんだなぁ……。
疋:あと我々がとても大事にしていることは、広帯域でバランスのとれた音ですね。広い帯域でバランスの取れた音。僕たちはよく、「アーティストの思いを伝える音」と言っています。
F:「アーティストの思いを伝える」。それはどういう……。
疋:「CDの音をそのまま正確に再現する」。これはこれで非常に重要です。必要なことです。でも音楽って、実はそうじゃなくて、「表現」なので。
アーティストがどういう思いでこの曲をつくったのか。この演奏はどういう気持ちを込めて演奏したのか。僕たち音楽をやっているメンバーからしたら、「音」を聴かせたいのはもちろんですが、それだけじゃなくて、僕たちの「感情」を聴かせたいとか、僕たちの「気持ち」を理解してもらいたいとか、そういうのが音楽だと思っていて。我々の再現した音を聴くことによって理解できる。その音を聴いただけで共感できるような音を、「威風堂々」のコンセプトの中に込めていきましょうと。
F:うぅ……自称「普通の人」だけど、やっぱり疋田さんは変人……。
疋:ヤマハはオーディオの歴史もありますし、楽器産業の歴史はもっと長い。僕らが一番大切にしているものは何かと考えると、先ほど申し上げた通りアーティストがどんな気持ちを込めて演奏したか、その世界観を具現化できるツールであるべきと考えています。楽器メーカーが造るオーディオであればこそ、アーティストが何を思い、どういう楽器を使ってどういう音を表現したかったのか。それをクルマの中で再現できる。これを目指したかった。
話し出したら止まらない、音大出の“音づくりエンジニア”疋田さん。音づくりに対する熱い思いはよく分かりました。具体的に、その“思い”をどのように製品に落とし込んでいったのか?このお話は次号に続きます。
(フェルディナント・ヤマグチ)
最近「音がいいプレミアムカー」は増えているけれど……
こんにちは、AD高橋です。
現在、国内外の自動車メーカーは、クルマのプレミアム性を高めるために有名ハイエンドオーディオブランドのサウンドシステムを搭載するモデルが増えています。どれも音の輪郭がクッキリとしていて、少しボリュームを上げて音楽を聴いたときにヴォーカルやギターがクリアに耳に届いてくるのが気持ちいいんです。
ただ、今回アウトランダーに搭載されるヤマハのサウンドシステム「Dynamic Sound Yamaha Ultimate」を体験した際は、それらとは違う感動を覚えました※。

ヤマハと三菱が共同開発した「Dynamic Sound Yamaha Ultimate」(広報写真)

空間全体が整えられているような音がする(広報写真)
いったい何が違うのだろうと思っていたのですが、「そうか、ヤマハはオーディオだけでなく楽器やPA機器も製造しているし、コンサートホールの音響設計も手掛けている。そのノウハウが生きているのだな」という結論に至りました。
それに気づいたのが、今回のヤマハ&三菱インタビューの後に、ヤマハの企業ミュージアム「イノベーションロード」を見学していたときでした。

ヤマハはプロ用音響機材も手掛ける音の総合メーカーだ Photo by A.T.
ヤマハの企業博物館「イノベーションロード」
案内してくださったのは館長の橋本誠一さん。なんと橋本さんは当欄の熱心な読者で、「おお、フェルディナントさん。お会いできて光栄です」「あなたがAD高橋さんですか。いつも楽しみにしていますよ」と言っていただきました。フェルさんはともかく、私がこのように声をかけていただくことはまずないので、なんだか照れくさい気分です。
ヤマハが開発した新しい楽器「Venova(ヴェノーヴァ、動画)」を解説しながら館長が試奏。サックスのような透明感のある音色を、簡単に楽しめるのが面白いです。
ライブハウスからアリーナ・スタジアムクラスの大きな会場まで、プロのエンジニアが使用する機材が展示された音響展示エリアを見学した後は、ヤマハの歴史的な名機が展示されたエリアを案内していただきました。
20代までバンドでベースを弾いていた私はシンセサイザーのDX-7やエレキギターのSG(サンタナや高中正義さんが愛用していましたね)、エレキベースのBBシリーズに悶絶。
当時、私はリッケンバッカーとアリアプロIIのベースを弾いていましたが、ヤマハのBBはかなりの渋好みなベースで、プロ・アマ問わず、BBを使っているベーシストはかなりの手練れというイメージでした。
あなたの思い出のスピーカーも展示されているかも
スピーカーの名機が展示されるコーナーではフェルさんが足を止めて「おお、懐かしい」と展示品を眺めています。なんでも10代の時にフェルさんのお父さんが「音楽が好きならいい音を出すスピーカーで聴きなさい」と買ってくれたのが、上の写真の右側にあるNS-10Mだったそうです。

写真上部右側、二つ並んだ黒い小さなスピーカーが、10代の頃フェルさんが愛用していた「NS-10M」 Photo by A.T.
楽器展示エリアに並んだギターやベースは試奏も可能。私はヤマハのトランスアコースティックギター(アンプなどを通さなくても、ギター本体だけで直接音色にエフェクトをかけられるアコギ)がデビューしたときに開発者インタビューを担当したことを思い出しました。そしてサイレントギターのデザインが好きで、「いつか欲しいんだよな」という思いを新たにしました。
最後はヤマハのフルコンサートグランドピアノが展示されているエリアへ。ヤマハは世界最大級のピアノメーカーで、世界中の有名コンサートホールにヤマハのピアノが導入されています。ここで橋本館長が、フラッグシップモデルであるCFXの音を聴かせてくれました。
「最後にここで館長とフェルさんの写真を撮らせてください」

館長の石橋さんと Photo by A.T.
フェルさんにピアノの前に座ってもらうと、なんとフェルさんがピアノを弾き始めたのです。「弾けるとかそういうレベルじゃないよ」と本人は言いますが、ピアノに触れたことがあることすら知らなかったので、とても驚きました。
(AD高橋)